拙作への反響は、人生の励みになってます。 本当にありがとう。
さて、今から二年と少し前になります。第一作目である『東方萃儀伝』におきましても、同様のタイトルで、スペルカードルールの説明を致しました。
当時と比べると、私めも随分と文章の書き方と言うものを覚えたなぁと、両者を見比べ勝手ながら感慨深いものを感じました。
別離、そして新たな出会い。
怒涛の展開を迎えた一日を終え、裕也は改めてアリスと向かい合っていた。
彼女の口から語られるのは、『スペルカードルール』
人が妖怪に立ち向かうことのできる唯一無二の法則とは、一体──?
話が済んだ頃には、空は白み始めていた。
少し休んだとはいえ、疲れが溜まっているだろう。 というアリスの気遣いにより、一先ずゆっくりさせてもらうことになった。
空き部屋が一つあるので、そこを当面俺の部屋として使って良いらしい。
そしてなんと、衣服に関してはアリスが作ってくれるそうで。
流石に世話になり過ぎではないかと断ろうとしたが、”私がしたいだけだから”と押し切られてしまった。
聖母か?聖母なのか?アリスは。
拝めてみるか?……嫌がられそうだな。辞めておこう。
その日はそのまま就寝。
寝具もまたアリスお手製らしく、ふかふかの布団は天国に行けてしまうのではないかという寝心地だった。
そして翌日。もう日は高く昇っていたが、遅ればせながら起床。
アリスの作ってくれたこれまた絶妙な調理具合の食事をとり、──もはや彼女に出来ないことを探すほうが難しい気がする──少し落ち着いたところで小屋の前に出てきた。
即席でテーブルセットが創られ(もはや何もツッコむまい)、促されるままに着席する。
流れるような動作で対面に座り、肩の前に来ていた髪をかきあげる。
所作の一つ一つが、一々洗練されているなと改めて感じさせられた。
「今日は、昨日言った”スペルカードルール”の説明から入るわね。少し長いけど、頑張ってついてきて」
そう前置いて、アリスはつらつらと説明を始める。
理路整然としている上、ところどころ要点は紙に記しつつの解説。
言うまでもなく、非常にわかりやすかった。
彼女が説明してくれた内容を俺なりに纏めてみる。
まず、”スペルカードルール”が制定された目的。
これは、細かいものを含むと勿論たくさんあるのだが、主としては二つ。
『世界そのものへの被害を減らすため』『弱者も強者に対抗できるようにするため』
前者。この世界が凄まじい力を持つ妖怪で溢れかえっていることから、ちょっとした喧嘩一つで地形が変わるということが昔は頻発したらしい。それを少しでもマシにするという狙いがあったそうだ。
後者に関しては、詳しく話そうとすると、そもそもこの世界に成り立っている勢力どうしの力関係や、世界の調停者としての役割を担っているらしい博麗の巫女など、幻想郷の構成自体にも焦点を当てる必要があるので、細かくは割愛する。
アリスは勢力図まで書いて懇切丁寧に説明してくれたが、俺はあのように整然と説明する自信はない。
早い話が、”人間のような矮小な存在でも、強大な妖怪に対抗することが出来る唯一無二の法則” そういうことらしい。
そして、肝心のルールの中身。
まず、”スペルカードルール”における戦闘は、”弾幕ごっこ”と呼称する。
わざわざ”ごっこ”と呼ぶのは、あくまで遊戯の一環であるため全力を出しすぎないように、という意図が込められているのか……いや、流石に考えすぎかな。
そもそも弾幕とは何かというと、自身の持てる力……霊力や魔力に始まり、妖力や神力など、まぁ正直なんでも良いのでそれらを使っての遠距離攻撃(可視限定)だと思えば良い。
”弾幕ごっこ”で用いる弾幕は、極力殺傷力を抑え、美しさを追求するものとする。
相手を殺せば良いというわけではないのだから、余計な傷害を出さぬよう、不要な威力は削れと、そういうことらしい。
これは、先述の”世界そのものを守る”ということにも繋がるのだろう。
美しさに関しては、アリスも経緯はよくわからないと言っていた。
とにかく、そう定められている以上、皆が皆より壮大で美しい弾幕を作り上げようと精進しているそうだ。
折角なので、アリスにせがんで弾幕というものを少し見せてもらった。”私は弾幕ごっこは得意な方ではないから、あまり期待しないでね?”と前置きながらも、彼女は快く引き受けてくれた。
正直言おう。圧倒された。
アリスを中心とし、密集した色とりどりの米粒のような弾が一塊となって流動し、まるで川がそこに流れているかのように螺旋を描く。
感動した、壮観だったと素直な興奮を伝えたところ、どこか気恥ずかしそうに頬を染めるアリスの姿がとても印象的だった。
話を戻そう。
”スペルカード”というのは、予め使う弾幕の詳細──実際にどのように展開するかということや、その時間など──を登録しておき、いざ戦闘が始まったら宣言し、使うものらしい。
カードに定められた内容を消費し尽くすか、その発動中に相手の弾幕に被弾するなどして展開を止められた時、そのカードは攻略されたものとする。
そうして勝負を続けていき、予め両者合意で決めておいたスペルカードを先に使い切ってしまった方が、勝負の敗者となる。
俺を始めとした、特別な力を持ち合わせていない”人”でも、このルールにのっとった勝負は認められる。
その場合は、相手の使ってくるスペルをすべて避け切ることのみが、勝利の方法となる。
以上。”スペルカードルール”については、こんなものだろうか。
要するに、”相手の弾をよく観察し、回避し続ける力”さえ身につければ、俺のような人間でもルールの下でなら妖怪に適う可能性があるということ。
アリスはそれを念頭に置いて、特訓をしてくれるらしい。
回避だけとはいえ、短期間で身に着けないといけないから、相当スパルタになっちゃうけど覚悟してね? とのことだ。
話が終わり、ふうと息を吐いていると、コトリ、と目の前にカップが置かれる。
昨夜の逃走劇の際、先頭を切ってくれていた存在であることに、すぐに気づいた。
「あら、上海、気が利くじゃない。ありがとう」
アリスが微笑む。
そうか、この子は上海っていうのか。
「あ、ごめんなさい。まだ紹介してなかったわね。この子は上海。私の作った人形よ」
へえ、人形ね……人形!?
俺の表情から何を読んだのか、アリスが頷く。
「ええ、私の趣味は人形作りなの。まだ出来ていないけれど、いつか完全自律式のものを作ってみたいと思っているわ」
人形作りが趣味。それだけ聞くと、彼女の容貌も相まって、なんともメルヘンチックなものを感じさせる。
思わずまじまじと見つめると、上海はこてんと首をかしげた。
頬を指でつついてみた。 擽ったそうに身をよじる。
頭を撫でてみると、目を閉じて気持ちよさそうにしている。
「……生きているようにしか見えないんですけど」
「ふふ。この子は年季が違うから。特別よ」
年季の問題なのか? ああ、でも、強い想いがこめられたものは永い時を超えて付喪神になることがあると、昔聞いたことがある気がする。
そういうことなのか?いやでも、アリスはハッキリ人形と言ったし……
うまく纏まらない思考で上海をみる。
ちびっ子はとうとう船を漕ぎ始めた。
──ま、いっか。かわいいし
思考を放棄し、紅茶を口に含む。
温かさが胸に染み込んでいく。
安らぎの中、まるで我が子を慈しむ母親のような表情で、上海を見ながら微笑んでいるアリスをみて。
こいしの件が解決するまではもちろん、その後も……
この光景はいつまでもみていたいものだ。 なんとなく、そう思った。
アリスはスーパーパーフェクトでなんでもできる最高のお姉ちゃん(語彙力)