ネオ・ダンガンロンパ Absurd - 不条理な希望と絶望ヒーロー - 作:白滝
「ぬ、縫いぐるみが喋った!?」
七浄くんの驚きに被せるように、クウェンサーくんは『ロボットだ!?』とも英語で叫んだ。
そんな驚く声を聞き、クマの縫いぐるみはぷんぷんと擬音が目に見えるような胡散臭い演技じみた動きで叫び返してくる。
「コラぁ!ボクは縫いぐるみでもロボットでもないよ!ボクはモノクマ。この希望ヶ峰学園の学園長なのだ」
ポカン、と一同が静まり返った。
どうリアクションを返していいのか分からない、といった雰囲気だった。
上条くんが真っ先に質問を飛ばしていく。
「なあ、『転入』やら『コロシアイ』ってのはどういう意味なんだ?」
みんなの疑問を代弁する発言だったが、それを遮るように緑の甲冑天使様(自称)が皆の前に進み出た。
「それより先に聞くべき事がある。私達をこの奇怪な建物に封じ込めた犯人は貴様か?正直に白状するなら、貴様の魂をヴァルハラへは招待できないものの、冥界ニフルヘイムの女王『ヘル』に話を通して処罰を優遇してやろうぞ」
「うぷぷぷぷ……やっぱオマエラは最高だなぁ!『異邦人』を転入させた甲斐があるってもんだよ」
「異邦人……?」
私と同じように、皆がその単語に疑問を覚えたようだった。
モノクマは高笑いをしながら、
「そうです。オマエラは異世界から希望ヶ峰学園に連れて来られた転入生なのです!これからオマエラには無期限の学園生活を送ってもらいます!」
「は……!?」
美琴ちゃんが前髪からバチバチと電撃を弾けさせながら、
「なにそれ、アンタふざけてんの!?私達を永久に此処に監禁する気?」
「いやいやいや、『卒業』して学園を出ていきたい人のために、さっきボクが言った『コロシアイ』があるんだよ。この学園では、殺人を犯した人だけが『卒業』できるんだ」
「殺…人……!?」
刑事さんの顔があからさまに怒りの表情に変わっていく。
「しかもオマエラにやってもらうのはただの殺人じゃないよ!もっと知的エンターテイメント性に溢れた、『学級裁判』を行ってもらいまーす!」
「学級裁判…?」
「殺人が発覚した後、生存者全員が集まって、
「……『オシオキ』って何だよ?」
陣内くんがゴクリと鍔を飲み込みながら言った。
モノクマは面白くてしょうがないといった笑みを浮かべ、
「まぁ、隠さずに言えば処刑だよ。うぷぷぷ……楽しみに待っててよね。もう既に各々に合わせてアセンブルした処刑『パッケージ』を用意してあるからね!」
『パッケージ』?と疑問に思った私達だったが、私の視界の隅で、刑事さんが目を細めるのに気付いた。彼の傍にいる陣内くんも同じように訝しむ表情をし、菱神さんはペロリと獰猛な舌なめずりをしていた……なんだこの人。さっきと違って怖いな……
「まぁ、そういう訳だから、遠慮せずじゃんじゃん殺しまくっちゃってよ!殺し方は問いません。撲殺が好き?刺殺が確実?絞殺はコスパが良い?毒殺が楽チン?射殺でも殴殺でも焼殺でも溺殺でも轢殺でも爆殺でも惨殺感電殺落殺呪殺圧迫殺出血殺笑殺でも!お好きな殺し方で、お好きな相手を、お好きに殺してくださーーーい!!アーーハッハッハッハ!!」
「あァ?」
真っ先に声を上げたのは、
「あまりの愚かさに真意を勘ぐっちまうが、深い意味はねェンだよな?……オマエの言葉通り、俺らが殺し合うのを見てオマエはハシャいでンだって認識でいいンだよな?」
「当ったり前じゃーん!世界を動かす希望を集めて殺し合わせる!これほど不条理な絶望エンターテイメントがあると思う?」
黙ってるのは彼だけじゃなかった。
陣内くんが声を張り上げてモノクマへ抗議をした。
「ふざけんな!お前が何をやろうとしてるのか知らないが、早くここから出せ!!」
「あれ?あれれれれれ?あれれー?これはアレかな?いつものアレかなぁ!?」
「あん?」
「やっぱりやるしかないのかな?まぁ、しょうがないよね、見せしめは必要だもんね!」
「な、何を言ってやがる!?」
「ゲームマスターに反抗する奴を見せしめにブッ殺す見せしめ役は絶対に必要だよね!って事だよ、陣内忍クン?」
そう言って、モノクマが「アオオオオーン!」と犬みたいな鳴き声を轟かせた。
直後、ステージの床がバカリと真っ二つに開き、無数の金属コンテナがせり上がって来た。
それらはサイコロの展開図のようにひとりでに開いていくと、様々な武装を露わににしていく。
戦車砲、レーザー砲、火炎放射器、ガトリング砲、対特殊鋼用大型チェーンソー、対壕ドリル、空対空ミサイルコンテナ、精密誘導航空爆弾、重金属分解式プラズマ砲、電磁波焼尽兵器、超高周波音響砲、電気溶断式ブレード、そして要塞攻略用大口径レールガン。
それら全てがモノクマに接続されていく。
一同が唖然とする中、上条くんと美琴ちゃんだけが同時に「「
避ける時間はなかった。
大小無数の砲門が陣内くんへ狙いを定めた直後、
―――――――それら全てが撃ち落とされた。
「――――あれ?」
モノクマが驚いたように自分の背中を見やると、先程までそこにあった
あまりの速さに私も遅れて気付く。
「ふん、ぬるい。私の『滅雷の槍』は天罰という概念の結晶。音速を超えた光速の連射速度を持つ」
緑の鎧を纏った自称天子様が、手からバチバチと紫電を走らせた槍を弄んでいた。
「さ、さすがは異世界の希望達……!?ちょっとやそっとじゃコテンパンにできないか。でもボクはそれじゃあ挫けないもんね!!出でよ、モノジェクト!!」
ポチリ、とモノクマがいつの間にか取り出していたリモコンのボタンを押した瞬間、体育館の床をブチブチと引き裂いて、私達の足元から巨大な球体が上昇してきた。
クウェンサーくんやヘイヴィアくんが、仕切りに何かを叫び始めた。
それは全長50mはあろうかという巨大な球体メカだった。全身からイガグリのよう伸びる砲台がまたしても陣内くんに向けられる。
「撃てー!!」
モノクマの陽気な笑い声と共に、巨大な砲から発せられたオレンジ色のレーザービームが放たれた。
しかし、それが陣内くんを貫くことはなかった。
美琴ちゃんが纏う電撃とオレンジの閃光がぶつかり合い、レーザービームの軌道が天井へと逸らされている。
「第一位!!」
「指図すンじゃねェよ」
まるで幼稚園児がおもちゃの人形を壊して中身の綿を引きずり出すかのように、めちゃくちゃにグチャグチャに一切の容赦なく
5秒もかからなかった。一瞬にしてモノジェクトは無力化され、沈黙した。
「……な、なんだってー!?」
モノクマは慌ててどこかに逃げようとしたが、それを人身豚面のぶーぶーちゃんは逃がさなかった。
その巨大な手でモノクマの頭部をガシリと鷲掴みする。モノクマはジタバタするが、人外の化け物の握力には抗えないようだった。
「ぶー……お前、悪い奴。ぶーぶーは頭が悪いからよく分かんないけど、お前は一回、懲らしめられた方が良い」
ぶーぶーちゃんは3mはある巨大な棍棒を担ぎ、それをモノクマの頭部に振り下ろした。
その直前、
「こうなったら、奥の手だもんね!」
モノクマは口から何かを吐き出した。
クウェンサーくんやヘイヴィアくんが叫んだ。
それは手榴弾の安全レバーであった。
直後、モノクマが爆発した。
「じ、自爆!?」
辺りに撒き散らされる、
『香』。
「あれ、衝撃波じゃな――――――」
「全員逃げろォぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
果たして、何人がその声を認識できたか。少なくとも、彼を視界に収めていたのは私を含めて数人しかいなかったかもしれない。
だから、間に合わなかった。
瞬間、モノクマの起爆地点に光を使った複雑な紋様が描かれ、薄ぼんやりと青白く光る巨大な檻に私達は閉じ込められた。
「な、なんだこりゃ!?」
檻の壁面をガンガン叩く浜面くんは、なにか透明な壁にぶつかったかのようにそこから先に進めずにいる。
「来る……」
城山くんが顔を青ざめさせながら、ブツブツと何かを呟いていた。
「城山くん、何か知ってるの!?」
「来るんだ、あいつが……」
「あいつって誰なの!?教えて!!」
「……彼女が、来る……ッッ!!!!」
言葉と同時、世界に『白』が顕現した。
凄まじい純白の光が吹き荒れた。
それは生誕の繭だ。
両腕で顔を庇っても網膜に突き刺さるほどの強烈な閃光の渦は、唐突に途切れる。まるで天使のそれであるかのように、無数の光り輝く小さな羽が、桜吹雪にも似た動きで周囲一帯へと撒き散らされていく。
全ての中心には、可憐な少女が一人。
ツインテールにしてなお、腰まで届く美しい銀髪。全てを見通す、宝石のような黒い瞳。身に纏う純白の衣装はウェディングドレスのようにも見えるが、しかしそれにしては露出が多い。
武装はない。
けれど、そんな事実に意味がない事をこの場の全員が本能で察した。あるいは、それは天啓だったのかもしれない。
たった一滴の汚濁も認めない存在。
善性の塊。聖なる象徴。光輝の擬人化。
この世の全てを
「な、なんだ、あれ……?アークエネミーですら、ない……!?」
サトリくんが思わず零したその言葉に、城山くんが答えを返す。
「あれは、『
いつの間にか、この場の16人皆が金縛りにあったかのように動けなくなっていた。
城山くんを発見したのか、真っ白な少女は彼に微笑みかけた。
「あにうえ、お久し振りでございます!……うふふ。異世界に飛ばされても逢瀬が叶うなんて、やっぱり私達の魂は強い愛で結ばれているんですのね!」
「……これも、あなたの仕業なのか?またあなたが僕と遊ぶために仕組んだ壮大な茶番なのか?」
「あらあら、あにうえったら不粋ですこと。恋する乙女が想いを寄せる殿方相手にデートコースをセッティングするのがそんなにおかしな事ですか?」
「あなたのせいかと聞いてるんだッッ!!」
ダン!と城山くん怒りの形相で地団太を踏んだ。
しかし、純白の少女はそれすら可愛いと言わんばかりに微笑んで、
「安心してくださいませ。今回の件に関して、私からは一切手を出してはいません。何やらあにうえが面白そうな事に関わってるので、お手伝いしてやっただけですもの……だから、オーダーをこなすだけで今は我慢致しますわ」
そう言って、彼女は陣内くんの方を見やった。
「で、ブチ殺されるのはお前?」
彼女がそう言った瞬間だった。
ウェディングドレスのような純白の衣装の布地が形を変え、数千数万の巨大な武具へと変化していく。
避ける時間はなかった。
直後、攻撃があった。
「……え?」
世界が削り取られていた。
さっきまで陣内くんが立っていた空間が、純白に削り取られて消滅していた。
時間という概念も空間という概念も全てが破壊し尽くされたスペースが、そこにあった。
「あ、あぁぁ、忍、……!?」
刑事さんの声が虚しく響く。
現実感はなかった。
いっそ血でも噴き出れば悲鳴も上がったが、そこにあるのは、『無』。
数拍遅れて、背筋に震えがやって来た。
けれど、足が竦んだ私とは裏腹に、立ち向かおうと彼女の前へ突撃した人達もいた。
それは、
「……許さねえ!!」
右拳を握りしめた上条くんであったり、
「こっ、の、人殺し……ッッ!!」
前髪から雷撃の槍を放つ美琴ちゃんだったり、
「…………」
無言で殺意を迸らせ、背中に4本の竜巻を接続する
「ああああああああああああああああああああああああああ!!」
絶叫しながらホルスターからリボルバーを抜いた刑事さんであったり、
「……ぶー…!!」
巨大な鉄塊を振り被って殴りかかるぶーぶーちゃんだったり。
各々が各々の力で以て純白の少女に挑みかかった。
それを、
「あーあー……大勢で来られると手加減が難しいので、一人ずつ相手したいんですけどねえ。オーダーでは一人しか
そう言って彼女は、
上条くんの右手を粉砕し、美琴ちゃんの電撃を
いっそこちらの方が現実味があった。
各々が一斉に血を噴き上げてバタバタと倒れていく。
全てが沈黙した上で、彼女はこう笑った。
「お掃除完了、でございます。それではあにうえ、ごきげんよう。また会いましょう」
空気に溶けるように消えた彼女の後、私達は茫然とするしかなかった。
城山くんが両手で自分の肩を抱き、小刻みに震えていた。
どうしてこうなった。
途中まではみんなでモノクマに立ち向かい、優勢だったのに。
彼女の出現と共に、全てが無に帰した。
「うぷぷぷぷ!オマエラ、ようやく分かってくれたかな?」
場違いに明るい声が響いて、気付く。
いつの間にか、自爆したはずのモノクマが私達の前に現れていた。
「どう、して……?」
「うぷぷぷ。ボクの体は無限にストックがあるんだよ。しかも、ボクの体には彼女を呼び出す爆弾が埋まっているから、ボクに逆らうと彼女をまた呼んじゃうからね」
血反吐を吐きながら、吹き飛ばされた面々が立ち上がる。
「それじゃあ見せしめで景気良くブッ殺しも済んだし、コロシアイ生活の開始を宣言しまーっす!オマエラ、仲良く過ごせよ!」
そう言って、モノクマはどこかに走り去っていってしまった。
残された私達15人の間に、重い空気が流れ出す。
特に、姪を殺された刑事さんは膝を突いてボロボロと泣いていた。
不安に押し潰されそうな気分で、思わず弱音が漏れた。
「ど、どうしよう……私達、このままモノクマの言いなりになるしかないのかな?」
しかし、上条くんが私の肩を叩いて励ましてくれた。
「コロシアイなんかする訳ないだろ。それに、よく分からないけど俺達は異世界から集められた人材で、どいつもすごい能力を持ってる。みんなで協力すれば、絶対にモノクマを倒せる」
そう言ってみんなを叱咤する上条くんは心強く、少し元気が出るようだった。
けれど、せっかくのそんな空気を台無しにするように、城山くんが手を挙げてみんなの前に出た。
「さっきの『白き女王』の件で、みんなに話があるんだ。これからの僕達の方針にも関わる重要な事だ」
「そういや、お前は知り合いみたいな感じだったよな」
浜面くんの声に答えるように、城山くんはゆっくりと話し始めた。
「彼女を呼び寄せたあの爆弾は僕のいた世界にある
「あー、なるほど……」
菱神さんが手を叩いて頷いたが、私にはよく分からない。
「つまり、ロボットであるモノクマは彼女を呼び寄せる事はできないって事実さ。裏を返せば、モノクマを操って
「ちょ、ちょっと待った!?それってつまり……ぼくら15人の中に、そのモノクマを操って
天津くんが私達に不審な目を向けるが、皆が一様に身に覚えがない、といった顔をする。
「ぶー……モノクマみたいに、体育館のどこかにコッソリ黒幕が隠れてるってこともあるかもしれないよ?」
「いや、ないと思うわ。私は電波を操る超能力者で、周囲一帯をレーダーみたいに走査する事ができるんだけど、この場には私達15人しかいないわよ」
「しかも、体育館には窓もないし、入口のドアも閉め切られてた」
菱神さんは何故か楽しそうに笑いながら言った。
「つまり、この15人の中に、僕と同じ世界の技術を知り、モノクマを操って使用した黒幕が存在している訳だが」
一斉に沈黙した。
さっきまでの、上条くんが作った団結の空気はここにはなく、互いに疑心暗鬼の視線を交わす息苦しさが渦巻いていた。