TASこうぐらし!(二周目)   作:鬱とはぶち破るもの

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二日目開始~遠征(一回目)までです。


TASこうぐらし! part4

翌朝

 

 夏とは言え日の出前の暗闇の時刻は相応に冷える。

温室の中で人肌と毛布により屋上のコンクリートの上に直接眠るより遥かに、保温されやすい環境とはいえ、慈は巧妙に入り込んでくる寒さに震えながら目を覚ました。

 

 昨日、就寝前にぴったり密着していた由紀はあれから殆ど変わらず同じ体制で密着しており、胡桃も悠里も寝返りをした程度で大きくは動いた様子はなく熟睡していた。

 周囲に耳を澄ましても彼女たちの小さな寝息しか響かず、前日の惨事がまるで嘘のように思えるほどであったが温室の壁に立て掛けてあった慈の銃が、それは幻覚の願望であることを重厚な存在感により告げる。

 

 外はまだ暗く、蛍光塗料で針と数字がぼんやりと浮かぶ腕時計を見れば午前4時をすぎたばかりである。

 出来る事ならば夢の世界に戻りたい所であるが、フルフルと頭を振って由紀には申し訳ないがそのがっしりくっ付いてくる腕を優しく慎重に引き剥がし寝床からするりと抜け出る。

 

「……めぐ……ねえ……?」

「しー。まだ夜中よ、まだ寝てて大丈夫ですからね。丈槍さん」

「はぁい…。わかり…ま…。むにゃ…、むにゃ……」

 

 銃と弾薬を持ち、扉を開けたところで寝ぼけ眼の由紀が顔を上げる。

大きく騒ぐわけもないが、他の二人の安眠を妨げる可能性を考えてゆっくりとしゃがみこんで小声で由紀に話しかけると同時に人差し指を口の前に立て、流石に睡眠中は帽子を脱いでいた由紀の頭をポンポンと優しく叩いてあげれば、ニヘェ…と嬉しそうに顔が緩み安堵したのか再び瞼が閉じ、その頭がぽてんと枕へ落ち再び寝息を立て始める。

 

 胡桃、悠里の様子も伺うも起きる気配もなく、それに安堵した慈は今度こそ温室から出て“屋上の落下防止の為の柵に足をかけて空へ飛び上がる”。

 勿論、そのままだと地面に叩き付けられてしまうのですぐさま外壁を蹴り、昨日の内に割って破片すらない窓から三階の廊下へなんの危なげもなくするりと飛び込む。

 

「………めぐねえ…って、空も……とべるんだぁ……すごいやぁ……」

 

 頭が完全に覚醒しておらず、朧気で現実と夢の挟間にいた由紀は僅かに視界に飛び込んできた情報の髪をはためかせ、壁を蹴り落ちる慈の姿をそう解釈した。

 完全に間違ってはいないが、正解でもない判断をして今度こそ寝息の三重奏を奏でる。

 

 

~~~

 

《おはようございます。ミークンです。本日は晴天なり。》

《雨のゾンビラッシュデーまで晴天固定なので、当然なのですが…まぁそれはさておき》

《先ほどの早朝イベント、本当なら由紀を気遣って腕から抜け出すような事はしないのですが、唯一“身だしなみを整える”時はこのように脱出できます。》

《“身だしなみを整える”というのは…要するにそういう事です。まぁ朝に済ませればその日一日必要がなくなるのでご安心を》

《ちなみに、徹夜でゾンビを狩っている最中でも一日経過イベント時刻である、午前4時を過ぎるとその瞬間に“身だしなみを整える”という名目でキャラが攻撃モーション中であろうと中断して、メッセージが出ます。》

《そして、感染者であるゾンビ達もその瞬間には攻撃を中断するばかりか、ノロノロとその場を去ります。》

《実に紳士的です。感謝の気持ちを込めて苦しみから解放して差し上げましょう。》

《そして、お察しの通り。めぐねえには早起きしてもらうために昨日は水を大量に摂取して貰いました。》

《先ほども申し上げた通り、一日の切り替わりの時刻は午前4時です。それをすぎると2日目の判定になります。》

《そうなれば校舎内に26体のゾンビが再リスポーンします。初日と違って各階に分散していますので殲滅は初日より簡単です、時間は掛かりますが回収物も幾つかあるのでついでにやれば無駄はありません。》

 

《それと、先ほどの技ですがこのゲームは拠点の空間は完全に一つのエリアにまとめてあります。つまりゲーム上行ける範囲と建物の構造は同じになっており、屋上から校庭にいるゾンビを狙撃する事も当然できます。》

《なので、現在塞がれている屋上から直接3階へアクセスしたという事です。やり方はシビアですがタイミングと場所さえ把握すれば実機でも可能です。カメラを屋上の壁にめり込ませるようにしながらバリケードのロッカーを踏み台に、柵へ足をかけれればスルリと外へ落ちれます。》

《後は落ちるモーション中に壁へアクションボタン(初期設定だとAボタン)で一回蹴りを入れて、タイミングさえ合えば某アクション映画の如く校舎内へ進入できます。》

《ちなみに失敗するとエンド【おさきにさようなら】です。何回突然飛び降りを行ったプレイヤーキャラの名前を叫ぶ三人を見たことか…まあ追記の彼方に消えた光景ですが。》

《窓は、昨日の殲滅の最中上手い事手前に居たゾンビに命中させて、窓から落とした際に粉砕しました。これをやらないと割った時に負傷したり、音でゾンビを活発状態にしてしまい、その上屋上の面々に届いてくる可能性があるからです》

《待機命令出してないので、知らない内にモグモグされるのを無くす為の処置です。》

《銃声に関しては起きるという事は無かったので、遠慮なく介錯します。》

《さぁ無双!の前に“身だしなみを整える”イベントがありますので、それからになりますが…》

 

《それと初日の銃回収時にわざわざ“先輩”を使う必要ないだろう、とお思いの方も多いかと思いますがグラウンドフラグの関係でもう一人生存者を確保する必要とあともう一つ、“校内の解放度”フラグを立てるために各階を回る必要があったためこの手法は取れませんでした。》

《前者に関しては解説済みですが、後者に関してはこれから説明します》

《校内の解放度というのは、早い話各部屋の解放可能フラグとアイテム収集フラグの話です。》

《一度でも通過した階の設備とアイテムは、プレイヤーキャラと同行者が居るとその階を完全に開放してなくとも使用可能になったり回収可能になったりします。》

《このフラグを立てていないとランダムで配置される有用なアイテムを入手するのが、その階からゾンビを殲滅した上でバリケードを立てるという作業が必要になってしまいます》

《ですが、今プレイだとそんな暇は一時もないので、先に各階を“同行者”と共に移動したというフラグ立てが必要になります。》

《“同行者”は本来なら一階一階解放して行かなければ次の階に進めないように、待ったをする存在なのですが…“先輩”は物言わぬ存在なので一気にすべての階を通過したというフラグが成立できました。》

《これにより、校内からゾンビを殲滅するだけで校内のセーフティ化が完了するので大きな時間の圧縮と資源の節約になります》

《早朝に起きる事ができましたので、夜明けまでには校内を安全化して遺体は例のはざまにポイします。》

 

《では無事着地した3階廊下の様子を伺いましょう、たまにランダムで出現して近場に居たりするのですが…問題ないですね。まぁ“身だしなみ”フラグが立っていますので目の前に居ても大丈夫ですが》

《位置調整もばっちりで目の前が女子トイレです。用事を済ませましょう。》

 

~~~

 

 

 蛇口を捻れば何の問題もなく水が流れる。

手を洗いながら、タイル張りされ血で汚れたお手洗い場を一瞥し、水を止める。

 

「綺麗にしなくちゃね。」

 

 ハンカチで手を拭いて、血染めのトイレという学校の怪談であり得そうな現実の光景に【元生徒達の対応】と【血染めの校舎】をどうにかしなければという、考えを抱きながら慈は手に馴染む自前の銃を持ち上げ、何の躊躇もなく一番手前の個室に銃弾を撃ち込む。

 

「おやすみなさい。」

 

 小さく慈が冥福を祈る言葉を呟く、そちらをもう一瞥もせずに再装填を行い、金色の空薬莢がタイルの床を叩く。

 彼女がそこを去ればゆっくりと個室の扉が開き、ドチャリと額を撃ち抜かれ介錯された“かれら”の一体が床に倒れ伏した。

 

 

~~~

 

 

《ゾンビ物お約束のびっくり要素です。本当なら手を洗う洗面台の個所から外に出ようとするとバーン!と勢いよく飛び出して来るのですが、トイレのドアは銃弾を通すので弱点の頭部に打ち込んで差し上げましょう。慣れるまではどこら辺狙っていいか分かりにくいですが、目標のドアの方を狙い初期の(+)マークが出るポイントから、スティックをクリックリッと上に動かし、更にクリッの半分くらい上げてから撃つといい感じに脳天を打ち抜けます。》

《これ以降、時々ビックリ要素があるポイントがちょくちょくありますので注意が必要になるでしょう。》

 

《ちなみに、このビックリ要素の“かれら”は26体のカウントに入りません。やたら校内に多いと感じた方はこれが運悪く出現し、その回数が多かった為でしょう。》

 

~~~

 

――3階

 

 装填を完了させ廊下に出る。

先ほどの銃声に対して、教室から出現したという人影はなく日の出前で照明もない廊下が大口を開けて横たわっている。

 

「まずは職員室方面ね。あちらは頑丈な鍵のある部屋が多いし拠点に良さそうね。」

 

 慈は目の前の二つの選択肢にコンマ一秒程で決断し、廊下を走りだす。

カツカツというリズミカルなタイルを叩く音が僅かに静まり返った3階に響く。

あまりにも無防備で無警戒な行動であるが、行く手にある半開きになった暗闇の部屋から慈へと向けられる動きは幸いなかった。

 

 危なげなく職員室へと到着し、それまでリラックス状態であった慈に不安と警戒の色が浮かぶ。

そこはつい先日まで、席を置いていた部屋。室名札には【職員室】と記された部屋であった。

 

 白く塗られていた扉は赤い液体が吹きかけられており、戸ののぞき窓は砕かれ、半開きになったそれがもはやそこに一部の秩序も存在しないことを慈へ警告する。

 そっと耳を澄ませてみれば、僅かに足音と呻き声が聞こえてくる。

数でいえば3~4体がどうやら徘徊しているようで、慈に気が付いた様子は感じられず一先ずは安堵し小さく息を吐く。

 

 そしてそこに気配を感じるという事は、かつての同僚が変わり果てた姿で徘徊しているという事はほぼ確実であり、知らずに手に力が籠る。

 しかし、強張る慈をその重さとヒンヤリする温度、落ち着ける確かな感触の愛銃が震えを止める。

 

「えぇ…行きましょう。私はこの…私立巡ヶ丘学院高校の…教師、なのだから…」

 

 視線を銃から室内へ向き直す、赴任して間もない新人教師であるが。それでも唯一の生き残りの大人。

私はこの学校に残った、責任ある教師なのだから。

 それが殆ど虚勢であることを認識しながらも自らを鼓舞する。

 

「あなた達が為すべきことだった事。責任と義務。佐倉慈、その全てを背負います。」

「頼りないかもしれません、辛いことも多いでしょう。努力じゃどうにもならない事ばかりでしょう。でも、それでも。だからこそ、私が背負います。あの子達に背負わせるなんて…出来ませんから。…だから。」

 

 目を瞑り、ゆっくりと瞼を開く。

体の震えは止まっていたが、その瞳に明確な意思が宿る。

 或いは覚悟とも言われる強い思いを胸に抱き、慈はその扉を開く。

内心苦手としていた者の姿も、下らない冗句を言っていた者の姿も――最後の瞬間まで忠告を与えてくれた者の姿もある。

 

 しかし、彼女はそんな者たちが歯を剥き様々な呻き声のコーラスを奏でながらふらふら揺れながら接近しても恐怖に染まることなく、銃口を“かれら”へと向ける。

 

「後はゆっくりと眠ってください。」

 

~~~

 

 

《めぐねえの覚悟シーンです。》

《普通なら同行者(大体胡桃ちゃん)と共にここに突入する人が大半だと思われます》

《ですが、一人でここに来ると今の様な【覚悟イベント】が挿入されます。》

《原作でも、噛まれ感染し一度は飢餓に動かされ「ここをあけて」と思わず懇願してしまう状態から持ち直し、自ら地下へ。そして意識が消える最後の瞬間まで三人の生徒を案じ続けためぐねえらしいイベントです。》

《これにより、めぐねえが【覚悟】状態になります。これは介錯、火葬によるメンタルダメージ無効という効果を付与する有難い状態です》

《永続ではなく睡眠することにより解除されますが、それまでは基本的にメンタルへのダメージを無視できるので強力なものです》

《そして、これは数少ない固定イベントでしか付与されないレア状態でもあるのでタイミングと機会を逃すとお目にかかることもないでしょう。めぐねえのこのイベントと圭が主人公編の駅からの脱出時に付与される時くらいだったハズです。》

《ちなみに、胡桃ちゃんの【覚醒】とは別物なのでステータス向上などはありません。あったら強すぎますからね。》

《では、覚悟状態になったのでお掃除をしましょう。職員室は教員ゾンビが固定で4体徘徊しているので瞬殺です。距離も十分ありますので目標を確認、狙う撃つ。これを四回繰り返すだけです。》

 

《はい、危なげなく殲滅です。あと暫く職員室に用事は無いので踵を返します。》

《あぁ、それと例のアレに関しては今のところ読む必要はないので無視です。》

 

 

~~~ 

 

 四発の銃声が職員室に響き、四体の“かれら”が一分のズレもなく眉間に穴をあけて介錯されていた。

撃った順番にコントロールを失った体が床に倒れるのを確認した慈は、先ほどまでの悲壮にゆがんだ顔つきから平常時より鋭く引き締まった顔立ちで職員室を後にする。

 

 その後は、姿をブレさせるカサカサ移動を行い中央階段のとなりの【2-A】と記された教室の扉を開ける。

机はひっくり返り、血により塗装された床と壁。

 そこに4体の“かれら”がゆっくりと徘徊をしており、扉を開けた慈に反応して呻きを上げながら接近を試みる。

 

「さようなら」

 

 一歩踏み出した瞬間に、先ほど職員室で起きたことが焼回しされる。

銃声が四つと、薬莢が四つ。倒れる音が四回なって――――三階が安全地帯になった。

 

~~~

 

 

《その階が安全になったかはBGMによって判断する事が出来ます》

《ゾンビが残っている場合は不穏なBGMですが、穏やかなBGMになると安全になったという事になります。》

《通常の場合は、同行者が『もう安心だね』と教えてくれるのでわかりやすいです。…がビックリゾンビに関してはBGMや同行者の判定が出来ないのでロッカーガチャでアイテム回収する時は気を付けましょう。》

《TASねえがお願いしてあるので今プレイではビックリ要素ないのでご安心ください。そもそもビックリゾンビは経験値無いので銃弾の無駄にしかなりません。》

 

 

~~~ 

 

 3階が安全になったのを確認した慈は中央階段を下り、2階へと移動する。

ここでは廊下に3体の徘徊する“かれら”がフラフラと揺れながら周囲を警戒しつつ、徘徊していた。

一番最初に慈の姿に気が付いた“かれら”の一体が食らいつこうと口を開き襲い掛かる。

 

パァン。と銃弾が撃ち込まれ壁に花火の絵が浮かび上がる。

 残る二体も、銃声と慈の存在に気が付いて即座に距離を詰めようとするが、壁と床にそれぞれ花火の痕跡を残し介錯された。

 

「三年生の、クラス」

 

 ジャキン、とループレバーを動かし排莢しながら小さく呟く。

そこにあった日常をすぐそこに感じることが出来るはずなのに、血と絶望に塗りつぶされそれを垣間見る事すらできず、慈の肩が下がる。

 しかし、と気分を切り替えて教室の反対側を向きなおす。

こちらには学生食堂と家庭科料理室、購買とここに籠城するのなら必要不可欠な様々なものがある領域である。

 これらの部屋は金銭、包丁その他危険物を保管してある為に厳重に施錠してあり、広く隠れる箇所が多い場所でもある。

 

 もしかしたら誰か隠れているのかも。

 

頭ではそんなのあり得ない、と断じつつも僅かな奇跡に期待したい思いを抱きつつ、幾つか欲しい物が思い浮かぶ自身の脳内にどうにも言えない不快感を覚えつつ、慈は歩みを止めず進んでいく。

 

~~~

 

 

《みんな大好き学食と購買。メンタルダメージを回復するアイテムの宝庫です。》

《食事が大切と言いましたが、それだけではダメです。各々外見では分かりませんが着替えを欲しがる時があります。現在はまだ大丈夫ですが夏場の暑いときに同じ服を1週間も着ていたらどうなるでしょうか?》

《皆年頃の女の子です、着替えは勿論歯磨きもしたいしお風呂もしたいのです。》

 

《美紀ちゃん主人公のネTASでメンタルを犠牲にお着替え阻止して一ヶ月間同じ服を着せたりしましたが、匂いソムリエが大量に出没してましたね》

《ですが代償にりーさん発狂(隙あらば自殺行動)。胡桃ちゃん狂気(瞳孔がん開きで素手だと首絞め攻撃、噛み付き。武器を持たせるとそれで攻撃。台詞は「センパイ、センパイ」)。由紀ちゃん発狂(幻覚、幻聴。めぐねえ補正のない原作モード)。圭ちゃん混乱(拠点内でじーっと動かない。食事拒否。)、美紀ちゃん絶望(顔グラが専用の絶望顔、味方への攻撃が可能になる)…と地獄絵図になりました。セーフティ全開放、空腹なし、感染なし、毎日お風呂、最速救助エンドでしたがBAD一秒前でした。》

《着替えがなくお洗濯も出来ないので安全な地獄だったことでしょう。》

《ニーソしゃぶしゃぶのガーター添えタグで戦慄したので二度とやりません。》

 

《こほん、逸れてしまいましたね》

《今回事前のお願いにより、残るゾンビは全員美術室に居ます。奥の食堂で戦うのは移動の時間が無駄ですし、掃除の手間が大きいです、そして美術室は固定湧きの強アイテムがあるのですが、教室そのものの恩恵はそこまで大きくないです。後回しにしても大丈夫な場所ですので残り6体のゾンビを眠らせる場所にします。》

《特にいう事もありません、見つけ次第射撃。介錯です。》

 

《二階も解放されました。一階も解放、と行きたいのですが…全く同じ映像が続くので早送りです。》

 

――殲滅倍速垂れ流し――

 

《はい、一階の殲滅も完了しました。》

《現時刻は午前5:30です。この世界だと一時間は現実時間だと5分程度なのですがイベントが挟まったので進みが早くなっています。とりあえず介錯した遺体を挟間に格納しましょう。》

《前回、次元の挟間は三階の教室と言いましたが、実は各階にも挟間にアクセスできるポイントはあります。》

《なので一々輸送する必要はありません。一階は【1-A】の校庭側の壁の部分です。階段の裏辺りが挟間の穴なので、そこ目がけてジャンプしつつぶん投げます。曲線を描くことなくスポッと壁に消えれば成功です。たまーに壁から生えている状態になる時がありますが、落ち着いて再度読み込みましょう、床に落ちて再度挑戦できますので。》

《で、その作業を二階、三階と行いましょう。これにより校内はセーフティ化しましたが、一階の侵入経路を封鎖しない限りランダム湧きの街からの徘徊ゾンビが侵入してくる時があるので、一つトラップを設置します。》

《お世話になった方も多いと思いますが、【足元ワイヤー】です。》

《ワイヤーは他のアイテムとの兼ね合いでめぐねえカーに積み込んで無かったのですが、美術室で固定で置いてあるので問題ありません。ワイヤー自体使い道が限られるアイテムですが、単体でトラップに使える優秀アイテムです。》

《使い方は簡単。廊下や階段に設置するだけで自動的にゾンビを転ばせる事が出来る代物です》

《耐久も非常に高くまず破損しないので、設置したら放置で問題ありません。ゾンビ達は目の前に獲物を見つけるとまっすぐ進んで噛み付こうとします。》

《ですがワイヤーを仕掛けていれば、簡単にすっころび弱点の頭部を差し出してきます。なのでそこを攻撃すれば一撃で倒すことができます。確定でクリティカル判定になるのでメンタルダメージに気を付ければ初回以降の『雨の日』でも単騎突破可能です。》

《ですがこれを設置しても、ゾンビを処理しないと意味がないと思う方も多いと思いますが、それは問題ありません。ワイヤーなどのトラップでゾンビが倒れるとスタンが入り、その上完全に起き上がるまでかなりの時間がかかります。》

《そこへ追撃の一撃を加えれば、攻撃力もリーチも殆どない武器しか装備できないキャラ(序盤だと近距離と牽制用しか装備できないりーさん等)でも大勢のゾンビを相手取れるという訳です。》

 

《というわけで、この足元ワイヤーは中央階段の一階と二階の部分の踊り場に設置します。ここはバグポイントらしく、ここにワイヤーを設置すると登ってくるゾンビが上に上がらなくなります。基本的にゾンビは生存者の位置へ最短ルートで迫るので(雨の日を除く)他の階段を使う事はありません。》

《通常プレイだと万一、があるため二階の防火シャッターを下ろした方が確実です。ですが、現時点ですと蓄電バッテリーの残量が減る方が後々差し支えますのでこの足元ワイヤーで済ませます。》

《また、このゲームの恩情としてゾンビから奪還したエリアはちゃんと守らないといけませんが、一度に奪われるエリアは一つまでという事になっております。》

《つまり、学校を例にすれば現状一階まで解放という事になっています、ゾンビに侵入されると奪われるのは一階だけという事です。そしてこのゾンビ侵入~エリア喪失は一日経過して初めて判定されるものです。つまり、雨の日を除けば3階までゾンビが来るのは二日後、という事になります。》

《ゾンデレと言い、この仕様と言いやっぱり紳士的ですね。》

《では、踊り場にワイヤーをセットして手も綺麗に洗ったので屋上に戻りましょう。時刻は間も無く午前7時です、この時間になるとりーさんとくるみちゃんは起きる頃なのでベストタイミングです。》

《帰還は内側からドアを開けば普通に開くのでそのまま歩いていきます。締め出されるというのは存在しないのでプレイヤーキャラにとってセーフティー内からのバリケードは存在しないです。》

 

~~~

 

「さむっ…」

 

 ガサリ、という慣れない感触と寒さに胡桃はプルリと体を震わせて瞳を開けた。

瞼が半開きで焦点の定まらないぼやけた視界であるが、すぴー。と平和そうに眠る園芸部の、悠里と名乗った者とそれに抱き着く変な帽子をかぶっていた者。

 後者の姿は昨日、自分を止めたときの必死さはなく、甘える妹。という言葉を連想される柔和な雰囲気を漂わせていた。

 

「……」

 

 昨日の出来事を思い出し感傷的な気分になって、寝床から抜け出す。

音を立てないように温室の扉を開いて外に出る。

朝日が街を照らし一直線上の胡桃を照らし出す、外は相変わらず煙が上りどこか鉄さび臭い風が吹いていたが、両手を伸ばし、ストレッチをする要領で体を伸ばせばかなりの解放感を感じる事が出来た。

 いつもと違う寝床にガチガチに固まった様に感じる筋肉への心地よい刺激に一気に目が覚める。

 

「ふはぁ~……やっぱ、夢じゃないよなぁ。」

「残念なこと、なのだけどね。」

「!」

「おはようございます。恵飛須沢さん、良い朝ね。」

「びっくりしたぁ…おはよう、めぐ…佐倉先生。」

 

 横から突然話しかけられ、驚きに変な声が出かけてそれを誤魔化すように大げさな動きでそちらを見やる。

そこには夕食と同じく、お湯が沸いておりその中には真空パックに詰められたおかず。

横には加熱が完了した“ライスですよ”が人数分すでに並べられており、ご丁寧に水で冷やされた清涼飲料水もその横に控えていた。

 

「もうすぐ出来るから、みんなを起こして貰えるかしら?」

「あ…はい。」

「あ、そうだ。それと…これどうぞ、恵飛須沢さん。その格好だと不都合でしょう?」

 

 火加減を見ていた慈が鞄を開けばそこからは新品の制服が取り出される。

それを受け取り、そういえば昨日から陸上部のユニフォームのままだった事を思い出す。

 

そして、練習してそのままパンデミックに巻き込まれ汗を流すことも出来なかったのも思い出す。

あちゃー、と心の声がぼやく。昨日からの状況はそれ所ではなかったが、そこは年頃の乙女である。

 

恥ずかしい物は恥ずかしい。

 慈のどこか生温かい視線から逃れるように陰に隠れいそいそと着替えを行う。

 

(……下着も入ってるし、サイズもピッタリ。有難いけど…なんか釈然としない。)

 

ともあれ、清潔な物に着替えられてさっぱりした胡桃は改めて慈に礼を述べてお願いされた面々の起床を行いに行く。

 

「おーい、起きろー!朝ごはんが出来てるぞー!」

 

 気持ちよく寝入った様に見える悠里はパチリ、とすぐに目を覚まし彼女に引っ付いていた由紀も目を覚ます。

寝ぼけて悠里に“おかあさん”と言ってしまったのは、まだ意識のはっきりしない由紀を除く二人の秘密となった。

 

「まぁ、ともかく飯だ飯!」

 

 朝食は昨夜の夕食よりオカズと飲み物が増えたもので、まだ食欲は本調子ではないがそれなりに空腹だった四人の飢えを癒すことで束の間の安堵を提供する。

 

 日は上り徐々に気温が上がり、自動でなるように設定されたチャイムが鳴り響く。

時刻は8時、本来ならば一時限目である。

 

 

~~~

 

《はい、無事屋上へ帰還して全員に食事を提供します。》

《そしてくるみちゃんへ制服を贈呈を忘れないようにしましょう。運動部で練習後そのまま合流した上に先輩の件で大いに汗をかいていますので、ほっとくと地味にダメージになります。》

《なので早期に着替えを渡しておきましょう、まぁ100%クリア目標なのでどんどん着替えを貢ぐのでその第一弾という事です。》

《そして生存者全員のメンタル面、体力面ともに特に問題なさそうです。ステータス画面でも確認できますが寝起きですでに疲れた顔をしていたり、陰のあるような顔グラになっていたらよく眠れなかった等回復できてないという事なのでそのメンバーはちゃんと休ませるか、原因を取り除く必要があります。》

《めぐねえ編の場合は、他メンバー編と違って結構甘えてくるので次の拠点の生徒会室にあるホワイトボードに“お願い”という形で色々な依頼をされます。…ところで将軍》

 

《些細な無視しても大丈夫な物や、重要な物もごちゃごちゃに頼まれるので通常プレイの場合は残り物資と相談して要望を叶えてあげましょう》

《100%クリアにその全要望を叶えてあげるというのは入ってはいませんが、なるべく叶えていきます。お願いを叶えてあげればメンタルダメージの回復は勿論、有用なアイテムをプレゼントされたり学校の設備がグレードアップしたりと良いことづくめなのでやる価値あります。》

《また、メンタルダメージがない状態で回復すると精神値(メンタルダメージで減られされる数値)の最大値が向上しますのでちょっとやそっとではぐらつきもしない鋼鉄の精神になります。上限値は350で、基本値が120です。》

《依頼を叶えたり、良い物を貢いだりすると向上するのでどんどん貢ぎます。ご飯でも回復、最大値向上が出来るので美味しい食事を提供します。》

《今日の朝ご飯は白米、味付き焼鮭、味噌汁、アクリスウェット、です。清涼飲料水は運動部向けのエネルギーチャージできるなどと書かれたアイテムです。くるみちゃんはよく飲んでいた物らしいので喜んでくれました。かわいい。》

《食事が終わり次第歯ブラシもプレゼントして、その後は校内の掃除をお願いします。》

《すでに一階まで狩りつくしてあるので問題ありません、派手に水と電気を使うので防火シャッターに使用しませんでした。とりあえずは三階を水ジャバジャバしてモップやらブラシやらで壁と床を綺麗にしてもらいます。その間にめぐねえは校外へお出かけします。》

《侵入ゾンビに関しては一階の足物ワイヤーが足止めして、更に紳士設定でそもそも上がってこないので安心です。》

《それでも、各自に自営用の武器を提供しておきましょう。これをすると隠しステータスの不安値が減ります。》

《不安値が高くなるとメンタルダメージの入りが大きくなるので注意が必要です。》

《渡せる武器はキャラの筋力と装備適正で異なります。胡桃ちゃんは初期装備のシャベルがあるので問題ありません》

《りーさんと由紀ちゃんは掃除ロッカーに詰められているモップやらで大丈夫です。》

 

~~~

 

 屋上の水道から水が流れる。

食事を終え、歯磨きをする胡桃は銃の点検をしている慈を見ていた。

 集会などでみた時はなんともぽやーっとした人と印象を強く抱き、その後の自身の悩みの相談などを経てそこへ優しいが加わってその印象はより強くなるばかりであった。

 それこそ由紀のいう“めぐねえ”という呼び名がぴたりと収まる人柄の持ち主である。

 

 しかし、この事件でその印象はより強いインパクトにより上書きされてしまったように感じる。

瞳はキリッ、と鋭く、眉がそれを補強し精神的にも物理的にも大いに頼れる教師の風格が出始めている。

 そして何より、その手に身体に、その柔和な雰囲気とは明らかに不釣り合いの武骨な銃。

 

 よくハリウッド映画の西部劇系でみるような代物で、それを手足のように取り扱い当然のように複雑な機構を分解して今内部構造に問題がないかと確認をしているのだ。

 由紀の発言によれば趣味であの銃を撃っているらしく、昨日の銃声を思い返しても恐らく無駄な射撃はなく百発百中に近いことをやっているのだと簡単に想像できた。

 

 故に慈が外へ出て、物資や呼べれば救助を。と朝食の場で提案したとしても反対の意見は出なかった。

もちろん、胡桃が不安に感じるように悠里も由紀も不安を抱くが、昼までには帰りますからここをお願いね。とお願いされて、断れるはずも無く今に至る。

 

(そりゃ、助けが来てほしいけど…でもさ、めぐねえにもしもの事があったらと思うと…)

(………いや、まず大丈夫だろうけどさ)

 

 今、口内を磨く歯ブラシに歯磨き粉、腹に収まった食事。

そして現状着用している制服、その全ては昨日の時点では手元には存在していなかった代物である。

つまり、早起きをして校内から回収した事。そして、その銃で“かれら”を撃ったというのは明白な事であった。

そこの葛藤はどうなのだろうか?と想像しても、難しい所である。

気にしそうではあるが、状況を鑑みて割り切っているのかもしれないし、無理やり抑え込んでいるのかもしれない。

 

 慈を観察してみれば顔に鋭さは増しても、根本的な部分は変わってはいないようで話してみればちゃんと“めぐねえ”である。

由紀も遠巻きに様子をうかがう、という事はなく大丈夫なの、めぐねえ。と傍で話しかけており

 すぐ隣で食事に使った食器や鍋を洗っている悠里はと言えば、小さく鼻歌を歌う程度に機嫌も良いリラックスしている様子である。

じゃあ結局はどうなのか、と考えを巡らせても

 

(あーもう。……よくわからないや、でも。)

 

 水を口に含み吐き出す。さっぱりした口内を感じながらここで気に揉んでも結局は無事を祈るしか無いことに思い至る。

 この危機的な状況の中、あの“めぐねえ”がこんな風に活発に生き残りへの活路を切り開いているという事実。

ボタン一つのかけ違いで何もかもが壊れても何の不思議もない、この現実。

 

今の“佐倉先生”なら何とかできる。そんな根拠もないような安心感が胡桃の中に確信として存在していた。

 

~~~

 

《はい、温かい食事と仲間との適度な触れ合いで不安値の低減を行いました。こういう時に起こる不和は恐ろしいです。》

《武器も渡しました、そして昨日の食事と寝床で疲労度の回復も十分行ったので反対意見は出させません。》

《外を見れば街から登校してくるゾンビがチラホラ居ますが、全然少ないですね。日数が増えるともっと大勢湧きます。雨の日はさらにドンです。》

《ともあれ、食事も終わり武器の手入れも済んだので出発しましょう。》

《まずは装備弾薬の確認を行います、問題ないですね。弾薬数が心もとなくなったらめぐねえカーで補給が必要です、車からもなくなったら銃砲店か警察署で調達しましょう。》

《専用弾というものは存在せず、ハンドガン系、マシンガン系、ライフル系の三種類で銃の種別で振り分けられており共通なのです。》

《めぐねえの銃は一見ライフルっぽいですが、消費するのはハンドガン系の弾です。威力は三種類の中で一番低いですが一番入手が容易いのでありがたいですね。》

《ではまずは車を入手しに警察署へ向かいましょう。買い物と物資調達、みーくんと圭ちゃんコンビの回収を行うので初期のめぐねえカーでは狭いので大型の頑丈な車を入手します。》

《警察署は歩いていくには遠いですし、街中にあるのでゾンビはとても多いですので車必須ですね。》

《それでは立ち位置を調整して…ハイ出発します。》

 

~~~

 

「それじゃ、ここの保持と三階の清掃。お願いするわね。」

 

 慈は極めて落ち着き払い、慈愛の微笑みすら浮かべながらそうお願いをした。

ただし、その体は落下防止の柵の向こう側に置かれており手には薄い板と銃が握られている。

 そんな光景を目の当たりにした三人の瞳が驚愕に見開かれる、これでは飛び降り自殺ではないか。

 

真っ先に胡桃が驚愕を振り払い、慈を止めるべく駆け出して手を伸ばす。

 

「いってきます。」

 

 しかし、それはあと一歩間に合わなかった。

持っていた板がフワリと宙へ舞い、その後の慈の体が追いかける。

 

「めぐねえええぇぇっ!」

 

 胡桃の絶叫が“かれら”を引き寄せる程の声量で叫ばれる、やはり無理をしていたのかと苦悶の表情を浮かべ―――。

 

 トン、と板の上に慈の体が乗る、そしてその板を瞬間的に持ち上げてさらにその上に乗る。

そんなあり得ない光景に呆気にとられることとなる。

 

「へ…?」

 

 間抜けな声が思わず漏れる。

地面に叩きつられる筈が、板を使い空中に飛び上がったのだ。

しかも、物凄い勢いで飛び上がりもう姿は豆粒のようにしか見えないのだ。

 

「………」

「………」

「………」

 

 流石の由紀も、この光景には絶句してしまう。

勉学は苦手であっても、物理法則を無視して飛行する“めぐねえ”という存在に脳が警報を全身に響き鳴らす。

今朝、そんな夢を見た気がする。というのを加味してもこの光景はあまりにも現実離れしているのだ。

 

 風が吹き、三人の髪を揺らす。

 

力なく呟かれた胡桃の「掃除しようか」に二人も賛同し、校内掃除を開始することになる。

ビオトープ清掃用に置いてあるのか高圧洗浄機と掃除のための道具を持ち、三階の血を洗い流していく。

だが、若干やつれた様な胡桃がポツリとつぶやく、勿論話題は先ほどの事である。

 

「人間って飛べるんだな。知らなかったよ」

 

 それを聞き普段ならばそんなわけないでしょう。と訂正を入れる悠里であったが、実際にあんな光景を見た後では言葉を飲み込むしかなく

 

「…そうね。私も知らなかったわ」

 

シャコシャコというデッキブラシの音と、噴出される高圧水の音の中力のない声が発せられ、汚れと共に流されていった。

二度としないで欲しいな、と綺麗になった床や壁をワイパーで水を階段に押し流しながら由紀は強く思った。

 

~~~

 

《はい、ミークンです。》

《この飛行技は落下のエネルギーを板で受け止め、それを持ち上げ前進の為に変換すると空を飛べます。》

《簡単に言えば右足が落ちる前に左足を上げる、その左足が落ちる前に右足を…という事です。》

《板は朝回収しましたが、屋上の寝床にした倉庫にも同じようなものがあるので転用可能です、車よりも早く歩くより安全に移動できるので大幅な時間短縮になります。》

《着地は板を拾うタイミングを遅らせればゆっくり着陸できるので問題ありません、ただ【おさきにさようなら】の処理挟まるのでメンタルダメージが入ってしまいますが、ここまでで十分回復できていれば特に問題はないので大丈夫です。》

《それでは、長くなりましたので一旦ここまで。次回は二日目後半を予定しております。》

《それではみなさま、ご視聴ありがとうございました。》

 

~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこはリバーシティ・トロンショッピングモールと看板が出された大型ショッピングモール最上階の一室である。

事件発生してより、そこへ逃げ込んだ二人の少女がなんとか二日目を迎えていた。

 しかし、その朝目を覚ませば親友の様子に違和感を覚える。

巡ヶ丘学院高校の制服を着用し、入り口に立つその背格好から考えれば間違いなく親友であるはずであった。

それを確認するために、直樹美紀は親友。祠堂圭の背中に声をかけた。

 

「…圭…、圭だよね?どうしたの…?」

 

 僅かに震えるのは寝起きだからだけではない、困惑と混乱により精神が乱されているからだ。と自己診断を行い気持ちを落ち着けようとする。

 しかし、声をかけられた圭の方は振り向きもせず背を向けたまま言葉を紡ぐ。

 

「ねえ、美紀。ただ生きていればそれでいいの?」

「……え?」

 

 それは美紀を突き放した響きを伴って、耳に届いた。

生きていればそれいいのか?――それは昨日数え切れないほどの“死”を見た美紀、そして圭にとってもそうである筈の考えるまでのない事であった。

 死んだら終わり、だが生きていればいいのか?それは到底哲学書を紐解いても明瞭な答えを出せるか美紀は判断が付かない事である。

 だから、困惑に染まったまま聞き返すしかできなかった。

 

「生きる為の努力、だよ。」

 

 そして返された言葉は――辛辣であった。

昨日、命からがらでこの部屋に逃げ込んで。箱でバリケードを作り、追いかけてきた既に人ならざる者の呻きとドアを破ろうとする凄まじい力。

 目の前の背を向ける親友とて、十分に味わったはずの事象は生きる為の努力ではない、というのだ。

 

何言ってるの。という糾弾の言葉は振り返った圭の姿にかき消される。

 

「だからさ、私。武器を探して来るね。」

 

 あれは、何だろうか。

首から下はよく見慣れた圭の姿である、声も若干くぐもっているが聞きなれた声である。

しかし、その頭部をすっぽりと覆う用途は恐らく溶接用のヘルメット型の防面。

なぜか、本来なら目線の位置に遮光ガラスがはめ込まれた覗き穴があるだけのはずなのに今、圭が装着しているのは何の冗談か『圭』という形状になっているのだ。

 

「………」

 

 自分は臆病で慎重派、圭は勇敢な活動派と美紀は判断していた。

であるが、こんな珍妙な防護面を装着する様な人間だっただろうか。

もしかしてこれは夢じゃないのだろうか?

 

「あ…」

「あ?」

「あ、はは、はははは。」

「美紀?」

「おやすみ」

 

 そうと決まれば現実逃避である。

数分もせず寝息を立て始める美紀に、圭は防面を開いて腕を組んでありゃー…とぼやく。

これではアレを見せなくて正解だったなぁ、と内心で呟きそれをみる。

 

今装着しているのが『圭』ならば、それは『美』という形状の代物である。どこの誰が用意したのかは不明であるがここに来ることを予期されていたようにも思える。

 兎も角、先ほどのあの親友の様子では窓から投げ捨てる可能性大、と判断して圭は『圭』の防面を脱いで『美』のそれと共に元あった箱にしまい込む。

 

 ぷはっ、と熱い息を吐き出し軽く汗を拭きソファに腰かけ、ひじ掛けに肩肘をつきその上に顎を乗せつつ現実逃避した親友の背中を半目で眺める。

 

「でもさ、いつかは限界が来るよね。その時、どうするの?美紀」

 

問いかけた言葉に返るのは寝息だけであった。




全員の距離感が掴めないです、めぐねえが珍妙すぎるので三人は仲良くなるの早いでしょうね
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