ネオ・ダンガンロンパ Absurd - 不条理な希望と絶望ヒーロー -   作:白滝

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視点が一人称になったり、三人称になったりします。
ご了承ください。


Chap.1 (非)日常編-1

「疑っても仕方がねえよ。今日は怪我を治すために解散して、明日にまた集合しよう」

 という上条くんの発言によって、皆が個室へ帰っていった。

 私は目覚めたのが最後だったから校舎を探索しておらず知らなかったが、私達16人分の個室が用意されているらしい。もう、15人になってしまったが。

「なんでこんな羽目になっちゃったんだろう。こんなの、もう……不条理すぎる……」

 外国人3人組は、美琴ちゃんに通訳してもらいながら先程のモノクマとのやり取りを教えてもらっていた。

 その度に喧しく騒ぎ立てたけど、でも「静かにして!」って注意できる気力はなかった。

 ただでさえ超能力やらSF兵器やら人外の化け物やら飛び出してきてるのに、さらにはコロシアイを強要させるなんて……

「安心していいんじゃないか?少なくとも俺の知り合いの御坂や一方通行(アクセラレータ)や浜面なんかは、今はもう絶対に人殺しなんか許容しない奴らだよ。俺以外の異世界の奴らも、人殺しそうにない連中ばっかだろ?いくらコロシアイを強要されたって、その動機がない。動機がなけりゃどんな善人だろうが悪人だろうが殺人なんてしない。だろ?」

「そうだよね。うん、そうだね、なんか元気出てきた。すごいね、上条くんは。私の方が年上なのに、なんだか頼もしいよ。場慣れしてる空気すら感じるぐらいだよ」

「……いや、まぁ、上条さんは筋金入りの不幸ですから。人よりもちょっと前向きなんですよ」

「ふふっ。長所だね」

「そうかぁ?」

 沈んだ気持ちが少し明るくなった。

 と、後頭部をがしがし掻く上条くんの右手が目に付いた。

「あ、あれ?……さっき右手を消し飛ばされてなかったっけ?」

「あ、えーっと……自分でもよく分からないけど、なんか生えるんだよ」

「なんか生えるの!?え、上条くんも回復能力持った超能力者だったりするの?」

「いや、そういう訳じゃないんだが……そういや何故だ?」

 上条くんと人体の不思議について語り合いながら、個室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 ぞろぞろと皆が体育館から出ていく中、天津サトリは自分のポケットに入れていたスマホに着信が入るのに気付いた。

「……!?」

 目が覚めてからはずっと圏外で通信が不可能だったのに、今は何故か電波が通じている。

 周りに気付かれないよう、そっと取り出して画面を確認する。

『こちらマクスウェル。ユーザー様の使用する端末を認証しました。』

「(ま、マクスウェル!?)」

 スマホのSNSに吹き出しのようなメッセージで発せられた呟きを受信する。

 天津サトリは急いで文字を打ち込んでいく。

「どうしてここに!?……もしかしてこの希望ヶ峰学園とやらは、供響市の近くにあるのか!?)」

『ノー。当システムは原因不明のエラーによりシャットダウンし、現在再起動した次第です。ユーザー様の個室に当システムのコンテナ2台が詰め込まれている状態です』

「ぼくだけじゃなく、災害環境シュミレータまでこの異世界に転入させたって事か!?」

『シュア。原因をスキャンしましたが特定できませんでした。ログも削除されており、直前のシステムを復元できません』

「……まぁ、でもお前と繋がって良かったよ。希望が見えてきた」

 マクスウェルとは人間ではなく人工知能である。そして、彼女(?)がシステム管理エージェントを務めるのが、天津サトリの開発したスーパーコンピュータ『災害環境シミュレータ』である。

 感電事故が相次いで回収騒ぎになった不良品の3D携帯ゲーム機を中古ショップの在庫から片っ端にかき集めて中身を分解し、演算部分を1400台分ほど並列化させた機構になっている。大学や研究機関に並列マシンの管理フローの開示など多大な協力を受けたものの、全てを一人で組み立てた彼は間違いなく情報技術開発に関して天才であった。

 だからこそ、天津サトリの発想もまた常人とは異なる。

「マクスウェル。演算リクエストを出す。通常通り計算できるか?」

『シュア。異常ありません』

「……スマホのカメラでこの場にいる15人の動きを中継する。怪しい奴がいないかシミュレートしてくれ」

『具体的な指定を』

「この場の全員の動きを予測演算し、怪しい行動を取りそうな奴を特定しろ」

『シュア。カメラアプリ認証、連携。シミュレートを開始致します』

 『災害環境シミュレータ』の本来の用途は、巨大な街一つの天候および80万人の動向を完全予測する事だ。たかが15人の未来予知など造作もない。

 神秘もオカルトも排斥した機械によって成し遂げられる天啓。

 疑心暗鬼が渦巻く15人の中で、天津サトリは静かに未来を手にしていた。

 この時点で、天津サトリは15人の中で最も優位な位置に立っていた。場の全てを掌握できていた。

 ただ一つの誤算を除いて。

 この希望ヶ峰学園に転校させられた15人の中に、彼と同じ未来予知が可能な人間がいたという点だった。

 

 

 

 

 

 首に巻いたチョーカー型の電極のスイッチを入れ、一方通行(アクセラレータ)は自身の超能力を発現させていた。

 彼はベクトル変換能力を有するが、前提としてそれを実現し得る超高精度の演算能力を持っている。いや、持つように人体開発された超能力者である。

 生体コンピュータと言い換えても良いかもしれない。過去に、脳内の電気信号に干渉してあらゆる情報を0と1に置き換えて掌握し余計なウィルスを削除した経歴を持つように、その演算能力は人間技を超えて常軌を逸した域に辿り着いている。

 天津サトリがスパコン『災害環境シミュレータ』を使って実現した未来予知を、一方通行(アクセラレータ)はただ自身の頭で計算するだけで実現してしまった。

 普段はこのように意識してベクトル計算以外の演算を行う事はないが、あらゆる要因を代入し解析する粒子加速器(アクセラレイター)としての本質はむしろこちらの方が近い。

(……なら、どォして俺は能力が使える……?) 

 モノクマは異世界から自分達を連れて来た、と言った。

 この発言を信じるならば、一方通行(アクセラレータ)が能力を行使できるのはおかしい。何故なら、彼は脳を損傷しており、1万人近い人間とネットワークで接続して脳の演算領域を借り受けなければ歩行すらままならないのだから。

(……この希望ヶ峰学園とやらが俺の世界に作られたなら矛盾はねェ。だが、あの白黒が言ったように異世界に連行された場合、『妹達(シスターズ)』もまとめて拉致られた可能性がある……)

 チラリと御坂の方を見やるが、発言は控えた。

 まだ確証はない。

 彼は無言で状況を把握する。

 獲得した未来の情景で、果たしてどう立ち回るべきか。

 

 

 

 

 

 

 そして、城山恭介もまた未来予知を実現していた。

 彼にはスパコンのような演算機器も、特殊な超能力も有していない。

 けれど、人の視線や筋肉の伸縮、筋の張り、表情筋から感情および思考の推測、そして外的要因を全て把握し、脳内で予測する。

 一方通行(アクセラレータ)の未来予知を将棋で例えるならば「全ての可能性を片っ端から計算するAI」だが、城山恭介の未来予知を例えるならば、それはプロ棋士の一手だ。経験と先読みに裏打ちされた極限まで最適化された思考フロー。それはコンピュータのようなマシンスペックではなかったが、辿り着く領域はそれに匹敵していた。

 しかし城山恭介当人に自覚はないだろう。それは召喚師にとっての職業病のようなもので、彼は普段から周囲1km圏内の構造物および人や自動車などの動きを常に掌握し、予測演算しながら日常生活を送っている。

 つまり、日常的に未来予知をしながら過ごすのが癖になっている。

 何気なく青空に浮かぶ雲を見上げて溜め息をつくように、今日も城山恭介は何気なく未来予知をして何となく溜め息をついた。彼にとっての認識はその程度で、天津サトリや一方通行(アクセラレータ)のような意識的な行為ではなかった。

 それでも、彼らと同じ答えに辿り着いた事実が、やはり彼の常人離れしたスペックを物語っている。

 

 天津サトリ、一方通行(アクセラレータ)、城山恭介の3名は、同時にとある人物が怪しい動きを見せた事に気付いていた。

 

 

 

 

 

 陣内忍クンの死を目の当たりにし、泣き腫らした目元を拭って刑事さんは言った。

「おい、舞!絶対に殺人なんかするんじゃないぞ!モノクマの言いなりになってたまるか!」

「はいはい分かってますよー。ったく、露骨に私を警戒しなくてもいいじゃん」

「俺一人の警戒でお前を抑えられるとは全く思ってないけどな」

「一人ならね」

「あん?」

 意味深な返事に刑事さんは戸惑っている。

 そうなんだよ、私を警戒してるのは刑事さんだけじゃない。体育館を出た辺りから私の一挙一動を観察してる連中がいる。自然に周囲を見渡した結果、3人の人間が私に注目している事に気付いた。

 天津サトリ(パソコンオタ)一方通行(陰気ホワイト)城山恭介(陰気レッド)、だ。

 間違いない。どうやって勘付いたかは分からないが、私の行動を封じるように警戒を強めている。

 陰謀術中なら私の十八番だと思っていたが、どうやら隠し玉を持ってる連中がちょこちょこいそうで、一筋縄でいかないかもなぁ。

 それにもう一人。

 金髪の軍人幼女もまた、私の動きを警戒していた。女子中学生からの英語通訳の説明を聞く振りをしながら、私の動作を観察している。

 こいつは明確な予測があった訳じゃなく、私が纏う『殺人者』の臭いを本能的に感じ取ったって感じかな。幼女の癖に、一体どんな過酷な人生歩んできてるんだ、全く。

 くっそう、いきなり15人中5人にマークされるとか私もツイてないなぁ!

 ぶっちゃけ私としては、最初から誰か一人ぶっ殺して拉致監禁しやがった黒幕の反応を伺おうと思ってたんだよねえ。けどまさか黒幕自ら登場してわざわざ「コロシアイしてください」なんて言われちゃったら、天邪鬼な舞ちゃんはむしろ意地でも殺したくなくなっちゃうぜ。

 さーて、どうするかなぁ。

 学級裁判だかなんだか知らないが、完全犯罪自体はいつも仕事でやってるし、ぶっちゃけ朝飯前。14人は色々と驚いてるらしいけど、私にとっては生温い日常だ。むしろ普段の任務より軽い。

 でもねえ。

 モノクマの言う通りに殺すのは何だか癪に障るし、5人にマークされたらさすがの私も動きづらいんだけど……

 まぁ、それならそれでやりようはあるし。

 せいぜい私を監視した気になっているがいいさ。後でまとめてお前ら全員を操り返してやるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 体育館を出て廊下を歩き、食堂、購買室、銭湯を抜けると寄宿舎のような空間が広がっていた。

 個室が16個用意されており、それぞれのドアにネームプレートが提げられていた。

「くっそ、電子錠になってやがる…」

 浜面くんが舌打ちしながら手にしていた針金を放り捨てた。

 七浄くんは困ったように、

「どうするよ?廊下に寝っ転がるか?」

「ぶーぶーはいつもそうしてるよ」

「私も構わんぞ」

 人身豚面のオークと自称天の使い様は平然と語ったが、さすがに誰も賛同はしない。みんな口には出さないけれど、やはりモノクマを操る黒幕が私達の中に潜んでいるのに無防備で睡眠を取るのは気が引けるのか。

「電子錠なら私の出番ね」

 美琴ちゃんはそう言ってみんなの前に出ると、前髪からバチバチと青白い電気を発する。

 すると、15個の電子錠が次々に開錠されていった。

「「「「「「おー……」」」」」」

 一同に歓声が上がる。

「私は電子や電磁波を操る超能力者だから。セキュリティ関連は任せて」

「美琴ちゃんがいて助かったよ!」

 喜ぶ私だったが、そこで刑事さんが思いがけない言葉を放った。

「でも、それはつまり御坂ちゃんは俺ら全員の個室にいつでも侵入できるって事だよね?」

「それは、そうだけど……」

 一瞬の沈黙。それは自然と疑心暗鬼を生んだ。

「なにそれ?私が誰かの部屋に侵入して人殺しをするって言いたい訳?」

「あくまで可能性の話だよ。俺らは初対面で、お互いを信用するにはまだ時間がかかる」

「だからって……!!」

「まぁまぁ御坂、落ち着けって」

 上条くんは二人をなだめると、場を仕切る様に皆の注目を集めた。

「御坂は絶対に人殺しなんてしねえよ。俺が保証する。それに、今ここで言い争いをしても仕方ないだろ?今晩は各自部屋に鍵をかけ、明日の朝に食堂でも集合しよう。モノクマを倒す作戦会議もそこで」

 上条くんの言う通りだ。けれど、

「鍵を自分で開け閉めできないんなら、やっぱ不安だよね……むしろみんなで一ヶ所に集まった方がいいのかな?」

「いや、俺は部屋で寝る」

 そう言ったのは一方通行(アクセラレータ)さんだった。

 本人は説明する気がないらしかったが、皆の視線が集まったせいで面倒臭そうに口を開いた。

「さっき学園内を探索した際にも確認したが、コンセントが存在するのは個室だけみてェだ。俺の首に巻いてる電極のバッテリーを充電してェ。オマエ達の都合には合わせられねェな」

 そうなると足並みが崩れる。一方通行(アクセラレータ)さん一人だけ残して皆で一ヶ所に集まって睡眠を取るのも手だが……

「いや、これスマホの電子リーダーで開け閉めできるみたいだよ」

 何やら電子錠を弄っていたサトリくんがそう呟いた。

 皆それぞれ、自分のネームプレートが提げられたドアの電子錠に自分のスマホをかざすと、カチリと開錠音がした。

「これならいけそうだな。……まぁ、第三位の信用が取れた訳じゃないけど」

 浜面くんの言葉が癇に障ったのか、美琴ちゃんが意地になって叫んだ。

「分かったわよ。じゃあ今晩は私は廊下で寝るから、誰か見張りを付ければいいんじゃない?」

「おい、御坂、何もそこまで、」

「別にいいわ。それでみんなが安心できるなら」

 意固地になった美琴ちゃんは頑なに意見を曲げない。

「ぶー。だったらぶーぶーが一緒にいるよ。もし悪い事をしそうだったらぶーぶーが止める」

「……どっちかっていうとお前の方が悪さしそうだけどな」

 七浄くんはそう呟くと、彼自身も手を上げた。

「二人じゃ心配だろ?俺も一緒に廊下で寝るわ」 

「……大丈夫か?君、超能力を持ってる訳でも人外な存在でもないんだろ?」

 サトリくんが心配そうに問いかけたが、むしろ七浄くんは自信満々に

「その点は安心していい。俺は()()()()から」

「……?」

 よく分からないが、何やら秘策があるらしかった。

「子供だけに任せられないな。……信用云々の話を持ち出しのも俺だし、言いだしっぺとして俺も同伴しよう。これでも警察官だ」

 結局、美琴ちゃん、ぶーぶーちゃん、七浄くん、刑事さんの4人が寄宿舎の廊下で睡眠を取る事になり、残った11人は個室で夜を明かす事になった。

「それじゃあ、また明日な」

「うん、おやすみ、上条くん」

 私は自分の部屋に入る。

 ビジネスホテルの一人部屋ぐらいの印象で、そんなに広くない。

 部屋にはトイレと浴場と洗面台を兼ねたバスルーム、テレビ、ベッドが備え付けられていた。

 クローゼットもあり、中を開くと私が今来ているのと同じ服がズラっと20着くらい用意されていた。

「……本気でここで共同生活させる気なの?」

 溜め息をついて、とりあえずシャワーを浴びる。

 ベッドの上にあった寝間着に着替えて、ベッドに入る。

 おかしなことが続けさまに起き、頭が飽和しそうになった。

 不安で寝付けない私の横で、テレビの電源が勝手に付いた。

「な、なに……!?」

 テレビ画面にはモノクマが映し出された。何やらテレビ番組のVTRみたいな映像が流れ出す。

『うぷぷぷぷ……それでは記念すべき第一回の動機の提供タイーム!!今からオマエラの疑問にお答えしちゃいまーす!オマエラ、やっぱ家族とか親友とかが心配だよね?そこでボクは、オマエラの親しい人間から応援メッセージを頂きましたー!それでは、どうぞ!!』

 モノクマの指パッチンと同時に、VTRが流れ出した。

 そこには―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その映像を、一方通行(アクセラレータ)も眺めていた。

 思考が空白に染まる。

 テレビ画面に映し出されたのは、茶髪の中学生達だった。制服を着てルーズソックスを履き、頭には何かのゴーグルをかけている。

 彼女達は顔のみならず外見まで全て同じで、全員が血塗れになって倒れていた。

『うぷぷぷ……さて、一体彼女達はどうしてこうなったのでしょうか?なぜこうなったのか、それはこの学園から「卒業」しないと分からないけどね。うぷぷぷ……』

「、そが……」

 一方通行(アクセラレータ)がミシミシと拳を握りしめていた。

「クソったれがァァァぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 同じように、テレビ画面に移った白百合ドレスの少女を目にしたヘイヴィア=ウィンチェルも、体を小刻みに震わせていた。

 拷問され薬を注射され、瞳孔がかっ開いて半端に開いた口から涎がぼとぼとと垂れていた。あまつさえ、彼女の周囲には男達が集まり、彼女のドレスを破いている。

 VTRは途中で途切れ、最期まで録画映像を彼に見せなかった。

『うぷぷぷ……真相は「卒業」の後で!』

 面白くてしょうがないといった邪悪な笑みを浮かべるモノクマを見て、ヘイヴィアは感情を失った顔でポツリと呟いた。

「……ブチコロス」

 

 

 

 

 

 

 上条当麻もVTRを目撃していた。

 テレビ画面に移る真っ白な修道女。彼女が何者かに攫われる一部始終が録画されていた。

「くそ……ッッ!!」

 ガン!と思わず壁を殴りつける。思考が沸騰して、ねばねばとドス黒い怒りが全身を支配しかける。

 それを自覚し、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

「焦ってどうする……この映像が本物とは限らない。これはモノクマの罠だ。釣られちゃいけない」

 何度も自分に言い聞かせる。

 それでも、頭の片隅に刻み込まれた少女の恐怖に染まった顔が、上条は忘れられなかった。

 

 

 

 

 

 

 菱神舞は笑っていた。

「ふーん、随分と面白い真似してくれるじゃん。畜生、やり口が私とそっくりで同族嫌悪しちゃうぜ」

 テレビの電源を落とし、ベッドに入り直す。

「さーて、どう立ち回りますかねぇ……()()()()()()()()()()()()()()か」

 ある意味で、モノクマよりも凄惨な笑みを浮かべて自身の思考に耽っていく。

 

 

 

 

 

『全員の部屋にハッキングを仕掛け、全員分のVTRを入手しました』

「よくやった。今から確認しよう」

 天津サトリはマクスウェルを使用し、16人全員分のVTRを入手していた。

「……手が込んでるな。一人一人、違った人質を取って映像を作ってる。これってモノクマを操る黒幕がぼく達全ての世界に干渉してるって事だよな?」

『シュア。ただし憶測に過ぎません。そもそも異世界を証明する手段も存在しません』

「まぁ、それはそうだけど……」

 情報は多いに越したことはない。

 16人全てのVTRを眺めていた天津サトリが最後の一人の映像を確認している時だった。

『ユーザー様。このVTRだけ他とは異なっています』

「ん?おかしな点はなかったけど?」

『人間では視認不可能なように、0.001秒のコマ送りでサブリミナル的に別映像が挿し込まれています』

「テレビをハックして、スローモーションで再生できるか?できれば、別映像のコマを繋ぎ合わせて連続再生して欲しい」

『シュア。実行します』

 VTRには、真っ白な少女の映像が挿し込まれていた。

「……なんか口を動かしてるな。マクスウェル、口の動きから何て喋ってるか解析してくれ」

『シュア』

 VTRに移る真っ白な少女の唇の動きに合わせて、スマホ画面に単語が表記されていく。

 

 

 

           わ

 

 

 

           た

 

 

 

           し

 

 

 

           の

 

 

 

           な

 

 

 

           ま

 

 

 

           え

 

 

 

           は

 

 

 

           お

 

 

 

           ぶ

 

 

 

           じ

 

 

 

           ぇ

 

 

 

           く

 

 

 

           て

 

 

 

           ぃ

 

 

 

           ぶ

 

 

 

           あ

 

 

 

           り

 

 

 

           す

 

 

 

           い

 

 

 

           ま

 

 

 

           あ

 

 

 

           な

 

 

 

           た

 

 

 

 

           の

 

 

 

           う

 

 

 

           し

 

 

 

           ろ

 

 

 

           に

 

 

 

           い

 

 

 

           る

 

 

 

           の

 

 

 

 トントンと、サトリの肩が何者かに叩かれた。

「……え?」

 この部屋には鍵をかけているはずで、自分以外に人は存在しない。

 彼はゆっくりと、背中を振り返った。

 そこには――――――

 

 

 

 

 

 

 

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