ネオ・ダンガンロンパ Absurd - 不条理な希望と絶望ヒーロー - 作:白滝
「おい、しっかりしろ!!」
「う、ん……?」
見知らぬ男子の顔が目の前にあった。私の肩を掴んで揺すり、必死な形相で私の顔を覗き込んで来る。
「う、わああああああああああああああああああああああ!!」
「げぶっ!?」
咄嗟に男子を突き飛ばしてしまった。
ツンツン頭の男子は尻餅をつきかけたが、そこで机の角に股間をぶつけて悶絶し出す。
そこで気付いた。
私は見知らぬ教室いた。そのロッカーの中に、まるでカプセルホテルかのように閉じ込められいたのだ。
同時に、昨晩の記憶がない事も自覚する。いや、そもそも大学入学後の思い出が、私の頭からすっぽり抜け落ちていた。
「な、なに、此処……!?」
「げ、元気な目覚めで上条さんは嬉しいですよ……」
苦悶の声を漏らしながらもぞもぞ立ち上がる彼の手を取って手を貸した。
「ご、ごめんね!?目が覚めて知らない男がいたら、送り狼にでも捕まったかなーなんて思うじゃん?昨日はお酒飲んでないはずなんだけど……記憶ない……」
「やっぱり俺らと同じか」
「俺ら、って……まさか、あなたの他にも記憶喪失の人達がいるの!?」
「どうやら此処はどこかの学校らしくて、俺らは拉致監禁されてるみたいだ」
「ら、拉致監禁って……」
教室を見ても、おかしな点はすぐに目についた。
窓がない。
この一室は、一切の日の光から遮断されている。
「この教室だけじゃなく、建物全体に窓がない。そもそも玄関も非常口もない」
「え、じゃあ私達はどうやってこの学校に連れてこられたの?」
「分からない……それも含めて、みんなで捜索してたんだ。その途中でアンタを見つけたって訳」
「あ、そうなんだ、ありがとう。あ、えっと、私の名前は、」
「自己紹介はみんなの前でしよう。手っ取り早い。体育館に集まってるから、ついて来てくれ」
そう言って、混乱が拭えない私の手を引いて、少年は気味の悪い校舎を進んでいった。
「駄目だ、掴みどころがねェ」
体育館に入った直後、轟音が炸裂した。
白髪赤目の少年が、体育館の壁に拳を叩き込んでいたのだ。
やせ細ったその体躯じゃあ威力なんてたかが知れてると思ったけど、何故か少年は不満そうな顔で首に巻いたチョーカーを弄っている。
「おーい、みんな、まだ1人いたぞー!!」
ツンツン頭の少年がそう大声で叫ぶと、体育館にいた人達が一斉に私の方を見た。
少年少女だけでなく、大人の人達も数人いた。
……というか、おかしな存在もいた。
体長3メートルはあろうかという巨大な豚が、二本足で直立していた。
お相撲さんみたいにでっぷり太ったその体型は元より、全身から放たれるキツイ獣臭に思わず顔を顰めてしまう。
「……え、なにあの化け物……!?」
「ぶーっっ!?……ぶーぶーは化け物じゃなくて、ただのイベリコオークだよ……」
人身豚面の自称オークが流暢に喋っていた。
私の反応でショックを受けたのか、身を竦ませて両目にうるうると涙を浮かべている。
ツンツン頭の少年は頭をかきながら説明を促した。
「まぁまぁまぁ、ひとまず自己紹介から始めよう。そいつは一応、亜人って区分らしくて意思疎通できるから友好的な生物だと思う」
「ぶーぶーは優しい!!ぶーぶーは人間を尊敬してる!!馬鹿にしないで欲しい!!」
「分かった分かった……まぁ、意思疎通が難しいのはあっちにいるんだけどな……」
そう言ってツンツン頭の少年が指差した先には、軍服を纏った外国人が3人いた。
3人が同時に喋り出すが、英語が早くて聞き取れなかった。
「……私、TOEICって500点超えないんだよね……」
「御坂、通訳頼む」
「仕方ないわね」
そう言ってツンツン頭の少年の横に佇む中学生くらいの少女が、話を引き継いだ。
「順番に言うわよ……『俺はクウェンサー=バーボタージュ。戦地派遣留学生だ』『俺様は天才美形貴族ヘイヴィア=ウィンチェルだ』『マリーディ=ホワイトウィッチだ』……だ、そうよ。やたらスラング交じりで聞き取りにくいけど」
「へえ、中学生なのに英語ペラペラなんてすごいね。帰国子女?」
「いや違うけど……あ、私は御坂美琴ね。よろしく」
年上に物怖じしない勝気な子だった。いや、それを言うなら、美琴ちゃんよりももっと年下のマリーディって子がいるけども。軍服を着ているのはコスプレじゃなく、本物なのだろうか?
「なぁ、第三位の
と言ったのは、ジャージにジーパンというラフな格好で間抜け面の少年。どうやら顔見知りらしい。
「別に語って聞かせるものでもないでしょ?
「……高レベルの能力者は考え方が違えな。コンプレックスを感じちまう」
「能力者……?レベル5……?あなた、超能力者なの?」
「いや、俺は無能力者だよ。ああ、名前は浜面仕上。超能力者なのは、俺じゃなくてそこの中学生とあそこの白髪の目つきの悪い奴」
そう言って指差したのは、美琴ちゃんとさっき体育館の壁を殴りつけてた白髪赤目の細い少年だった。
視線を感じたらしい彼は、ぶっきら棒に「……
「ちなみに俺も御坂や浜面、
「他に知り合いはいないの?」
そう言って私が見渡すと、金髪の背の高い少年が手を挙げた。
「俺らも知り合いで固まってるぜ。俺は陣内忍。で、こっちが俺の叔父さんの内幕隼刑事」
「け、刑事!?」
「あ、いや、まぁ……刑事である私自身が犯人に拉致されてしまっているので面目ない訳ですが……皆さんをすぐに家に帰そうと思っていますので」
「刑事さーん。そんな常識的な範疇の話じゃないでしょこれ」
そう言って、タンクトップとホットパンツを着た20代くらいの女性が刑事さんの肩にしな垂れかかった。
「だってこの私を相手に記憶喪失と拉致を敢行してくれちゃってさぁ。『菱神の女』を相手に喧嘩売ってくるなんて、それだけ無知な大きな犯罪組織って事でしょ。ってなると、日本警察の木っ端刑事の手に負える話じゃないね」
「あ、あなたは?」
「ん、私?菱神舞。ただの平凡な女子大生だよん☆」
舞さんはそう名乗って周囲の反応を伺ったけど、特にリアクションはなかった。
「(……『菱神』に心当たりは無し、かぁ。となると、本格的に訳分からない次元にぶっ飛んでる可能性あるぞう)」
舞さんの小言は上手く聞き取れなかったが、なんだか愛想笑いで誤魔化されてしまった。
「残りのメンバーで知り合いはいないのか?」
上条くんがそう尋ねると、一人の女性がガシャガシャ音を響かせながら答えた。
「当然であろう。私は天界アスガルドに侍る主神オーディンに仕える
長い金髪に白い肌をした外見は20代くらいの美女。その上に緑色に薄く発光する不可思議な鎧とゴテゴテと装着している。
自称異世界の神(?)にやや困惑した空気も生まれるが、人身豚面の化け物が人語で喋っているのに比べたら、この程度は電波系としても理解できる範疇な気がしてくる。
「えっと……その天界の使者様のお名前は?」
「私はワルキュリエ9人体制の一角、四女ヴァルトラウテ。この状況に困惑しているのは同じだが、不安がる事はない。もし勇猛な戦死の輝きがあれば、必ず私が汝らを殺しヴァルハラの館へその魂を導いて幸せにして進ぜようぞ」
ちょっと怖い事を言い始めた自称天からの使者様を他所に、残る二人がいそいそと自己紹介を始めた。
「七浄京一郎だ。特に他人に話すような肩書きはないな」
「天津サトリです。ぼくもないけど……皆さん、『光十字減災財団』って単語に心当たりあります?」
一同が首を横に振ると、サトリくんはほっと安心したように息を吐いた。
「これで全員だな」
「ちょっと待って欲しいと散々言い続けていた訳だが……」
上条くんの発言を遮って口を挿んだのは、真っ赤なジャージを羽織った少年だった。
いつの間にかそこにいた……というか、突然そこに現れたっていうくらい存在感が薄かった。
「おお、悪い悪い。すっかり忘れてた」
「……別に構わないよ。君のせいじゃなく僕のアワードに落ち度があるからね」
そう言って一同の視界に収まる位置に少年は移動した。
「僕は城山恭介。話して通じるか分からないし、
そうして、この謎の学校に拉致監禁され、記憶喪失になっていた16人の自己紹介が終わった。
「で、アンタは?」
「え?……あぁ、そっか。みんなの話を聞くばっかで、自分の自己紹介を忘れてた」
コホンと咳払いをする。
「私の名前は
そこまで私が話した時だった。
「オマエラ、なーにグダグダやってるんだよ。飽きちゃうよ。視聴者は飽きちゃうよそういうの!!」
体育館のステージ上。
その教壇の上に、突然クマの縫いぐるみが現れた。
茫然する一同の前で、クマの縫いぐるみは軽快なステップを踏んで高らかに宣言した。
「うぷぷぷぷ……オマエラ、希望ヶ峰学園への転入、おめでとうございます!今からオマエラには、楽しく仲良くコロシアイをして青春スクールライフを満喫してもらいまーす!!」
……今思えば、これが絶望の始まりで。
迫り来る不条理の幕開けだった。
それをこの時点で理解できた人間は、あろう事か『不条理』に特化した私しか存在しなかった。
ね、此方ちゃん?