「それで、ニコルという少年が私に会いに来てるんだな??上層部への連絡は??」
「はっ!!お父上様からの遺言もあるとの事なので、部内で留めています」
アーシィに敬礼を返す兵は、マリア・カウンターの軍服を来ている。
マリア・カウンター…………ベスパと双璧を成す、ザンスカールの軍隊の名称だ。
ベスパがサイド2に駐留していた地球連邦の部隊とサナリィの一部が母体になっている事に対し、マリア・カウンターはマリア主義者が中心となった女王マリアを守る為の部隊である。
ザンスカール帝国としてはマリア・カウンターを創設する事は反対であったが、マリア主義者の猛反発を受けてしまい、更にはニュータイプであるマデアがマリア側に付いた事で止む終えず…………であった。
アーシィはマリア・カウンター所属であったが、貴重なニュータイプとして、タシロ艦隊限定でベスパの作戦行動に参加している。
ニュータイプ部隊に関しては、マリア・カウンター創設時にタシロ艦隊限定で作戦行動に参加する条約が付け加えられていたからだ。
ザンスカール帝国としては、マリア・カウンターをただ遊ばせておく訳にはいかなかった。
「アーシィ様は、我々マリア・カウンターのエースです。ベスパに文句は言わせませんよ!!」
「ありがとう。ニコル達は、この部屋だな??」
アーシィは付き添いの兵と共に、ニコル達のいる待合室に入る。
「アーシィさんっ!!会えて良かったぜ!!あっと…………コッチの人は、保護者兼姉ちゃんのケイトさ…………姉ちゃんだ」
ぎこちなく紹介するニコルの頭を一発ひっぱたいてから、ケイトはアーシィを見た。
ピンクの長い髪に優しそうな顔立ち…………戦場でモビルスーツを駆る女性には、とても思えない。
「ケイトさん、あなたも心が優しそうね。お互い、苦労しそうね」
アーシィは、笑顔で手を差し出す。
「アーシィさんは、めちゃ勘が鋭いんだ。こんなんで驚いてたら、疲れちまうぜ!!」
まるで心を見透かされたような返しをして来るアーシィに驚いたケイトは、ニコルに促されてアーシィと握手する。
「で、ニコル。父の遺言って話だけど…………多分、私は分かってるわ。結果的に、父を殺したのは私だから…………」
「そっか…………でも分かってほしいのは、ゲルダさんはアーシィさんのお母さんの事、常に気にしていたよ。それでも、自分の信念を貫かなきゃいけないって…………戦争って、本当に難しいな………」
ゲルダの魂が天に還る時、アーシィもその想いを感じていた。
アーシィとニコルの間に、一瞬の静寂が訪れる。
「って、ニコル。それはいいとして、マイの事を聞かなくていいのか??」
その静寂を破ったケイトは、ニコルに耳打ちした。
「アーシィさん、サナリィを出る時に、オレの幼なじみが乗った宇宙艇がザンスカールの戦艦に保護されたらしいんだけど…………何か情報ないかな??」
「ん…………何も聞いてないな…………まぁ、何か分かったら伝えるようにするよ」
やはりアーシィは優しい…………立場として敵と味方に別れてはいるが、何故こんな優しい人と殺し合いをしているのか…………ニコルは分からなくなる。
「もし時間があるなら、我が家に寄って行くか??父の最後を知る人間として…………ある意味、父を看取った人間として、母にも会ってもらいたいんだ………」
「そっか…………オレはアメリアの町も見てみたいから、アーシィさんの家に行けるのは好都合だけど…………」
そう言いながら、ニコルはケイトの方を見た。
「ん??私は構わないよ。お邪魔じゃなければ寄らしてもらおう。実家にも帰りたいけど、その後でも充分行けるしな」
「じゃあ、決まりだっ!!オレ、アーシィさんの事、もっと知っておきたいんだよね!!」
ケイトの言葉に、ニコルは何故か飛び上がって喜ぶ。
アメリアに来たかったのは、もちろんマイを探す為でもあるが、ザンスカール帝国とは、どんな国なのかも知りたかった。
アーシィと行動を共に出来るなら、疑われる心配なく色々見れると思ったからだ。
「見ての通り、彼らは私の友人だ。滞在用のパスを準備して貰いたい。後、彼の幼なじみの件、それとなく調べておいてくれ」
アーシィの言葉に、一緒に話を聞いていた護衛の兵は敬礼して足早に動き出す。
会話の内容やニコルの幼さに、護衛は危険が無いと判断したのだろう。
「ニコル、あんた無謀すぎるわよ!!まさかアメリアに来るなんて………」
護衛の兵がいなくなるなり、アーシィはニコルに詰め寄る。
「サナリィのリガ・ミリティア基地近くまで、ゲルダさんに会いに来るアーシィさんも、随分と無謀だと思ったぜ!!けど、アーシィさんだってて、オレを敵だけど敵じゃないって思ってくれたんだろ??だから、あの時、ザンスカールのパイロットって名乗ってくれたって信じてんだけど」
ニコルの言葉に、アーシィから険しい表情が消えた。
「まぁ………そうね。ん??幼なじみって、あの時にいた女の子??確かマイさんって言ったっけ??彼女じゃないの??」
アーシィは、始めてニコルに会った日を思い出す。
「おいおい!!なんで彼女とかって話になるんだよ!!本当に幼なじみだよ!!マイには好きな人いるし………」
喋るニコルの視線に、睨むケイトの姿が映る。
敵国の真っ只中で、超有名人の…………ザンスカール帝国からしたら、敵国のエースパイロットのレジア・アグナールの名前なんて出したら、速効で捕まるぞ…………そんな事を訴えている目だ…………
「いや、だから、オレの友人の彼女なんだよねー。その友人からも、必ず見つけて来てって言われてるんだ!!」
「そう…………やっぱり、あの娘がいなくなったのね…………なんとか見つけてあげたいけど…………」
タシロ艦隊に見つかってたら、厄介だな…………
言葉にはしなかったが、アーシィは心の中で自分の隊が見つけている事を強く願っていた。