もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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 物理とはヌケボーであり、ヌケボーとは物理である。

 よってヌケボー=物理という方程式が成立します!


第十四話 物理とは未知なるものである by翔

 翔は暗い夜色に包まれた空間で、黄昏ていた。

 

「………なんでこんなことに、なってんだろうなぁ………いや、本当に」

 

 そう呟く翔の前には、何十人もの巨人族が倒れ伏している。

 

「………こんなつもりじゃ、なかったんだけどなぁ………」

 

 しみじみと感慨深く呟く翔。

 事の発端は少し前のこと。十年前に〝アンダーウッド〟を襲った魔王、巨人族が襲撃してきたときにまで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 突如響き渡った激震が、巨人達の襲撃を知らせた。勿論翔は真っ先に行動し、誰よりも早く宿を飛び出した。

 そして、巨人族の襲撃で最も被害を受けていると思われる場所へと来た。

 

「………………物理演算砲って、こうだったか?」

 

 ある程度広さのある場所で、腕を組み首を傾げていた。

 いくつかのオブジェクトを組み合わせて砲台のようなものを組み立てる。

 

「弾はゴミ箱先輩でもいいけど、ここはオーソドックスに鉄球でいいか」

 

 何がオーソドックスなのか、まったくもって分からないが、早く戦えと周りの者たちは思っていた。そこへ一人の巨人族が、翔へと襲い掛かる。それに気づいた翔は、

 

「カーモが来た、っと!」

 

 問答無用で鉄球を射出する。本来ならばあまり勢いはないはずなのだが、スケーターも真っ青な勢いで射出される鉄球。そしてその鉄球は、

 

「――――――――ッッッッッ!!!?!?!?」

「あっ………………」

『うっ………………』

 

 巨人の局部に命中した。おまけに、プチュ、という男性からすれば絶対聞きたくない音も聞こえた。巨人は内股になり、手で局部を押さえ、そのまま地面へと倒れ伏して痙攣する。

 それを見ていた巨人族、そして必死に戦っている〝アンダーウッド〟の者たちも動きを止めてしまう。彼らもまた、内股になり自身の息子を押さえる。

 

「『『………………』』」

 

 翔のことを見つめる巨人族と〝アンダーウッド〟の同士。翔も彼らのことを見つめ返す。翔自身も予想外だったのか唖然としている。しかしすぐに、表情を戻して気を引き締め直す。

 

「………あー………えーっと………つ、次にタマ潰されてぇ巨人はどいつだッ!?まあ、申し出なくても問答無用で潰すんだけどッ!!」

『『『オ、オオオオオオォォォォォォ――――――!!!?!?!?』』』

 

 悲鳴なのか、怒声なのか。いや、おそらくは悲鳴だろう。速攻で翔を潰そうと群がり突進してくる巨人族達。

 それを見た翔は、()()()物理演算砲から鉄球を射出した。無論巨人族達は、最初の巨人のようにならないために手で大事なところをガードしている。しかし、

 

「物理演算砲に、常識は通用しねえ……………………たぶん」

 

 翔の言う通り?射出された鉄球は、巨人族の手をすり抜け的確にタマを打ち抜く。すべてだ。全ての鉄球が的確に打ち抜いた。何故かは知らないが、直進ではなく不規則な弾道でだ。

 

 ある鉄球は直角に曲がり。

 

 別の鉄球はバウンドして。

 

 また別の鉄球はUターンして。

 

 それら全てが的確に巨人の息子を潰した。

 

 そして響き渡る、複数の何かが潰れる音。それを聞いた〝アンダーウッド〟の男性達が自身の息子を押さえる。

 そうして彼の前にできた巨人族の死屍累々。いや、死んではいないのだが。だが、現在進行形で先ほどまで翔の所行に戦々恐々していた男性達の手で止めを刺され、もしくは苦痛からの救済が行われて、死体に変わっているので問題はないだろう。

 翔はその光景を見ながら、地面に胡坐をかき、頬杖をついて呟く。

 

「……………………こんなはずじゃあ、なかったのになぁ……………………」

 

 明後日の方向を向きながら、しみじみと呟いた。

 そんな彼の周りには()()ほどの物理演算砲が、建設されていた。

 彼が参加した戦場は負傷者も少なく、街への被害も最小の戦場であった。ただし、男性達へのトラウマを刻み込む結果となってしまったが………。

 ………………………物理って、なんだっけ?物理演算って、なんだったか?そんな疑問を男性達の頭に残した翔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ———〝アンダーウッドの地下都市〟宿舎の瓦礫前。

 瓦礫の回収作業は既に始まっていた。巨人達の強襲から一時間。前夜祭の間に建て直さねばならないことも考えれば、一分一秒が惜しいのだろう。

 そこへ耀と飛鳥はやってきていた。目的は勿論十六夜のヘッドホンの捜索だ。こんな忙しい中でも耀のお願いを聞いてくれたのは、南側の住人の大らかな気質のおかげだろう。

 しかし無残にも砕け散ったヘッドホンの残骸を見るや否や、飛鳥は即答で、

 

「諦めましょう」

「………。ええと、もう少し頑張ってみない?」

「無理よ。元の形に戻すなんて物理的に無理」

「物理的におかしい翔でも無理かな?」

「………………………………………………きっと無理よ。直すことよりも、十六夜君の機嫌をとる方向で考えましょう」

 

 翔のことを出されて言葉に詰まりながらも、他の手を探そうと提案をする飛鳥。物理的におかしい翔ならば非物理的な方法で解決、と一瞬だけでも考えてしまったのだろう。だが残念ながら、いくら翔でもここまで壊れてしまったものを直すことはできない。

 耀は何としても元に戻したかったが………そうそう都合のいいことはない。

 大半が粉々になっているヘッドホンを直すのは、復元の類のギフトが無ければ難しいだろう。そんなギフトがあるのかどうかも怪しいのだが。

 

「でも………機嫌を取るって、どうやってとるの?」

「そうね。第一候補としては………ラビットイーターを、黒ウサギとセットで贈」

「るわけないでしょうこのお馬鹿様!!!」

 

 スパァーン!と背後からハリセン一閃。

 耀は目を丸くして驚き、

 

「それ、名案!」

「ボケ倒すのも大概になさい!!!」

 

 スパパァーン!と更にハリセン一閃。此処に翔がいなかっただけマシであろう。もしもいたならば、もっと場を搔き乱していたはずだ。

 どうやらジンとジャックと共にサラの元から帰ってきたようだ。三人は十年前にここ、〝アンダーウッド〟を襲った魔王である巨人族について話を聞いてきたのだ。それに加えて報酬の話もだ。そして、〝黒死斑の魔王〟のゲームの全ての勝利条件を満たしてクリアした報酬の受け取りもだ。

 ジンの片腕には、しょんぼりした三毛猫が抱かれていた。

 

「全くもう………耀さんっ。詳しいお話は、三毛猫さんよりお聞きしましたよっ!どうして黒ウサギに相談して下さらなかったのですか!?」

「え、えっと………巨人族が襲ってきてそれどころじゃ、」

「その話ではありませんっ!収穫祭の滞在日数の事でございます!相談してくだされば皆さんも耀さんを優先的に参加させました!なのにどうして相談してくれなかったのですかっ!?戦果を誤魔化すほど悩んでいたのならなおさらですっ!」

 

 ハッと耀と飛鳥は互いを見る。

 そして二人の視線は、自然にジャックへ向けられた。

 ジャックは気まずそうに頭をポリポリと掻いていた。

 二人は今度は半泣きの黒ウサギを見て、俯いてしまう。

 収穫祭の前に参加した〝ウィル・オ・ウィスプ〟のゲームは、耀と飛鳥の二人で参加し勝ち取ったものであった。

 飛鳥は堪らず、前に出て弁明した。

 

「ち、違うのよ黒ウサギ!春日部さんに話を持ち掛けたのは私で………!」

「違う。私が悩んでいたから飛鳥が気を遣ってくれて、」

「………いえ。そんな気を遣わせたのは、黒ウサギにも責任がございます。本当に………申し訳ありません」

 

 三者三様に頭を下げる。

 ジンは三毛猫を抱いたまま耀に近寄り、小首を傾げて問う。

 

「ヘッドホンは、駄目そうですか?」

「………うん。本当にごめん……なさい」

「いえ、壊れてしまったものは仕方がありません。直せないなら他の方法で手を打つしかありません。僕から代案がありますので、後で聞いてもらえますか?」

 

 ジンの突然の言葉に、耀は驚いて顔を上げる。まさか彼から提案があるとは思っていなかったのだろう。

 

「ですが、その前に翔さんを知りませんか?僕はてっきりお二人と一緒にいると思っていたのですが」

「………?襲撃前は部屋にいたと思ったけど、それ以降は見てないわね」

「………うん。私も見てない」

 

 顔を見合わせる一同。それを聞いて、深いため息を吐くジン。

 

「………なんだか、嫌な予感しかしないのは僕だけですか?」

「さ、さあ?どうでございましょう?いくら翔さんといえど、この緊急事態の中では―――」

 

 そこまで言った黒ウサギの脳裏に、過去の翔の行動がフラッシュバックされる。

 

「―――大人しくしているとは、断言ができないのデスヨ………」

「………そうね。彼はこういう時こそ放っておくと危ないわね」

「うん。早く見つけて拘束しないと」

 

 と、その時。緊急を知らせる鐘の音が〝アンダーウッド〟に響き渡った。

 網目模様の樹の根から飛び降りてきた樹霊の少女が、

 

「大変です!巨人族がかつてない大軍を率いて………〝アンダーウッド〟を強襲し始めました!そしてゴミ箱が巨人族を食べちゃいました!」

 

 嫌な予感が的中した。いい意味でも、悪い意味でも、だ。

 

 

 

 樹の根から出た耀たちが見たのは、半ば壊滅状態になっている〝一本角〟と〝五爪〟の同士達―――ではなく一面に倒れ伏す巨人族であった。逆に〝一本角〟や〝五爪〟の同士の姿は全く見えない。

 警戒の鐘が鳴らされてからほんの僅かな時間に、一体何があったのか。

 耀たちが面くらって驚いていると、空から旋風と共にグリーが舞い降りてきた。相当慌てているようであった。

 隣に降り立ったグリーは血相を変えて訴えた。

 

『耀………!今すぐここから離れろッ!』

「え?」

『これ以上近づくと彼奴らの戦闘に巻き込まれるぞッ!ここはいいから別の区画の応援に………!』

 

 グリーが叫ぶ中、琴線を弾く音が響いた。

 琴線を弾く音は二度三度と重なるが、特に変化があるようには見えない。しかし、音源から離れているはずの耀達は、意識が飛びそうになった。

 そして、怒声が響く。

 

「やっかましいわッ!!耳障りなんだよオォッ!!!全物理演算砲!!!目標は巨人族及び竪琴の奏者ァ!!一斉イィ掃射アァ!!!!」

 

 そしてすぐに巨人族が倒れたことによる地鳴りが響き渡る。かろうじて見えたのは、鉄球によって倒される巨人族と、円柱状の小さな何かに9mはあるはずの巨人族が吞みこまれる光景であった。

 〝ノーネーム〟の面々からすれば物凄く聞きなれた声だ。

 

『あの音色で見張りの意識を奪われたが、翔という少年が即座に対処をして、二度目の奇襲は免れた!現在、彼と仮面の騎士が戦線を支えている!今のところはこちらが優勢だが、いつまで持つかは分からない!だが、下手に近づくと()()()()()とやらに巻き込まれる故、後方で待機していろと少年からの指示だ!』

 

 耀、飛鳥、黒ウサギ、ジンの四人は痛む頭を押さえる。

 こうなったのには翔が少し前に決行した作戦が原因であった。

 

 

 

 

 

 

 

 一回目の襲撃の後、負傷者を運んでいく男性達を見送り、胡坐をかいて一人寂しく水樹の外周を監視する翔。そして、考察を始める。

 

「………まず、なんで9mもの巨人が中にまで入ってこれたんだ?あんなの大群で近づいてくれば、誰かしら気が付くはずだろうし………。というかまず、あの巨人族達は何者なんだ?何が目的でここに………?あー、情報皆無すぎてクソ考察しかできないー………もうちょいサラと話しとけば、もう少しまともな考察ができたかもしれなかったかー………」

 

 上体を後ろに倒して寝転がる。

 

「というか、皆どこだよー?はぐれた、というよりは俺が先走り過ぎただけだけど………それでもどうにか合流したいなあー………」

 

 ボケーとしながらそう呟く翔。

 

「………でも、襲撃はこれじゃ終わんねえよな………すぐに鎮圧されたみたいだし、次があると考えてもおかしくはない、よな?………でも、ここで一人寂しく見張ってるのもなあ………」

 

 そう考えていると、翔の脳裏に一つの妙案が浮かんだ。

 

「………今のうちにゴミ箱先輩を外周部各所に設置しまくるか………それと物理演算砲も今のうちに量産しとくべき?」

 

 しばらく目を瞑り、独り言をやめて考え込む翔。そして、目を開けると勢いよく立ち上がる。

 

「二次災害なんぞ知ったことかッ!俺はやりたいようにやるぞ!!たとえ味方がゴミ箱先輩に喰われたとしても、俺は知らんッ!!喰われる方が悪い!!もしくはリスポーンできない奴らが悪い!!物理演算砲が暴発するかもとかどうでもいいわ!!」

 

 もしもそこに黒ウサギがいたならば、伝家の宝刀・ハリセンで死ぬまで叩かれていたと思われることを叫ぶ翔。そして、その恐るべき妙案を実行に移すべくスケボーに乗り、超加速でゴミ箱先輩を設置しながら走行する。その片手間に物理演算砲も水樹の外周部に建設していく。

 こうして、ゴミ箱先輩物量押し作戦(翔命名)という見境のない、とんでも作戦が実行された。こんな作戦が画策・実行されているとは、この時はまだ翔以外には誰も知り得ないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在。そんなとんでも作戦の一部を知った一同。口からは文句は出てこず、ため息しか出てこない。

 だが、今の翔はちょっと………いや、かなり暴走している。原因としてはある一体の巨人であった。

 

「オオオオオオォォォォォォッッッ!!!」

「うるっせえんだよ!!!?テメエもタマを潰されてえのか!!!?それならかかってこいや!!!二個とも潰してやるからよオォッ!!!!それともゴミ箱先輩にくわせてやろうかあッ!!?アぁッ!?」

「オオウ………………………」

「分かればいいんだよ、分かればッ!!!それならさっさとそこのドM変態野郎をどっか遠くに捨ててこい!!!ついでにそいつが【自主規制】した【放送禁止】も掃除しろ!!!!ンな汚いもん見せられたこっちの身にもなれや!!!!あアァっ!そこの奴!!射線の邪魔だ!!さもなきゃ潰すぞ!!!それが嫌ならこの喧しい音の奏者を此処に連れてこいやアアアアァァァ!!!!!!」

 

 ………翔の声と思われる支離滅裂な発言に対し、もう一度溜息を吐く一同。

 遠目からだが、巨人が巨人をどこかへ運んでいく光景が確認できる。翔の指示通りに動いている巨人族を見て、三度目のため息を吐く〝ノーネーム〟メンバー。

 翔が暴走しているのは、ドM変態野郎と呼ばれている巨人。彼が原因だ。

 彼は一番最初に翔へと襲い掛かり、カウンター気味に撃ち込まれた鉄球が息子に直撃し、プチュ、と潰れる音がした。そう。男性ならば激痛で気絶するか悶絶するはずだ。しかし、その巨人が恍惚とした表情をしたと思うと、【自主規制】して白くベタつくナニカを出したのだ。

 これには翔、そして仮面の騎士でさえもが顔を赤面させて呆然とした。そして、そんな汚物を見せられた翔は頭の中が真っ白になり、暴走を開始したのだ。

 その結果が、現在の戦線である。

 ………仮面の騎士?巻き込まれないようにちまちま巨人を倒していますが、なにか?

 

「………恐怖政治みたい」

「………もう、翔君だけでいいんじゃないかしら?」

「………そうもいかないですよ。この音色の元を絶たなければ「オイそこのクソローブ!!待ちやがれやッ!!ゴミ箱先輩射出ゥ!!!!オラ竪琴置いてけエッ!!!!」絶た、なければ………」

 

 聞こえてくる翔の声に、あれ?彼一人で大丈夫なのでは?と思ってしまったジンであった。しかし、すぐに翔の悔しがる声が聞こえてくる。

 

「クッソ!?逃がした!!何処に行きやがッた!!?おい!!巨人ども!!探すの手伝えや!!!」

「「「「「……………………」」」」」

「………チッ」

 

 動かない巨人達を見て舌打ちをする暴走している翔。そしてすぐに一人の巨人が悲鳴を上げる。

 

「オグゥッ―――――――!!!?!?!?」

「「「「!?」」」」

 

 翔の物理演算砲によって息子が殺されたのだ。

 

「次に息子を潰されてえ奴はドイツだ!?アァッ!?コイツみてえになりたくなきゃ、あのローブを探せッ!!!あわよくば俺ンとこに連れてこいッ!!」

「「「「オ、オオオオオオォォォォォォ!!!!」」」」

「最初っからそうしてりゃ良いんだよッ!!!この脳筋どもがッ!!!!」

 

 翔の怒鳴る声が此処まで響き渡ってくる。かなりイライラしているようだ。

 しかし、立ち込める霧のせいで奏者を探すのに手間取っているようだ。

 

「………耀さん。竪琴の術者を破るのだけでも手伝ってあげませんか?そのためには貴女の力が必要なようです」

 

 疲れたような表情でジンが耀に話を持ち掛ける。

 

「………うん。わかった」

 

 そんなジンの言葉に苦笑気味に頷く耀。

 

 

 

 そして耀は指示された通り、上空でジンの合図を待った。

 その高度、約1000m。巨躯の〝アンダーウッド〟よりも更に高い。

 敵に見つからない位置にまで上昇し、混乱が起きるのを待つ。いや、翔のおかげで(せいで)もう既にかなり混乱しているのだが。

 鷹の目を持つ耀には下の様子がありありと分かったが、巨人族には耀を捉えることはできないだろう。

 上空からは白い円柱状の物体や鉄球が飛び交っているのが、よく見えた。そして、翔の支援に回っている幻獣達の姿も。

 この作戦が終わったら、あの幻獣達と友達になりたいな。

 そんなことを考えて、微笑を浮かべた。

 

 

 

 その間、ジン達は出来るだけ前線に移動していた。グリーの背中を借りて低空飛行を続けながら巨人族の合間、ではなく巨人族によって作られた一本道を進んでいた。

 

「よーし!そのままグリフォンを前線に送れ!!もしも攻撃してみろ!!?その瞬間に貴様らの大事な部分が死ぬと思え!!!」

「………うん。本当に僕たちは必要だったんでしょうか?」

 

 なぜか翔が統率している巨人族によって作られた道を進みながら呟くジン。

 そんな呟きを無視して、飛鳥が長い髪を押さえながらジンに問う。

 

「ジン君!この辺りでどう!?」

「え、は、はい!これだけ敵陣に踏み込めば―――!」

「ウオオオ………オ……オォ……………」

 

 足を止めた途端、一体の巨人が大剣を振りかぶったが、プチュ、という音がして、後ろへと倒れた。

 そして、翔からブチッ、と何かが切れる音が聞こえる。

 

「攻撃すんなって、言っただろうがああああぁぁぁッ!!!!」

 

 翔の無差別攻撃が、巨人族を襲う。そして、巨人族は今ジン達を攻撃した巨人族を責めるような眼で睨む。

 ジンは唖然としながらも、〝グリモワール・ハーメルン〟の指輪を嵌めた右腕を掲げた。

 

「れ、隷属の契りに従い、再び顕現せよ―――〝黒死斑の御子〟――――――ッ!!!」

 

 刹那、漆黒の風が戦場に吹雪いた。

 蠢くように生物的で、不吉を具現化させたような黒い風は、瞬く間に戦場を駆け抜けていく。召喚の円陣には笛吹き道化の旗印が刻まれ、その中心へと黒い風が圧縮される。

 やがて人型へと変化していく黒い風は、圧縮された全ての空気を放出して爆ぜた。

 爆心地は白と黒の斑模様の光が溢れ、その中から顕現したモノは―――

 

「―――――――何処に逃げたの、白夜叉ああああああああああああッぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「…………………………アァ?」

 

 戦場とは無関係の駄神の名を叫び。

 一瞬で一〇〇の巨人族を薙ぎ払―――わなかった。

 なぜ?視界に恐怖と憎悪の対象、板乗翔の姿が映ったからだ。

 翔も彼女の声を聞いて、ドスの効いた声を上げる。

 

「ここで会ったが百年目ッ!!!前の借りを返させてもらうわ―――――――――!!!!」

「上等だこのクソアマッ!!!前みたいに泣かしてやんよ!!!精々地面に額を擦りつけて許しを乞えや―――――――――!!!!」

 

 巨人族そっちのけで、激突する翔とペスト。結果的にその余波で一〇〇の巨人族が吹き飛んだのでオールOKだろう。

 一瞬面食らった飛鳥だが、流石に何を召喚したのか気が付いた。

 

「ちょ、ちょっと待って!新しいギフトって、〝黒死斑の魔王〟なの!?」

「YES!ハーメルンの魔道書から切り離されているため神霊ではなくなっていますが、大戦力であることは、間違いなかったのデスヨ………」

「黒死病を操る力を持っているから、ケルトの巨人族には抜群の効き目があると踏んだのですが……………」

 

 衝突している翔とペストを見て、微妙な表情をするジン。

 しかし結果としては巨人族が次々と倒れているから、問題はないだろう。

 

「あの時の私とは違うわッ!!お前のあの恐怖は克服したのよ!!!」

「へえ!?そりゃよかったな!!?なら今度はゴミ箱に喰われる恐怖でも教えてやろうかアッ!!!?」

「そんなのを味わう前にアンタを殺し尽くしてみせるわよ!!!」

「ハッ!!なんだなんだァ!?服装と相まって、性格もちょっと可愛らしくなったってのかァ、オイ!!!」

「ッ!?こ、これは白夜叉が無理やり着せたのよ!!!ていうか、見るなああああぁぁぁッ!!!!?」

 

 翔に指摘されて、顔を赤らめるペスト。

 黒い風に吞まれている翔とペスト。そのため、現在彼女の服装を確認できていないジン達。

 

「戦場で敵を見ねえ、なんて馬鹿げたことできるわけねえだろうがよオッ!!!そんならお前が俺の視界に入んなきゃいいだろうがッ!!!!」

「五月蠅い五月蠅い五月蠅い!!!見られたからにはお前を殺す!!!!殺し尽くすッ!!!!」

「やれるもんならやってみろやア!!!!」

 

 羞恥で顔を赤く染めたまま、翔を攻撃する。それを地面に潜ったりリスポーンしたりして巧みに避ける翔。

 避けつつもペストにゴミ箱先輩や鉄球を飛ばす翔。それをひらりひらりとと避けるペスト。避けられた鉄球は行き場を無くして、仕方なく巨人族の股間に命中する。ゴミ箱先輩も仕方なく巨人族を捕食する。

 一見、二人だけで戦っているように見えるが、周りの巨人族は余波で順調に倒れている。

 

「ウオオオオオオオオッォォォォォォ――――――――!!!」

「「五月蠅いッ!!!!!」」

 

 翔の鉄球とペストの腕の一振りで、二人に攻撃しようとした巨人族が吹き飛ぶ。それはもう物理演算がおかしいほどに勢いよく、他の巨人族を巻き込みながら吹き飛んでいく。

 二人は一瞬、視線を合わせる。

 

「チッ。テメエとの殺し合いは後だ!!!周りが鬱陶しすぎる!!!!」

「心底不本意だけど、貴方の意見に賛成だわ!!!!」

「「「「ウオオオオオオッォォォォォォ―――――――!!!」」」」

「「俺達の(私たちの)邪魔を、するなッッッッッ!!!!!!」」

 

 仲がいいのか悪いのかわからない二人が、息ぴったりの攻撃を繰り出す。

 翔が鉄球とゴミ箱先輩を出現させると、ペストが風でそれらを巻き込みながら巨人族を薙ぎ払う。

 

「テメッ!?俺まで攻撃対象に含んでんじゃねえよ!!!ちっとは共闘してやろうっていう誠意を見せやがれッ!!?」

「そんなの知らないわよ!!!自分でどうにかしなさい!!!」

「ふざっけんな!!?ちょっと許してやろうかと思ったが、やっぱテメエはゴミ箱に喰わせる!!!!そしてそのままくたばれ!!!!」

「あら!?今ならここで貴方を殺しても巻き添えってことで通せるかしらね!?」

「………やっぱ殺す!!!巨人族なんぞ知るかッ!!!」

「やってみなさいよ、この変態機動が!!!」

 

 彼らの結託は一瞬で崩れ去り、罵声の浴びせ合いを続ける二人。

 しかしそんな攻撃の最中、ペストの服装が垣間見えたジン達。

 

「………メイド服でしたね」

「………フリフリのメイド服だったわね」

「白夜叉様………」

 

 ホロリ、と同情の涙をペストに向ける黒ウサギ。

 そして、二人の手(余波)によって巨人族が殲滅されていく。

 すると予定通り、琴線を弾く音が聞こえた。前回の戦闘と同じように濃霧が一帯を包み込んで行き、視界の全てが奪われていく。

 ジンは二人の激突は想定外だが、予定通りの状況へ運べたことに安堵、生きてきて最大の安堵といってもいいほど安堵した。

 

 その後、耀が〝黄金の竪琴〟をローブの人物から奪い取って、勝敗が決した。

 

 

 

 

 

 

 

 ———〝アンダーウッドの地下都市〟新宿舎。

 次の日の朝。耀達〝ノーネーム〟を迎えたのは、例の仮面の女性だった。ジンの言っていたヘッドホンの代わりについて話のようだ。ジンの言っていた代替案とは、異世界から代わりとなるヘッドホンを召喚するという物らしい。耀の家にちょうど十六夜のヘッドホンと同じメーカーのものがあるらしい。

 

「………昨日の記憶が物凄く曖昧だ………巨人族の襲撃があったのは覚えているが、それ以降は一体何があったんだ………?」

「あははは………」

 

 鈍痛がする頭を押さえながら呟く翔。それを信じられないといった様子で見つめる一同。

 結局、翔とペストの喧嘩は、前回同様ペストがガチ泣きするまで続いたのだ。

 ゴミ箱に喰われ、地面に埋められ、ゲッダンダンスで追いかけまわされた挙句、ペストの負けでその場は収拾したのだ。

 ペストは涙を流しながら、「覚えてなさいよ!」という三下の敵キャラじみた捨て台詞を吐き捨てて、ジンの右手の指へと戻っていった。

 その直後に疲れていたのか、気を失って倒れた翔を新宿舎まで運び込んで、休ませたのだ。

 

「………なにか、嫌なものを見て頭の中が真っ白になって………くそ、そこからが思い出せない………」

「思い出さなくていいよ」

「そうよ。翔君は十分すぎる活躍をしたとだけ覚えておけばいいのよ」

 

 耀と飛鳥の二人がそのように言う。それでも首を傾げて、必死に昨日の出来事を思い出そうとする翔。でもすぐにどうでもよくなったのか、考えるのをやめた。

 

「………悪い。頭痛が酷いからお前らだけで行ってくれ。それと仮面の騎士に昨日は助かったとも伝えといてくれ」

「うん。わかった。でもその頭痛って、リスポーンでもどうにもならなかったの?」

「無理だった。外傷とかじゃなくて精神的なもんだから、順応するまで休むしかない」

 

 そういって、宿舎の中に戻る翔。

 

「………昨日の荒れ具合は一体何だったのでございましょうか?」

「………さあ。でも、何かを見て怒り狂ったんじゃないかな?頭の中が真っ白になったって言ってるし………」

「………そうかもしれないわね。戦闘中はずっと怒鳴っていたもの」

「………翔さんは今までにないほど頑張ってくれましたから、一日くらい休ませてあげましょうか」

 

 一同がジンの意見に賛同して、フェイス・レスの案内に従って召喚の儀式が行われる場所まで向かった。

 

 

 

 しかしまだ、事は始まったばかりである。

 琴線の弾く音で翔は目を覚ました。

 

「………だーよねー。そう簡単に面倒事が終わるわけないよねー………。あー、逃げたい。これだから本拠に残りたかったのに。一体誰だよ。こんな面倒事を引き寄せる馬鹿は?」

 

 ここに〝ノーネーム〟の誰かが居たら、お前もその一人だと告げていただろう。

 寝て起きたら彼の頭痛も治まり、体調()万全であったが、彼の気分は最悪だった。

 

 

 

『ギフトゲーム〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING〟

 

・プレイヤー一覧

 ・獣の帯に巻かれた全ての生命体

 ※ただし獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断する

 

・プレイヤー側敗北条件

 ・なし(死亡も敗北と認めず)

 

・プレイヤー側禁止事項

 ・なし

 

・プレイヤー側ペナルティ条項

 ・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。

 ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

 ・ペナルティは〝串刺し刑〟〝磔刑〟〝焚刑〟からランダムに選出。

 ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

 ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課される。

 

・ホストマスター側 勝利条件

 ・なし

 

・プレイヤー側 勝利条件

 一、ゲームマスター・〝魔王ドラキュラ〟の殺害。

 二、ゲームマスター・〝レティシア=ドラクレア〟の殺害。

 三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。

 四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 〝       〟印』

 




【物理演算砲】
 本来ならそこまでの勢いはないはずのボーリング用砲台。翔のギフトと相まってスケーターもびっくりな加速力で、文字通り敵を玉砕した。
 今回の総計建設数は一一〇〇機。一回目の襲撃で一〇〇機。二回目で一〇〇〇機。ほぼ自動装填及び自動射出。

【巨人族】
 Q.巨人族に男性の大事なアレがあるの?
 A.きっとある。というかこの小説ではあるんです。そういうことにしておいて下さいお願いします。

【【自主規制】した【放送禁止】】
 ある巨人(ドM変態野郎)のタマを潰した際に、そいつが恍惚として出した白くベタつく何か。翔のブチ切れの原因。二回目の襲撃の最初の物理演算砲の被害者。

【ゴミ箱先輩】
 質量や体積に関係なく相手を捕食する最強の無機物。今回は一〇〇〇個の先輩を外周部に設置。死角はなかった。
「巨人族は食べごたえがあったが、やっぱりスケーターの方が味はいい」byゴミ箱先輩

【恐怖政治】
 金的は怖いよね?男性なら分かるよね?なら、潰される痛みも、想像できるよね?

【ブチ切れ翔君】
 激しい怒りにより自身のギフトを十二全に使いこなす最強のヌケーターと化した翔。
 もしくは妖怪・竪琴置いてけ。
 口調や性格が悪くなり好戦的になる。怒声を撒き散らす上、残虐なこと(金的)などもいとも簡単に行える存在と化す。
 翌日は頭痛が酷く、記憶が混濁している。
 今後出ることは限りなく少ない(あまり考えてない)。
 原因は上記の通り汚物を見せられたから。


 なんで暴走翔君はこんなに強いのって?
 理由としてはギフトの〝物理演算(デバッグ)〟を十二全に使いこなせば、()()()()を自分で設定できる上に操れます。それゆえに鉄球を自由自在に動かすことも出来ますし、敵の攻撃に当たることもありません。頑張れば第一永久機関から第三永久機関も作れますが、暴走翔君状態では作るつもりも余裕も知識もない。平常時の翔に至っては、まずギフトを一~二割ほどしか使いこなせていない上に、その発動もほぼ偶然の産物ゆえに論外。だが、攻撃手段は鉄球かゴミ箱先輩、植物の化身ベニヤ板先輩を操って攻撃する。物理法則を狂わせて殴った方が強そうだけど、手数が多いからこっちの方が効率がいいと()()で分かっている。
 そして、これに〝スケーター(ヌケーター)〟を合わせれば空中での方向転換も可能になり、あり得ない速度での走行も可能となる。
 的な感じですね。

 この暴走翔君ですが、多分今後出ることはないと思います!よってこれで見納めです!というか暴走翔君は、この部分を乗り切るためだけに作りました!だから許してください………次回からはいつもの翔君に戻るので………。

 正直この話はかなり悩んで投稿しました。こんな風にしていいのかな………?とか凄い悩んだ挙句、一度これで投稿して反応を見てみようかなって?思ったんです………。

 気に入らないなどの意見があれば活動報告の方へお願いします。逆に今回だけならこれでもいいよ!という方もお暇があれば教えてください………。作者のモチベーションに直結しますので………。タグには書いてないけど豆腐メンタルなのでお手柔らかにお願いします………。
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