俺が大洗以外の学校に行くのはまちがっている? 作:@ぽちタマ@
ダージリンが持ってきた練習試合の話をまとめるとこのような内容だった。
相手は本当に戦車道を初めたばかりらしく、練習試合を出来る相手を探してたとのこと。
最初は職員室に電話がかかってきており、職員が相手の話もよく聞きもせずに断ろうとしていたところにダージリンが偶々遭遇し勝負を受けたこと。
そして、試合内容は5対5の殲滅戦であること。
試合場所が大洗市街であること。
以上が、ダージリンが持って来た練習試合のあらましだった。
「あの、このような言い方をしたら大洗の人たちに失礼なのですが。ダージリン様はなぜ練習試合を受けようと思ったのですか?」
ペコの言う通り、聖グロリアーナが練習試合を受けるメリットというか、そのようなものが無いように思える。
「ペコ、なにも強豪校だけにいい選手がいるとは限らないわ。案外、こういうところに好敵手と呼べる選手がいるものよ」
「そうでしょうか?」
「こんな言葉を知っていて?『人生はチョコレートの箱のようなものだ。開けてみるまで中身はわからない。』」
「ロバート・ゼメギスの言葉ですね。意味は……、シュレディンガーの猫といっしょですね。開けてみるまでは中身がわからない。……でも、なんでチョコレートなんでしょうか?」
ふと疑問に思い、ペコはダージリンに質問するが、本人もどうやらわかっていないらしい「え、えっと……」と言葉を濁している。ざっくりとしか意味を把握してなかったらしい。
すると意外な人物から言葉が飛んでくる。
「海外のチョコレートは、日本のやつと違って個数表記がされていないのが多いらしい。だからだと思うぞ、ペコ」
「へえー、そうなんですね!」
「――――」
「ダージリン。顔に出ているわよ」
自分のお株を八幡にとられたのが悔しかったのか、顔に出ていたダージリンにアッサムが紅茶を飲みながらツッコミを入れる。
「な、なんのことかしら?」
「格言云々はあなたが八幡に教えたのでしょう?なら、素直によろこぶべきところよ」
「……部下が優秀なのも困りものだと思わない?」
「優秀の部分には同意するけど、それ以外には賛同しかねるわよ?まあ、今じゃ手のひら返しのようにみんな八幡を受け入れて、是非とも私の執事にって言ってくるのを見てると、ね……」
最初は派閥からの圧力があったとはいえ、やはり面白くないものは面白くはない。と、アッサムはつぶやく。
「そうね。認められること事態は喜ばしいことだけど、だからといって私たちが手塩をかけて育て来たのにそうやすやすと彼を貸し出すのもね。そのためのルールでしょ?」
ダージリンがいうルールとは、八幡を執事として貸し出す場合のルールである。あまりにも要望が多すぎて困っていた八幡の為にダージリンが作ったものだ。
内容を簡単に説明するとこうだ。
一つ、八幡を執事として雇用できるものは戦車道に入っているものか紅茶の会のメンバーに限る。
一つ、執事として仕えさせるための権利は戦車道で決める。
一つ、権利を得たものは最低三日間の雇用権を得る。
一つ、三日以降を過ぎた場合、所有者に5対5の模擬戦を行うことができ、勝利すれば権利を獲得することができる。獲得した場合は、また最低三日間の雇用権を得ることができる。
と、いった内容だ。
非常に私情にまみれているように思えるが、わりとこれは理にかなっている。八幡を執事として雇いたければ戦車道に入ることが必須となり、従い、聖グロリアーナ女学院の戦車道を活性化させることができる。さらには模擬戦を行うことによって技術の向上にもなる。八幡を雇用したければしたいほどに無策では挑むことはできず、結果、勝つためにはどういう風に攻めていくか?作戦はどうするか?仲間との連携は?など選手の育成にもってこいの内容だったりする。
しかし、といってはなんだが、ルールがあるからには裏もある。雇用権が最低三日間となっているが、これは模擬戦に負けなければエンドレスな仕様となっている。つまり負けなければ半永久的に八幡を雇用することができる、ということだ。
そして、現雇用権はダージリンが持っている。……些か私情にまみれている気もするが、ようするに、現状は八幡を雇用したければダージリンを倒せと言ってるようなものである。
これに関しては現在、ダージリンが卒業するまで待つものと、是が非でも倒し雇用権を獲得しようとするもの、その二パターンに分かれている。
「いつまでも今の日常が続くとは思わない方がいいわよ、ダージリン?」
もちろん、アッサムは後者である。
「……そうね。いい加減、敗北を知りたいわ」
負ける気など更々ないくせに、あきらかに挑発をしているダージリン。実際ボクシングの防衛戦かっていうぐらいに勝ちに拘り、ダージリンは勝ち続けている。一重に、八幡を渡したくない一心であるが故に。
もはやこれは代理戦争に近いのかもしれない。なんの?もちろん、恋のだ。
当の本人はまったくなにも感じていないのはお察しである。みんな頑張ってるなーぐらいの感想しか抱いていないし、そんなに執事を雇いたいのかな?的外れな考察をしてしまっているしまつ。しかも、ダージリンが八幡をからかいすぎて耐性をつけさせてしまっているのも困りものである。普通にしているだけでは勘違いなど微塵も起きなくなってしまったのだから。ギルティ……。
「――それよりも、練習試合のメンバーをどうするかなのだけど……」
「そうですね。5対5となると足並みを揃えないといけないですし、ローズヒップのクルセイダーなどは今回は不向き……失礼、電話が」
ダージリンの話にアッサムが自分なりの考察を話そうとしていたら不意に彼女の電話に着信が入る。
「ルクリリ?どうしたの?え?ローズヒップ?彼女が……ええ、報告してくれてありがとう」
「どうかしたんですか?ローズヒップさんがなにか
「ええ……、なにやら『クルセイダーの走力は世界イチィィイイイーーー!!』といいながらクルセイダーを走らせていたらしく、たまたま目撃したルクリリが報告をしてくれたのよ」
「ぶふっ!!」
「だ、ダージリン様!?」
あまりにも不意打ち過ぎる。紅茶を飲んでいたタイミングでアッサムが「クルセイダーの走力は世界イチィィイイイーーー!!」などと言われしまえば、思わず吹き出すのも仕方がないと言えよう。しかも、思いのほかに似ていたのも拍車をかけていた。
笑いのツボに入ってしまったダージリンは、「く、苦しい……」といいながら必死に笑いを抑えようとしたが、あまりにもクリティカルヒットしてしまい、すぐには収まりそうにはなかった。紅茶が気管に入ったことも相まって、軽く地獄だったと、ダージリンはのちに語る。
ペコはペコでダージリンのその姿に慌ててしまい、「ひぃひぃふぅですよ、ダージリン様!?」と間違った知識でダージリンを落ち着かせようとしている。
ペコさんそれちゃう、ラマーズ法や。と、心の中でおもわず関西弁でツッコミをいれている八幡。そして、ことの下手人のアッサムは自分がなにをしてしまったか理解していないらしい、不思議そうな目でダージリンをみていた。
――クラブハウス、紅茶の会。ただいま現場がカオスなのでしばらくお待ちください。
5分後――。
「ごめんなさい。少々取り乱してしまったわ」
少々?盛大では?心の中でそう思ったが、八幡は思いとどまる。下手にツッコむのは野暮なのだろう。自分の主人がそういってるのだから、今はそっとしておいてあげよう。そうしよう。
「アッサム、ローズヒップをここに呼びなさい」
「……ダージリン、まさかアレを?」
「ええ、今回のはさすがに英国淑女としての行動から逸脱しているもの、しょうがないわ。わたくしも出来るならこういうことはしたくないのだけど……」
しょうがないのよね。これ、戦争だから、と言わんばかりの口ぶりのダージリン。ある意味において二次災害を起こしたローズヒップにお仕置きをしようだなんてのは思ってはいない。思ってはいないとも。ええ。
ーーー
ーー
ー
「お呼びになってでございましょうか、ダージリン様!!」
「自分が、なぜ呼ばれたかわかるかしら?」
「わかりませんわ!」
清々しいほどに心当たりがないらしい。
頭が痛い……。ダージリンは頭を押さえる。
このローズヒップ、お嬢様とは思えないぐらいに破天荒である。お嬢様とは似ても似つかない、もはや少年の心をもったお嬢様といったらしっくりする気がする。……しっくりきすぎた。
彼女がやったきたことは数知れず、廊下を走っては怒られ、紅茶を早飲みして怒られ、出された料理も誰かに獲られまいと一口で済ませようとするし、クルセイダーで川を走って飛び越えようして大破……、本人曰く、「早さが、早さが足りなかったんですの!?」と悪びれる様子もなかった。ローズヒップは良くも悪くもまっすぐ――もとい、スピード狂である。
そして、一番たちが悪いのが、本人にまったくもって悪気がないのである。あらゆる意味において純度百パーセント。だからといって野放しにしておくと、我が聖グロリアーナの品位を疑われてしまう。……これでもましになった方なのだ。昔はもっと酷かった。アッサムのおかげで大分ましになりはしたが、それでも今の現状である。
だが、つい最近になって、対ローズヒップ用決戦兵器が発見でき、徐々にではあるがアッサムの心労が減っている。
「……ローズヒップ」
「はい!」
「クルセイダーに乗って、大声で走り回ったと聞きましたわ……。これに関して、なにか言い訳があるかしら?」
「ありませんわ!」
なかった。微塵もこれっぽっちもなかった。もはや、潔すぎて清々しさすら感じられるほどに。
「……そう。なら、しょうがないわね。八幡さん?よろしくって?」
「八幡」ダージリンがそう言うと、ローズヒップは珍しくビクッとなり、様子がおかしくなる。自分がこれからなにをされるか理解したらしい。
「だ、ダージリン様、冗談ですのよね?」
「残念ね。現実よ、ローズヒップ」
残念といいながら、ダージリンの顔はスゴく笑顔だった。
その反対に、まるで死の宣告をされたかのような顔になるローズヒップ。いやいやと顔を横に振るが、後ろからガシッとペコに捕まる。
「ぺ、ペコ!?離してくださいませ!」
「ごめんなさい、ローズヒップさん。無理です」
期は熟したと言わんばかりに八幡の方を見るダージリン。八幡も自分がなにをすべきかはわかっているのだろう。はぁ……っと深い溜め息をつき、ローズヒップの前に出る。
しょうがない。これもローズヒップの為だ。
そして、八幡は一言、いい放つ。
「薔薇尻様、もう少し慎みをもってください」
八幡にそう言われ、途端にさっまでの元気な顔がどこへ行ったのか、打って変わって悲惨な顔へとローズヒップが変貌している。
「は、八幡?わたくしの名前はローズヒップですのよ……?」
無駄だとわかっていても尚も抗うローズヒップ。
「薔薇尻様」
しかし、八幡はもう一度いう、薔薇尻様と。
「クルセイダーで走り回るのは百歩譲って許すとしましょう。しかし大声で、『クルセイダーの走力は世界イチィィイイーーー!!』などと言うのは淑女としてどうかと思いますよ」
普段はタメ口なのに、丁寧な言葉で話しかけられると普段以上に怒られている気がする。それだけならまだしも、薔薇尻など不名誉極まりない呼び方などされて嬉しい女子はいないだろう。
どうしてこうなったかといえば、八幡がローズヒップって漢字読みしたら薔薇尻じゃね?とか言い出したのが始まりだった。その時のローズヒップの反応を見て、ダージリンが考え付いたのだ。
ここにローズヒップ対決戦用兵器、HACHIMANが生まれた。いや、ただの説教である。
「……すごく落ち込んでいるわね」
「これもローズヒップの為よ、アッサム。心を鬼にして見守るのよ」
「そうなのでしょうけど……」
八幡の名誉のために言っておくと、彼も別に好き好んでやっているわけではない。ローズヒップが本当の本当にやらかした時、さすがに見逃すことが出来ないときに行われるものである。
そして説教が終わったのだろう。八幡の口調がもとに戻る。
「わかったか?ローズヒップ」
「……はい、ですの」
まあしかし、説教だけで終わらないのが執事、もとい八幡である。
「わかればよろしい」
まるで小さい子供をあやすように頭を撫でる八幡。ローズヒップはそれをなされるがまま。
そして、ダージリンとアッサムからでは見えないが、八幡の顔は妹――小町と愛里寿に向けるような優しい顔をしている。わりとレア度でいえばものすごく高い八幡の笑顔をローズヒップだけではなく、立ち位置的にペコもみることになっている。
そうして、その笑顔を見てペコは思う。いつか自分にも向けてもらえるように頑張ろう、と。もちろん怒られたからとかそういうのではなく、純粋にその笑顔を向けてもらえるような存在になろうと。
ローズヒップはローズヒップで末っ子ということもあるせいか、八幡のお兄ちゃんスキルの前には成すがままだった。というか、ローズヒップ本人は気づいていないが恋しちゃってるのである。
「――じゃあ、今度の大洗との試合の編成でも考えましょうか」
空気を変えるために八幡は提案する。それにダージリンも頷く。
「そうね。まぁ、ローズヒップは参加できないのだけども」
「わたくしがやらかしたからですの!?」
横暴ですわ!と、声を高らかに抗議の声を上げるローズヒップ。
「あなたのクルセイダーでは足並みが揃えられないでしょ?わたくしたちの戦車のスピードに合わせられて?」
「………、無理ですわ!」
「無理なんですね、ローズヒップさん……」
これが大洗との試合前の聖グロリアーナであった。