もう一度、飛び上がった空で   作:zwart

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何年も投稿してなかったので、リハビリです。


第一話

静かな目覚めだった。彼は木製の使い古されたベットから身を起こし、視線を横にやった。そこには一冊の本がベッドサイドに置かれていた。本は閉じられているが、しおりが挟まれていて読みかけであることがわかる。

 

「そうか、途中で寝てしまったのか・・・」

 

身支度を整え、朝食を用意した彼はサンドイッチをかじりながら今日の予定を思い出そうとする。が、そもそも予定などなかったことにすぐに気が付いた。彼が生業とする機械修理の仕事も、先日に受けた依頼はすべて終わらせてしまっているし、部品等の調達の必要もない。ならばちょうどいいと、彼は読みかけの本を読み、その後は仕事の依頼がない限りは趣味の時間に充てることにした。手早く朝食をかたづけると、代わりとばかりに紅茶の用意をして、本を手に外に出た。彼の家には正面に小さなウッドデッキが備えられており、どうやらそこで紅茶を片手に読書の時間を過ごすことに決めたようだ。確かに、今日はよく晴れたいい天気である。

彼が読む本は古い童話だった。いや、そもそも紙の本というものも段々と減ってきている時代だが、彼の小さな家は工具のある部屋の他は本であふれかえっているのでそんな時代情勢は伺えない。

やがて、小さな村の薬師の女性の一生を描いた本を読み終えた彼はそれを静かに閉じ、飲み終えた紅茶の茶器を片手に、本を書庫に戻すべく室内に戻った。

 

「さて、と」

 

彼は今、自分の家の裏にある倉庫に来ていた。全身ベルトだらけの恰好は、いわゆる対Gスーツというやつだ。航空機が著しく発展し、今や単独で成層圏を突破することが当たり前になっている世の中だが、彼の持ち物のそれは古風な対Gスーツが必要なのだ。もっとも、彼が特別骨董趣味というわけではない。本や家に関しては確かにその趣味とも言えなくもないが、それは、その漆黒の翼に限って言えば古い、というのではなく進化の方向が異なっているというのが正しいのだろう。端的に言えば異質なのだ。彼はその扱いにくい機体を割と気に入っている。じゃじゃ馬というならば、かつての乗機なぞいったい何人のパイロットを殺したことか。

 

「APU、スタート」

 

機体に電源が入り、微振動と共に二機のラムエアジェットが回転を始める。自動で機体の状態チェックが開始され、手動のスティック、ラダーの動作確認も並行して行われる。人間の限界の機動性を発揮するためにリクライニングされたシートに備えられたサイドスティックは感圧型で、殆ど手を動かす必要がない。燃料も十分。

 

「さて、散歩にいくか」

 

スロットルが押し込まれ、機体が滑走路に出る。

FFR-41 メイヴ

大気圏最高の運動性を持った機体が今、アルフヘイムの空に飛び立った。

 

『アルフヘイム首都においてヴァールシンドローム発生。規模大きい。新統合軍も一部暴走中』

 

超音速で雲の上を飛んでいた彼は、広域通信でその事件を知る。

 

 

 

そして、FFR-41が公衆の目にさらされたのは惑星アルフヘイムでヴァールが出現した時のことだたった。市民はおろかバトロイドなどに搭乗した新統合軍兵士達まで暴れだし、都市は壊滅状態だった。ワルキューレ及びデルタ小隊が強行ライブを敢行し、事態の収拾が予想される中、10機程の未確認機体が現れワルキューレを攻撃。Δ小隊四機が迎撃にあたるが数的不利によりついに三機の不明機がワルキューレに肉薄する。

 

「まずい!」

 

VFのウェポンベイが開き、ミサイルの弾頭が姿を現した時、レイナ達の目の前でそのVFが爆散した。

 

「え・・・?」

 

明らかにデルタ小隊の誰も間に合わないタイミングだった。だというのに残りの二機もたて続けに撃墜されていく。三機目が爆散する頃、ワルキューレの面々はようやくそれが彼方から飛来するミサイルの仕業だと理解した。

 

『なんだ!?どこのどいつだ』

 

機械に精通するマキナはそのミサイルを静止画で捉えた映像から時代錯誤も甚だしい円錐型の先端を持つ細長いミサイルだと判断した。

 

『チッ。今は敵対しないのなら放っておけ。―――デルタ3、後方に注意(チェックシックス)!』

 

『ウオッ!?』

 

そしてワルキューレの頭上を超高速で黒い影が飛び、常識外の速度で戦闘空域に突入。Δ小隊の連携を崩さないタイミングでデルタ4を狙っていた無人戦闘機と思われるマシンをガンで撃破した。そして旋回。主翼を回転させ後進翼から前進翼に変形。鋭角的な軌道で不明機の背後につく。あっという間にデルタ4に追いすがる敵機を引きはがし、食らいついてしまった。

 

『どこの誰か知らないが、やるな』

 

機銃でミサイルや子機らしきものを堕としながら隊長のアラドはこちらを味方しているらしい不明機の動きを観察した。よく見れば珍しい継続照射型のレーザー機銃で撃ち込まれたミサイルを迎撃している。―――いや、あんな機体はそもそもあっただろうか。たくみに戦闘機動を繰り出してガンもミサイルも全て躱し、デルタ3や4を射線に捉えようとする機体をけん制しつづけている。それもデルタ小隊の機体には一切邪魔にならないように。慎重な位置取り、大胆な空戦起動。そして正確な攻撃。まただ。バトロイドやガウォークに変形することなく、ファイター状態で機首を敵機にむけ、被弾させている。

やがて不明機が編隊を組んで離脱すると、アラドは残った不明機に全周波数の通信で呼びかけた。

 

「不明機に告ぐ。ただちに武装解除して停止せよ。要求が認められない場合、実力をもって対処させてもらう。繰り返す―――」

 

警告し、インターセプトしつつアラドはその機体を観察した。黒い小柄な機体。キャノピーに人影が見えたので有人機で間違いない。今は前進翼だが、最初は確かに後進翼だった。そして垂直尾翼はなく、面積の広い尾翼がこまかに動いている。あれが尾翼の代わりになっているのか。

不明機は背後のアラド機に見えるようにバンクを振った後、上昇。まさか友軍と安心させた隙に攻撃するつもりかと息を飲むデルタ小隊の前でその機体は機体を垂直に立てて減速―――コブラをこなし、木の葉の落ちるような急降下。地面に激突するかというタイミングで水平位置と揚力を取り戻しそのままワルキューレが陣取る位置にほど近い広場に近づいてフワリと着陸した。ファイター形態のまま綺麗に超単距離着陸をきめる腕に驚く面々だが、コクピットブロックごと機体からせり出してからキャノピーが開いたのでさらに唖然とする。だが、そこから降りて来た男がヘルメットを脱ぎながら言い放った言葉で彼らは今度こそ完全に言葉を失った。

 

「済まない、この機体はガウォークやバトロイドに変形できないので着陸させてもらった。―――おーい、なんか言ってくれよ」

 

ガウォーク形態のジークフリートが不明機の回りに着地して警戒する中、隊長のアラドは機体を降りて例の不明機のパイロットの聴取を始めた。

 

「俺はケイオスラグナ支部、デルタ小隊隊長のアラドだ」

 

「ヒュー・アンソニー・ディスワードだ」

 

くすんだ金髪の男はジークフリート四機に囲まれた状態でも飄々とした態度で答える。さすがにあれだけの空戦をこなすだけはあると感心した。

 

「ではディスワード。お前が戦闘に介入した理由を聞かせてくれないか」

 

「ここでヴァールシンドロームが発生したのを聞いて、ニュース映像でバトロイドやデストロイドが暴れているのを見た。その状況の鎮静化に少しでも役にたてないかと思ってコイツを飛ばしたんだが―――そこでワルキューレが攻撃されるのを確認してね」

 

「なるほど?じゃあその機体は?」

 

「FFR-41メイヴ。戦闘機だ。何かの実験機だったんだろうけれど実家にあってね」

 

「・・・まあ、分かった。突っ込みどころはあるがそれは置いておく。詳しい話は|うちの艦≪アイテール≫で聞く。その機体ともどもついてきてくれるか?」

 

「あー、悪いが無理だ」

 

「なに?」

 

「言っただろう?メイヴはただの戦闘機だ。大気がなければ推力を生み出せないから大気圏突破なんて無理だ。ついでに燃料もあぶない。核セルを搭載してないからね」

 

「・・・あれだけの機動性があるのにか」

 

「なんならエンジンを解析するか?なかなか古風で面白いけれど」

 

「はあ、わかった。アイテールに大気圏まで降りてきてもらう」

 

「そうしてくれるとそちらの要望に応えられる」

 

 

 

かくしてヒュー・アンソニー・ディスワードはワルキューレの乗る船に同乗することになった。メイヴは整備士やマキナによって解析が開始されたが、こと機体構造に限って言えばたった一回のスキャンで済んでしまった。

ワルキューレとデルタ小隊が集まったデブリーフィングでディスワード―――今は割り当てられた部屋で寝ている―――とその機体について報告される。担当はマキナとレイナだ。

 

「システム周りの調査はまだですが、結論から言うとあれは本当にただの飛行機でした」

 

「馬鹿な、VFの戦闘に介入できる戦闘機なんて」

 

「私もそう思うけど、でも本当なの。あの機体はターボファン式のエンジンを二基搭載しているけれど、バトロイドやガウォークに変形しないし、それどころかフォールド関係の機材が全くない」

 

「特徴的なのは外見だけ。中身は骨董品もいいところ。もはやアンプと同レベル」

 

信じられないという顔でミラージュが大画面に表示された機体データを見つめる。とてもVFとは似ても似つかないシンプルな構造だった。

 

「ただし、執拗なまでに空力特性に特化してるのよね、もちろん、VFだって戦闘機としてそういうところはしっかり計算されているんだけれど・・・あれはもう美術品の域ね」

 

「そういえば、戦闘中も翼以外は変形していませんでした」

 

「うえ、メッサーお前あの乱戦で他を見る余裕あったのかよ」

 

チャックがげんなりする。メッサーのデブリーフィングはいつも厳しい。今回ばかりは乱戦だったので後で書面で渡されるだろうと思っていたのだが、甘かった。

 

「既に全員分の解析データを作成済みだ」

 

「まじかよぉ」

 

「で、カナメさん。彼の経歴については何かわかりましたか」

 

「はい。行政府に問い合わせたら簡単に公開されました。両親は移民船団で球状星団まで来てそこからアルフヘイムに移住し生活。ディスワードさんはアルフヘイムで生まれたようで、その後も同惑星の高等学校まで学業を重ね、今は田舎に移り機械修理の仕事で生計をたてているようです。もっとも、かなりの頻度で色々な惑星に旅をしているようですが」

 

「パイロットとしての訓練とあの機体に関しては」

 

空中にフライトスーツを着用した金髪の青年が投影される。表情は険しく、若者らしい乱暴さのある顔。彼が戦闘機から降りてきたときに映したものだ。

 

「航空科ではありませんが、高校で飛行サークルには入っていたようです。例の戦闘機に関しては一応一般の航空機として登録はされているのは確認しましたが、製造元などは不明です」

 

「そうですか・・・」

 

一通り聞いたアラドは頭を抱えたい思いだった。飛行サークルにいた程度の人間が最新のVFが戦う戦場に型落ちの戦闘機で乱入し三機撃墜。初見のΔ小隊の連携に綺麗に入り込んで、そして生還。荒唐無稽にも程がある。いや、気づいているのは自分と既に戦闘データを分析したメッサーくらいだろうが、最初の三機は超長距離からロックオン無しでのミサイルでキルしている。隠しているだけで絶対に相当の実戦経験を積んでいるはずだ。

 

「アラド隊長、彼の処遇については」

 

「あれほどの腕を持つならうちでスカウトしたいが・・・まずは艦長と相談してからだな」

 

その後はメッサーによりそれぞれの戦闘分析と反省点が挙げられ、その場は解散となった。

 

 

 




APU:ジェットエンジンは普通、停止状態からでは動きません。APUはそれをなすための補助エンジンのこと。ちなみにVFは核動力積んでるのでAPUは多分いらない。

FFR-41:ジェット戦闘機のくせに、進行方向とは逆向きに機首をむけたり、空中で飛び跳ねるような機動をしたり、空母でダイナミック着艦&発艦するおそろしい子。出典は戦闘妖精雪風シリーズ。


殆ど書き溜めていません。人はこれを学習力がないという。そしてヒューイを書くのが一番難しい。紳士ってなんだ。
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