ワタクシには実兄がいます。
血の分けた本物の兄。性格はあまり似てはいませんが顔は少し似ているとよく言われます。
歳は二十六。就職はしていませんが、毎日夜の仕事をしています。朝帰りになることがほとんどで、会えるのはワタクシが学校から帰った夕方のみ。時々休みの日があるのですが、そんな日も彼女と思われる女性とどこかへ出かけて行きます。
毎日家に一人きりで、寂しさもありますが、我が儘は言ってられません。ワタクシたちには両親がいないのですから。
死因は事故死。
両親ともに仲がよく。時折二人だけで出かけることがあったのです。仲睦まじいのは娘としても嬉しいし、いつも喧嘩しているよりは幾分マシだと思います。
でも、死ぬ時まで一緒じゃなくても良かったのに――――――。
ワタクシが十一歳の時に両親が亡くなり、当時高校生だった兄は「家計のためだ」といって学校を中退しました。
罪悪感からワタクシも働こう、と言い出したとき、兄に説教と体罰を受けました。
「お前は立派に就職しろ」
その一言を小学生の時に聞いて以来、兄からの言葉はなくなりました。
ある日――――――。
学校から帰宅したワタクシは、家に電気が点いてることに驚きました。
兄がいるのです。
「ただいま、お兄ちゃん」
今日は休みなんでしょうか。いつもなら仕事の服を着ているのに、今日は私服を着て居間で携帯をいじっていました。
「・・・・・・チッ・・・・あのクソ女・・・・」
「今日は仕事は休みなんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・チッ」
最近舌打ちが多いのは、きっと仕事が忙しいからだと思います。疲れがたまっていて気が立っているんだと思います。
「あ~もしもし?今日空いてる?
・・・・え?空いてない?」
夜の仕事をしているといろんな女性と縁があるんでしょう。
「そっか・・・ごめんごめん、じゃあまた今度誘うわ
・・ん・・・・じゃあね。
・・・・・・・・チッ・・・・」
「ご飯食べますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無反応。ということはいらないんでしょう。今日も一人分。作る分には問題ないんですが、寂しさにももう慣れてきた自分に少しだけ嫌悪感。
「おい」
「ふぇっ!?な、なんでしょうっ・・・・?」
久しぶりの声。久しぶりの会話。お恥ずかしながら舞い上がってしまいました。落ち着いて落ち着いて。
「金持ってるか?」
「え・・・・お、お金?」
確かに持ってはいます。寂しさが溢れそうなときには近所にいる親戚の家に行くことがあるので、そこでお小遣いと言われお金をもらっていました。
正直、それ目当てで来ていると思われるのは嫌だったので最近では行くことはなくなりました。
「持ってんだろ!?」
「・・・・・っ・・・・!!
は、はい・・・・」
「だったらさっさとよこせ!!!」
リモコン。ライター。ワタクシの方に向かって飛んでくるもの。今日はストレスが溜まっているのかもしれません。早く渡そう。次に何が飛んでくるかわかりませんし。
「・・・・・え・・っと・・・・・・はい」
「それごとよこせっ!!」
「あ・・・・・」
「・・・・・チッ・・・・こんなもんかよ・・・・・・・・・・チッ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おい、バイトしてんのか?」
「して・・・ません」
「・・・・・・チッ・・・・・誰が養ってやってると思ってんだ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「誰が養ってやってると思ってんだっ!!」
「・・・・・・っ・・・・!!」
兄の手の平が、ワタクシの頬に当たり弾けるような音をたてる。いつものことでした。ですが、今日はいつもより強かったのでかなりストレスが溜まっているようです。
「つーか、お前いつまでここにいる気だ?
高校通うのにどれだけ金がかかると思ってんだ?
食費を稼ぐだけでもどれだけかかると思ってんだ!!?」
「・・・・・っ・・・!!」
「あと二年かよ・・・・・俺はあと二年、こいつの負担を背負うのかよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いいか、留年すんなよ。
その分苦労すんのはテメェだからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
兄はワタクシの財布の中身を全て抜き取りはしなかったものの、お札一枚を取り家を出ていきました。何か用事があったのでしょう。
食事の支度を始め、今日も一人の時間を過ごしました。