本名小野悠太。
一話で出てきた男子の片方、麻雀歴は大体半年くらい、とりあえず断么や対々などを目指す初心者にありがちな打ち筋をしている為、普段から宮田にぼっこぼこにされている。
宮田とは親同士の付き合いで知り合い、そのままずるずると腐れ縁が続く仲、彼の打つ麻雀が彼自身を孤独にしている事に頭を悩ませており、何気に友達の輪を広げてあげようと悪戦苦闘していた。
基本的に発想がお馬鹿で、豪盲牌を試そうとしてグラインダーを持ってくるような少年。慕の無自覚逆ハー要員の男子枠
人物名鑑 宮田くん。
本名宮田 大智。
同じく一話に出て来た男子のもう片方、眼鏡装備。 徹底したデータ麻雀を使う小学生で、相手の対策を練った上で対局する基本に忠実な打ち筋ではあるものの、彼のデータ麻雀は『弱点を突いて相手を上回る』と言う物では無く『弱点を突いて相手をガタガタにする』と言った相手の弱体化に焦点を置いた物。
その性格も皮肉屋な部分があり、自分の打ち筋が気に入らなければそれに対する対策なりを講じれば良いと言った事を毒を含めて対局者に言い放つ事も多々あり、小野以外に友人は居なかった。
しかし慕との対局時、たった半荘一回とは言え幸せそうに笑う慕に心奪われる。
同時に自分の執拗なまでの弱点・癖狙いの打ち筋にも嫌な顔をせずに居た初めての相手であり、彼女に対して少なからず特別な感情を抱いている。慕の笑顔にやられたチョロイン?、逆ハーツンデレ枠
一週間あれば対局者の情報を丸裸にできる非凡な才能を持つ。
2日目 お友達
あの日以来、私は家事の合間に小野くんと宮田くんの三人で麻雀を打つようになりました。
面子の問題で三麻しか出来ませんが、それでも私は麻雀に触れられるだけで満足で、時間を忘れるほど熱中していました。
「よっしゃ!! 人民民主主義立直!!」
「ロン、混一色・ドラ三の跳満だ。明らかに染め手の相手に北ドラ切りのリーチとは……僕には出来ない愚かな選択だよ」
「んだと!? 仕方ねーじゃん、北ドラあったら断么も平和も付かねーんだもんよ。 つーか黙聴とかやめろよなー」
「あ、あの〜」
「ん? どーしたシノ」
「……頭ハネか」
「あ、はい。 ごめんなさい」
そう言って私は謝った後、混一色・七対子・混老頭・ドラ二の手を見せる。
小野くんは『うぼぁ〜』と言う謎の悲鳴を上げて雀卓に突っ伏し、『今日のトレンドは黙聴です』と言って凹んで居ました。
小野くんはまだ麻雀を初めて半年くらいと聞いてるのですが、宮田くん曰く最近になって役を覚え切ったとの事です。
だからまだ筋の読み方とかも甘く、押せ押せなリーチをしては放銃と言うパターンが目立つのだとか。
実際、今日に限らず彼の放銃率は高くて、その度にだんだんテンションが下がって行くのが目に見えます。
このままだと小野くんは麻雀辞めてしまうかもしれない、そう考えた私は彼の後ろに立ち、肩越しに河の見方と筋の読み方を教えてあげました。
小野くんは何故か顔を赤くしていましたが、真剣に私の話を聞いてくれているので少し安心しました。
私が簡単な筋の読み方を教え終わった頃、いきなり宮田くんが『小野、もう一局打つぞ。白築、何時までもそのアホにくっついてないで早く座れ、親はラスからだ』と少し不機嫌気味に言いました。
私は何か彼が不機嫌になるような事をしたのでしょうか?
思わず宮田くんに近寄って『どうしたの?』と聞いて見たのですが、彼は身体を軽く後ろに引きながらそっぽを向いて『なんでもない!!』と言いました。
「僕は昔からそう言う口調だったからキツく聞こえるだけだ!! 別に白築に対して怒ってる訳じゃない!!」
「本当に?」
「本当だ!! だ、だから離れろ、近い近い!!」
「…………シノはすげーな、あの宮田がしどろもどろだ」
「えっ? えっ?」
「ええい黙れ!! 良いから打つぞ!! 早く座れ!!」
「う、うん」
何か誤魔化された様な気がしますが、小野くんがサイコロを回してしまったので済し崩し的に対局が始まりました。
けど、何故か宮田くんは筋の読み方を覚えたばかりの小野くんだけを徹底的に狙い撃ちにしていました、筋引っ掛けとかも使って執拗に狙った所為か、最後には取っ組み合いの喧嘩に発展して止めるのに苦労するのでした。
▽
取っ組み合いの喧嘩をしていた俺たちはシノのお説教によって現在正座させられている、つーかなんで俺まで……。
「もう、二人とも喧嘩しちゃダメだよ!!」
「フン、僕が素直に此奴の練習に付き合う訳無いだろ? そんな事も分からないから狙い撃ちにされるんだ」
「いや、それにしても悪意の塊みたいな待ちばっかだったじゃねーか!!」
「良かったな、これでお前も一つ賢くなったんだ、僕に感謝するんだね」
今回の対局は明らかに俺だけを狙い撃ちにした打ち筋、最近のこいつはシノ関係の事になると大人気なくなるんだよなぁ。
多分今回も俺がシノに麻雀を教えて貰ってた事が面白く無かったのだろう、本人は隠してるみたいだけどシノ以外には丸分かりだ。
友人としては応援してやりたいんだけど、宮田は素直じゃねーからなぁ……。
シノに対しても基本一言二言毒を入れなきゃ会話できねーし、その辺も毎度毎度注意してんだけど、性分なのか全然直そうとしねぇ。
「…………僕の事はもう良いだろう? それよりもそろそろ時間じゃないのか?」
「あっ、もうこんな時間、じゃあまた明日!!」
「……ああ、また、明日」
シノが帰る時間になると一気に大人しくなる宮田、今日は俺の家に集まって打ってたんだから、そんなに寂しけりゃ一緒に帰りゃ良いのにとついつい思ってしまう。
完全にシノがいなくなった後、俺は麻雀牌を片付けながら部屋の隅で凹んでいる宮田に向けて前々から言おうと思っていた事を言う。
「なぁ宮田」
「なんだ、小野」
「お前さ、今年は松江の大会に出たらどーだよ?」
「…………彼処は麻雀が好きな連中の居場所だろ」
自分の麻雀は他人にとって不愉快な物だと自覚しているこいつは今まで大会には出てなかった、今でもその気持ちは変わらないのは分かってる。
「けどさ、おまえも今はシノに影響されて麻雀楽しんでるだろ? だったら行っても良いんじゃねーの?」
「……それは」
「それに、どーせシノも大会に出るだろーしな」
俺は大会に出れるレベルじゃ無いので出場する気は無いけど、折角こいつもシノと出会って少しだけ変わったんだ、シノ以外にも麻雀馬鹿の友達を増やした方が良い。
そんな事を思っての一言だったんだけど、宮田は黙ったまま帰っちまった。
▽
僕は自分の部屋で松江の大会のチラシを見ていた。
今までの僕なら興味の無い大会だったのだが、小野の言う通り白築の興味を引きそうな物だ。
横目で自分の机の上を見る、山の様に積まれた昨年の大会出場者達のデータ。
要注意なのは決勝に残った瑞原はやりのみ、他は対策さえしっかりと練っていれば負ける事はまずないだろう。
大会はまだ二週間先、情報収集には十分な時間だけど、どうしたものか。
瑞原はやりを攻略しに掛かるならこのまま残りの時間を彼女の研究に注ぎ込むのだが、この大会は麻雀好きが集う場所だ。
普段通りに徹底的に相手を研究するのか、それとも過去の対局映像の閲覧だけに留めるべきか。
帰宅した後の僕はその事ばかりを考えて時間を浪費し、悩んでいた。
(瑞原はやり……安定した防御力と高い和了スピードを持つ昨年度の優勝者、ガードの方は一級品だが和了スピードに関しては白築よりは遅いな)
それなら速攻で流してしまうか、無理に彼女と張り合わず他のところから高打点をもぎ取れば良いか。
瑞原以外の連中はワンランク下なのでその点は苦労はしないだろう、後はどうやって瑞原を出し抜くか……。
結局僕は悩んでいた事も忘れ、パソコンの前に座って情報収集と研究に勤しんでいた。
彼女はジュニアアイドルとしてもある程度活躍しているので少し検索に掛ければいくらでも資料は手に入る。
牌譜や対局映像から彼女の思考を割り出し、麻雀部屋の全自動卓を使ってのシュミレーションを行い、イメージを固めて行く。
一人で何をやっているのかと側から見たら言われそうな光景だけど、実際の牌を使ってみるとこの場合はどう切るかと言う事を考えやすい。
牌譜片手に数局回していた僕だったが、空腹を感じて時計を見る。
既に時刻は午後七時を回っていた上に、今日は父も母も帰りが遅いと聞いている。
小遣いは貰ってるしコンビニにでも行くか……。
そんな事を考えながら僕は家を出たのだけど、丁度少し歩いたところで白築の叔父と出会った。
「あれ? 宮田さんのところの……大智くんだっけ?」
「ああ、リチャードソンか」
「……もうバンド解散してんだけどなぁ」
からかい半分でリチャードソンと呼んでやると、白築の叔父は遠い目をして棒立ちになっていたが、気を取り直して財布を持った俺の顔を見て不思議そうに首を傾げる。
「で? こんな時間にどーしたんだよ、大智くん」
「ああ、今日は少し両親の帰りが遅くてね、これからコンビニで弁当を買おうかと」
「あーなるほど、じゃあウチで食ってくか? 慕の飯は美味いぜ?」
「………………はい?」
「よし、そうと決まれば早速行くぞ〜!!」
白築の叔父とは思えない強引さに俺は碌な抵抗も出来ずに連れて行かれ、夕食を頂く事になってしまった。
…………白築のグラタンは絶品だった。