もう一度、飛び上がった空で   作:zwart

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思ったより早く書きあがったので投稿。ちょっと長めです。

あと、改造VF-31のイラスト(?)が仕上がって、どんなものか大体決定いたしました(今更)

形式番号は『VF-31M』となります。


第四話

景色が、流れている。

左手側のスロットルは完全に倒され、AB位置で固定されている。疑いようもない最大加速。

ああ、なるほど。確かに速い。

サイドスティックをガタンと左に押し倒す。急激な横Gと供に左ロールが始まる。ラダーをいれ、バレルロールしつつ360度回ったところでスティックを戻し、インメルマンターンに移行。水平飛行で速度を取り戻した時点で機首を持ち上げ、垂直上昇。推力を調整し、ハンマーヘッドターンを敢行。ラグナの広い海面が見える。一転して重力方向に落下を始めた機体中で、吐息をひとつはいた。

 

「・・・よし」

 

機体コンソールに取り付けられた取り分けて大きいスイッチの一つを押し込む。ガクンと機体が揺れ、ラダーの操作上限が解放される。機体バランスの変動で勝手に機体が水平位置に戻っていく。身も凍るようなマイナスGの中、計器盤を睨みつけて機体が自分のいうことを聞いていることを確認。高度メーターの数値があっというまに0に近づいていく。8000・・・5000・・・1000。ここだ。

スロットルレバーを全開まで押し込み、素早く、半分ほどまで戻した。

―――現在状況チェック。

ビーカー水平位置、高度3、ガウォーク形態。速度150で海面上を滑走中。

 

「ふう」

 

どうにか、海水面と衝突せずに上手くいったようだ。

 

「次の試験項目は、バトロイド形態での射撃、目標攻撃か」

 

アイテールの滑走路に、VF-1EXが着陸態勢でアプローチしている。

機首角度、速度、高度。全て問題なし。以前に見たのとは全く別の機体、別の状況だが、相変わらずの綺麗な着地だ。どうやら彼はVF-1EXを完全に乗りこなしたらしい。

停止、固定されたVF-1EXから降りてきた対Gスーツ姿にかけより、タオルを渡す。今回の彼のフライトは、VFの搭乗訓練兼、適正検査だった。

 

「おつかれヒュイヒュイ」

 

「ああ、ありがとうマキナ」

 

ヘルメットを取るとヒューイは顔についた汗をそれで拭う。

 

「どうだった?」

 

「いい機体だね。けど、速度の割にファイター形態でのレスポンスがちょっと遅いかな。あと機動性も」

 

「そりゃ、さすがに前進翼機には勝てないよ。しかもメイヴちゃんと比べられちゃったら、同等の期待なんてそれこそYF-29デュランダルクラスと比べないと・・・。それにヒュイヒュイの機体はこれじゃなくて、今造ってるジクフリちゃんの方だから安心して」

 

「うん、わかってるよ。それで試験評価項目の方はどうだった?」

 

適正検査のことだろう。つまり戦闘で必要な動きを、どの形態で、どれだけこなせるかという試験だ。

 

「ちょっとまってねー。えっと、ファイター形態でのACM機動は文句なしのSクラス。ガウォーク形態はC。バトロイドでの動体射撃はA+、格闘はCクラスってところかな。ただし、各形態からの変形時の安定に難があるから、そこはもっと練習だね」

 

「なるほど、これはまだまだ頑張らなきゃいけないね」

 

微妙な笑みを浮かべるヒューイだが、彼のVF操縦歴は一週間である。それもほぼ全てシュミレータで、今日が初の実機だ。それでこの成績というのはデタラメがすぎる。私有機を飛ばしていただけで、これだけの能力を持てるのだろうか。

 

「マキナさん」

 

「へ?」

 

「コーヒー買ってきたんだけど、よかったらどうぞ」

 

見れば、彼の手には缶コーヒーが二つ。そのうちひとつが差し出されていた。

 

「あ、ああごめん!私は買ってくればよかったのに・・・」

 

「いいよ、気にしないで。僕が勝手にやったことだから」

 

「ほんとごめん・・・で、ヒュイヒュイのジクフリちゃんのことなんだけれど」

 

「うん」

 

「やっぱり、もう少し時間がかかりそうなの。例の仕様にするのもそうなんだけれど、その他にも今回のデータから設計変更したいところができちゃって。纏めるのにもう少しだけかかるかなって」

 

「わかった。完成を楽しみにしてるよ」

 

「その代わり、絶対にヒュイヒュイの満足する機体にするからね」

 

それにこの間のアンノウンのこともある。今までのデルタ小隊の機体はアクロバットやデモンストレーションでの使用が多かったため必然的にそういう仕様のセッティングになっていたが、これからはそうもいかない。整備も空戦のためのセッティングに切り替わるだろうし、謎のジャミングに対抗する手段も模索しなければならない。最も、それらは主にシステム面での対応になるので主にレイナが対応することになるだろう。

 

「ああ、レイレイといえば。さっきヒューイのメイヴを一緒に弄って―――解析してたんだけど、なんかヒュイヒュイに聞きたいことがあるって」

 

「僕に?」

 

「たぶん、システム面についてのことだと思うんだけど」

 

「・・・ああ、だいたいなんについてかは想像がついた。後でいくよ、第5格納庫だよね?」

 

「そう。っと、私もそろそろ作業に戻らないと」

 

「ああ。じゃあ僕もいってくる」

 

「またあとでねー」

 

 

アイテールの飛行甲板でマキナさんとしばらく休憩していたが、彼女は仕事に戻ってしまった。自分で組んだ訓練メニューに沿うと一度飛ぶことにしているのだが、レイナさんの要件も気になるな。

 

「あまり待たせるというのも・・・」

 

「行ってくるといい」

 

アイテール内部に繋がる扉のところから声がした。

 

「イーレフェルトさん」

 

「メッサーでいい。それより、あらためてあなたの操縦を見せてもらったが、あとはVFという兵器体系に慣れるだけだろう。あなたに今の訓練では非効率だ。明日、ガウォークとバトロイドの扱いに特化した訓練メニューを用意する。今日はもういい」

 

「悪いね。どうも変形する戦闘機というものにまだ慣れてないみたいだ」

 

「別に、訓練メニューの作成はいつもやっていることだ」

 

さっさといけ、と彼は固定されている彼の機体に向かって歩いていく。これから彼が訓練する番というわけらしい。甲板にいるのは離陸の邪魔になるので、言われたとうりにレイナさんのところに行くことにする。

 

「ありがとう、メッサーさん」

 

「離陸するぞ」

 

おっと、噴射炎で焼き殺されるのは勘弁だ。

 

 

 

 

 

第五格納庫。普段は使用されていないというその場所にメイヴは保管されている。私物扱いの許可が下りたので押収されたわけではないのだが、レイナやマキナ。整備班の皆が見たいというので元に戻せる範囲で好きにさせているのだ。最も、その在り方はこの時代に特異だろうが、技術的に新しいものがあるとは思えないのだが。

格納庫の中には片方のエンジンが露出しているメイヴと、端末片手に唸るレイナがいた。彼女はこちらをみつけると手招きしてくる。

 

「ヒューイ遅い!」

 

「ごめんごめん。で、聞きたいことって?」

 

レイナはメイヴを指さして機嫌が悪いです、といった顔つきでいった。

 

「この子の中身が見れない」

 

「システムのアクセスはフリーの筈だけど―――」

 

ちょっとどうなっているのか見ようと(ハッキング)したら、拒絶されて攻勢防壁に反撃された。その後はずっと戦闘中」

 

「あらら」

 

「ただの戦闘機にあるまじきプロテクト。エリシオンのコンピュータを利用して攻略しようとしたら船にまで浸食しようとしてきて手に負えない。もはや凄腕のハッカーを相手しているかのよう。説明求む」

 

「はあ、そりゃそうなるか・・・。レイナさん。一端メイヴとの回線を切ってもらえる?」

 

「もう切れてる。今は何とも繋がってない」

 

「わかった」

 

メイヴのコクピットブロックは開いた状態だ。どうやら乗る分には問題ないらしい。レイナさんはどうかわからないけれど。

開かれたコクピットに潜りこんで、操作パネル群をスリープモードから復帰させる。同時、カメラのピント調整する音がした。

 

「でも、どうしてハッキングなんか」

 

「別に、珍しい形式で組まれたプログラムに興味があったからとか、データを盗み見たかったわけじゃない」

 

「じゃあどうして」

 

「必要だったから。索敵系の装置の情報が」

 

なるほど、理解した。

 

「空間受動レーダーのことだね。チェックシートに記載されてるのを見つけたんだ」

 

「そう。カタログスペックを見る限りこの間のアンノウンのジャミングに対してそのレーダーは有効なものだと推測する。けれどそれについて情報検索をかけたら急に攻撃的になった」

 

まあ、機密は保持したいだろう、メイヴも。内部のコンピュータにいる戦闘知生体としての意識がレイナさんの強引なアクセスに危険を感じたのだろう。と、起動早々に警告音がなった。敵機接近音、並びにロックオン警告。

 

「な、なに?」

「メイヴが、メイヴの意識が喋ってるんだ。―――違うよメイヴ。彼女は敵じゃない」

 

尚も警告音は止まない。ミリタリー推力を表す表示が点滅し。燃料補給ランプも通常ではない点滅を繰り返す。FCS画面の各武装パイロンも同様。さながら敵が接近中。すみやかにわたしを武装させ戦闘可能な状態にせよ。といったところか。これは早く説得しないとレーダー波でレイナさんを焼き殺しかねないな。

 

「落ち着け、メイヴ。お前と僕の契約を思い出せ。彼女は僕の味方で、敵機に対応する手段の模索として空間受動レーダーを参考にしたいだけだ」

 

レーダー画面が急に起動。まさか僕ごと焼き殺す気になったかと緊張が走ったが、超高出力のマイクロウェーブは発射されず、画面には5機の敵機と4機のアンノウンが表示された。アンノウンの方はうすぼんやりとしていて、敵機は強めの輝度で表示されている。この画面はアルフヘイムの時の再現だ。つまり敵機とはあのアンノウンを指すのかと、そういう質問だろう。ちなみに各種警報音は未だに鳴りやまない。油断できる状況じゃないし、ぶっちゃけホラーなので勝手に体が緊張する。

 

「そう。その敵機だ。これからも対象との戦闘の可能性がある」

 

すると。ロックオン警報は停止。ただし敵機接近警報はそのままに今度は自己診断プログラムの≪診断完了、異常なし。整備は不要≫という画面が表示された。「言いたいことはわかった。でもあのハッカーは危険だし空間受動レーダーの情報なんか絶対に渡さないから!」

 

「ねえ、その機体にはやっぱりAIがつんであるの?」

 

「そう。それも知性体として自我を持ってる。さて、メイヴは君に空間受動レーダーについて何も言いたくないそうだよ」

 

「それは困る。メイヴの空間受動レーダー以外にあのジャミング装置への対抗手段を私は思いつかない。あと、その高度なAIに私は興味深々」

 

「言っておくけれど、いま僕たちの命はメイヴに握られてるからね」

 

「え」

 

「メイヴのアクティブレーダーは桁違いの出力をもってるから。電子レンジで調理するのと同じ」

 

「・・・今、鳴ってる警報って」

 

「敵機接近警報」

 

真っ青になってその場で固まるレイナ。知らないうちに電子レンジの中にいたとなればふつうの反応だろう。

 

「で、でも。マキナとかはふつうに分解していた」

 

「整備として認めてるらしいね。そもそも、レーダーでVF-31と例の不明機を確認した時点で機体の単純スペックで負けているのは理解したらしくて。エンジンや構造といった点での技術的有利は諦めてるんでしょ」

 

と、言ったが実際はもっと酷い。アルフヘイムの時、戦闘空域にむけて加速しようとしても減速したり機首反転しようとしたりで何事かと思ったらレーダー画面のアンノウン表示がデカデカと点滅して全部に高脅威目標のタグが追加されたのだ。ついでに武装補給も点灯。「無理無理無理だから!あんな化け物みたいな連中がやりあってるところにミサイル二機だけでつっこむとか死ぬから絶対落とされるから!」といったところだろう。市街地上空だからアクティブレーダーの使用を停止させていたのもあるだろうが、有体に言えば怯えたのだ。確かに、戦闘機としての機動性は勝っていても、ガウォークやバトロイドに変形するVFとはその戦闘の方向性が違うし、火力だって全く比較にならない。レーザーだって射角は広いが有効射程はそれ程長くはないし、機銃は一門。ミサイルもあの時は二発しか携行してなかった。だがVFはばらまくほど大量のミサイルに二門のレールガンにビーム砲。ピンポイントバリアさえある。機動性、装甲、火力、あと数。そのすべてにおいてメイヴは敗北しているのだ。

だから、そのVFを所有する側の人間が友好的態度で自分の機体を整備、場合によって改造する、という案を持ち掛けたときは簡単に了承した。もしかしたら機体性能の強化がみこめるからである。

ちなみに、アルフヘイムの時は「じゃあ一発だけ射程ギリギリからミサイル撃って、それが通用しないようなら帰るから」といった風に説得した。結果、敵機はあっさり撃墜され、なんとか他の機体を盾に立ち回ることで言うことを聞いてくれた。

 

「でもメイヴ、あのアンノウンとは多分また戦うことになる。そのとき、あのジャミングを打ち破る手段が必要なのはわかるだろう?」

 

出撃許可の申請画面が表示される。ケイオスからの離脱を求めているのか・・・いや、自分を出撃させろということだろう。その通りだといわんばかりにデータリンク相手の検索を開始した。つまり「対処手段が必要なのはわかった。でも空間受動レーダーは渡さない。こっちが観測した情報を転送するからそれで我慢しろ」ということだろう。

 

「と、いっているけれど」

 

「それではデータ送受信の遅延や途絶の不安が残る。それにVFどうしが戦闘する空域にいくにはメイヴでは性能に不安が残る。許可できない」

 

武装補給ランプ点灯。「じゃあ私を強化しなさい」

 

「無理。機体のペイロードが足りない。時間もない」

 

武装補給ランプに続いて自己診断プログラム画面が再展開。ただしエンジン部分の表記が異なる≪全損。直ちに整備せよ≫出撃許可の申請画面に任務詳細が追加される。求めているのは空中管制任務での出撃だ。訳すと「だったら戦域外から情報を送ってやるから、敵に補足される前に離脱できる足を用意しなさい」

 

「どうやら、レーダーは渡してくれないみたいだ。その代り、メイヴにできる全力のサポートはしてくれるみたいだね」

 

「・・・どうしても、ダメ?」

 

「メイヴに色仕掛けはきかないし、僕にやっても意味ないよ」

 

「むう、ガードが堅い」

 

命かかってるのに面白いことするなーと思ってしまったが、むしろ唐突な生命の危機に冷静な思考ができていないからこその行動か。

 

「わかった。それで妥協する。エンジンを交換すればいい?」

 

「そうみたいだね。電子戦能力は元々高度なものがあるから、たしかにそれだけで管制機として機能する」

 

「わかった。マキナは残念がるだろうけれど、その方向で艦長にも話をつける」

 

「ん?なぜマキナさんの話に?」

 

「メイヴを飛ばすのなら今やってるヒューイ仕様のジークフリートは用意する必要がなくなる」

 

「いや、メイヴは無人で飛ぶ気だけど」

 

出撃要請画面にはメイヴの名はあっても僕の名前は表記されていなかった。つまり一人で飛ぶということだろう。

 

「メイヴは無人の状態で飛行が可能?」

 

「むしろ、人間なんて潰れやすいものを載せないから単純な性能なら比じゃないくらい上がる。そこに人間の勘や経験、技術は反映されないけれどメイヴ自身の技術と経験、ひょっとしたら勘で戦うだろうね」

 

要するに、戦術にしたって複座機を単座運用するくらいの差しかないのだ。

 

「・・・いや、でも敵の電子戦によって乗っ取られる可能性は」

 

「メイヴの電子戦能力は多分何にも負けない。それに、仮に乗っ取られたのならもう僕が乗っていてもいなくても結果は変わらないさ」

 

そのときは射出座席で僕を放り出すくらいのことはするだろう。たぶん。

ということで、メイヴには無人機としてデルタアイのコールサインと共に運用の許可が下りたのである。ちなみに所有、所属は僕のままだ。そこはメイヴが頑なに譲らなかったし、僕としても所有権は譲るべきではないと思った。だから改造の費用は自費である。ジャンクパーツの新中州/P&W/ロイス 熱核タービンエンンジンFF-2550Fを購入して換装した。高くついたが、それよりも軍で現役の機体に搭載されているエンジンが簡単に手に入る現状に軽くめまいがした。それでいいのか新統合軍。

あと、レイナが自分もメイヴと会話したいと、簡単な会話ソフトをくみ上げてメイヴにインストール許可をもらったとか。

 




ジークフリートより先に改造されるメイヴ。

なお、登場しているヒューイのFFR-41メイヴは戦闘妖精雪風に登場する、深井零中尉の「雪風」ではありません。耐熱塗料で書いたブッカー少佐の力作も存在しません。ただ、メイヴちゃんも無意味にツンケンしているのではないのです。

ACM: Air Combat Maneuvering の略。空中戦闘機動。

熱核タービンエンンジンFF-2550F:ナイトメアプラスEXのエンジン。
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