後日談。【清水晴臣】
あの後の荒峰井久は、静かだった。
いつも賑やかなわけではないのだが、どこか、抜け殻のような、心ここに在らずな状態だった。
友人としては、なんとかしてやりたい気持ちがあった。だが、何と言って声をかければいいのか分からなかった。
教室へ入るなり、机に突っ伏し、そんなはずもない睡眠をする日々。
一方、更科美玖は、教室へ入るなり、授業開始一分前になるまで席を外していた。そして、戻って来る時にはクラスの男子と楽しげに談笑しながら戻ってくる。
その光景を、きっと一人の生徒だけが見ているのだろう。
まるで子供のような当て付け。
オレには、どちらもそう思えて仕方が無い。早く仲直りしてしまえばいいものを、妙な意地と、見栄が邪魔しているのだろう。
オレは、痺れを切らすように問題の彼の元へと向かった。
「おはよう井久、寝不足か?」
「・・・・・・」
「新しいゲームでも見つけたのか?」
「・・・・・・・」
「だったら、なぜ要領良くやらないんだ?」
「・・・・・・」
「オレはいつも聞いていただろう?それでいいのか、と」
「・・・・・いいんだよ」
「だが、現に今、井久は辛いだろ?突っ伏しているくらいだからな」
「・・・・リア充は黙ってろよ・・・」
「そういうやり方で自分は満足するかもしれないが、そのせいで傷付く者が居ることくらい分かっていただろう?」
「・・・・・」
「程々にするということを」
「・・・・・」
「井久・・・・?」
「・・・・」
「・・・・・」
後日談【荒峰井久】
その後の俺たちは、会話を交わさず、目も合わさなくなり、いつしか、連絡すら取らなくなって、疎遠となった。
学校も卒業し、ごく普通の企業へと就職し、平和に暮らしている。不自由なことといえば、ゲームをする余裕がなくなったことぐらいだ。
そんな時、俺宛に一通のハガキが届いた。
『結婚式への御招待』
宛名は見なかった。
式場の場所は確認した。
行こうか行くまいか、当日まで考えた。だが、俺の足は式場へと真っしぐらだった。
「何だって俺が・・・・」
スーツを着て、受付を済まし、落ち着かない雰囲気に負けるように、俺は式場の外で時間を潰していた。
式が終わったのか、お色直しの最中なのか、両親と思しき人達が外に出てきた。
「あら、井久君じゃない?随分と大きくなって~」
「ども・・・」
「見た、娘の晴れ姿?綺麗だったわねぇ」
「そうっすね」
嘘だ。
俺は受付以降、外で時間を潰してたんだ。誰の晴れ姿なのかさえわからないんだ。いや、分かっているのに、分からないふりをしているだけだ。
「井久君は仕事何してるの?」
「まぁ、しがない中小企業っすよ・・・」
「そう・・・体には気を付けてね?」
「そちらこそ、無理しないでくださいよ?」
「それじゃあね?」
去って行く母親の背中は、楽しげで、悲しげで、でもそれは悪くないと思っているような感じがした。
「井久、こんなところにいたのか?」
「んだよ・・・リア王?」
いつもの爽やかスマイルが苦しそうな表情になってんぞ。
「新婚の二人がもうすぐ出てくるぞ?
記念写真でも撮らないか?」
「お前撮って来てくれよ・・・ちっと呑みすぎたみたいだしな・・・」
「大丈夫か?なんなら水をもらって――――」
「―――いらねぇよ。
つか、写真撮るんだろ?さっさと行けよ」
「う、うむ。何かあれば連絡してくれ」
やっと行きやがった。
・・・ったく、人の心配より自分の心配をしろってんだ。もうすぐ三十路だってんのに、まだ片思いし続けるつもりだ。見せつけられる気持ちを考えろっての。
「井久しゃーん!どっこれーすかーー??」
「げっ!!」
まずい奴が現れやがった。
ひとまずその辺の茂みにでも隠れよう。
「まーだーワタクシの話が終わってらいですよ~~」
完全に呑まれてやがんな。
・・・誰か何とかしてやれよ。
「ヒック・・・うぃ~・・・どこれすか~」
ったく、酒は呑むなっつったのに、酒癖悪りいからみんな気をつけろよ?延々長話聞かされっぞ?
「・・・・・」
行ったか。
そういや、まだ説明してなかったな。
俺と晴臣は同じ会社に勤めている。エレーナと一緒じゃねえとこに疑問はあったが、まぁいいか。
んでもって、エレーナと明美は同じ会社でOLをやっているらしい。
まぁ、思い出したくもねぇが、俺が高校を卒業した時、明美の奴が突然、告白してきやがった。
もちろん断ったが、あいつも中々強情で、
「井久さんが好きになってくれるまで、ワタクシはそばを離れません!」
何て事を言いやがって、今、俺のワンルームの部屋に居座ってる。
同棲とも言えなくもないが、俺たちは好き合ってるわけじゃねぇから、それはねぇよ。
「・・・・・来てたんだ」
「・・・・・っ」
んだよ・・・今日は厄日だな。
よりにもよって、一番会いたくねえ奴と出くわしちまった。
「招待されたんだ・・・晴臣に」
「・・・そう・・・」
本当はそうじゃない。
招待状が来て、こうなると分かってて、俺の気持ちがどうなるか分かってて、それでも来たんだ。
「・・・・」
「悪いな・・・」
「え・・・?」
「お祝儀袋、あんま入れてねぇ・・・」
「いいよ・・・・別にさ・・・」
「悪いな・・・・ケーキ入刀、見てねぇや」
「うん・・・」
「悪りぃ・・・お前の晴れ姿、見れなくて・・・」
「ん・・・・うん・・・」
・・・ったく、何に詫び入れてんだか。
「・・・・」
「こっちこそ・・・ごめんね」
「・・・・」
「すぐに、・・・会いにいけなくて」
「テメェにはこれから夫になる奴がいんだろうが・・・」
「そ・・・だね・・・」
夫・・・ね。
どこで出会ったんだろうな。
まぁ、美玖はモテないわけじゃねぇからな。どっかで引っ掛けて来たんだろうぜ。
「よかったじゃねえか・・・」
「うん・・・・」
「幸せにしてもらえよ・・・?」
「・・・うん」
「俺、帰るから・・・晴臣によろしく言っといてくれ」
「わかった・・・」
「あ、そうそう」
「・・・?」
「・・・じゃあな」
「・・・バイバイ」
綺麗だな・・・そのウエディングドレス姿。
――――似合ってるぜ?
――――あの時はごめんな・・・。
――――全部俺が悪かった。
「なんで・・・言えなかったんだろうな」
更科美玖の門出を祝う式。
親族一同がごった返し、友人、知人、関係者共々総祝い。
あっちで騒ぎ、こっちで謳い。
涙なくして送り出す事なかれ。
これは、俺が晴臣に言い返すことができなかった世界。
美玖と――――仲直りができなかった世界のお話。
更科美玖BAD END