「それで少佐、ニコルの幼なじみの娘が乗った脱出艇がベスパの戦艦に回収されたみたいなんですけど、何か知りませんか??」
「ん…………そういえば、タシロ艦隊のスクイードに所属不明機が搬入されたって話を聞いたな…………それが、そうかな??」
アーシィの問いに、少し考えてからマデアは思い出して言った。
「そんな…………最悪。出来れば、私達の部隊で回収したかった…………」
「仕方ないさ。マリア・カウンターの出していたのはカリスト1隻、それに回収される確率は低い。それより、その幼なじみが心配だな…………」
唇を噛んで悔しそうな表情をするアーシィを宥めながら、マデアは考え込む。
「その、タシロって人の艦隊に回収されたら、何かヤバイのか??」
「まぁ………何と言うかな…………指揮官としては、そこそこ優秀なんだろうが、女性に対して節操が無い。そんな男の指揮する部隊だからな…………」
マデアの言葉を聞きながら、アーシィは本当に嫌そうな顔をする。
「私の力がもっとあれば、ベスパに意見も出来るのだけど…………」
「マリアのせいじゃ無いさ。軍隊への影響力で言えば、オレがもっと上手くやれてれば良かった。それより、その幼なじみを何とかタシロの部隊から引き離したいな…………」
マデアは女王を呼び捨てにしているが、それが自然に聞こえた。
それだけの信頼関係が、この2人にはあるとニコルは感じる。
「あの男が進めている、クローン計画…………母の病気が治せるかもって話だから協力しているけど、ザンスカールと関係ない人間が確保出来たら研究に利用されるかも…………」
「私達が進めている、サイキッカーへの研究と平行して行われている計画ね。けど、あれは病気を治したり、平和の為に必要な技術のはず。その研究に一般人を利用するかしら??」
アーシィの言葉に、マリアは首を捻った。
「表向きは…………な。だが、タシロは優秀な人間の細胞を集めている。自分の言いなりになる兵士をクローンで造ろうとしているならば…………死んでしまっても関係ない一般人を巻き込む可能性はある。それに、その証拠を掴む為に、先日タシロを煽っちまったからな…………研究を進める為に、強引な手段に出る可能性がある。噂では、回収じゃなく搬入と聞いた…………それも情報操作なら、何か動くかもしれん」
「よく分かんねーけど、とりあえずマイがヤバイって事だな。どうすれば、タシロの戦艦に潜り込める??」
マデアの話を聞いたニコルは、救出は早くしなくてはいけないと思う。
「ニコル……………一応、私達は敵同士なのよ。タシロ中佐は嫌な奴だけど、そこまで協力は出来ないわ」
アーシィの呆れた表情を見て、マデアは吹き出した。
「ははっ!!まぁ、建前ではな。さっきも話したが、俺達はザンスカール帝国が間違った方向に進まないように監視している。タシロがクローン計画を平和の為に使う気が無いならば…………」
「分かったよ。マイを助けるついでに、クローン計画の闇を探ってくればいいんだな??仕方ねぇ…………」
マデアの考えを察したニコルは、少し嫌そうな顔をしながら面倒臭そうに頭を掻く。
「協力するのは1回だけ、マリアにクローン計画の進捗状況を確認に行かせるから、その隙に幼なじみを助け、クローン計画の裏情報を出来るだけ取ってきてくれ」
マデアとニコルは、細かな救出作戦の内容を確認している。
その間、アーシィの視線は病気の母に注がれていた。
「マデア、無理に動くと、アーシィさんのお母様への薬の配給が止められてしまう可能性がある。くれぐれも慎重に…………」
マリアの言葉に、マデアの作戦を聞いていたニコルが顔を上げる。
その表情は険しい。
「ちょっと待てよ。そんなリスキーな事が出来るか!!他の作戦は無いのか??」
叫ぶニコルの横に、アーシィの母親がゆっくりと歩いてくる。
「ありがとう。でも、私は充分生きた。若くて、これからの命の方が大切に決まっているでしょ??私の事は気にしなくて言いから………」
「いや、でも…………」
ニコルは自らの手を強く握り締めた。
「いつかは、やらなきゃいけない事…………私達の関与が、気付かれなければいいの。ニコル、お願いね」
アーシィの手は、自ら握り締めるニコルの手を優しく包み込む。
「頼むぞニコル。俺達との関係を疑われる事なく、幼なじみを助けて、クローンの計画を暴くんだ」
「くそっ!!アーシィさん、お母さん、絶対に上手くやるから…………」
ニコルは決意を固めた数分後、アーシィの家を後にした。