白築慕達の麻雀日誌   作:ACS

3 / 3
3日目

3日目 緊張

 

 

…………僕の目の前には白築の表札の掛かった家が建っている。

 

今日は大会当日、エントリーは当日なので彼女を誘って行こうと思ったのだけど、何故か僕の指はインターホンを押す事が出来ないで居た。

 

この日の為に瑞原はやりを徹底的に研究し、僕なりの対策も完成した、不安になる事など無いのに何故押せないッ!!

 

べ、別にで、で、デートに誘う訳じゃないんだ!! あいつが好きそうな催しだから物のついでに誘うだけで、疚しいことは無い、そうこれは僕の気まぐれなんだ!! さあ今インターホンを押せ!! 押すんだ僕!!

 

誰に対してでも無い言い訳をしながら震える指がインターホンへと伸び、そのスイッチが押される。

 

玄関の向こう側でピンポンと言う音が聞こえたが、家人の反応は無く、何時まで経っても人が出てくる気配は感じられなかった。

 

もしやもう会場に向かったのでは? と言う疑問が湧き始めた頃、僕の後ろから良く知っている男の声がした。

 

 

「お前……何やってるんだよ……」

 

「な、んだ、小野か……何をやってるとは?」

 

「いや、何がって、昨日シノから今日は叔父と出掛けるっつーメール来ただろ……その反応だと情報収集に夢中で見てねーな?」

 

「…………ふ、ふん!! そんな事くらい知ってるさ!!」

 

「じゃあなんで此処にいるんだよ……会場は反対方向だろ」

 

「こ、これは、その、アレだ!! そう、戸締りの確認に決まってるだろ!!」

 

「いや、おまえ……うん、まぁ、そう言う事にしといてやるわ、良かったな見られたのが話のわかる俺で」

 

 

阿保に阿保を見る目で見られる事が此処まで屈辱だったとは、僕とした事が何と言う失態を……。

 

小野に見えない様に白築からのメールを確認すると、確かに今日留守になると言う旨のメールが来て居た。

 

となると、僕がこの大会に参加する理由は無いんだが、小野がいる手前、そのまま帰ってしまうと奴に白築が参加するから参加しているという見方をされてしまう。

 

仕方ないので自転車に乗り、会場に向かうと何故か小野も俺について来た。

 

 

「まぁシノが参加しなくて残念だったな、あいつが居ないからって気を落とすなよ」

 

「うるさい黙れ」

 

「サクッと優勝してシノに自慢してやれよ、あいつなら素直に褒めてくれるぜ?」

 

「黙れと言ってる、それ以上なにか言ったらつぶつぶドリアンジュースを飲ませるぞ」

 

「悪りぃ、アレだけはマジ勘弁!!」

「……ふん!!」

 

この時の僕はこの大会に何の思いも抱いていなかった、白築が居ない事もそうだけど、僕のデータ麻雀に勝てる者は居ないとタカを括っていたからだ。

尤も、その気持ちは決勝で打ち砕かれる事になったが。

 

スイスドロー形式の大会、勝ち抜き戦と総当たり戦を併せた形のそれは各ブロックの上位四名が選出されて決勝が行なわれる。

 

僕のブロックは幸いな事に昨年の決勝進出者とはぶつからなかった為、決勝までは直ぐだった。

決勝メンバーは瑞原はやり・石飛閑無までは僕の予想通り、しかししかしだ。

 

 

「何故居るんだ、白築」

 

「え、えっと、居ても立っても居られなくって……」

 

 

最後の決勝メンバーはまさかの白築慕、確か叔父と出掛けてたんじゃなかったか?

 

今朝の失態が対面同士になった事で気恥ずかしさが込み上がって来るも、無理矢理それを飲み込み椅子に座る。

 

今日は大会でしかもスイスドロー形式、大好きな麻雀を山程打てた事で彼女はご機嫌なのだろう、にへらと柔らかい笑顔が浮かんでいて何故か直視出来ない。

 

「えへへ、今日は宮田くんも一緒に楽しもうね!!」

 

「ふん、呑気してて良いのかい? この面子だと君のデータが一番集まっているんだよ?」

 

「ふーんだ、宮田くんには勝ち越してるもんねー」

 

「ふっ、今日は三麻じゃないんだ、負けはしないさ」

 

雑談を交わしている間にアナウンスが決勝戦の開始を宣言する、それと同時に僕も意識を切り替えた。

 

 

▽

 

前々から行きたいと思っていた麻雀大会の決勝戦、其処で私は意外な人と対局する事になりました。

 

あまりこう言った催しに興味のなさそうだった宮田くん、小野くんの話だと自分のスタイルが他の人に嫌われやすいから大会出場を自重していたらしいです。

 

後で如何してこの大会に参加したのかを聞きたいなと考えながら、私は配牌に目を移す。

 

宮田くん以外にも多目的教室で会ったかんなちゃんや、さっき倒れた時にぶつかった瑞原さん、みんなみんな強い人。

 

そして三人ともそれぞれ違ったスタイルの打ち手、宮田くんは対戦相手のデーターをきっちりと用意して対策を持って対戦する人で、今回は事前にしっかりと下調べをして来ていると思います。

 

かんなちゃんははやりちゃんに対抗心燃やしてて、彼女よりも早く高くを意識してるから、強気な性格も相待って攻めの麻雀だと思います。

 

はやりちゃんは攻守共に高水準で纏まっていて、前に宮田くんに聞いた時には『小学生の中でなら上から数えた方が早いね、全国では多少目劣りするかもしれないがそれでも10本指には入る』と言ってすごく褒めてました。

 

詳しい話も聞いて見ましたけど私じゃちんぷんかんぷんで、とにかく強いって事しか分かりませんでした。

 

 

この人達に勝てれば記事になる、もしかしたらその記事をおかーさんが見てくれるかもしれない。

 

そんな思いがありましたが不思議と気負う事は無く、普段以上に集中して対局に望めました。

 

東一局目から宮田くんがはやりちゃんのペースを乱す為に無駄鳴きや空テンリーチなどを使って場を荒らし、はやりちゃんの和了を妨害しようとしていました。

 

けどはやりちゃんはそれでも揺れずに確実に自分のペースで和了を取りに向かっています、その事に焦りを感じ始めたのか宮田くんは自分の勝ちを捨ててかんなちゃんや私に向かって差し込みを始めました。

 

その結果、南場に入る頃には宮田くん以外の点棒はほぼ横並びになっていて、かなり接戦になっていました。

 

 

心なしはやりちゃんもかんなちゃんにも焦りが見え始めてる、宮田くんが本当に絶妙のタイミングで早上がりをしてしまうので手を育てる途中でそれを流される焦ったさを二人は味わってるんだと思う。

 

本当に人を焦らせるのが上手く、ペースを乱したところを一気に食い破る戦法の彼は絶好のラス親、点棒も後6,000点だから南3局までには彼から直撃を取りたかった。

 

私は南場の親で跳満をツモりましたが、その直後点棒が完全に無くなった宮田くんがはやりちゃんに狙い撃ちにされ、黒棒の差で彼女は勝ち抜きました。

 

 

四枚目の牌を狙った地獄待ちの嵌張、この放銃は宮田くんには計算外だったらしく、目を見開いてはやりちゃんを見ていました。

私の順位は3位、最後の跳満ツモでかんなちゃんとはやりちゃんには黒棒の差までは詰め寄ったんだけど、あと一歩が届かなかった。

 

そんな悔しさもいい味を出すアクセントに感じた私は3位でも満足していました。

 

そして、私が会場から出ようと思った時、先に対局室を出て居た宮田くんの後ろ姿が見えました。

 

 

「………糞ッ!! この僕が狙い撃ちにされただとッ!!」

 

宮田くんは壁を叩いて悔しそうにしていて、私はそんな彼にどうやって声を掛けたら良いか悩みました。

 

けど、彼はプライド高いから下手に声を掛けると逆に傷付けてしまう、そうだこんな時は!!

 

私は近くの自販機で2人分のジュースを買い、宮田くんの元へ行きました。

 

 

「宮田くん、大丈夫?」

 

「白築か、無様な負けを晒した僕を笑いに来たのかい?」

 

「ううん、ちょっとお話ししようと思ったの、はいコレ宮田くんの分」

 

「……つぶつぶドリアンジュース、か」

 

 

宮田くんも苦手なのかな? 顔が引きつってる見たいだけど……。

 

 

▽

 

「有り難く頂くよ、白築」

 

 

俺は宮田の様子を見に来たんだがあいつも不憫だな……。

 

柱の影から覗いてるけど、シノから手渡しで、しかも本人はけろっとあのゲテモノジュースを飲んでるもんだから飲まなきゃならないっつー使命感もあるし、試合じゃシノにかっこ悪いとこ見せちまったからなぁ。

 

多分今奴の頭の中じゃ飲むか飲まないかの二択に迫られてるんだろう、さっきからトライしようとして躊躇ってやがる。

 

「宮田くん……もしかしてこれ嫌いだった?」

 

シュンとしたシノの様子、あの子はあのゲテモノジュースが好きなんだろう、無自覚に泣き落としに来おった。

 

身長差から見上げる形になってるからコレで宮田は飲むしかなくなった、奴は意を決したのかドリアンジュースを一気飲みにした。

 

 

「あ、案外悪くない味だな」

 

「だよね!? 美味しいよね!!」

 

 

…………いっぺん罰ゲームで飲んだことあるけど、アレ普通の味覚してる奴には拷問でしかねーんだけど?

 

つか、宮田の声震えてんじゃねーかよ、顔も青いし無理するから……。

 

 

「あっ、これさっき自販機であたりが出たからおかわりもあるよ?」

 

 

やめてあげて、宮田の精神が死んじまう。

 

 

「なら、おかわりも、貰おうか……」

 

 

宮田……お前、もう味覚が……。

 

ネタに走ったけど、アレが惚れた弱みって奴なんだろう、大会でカッコ良いところを見せる気だったんだろうが、瑞原が揺れないから場を揺らしに行って策に溺れた形の敗北っつー本人には一番の屈辱だからな、引くに引けないのか。

 

今度は自分から茨の道に進むように、味わって飲んでやがる……。

 

その間、シノは試合の事を話して居たけど、時間になったのか彼女は宮田に手を振って帰って行った。

 

 

「おーい、宮田ー? 生きてるかー?」

 

「……口の中が表現し難い事になってる」

 

「良かったじゃん、負けの気分が吹っ飛んでさ」

 

「は、話しかけないでくれ、口を開くたびに味が蘇る……うっぷ」

 

「……悪りぃ」

 

 

負けの気分を晴らす為にゲーセンにでも誘おうと思ったけど……無理そうだなこりゃ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。