「あ、イックンおはようっ」
「あ・・・・・おお」
旅行二日目。
一体どうなってやがんだ?昨日は何をトチ狂ったかいきなりキレだして、かと思えば急に大人しくなって。まぁ、アイツなりに思うとこもあんだろうけどな。
「・・・・・・・・証明しろ・・・・・・・か・・・・」
「ん?またいつもの独り言?」
「うっせぇ・・・・」
・・・・ったく何だってんだ。昨日までの暗い表情はどこいったんだよ。
「あのさぁ?」
「何だ」
「その・・・・・昨日さ・・・・」
昨日・・・・・・ね・・・・・。お前は一体どういう気持ちであんなことを言ったんだ?俺がもしお前に証明してみせたら、どうしてたんだ?
「ごめんね・・・・急にあんなこと言っちゃってさ・・・・・」
『あんな』ってくくりで収めんのかよ。テメェにはそんなもんなのか?
「ちょっと口走ったっていうかさ・・・・」
何で俺はこんなにイラついてんだろうな・・・・わけわかんねぇ・・・・。
「けど、もう大丈夫だから―――」
「おい」
「え?」
なぁ、俺がもしお前に今告ったら・・・・・お前・・・・・どうする?
「俺がもし・・・・・」
っつっても、それは仮の話だけどな。美玖のことは嫌いじゃねぇ。幼馴染だから嫌いなわけがねぇ。
でもそれは異性としてどうかと聞かれりゃ・・・・・わからねぇんだ。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・?」
「いや、お前そういや夜弥姉がどうとか言ってなかったか?」
牽制球。
何がしてぇんだろうな・・・・・・・俺は・・・・・・。
「あ・・・・・・・・」
ん?何で今、目逸らしたんだ?別にやましいこともねぇだろ。
「んだよ・・・・?」
「いや・・・・・・・私・・・そんなこと言ったっけ・・・・?」
「言っただろ?夜弥姉はどうなんだ、ってさ?」
「・・・・・・・・・・言ってないよ」
ったく何なんだ?これじゃイタチごっこじゃねぇか・・・・・面倒くせぇんだよ。
「なぁ・・・・・テメェが何してぇのかわかんねぇけどさ」
「・・・・・・・・・」
「嘘はやめろよ」
「・・・・・嘘・・・・・ついてないよ?」
見え見えの嘘だよな。テメェはポーカーフェイスが苦手だろうが。
「んだよ、姉貴がどうしたんだ・・・・?」
姉貴に抱かれたのか?百合に目覚めさせられたのか?・・・・・やりかねねぇから困ったもんだよなぁ、アイツ美玖の事好きだっつってたし。どういう意味でかは知らねぇけど。
「・・・・何でも・・・・・ないよ」
「メンドくせぇな・・・・・・そんな言えねぇことかよ?」
「だから・・・・何でも・・・・・」
「あのなぁ、俺はもうシスコンじゃねぇんだ。それはもう言ったよな?」
「・・・・・・うん」
「ってことは、姉貴が誰を好きでも、誰と付き合っても、誰と結婚しようと構わねぇんだ。それが普通なんだけどな?」
まぁ俺は姉貴が嫌いだからどうでもいいんだけど。
「だから、言えよ。有給とりまくって家でぐうたらしてる姉貴がどうした?」
「あ・・・あの、ね」
「勿体つけんなよ・・・・、どういう結末でもテメェを軽蔑したりしねぇぞ?
何年幼馴染やってると思ってんだ?」
「・・・・・・・・」
そんな言いずれぇことなのか?ここまでくると逆に期待しちまうな。
「えっと・・・・実は夜弥姉がね・・・・?」
実は美玖と出来てたりしてな・・・・・有り得ねぇかもしれねぇけど。でも、一度同性同士の味を覚えちまうとやめられねぇって聞いたことあるしな。
ってことは姉貴は・・・・・・・・・・・いや、やめとこ。
「イックンと仲直りがしたいって・・・・・言ってた」
「・・・・・・・・・・・・・は?」
「だから・・・・仲直りしたいって」
姉貴が?俺と?仲直り?
「いや、仲直りもなにも、別に喧嘩別れしたわけじゃねぇだろ?」
「わかんないけど・・・・仲直りがしたいって・・・・」
そりゃまぁ俺は姉貴が嫌いだったけど、大喧嘩して嫌いになったわけじゃ・・・・。
「それを何で・・・・テメェが知ってんだ?」
「ここに来る前に話してたの、イックンのこと」
俺のこと?いや、この際何も言うまい。
「そうしたら夜弥姉が突然、井久には悪いことしたって言い出して」
「あぁ・・・わかった。取り敢えず姉貴が俺に言いたいことがあるんだな?」
「うん・・・・」
後で電話して聞いてみるか。ちゃんと話してくれるかわからねぇけど。
「多分、寂しかったんじゃないかな?」
「あん?寂しいって・・・・」
「だって中学も高校も行かずに就職して、ずっと家族と会えなかったんだよ?
そして帰ってきた時には弟に忘れられてて・・・・・・・。思い出したのは悪い記憶だけで・・・・・・。
私だったら耐えられないよ」
くそっ・・・・・冷静に考えなくても理解できちまう。それであの態度ってわけかよ・・・・・・悪い記憶なら思い出しやすいってか?・・・・ふざけんな。
「イックン・・・・?」
「あ~~あ、ホームシックになっちまったじゃねぇか!くそったれ!」
「・・・・・・イックン」
ったく、やることが増えちまった。
雪の降る季節。意外ともとれる真実を耳にした男は心に決める。
気味悪がられるかもしれない。はぐらかされ相手にされないかもしれない。また意味のわからない漫画の真似をして話を逸らされるかもしれない。
しかし、それでも安心させてやりたい。胸の支えをとってやりたい。
親切心とも、姉思いのシスコンとも、良心とも取れるような――――――
そんな気持ちが積もっていった。
「美玖、姉貴の番号知ってるか?」
「知ってるけど・・・・どうして?」
「バーカ、決まってんだろ?」
「あのぐうたらな姉に、俺の番号を教えてやるんだよ。
弟の連絡先をよ」
『・・・・・・もしもし』
「よう、ぐうたら野郎」
『井久・・・?何で番号知ってんの?』
「美玖からな。んなことはどうでもいい、まだ家にいるのか?」
『いるけど?まだ有給休暇中だしぃ』
「呑気なもんだな・・・・・・。そうだ、何か土産買ってこうと思ってんだけどよ、母さん達と何がいいか相談しといてくれねぇか?」
『ふ~ん、気が利くじゃん。そんな弟を持って私ァ幸せだよぉ』
「婆さんかよ!まぁ決まったら連絡くれよ、期限は明日までだからな」
『え、ちょ!美玖ちゃんに電話すればいいわけ?』
「何馬鹿なこと言ってんだ?」
『だって、どうやって伝えれば――――――』
「美玖に番号教えてもらったっつったろ?
登録しとけよ、俺の番号」
『あ・・・・・うん・・・・』
「俺も登録しとくぜ、夜弥姉?」
『・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・」
『俺が時を止めた』
「ここまで来てボケるのかよ・・・・・」