あと、今回の様な番外編には【裏話】と付けるようにしました。
最初に浮かんだ感想は、凄まじいということだった。
別に相手は自分に向き合ってるわけでも、意識しているわけでもない。
壁を砕いて出てきた私を、こいつはただただ客観的な目で見ていた。
だが、それだけで押しつぶされそうな威厳の様なものを感じた。
「あらぁ、奇遇ねぇ。こんな所に居るなんて」
こちらに意識を向けたくて、とりあえず声をかけた。
『誰だ?』
彼が行ったのは、声を発して、しっかりとこちらに顔を向けただけだ。
だがそれだけで、こいつは私に衝撃を与えた。
強い。私に迫るか、追い越さんばかりの覇気を感じる。
体に雷が落ちた様だった。
体が歓喜で震える。
喜びで視界が開ける。
本能が、こいつとの戦闘を望んでいる。
「風見幽香。近所で花畑を世話しているわ」
本当は喋る時間でさえも勿体ないのだけど、聞かれたものには答えないとならない。
答える義理は別に無いのだけど、私を悦ばせてくれたお礼の様な物にしておく。
『私はロミオ・スカーレット。しがない吸血鬼だ』
ロミオ.....ロミオ・スカーレット。
私は頭でこいつが名乗った名を反復した。
あぁ、だんだんとこの名が愛おしくなっていく。
このまま溺れてしまいそうだ。
だが、少し気に食わない部分もあった。
「ご親切にどうも。だけど、あなたは『しがない』なんて言っちゃダメよ」
謙虚も行き過ぎれば嫌味になる。
こいつがしがないなんて言ってしまったら、そこら辺の上級妖怪なんぞ存在すら許されないことになってしまうでしょう?
あぁしかし、そろそろ我慢の限界だ。
ヨダレでも出てしまいそうな程だ。
「突然で悪いけれど、戦いましょう」
『断る』
「ダメ♪」
これ以上我慢しろなんて酷な事を言うものだ。
あぁ、ダメだ。
そんなことを考えている間に、もう、抑えが効かない所まで来てしまった。
「行くわよ」
私は、軽く地面を蹴ってこいつ......『ロミオ』に手に持つ傘を突き立てた。
だが、ロミオは動きもせずに攻撃を受けた。
その目線は、未だ私が立っていた場所に向けられていた。
......まさか、目で追えなかった?
そんな筈はない。ロミオは、私を押し潰す程の覇気を持った強者の筈だろう。
もし、それが覇気だけの見掛け倒しなら、今の一撃で弾け飛んでいる筈だ。
......いや、筈だった。
ロミオは別に気にした様子は無く、変わらずその場に佇んでいた。
「あら?確かに攻撃は当てたはずよ?それにちゃーんと手応えもあったわ。血もついてるし。
なのに、どうして傷一つ無いのかしら?」
傘に付いた血を振り払いながら、考える。
私は、ちゃんと傘がロミオの体を抉りとる瞬間を目撃した。
「吸血鬼の回復力に確かに目を見張る物はあったけど、あの一瞬じゃ到底治せるような傷じゃ無かったわ」
そう、そうなのよ。
吸血鬼のしぶとさは外で玩具にした連中から体感している。
あれか?再生力に長けていただけだったのか?
.....そういえば、あの玩具連中から聞いた話があった。
「吸血鬼の回復力は実力があればあるほど強いって聞いたわ。もしあの一瞬で治る程の回復力の持ち主だとすると、やっぱり貴方は強いことになるわねぇ」
そうだった。つい先程この話を聞いたばかりだった。
.....先程の自分を戒めなければならない様だ。
ここまでの強者を前にして『まさか実は弱いのか』と疑ってしまった。
あぁ恥ずかしい。私の目はいつから節穴になっていたのか。
自分への恥ずかしさで胸がいっぱいになると同時に、嬉しさがまた溢れてきた。
瞬き一つの瞬間に体を別ける程の傷を治す程の再生力。つまりはそれに比例する程の力をロミオは持っているわけだ。
あぁ!!なんて素晴らしいのだろうか!!
今からそんな化物とも言える物を相手するのか.....私は!!
あぁ、ロミオ。『貴方』はどこまで私を悦ばせれば気が済むのかしら?
『誤解だ。現に私は手も足も出なかったじゃないか』
「痛がる素振りも無いのに?面白いことを言うわね」
私でも腰部分を取られたら顔をしかめるくらいはするだろうに。
痛くも痒くも無い顔をしているロミオがおかしいのよ。
それとは別に、気になることがある。
「それにしても、ドンドン重い空気になっていくわねぇ。息苦しいからやめてくれないかしら?」
別に苦しくはないのだが冗談交じりにそう言う。
先程から、空気が重さを持ったように私の体を締め付けるのだ。
そう考えていると、また3倍ほど重くなった。
腕を上げるのに少し力が入るほどだ。
「あら、また重くなったわね。それが貴方の能力なのかしら?」
幻想郷風に言えば『空気を操る程度の能力』とかかしら?
『彼』に似合ったトンデモ能力だこと。
.....おっと、ついつい楽しすぎて話し込んでしまった。
「さぁ、続きをしましょう」
そろそろ再開しましょう。
貴方と私だけの武闘会を。
『もう私はお腹いっぱいなのだがね.....』
「冗談も程々にしないと........面白いのは最初だけよ?」
彼のつまらない冗談を切り捨て、今度は本気で殺しにかかる。
みじん切にせんばかりの乱撃でロミオをズタズタにする。
だが、やはり全てが再生する。
腕を確実に切り落としても別段変化は無く、頭を砕いても表情が変わらず.......。
よくよく見ると、裂いた所から瞬時に治り、傘が通過した頃には傷一つ無くなっている。
これでは裂いているとは言わない。『通過』しているだけになっている。
恐らくロミオを物理で殺すことは無理に近いだろう。
そうなれば.....。魔力で塵一つ残さず吹き飛ばしましょう。
傘を構え魔力を集中させていると、踵を返して逃げてしまった。
なるほど、館が壊れないように配慮したのだろう。
まぁ、追いかけっこも苦手では無いから付き合ってあげましょう。
彼の覇気を辿って近づいて居ると、途端に気配が殺されてしまった。
息を潜めるだけでこうも存在を隠せる物なのか。
ロミオ、貴方は本当に私を飽きさせない。
だけど、探すのも飽きたわ。
脅しで傘を構えると潔く出てきた。
『分かった。分かったからそれは止めてくれ』
「フフ♪やっと出てきたのね♪」
思わずに上機嫌な笑みが浮かんでくる。
「さぁ、改めて行くわよ!!」
床を蹴り、彼の心臓にマトを定める。
吸血鬼は心臓に杭を打たれると絶命するらしい。
ならば、私の腕を杭にしましょう。
狙い通りロミオの体を腕が貫いた。
これで私の勝ちね。
贅沢言うなら、もっと戦いたかったわぁ......。
「はぁ。呆気ないのね」
思わずため息が出る。
仕方ないわよね。私の方が強かったのだから。
『勝手に殺すんじゃない』
「!?」
特に変化もなく私に声をかけるロミオ。
なんで.....?心臓は再生しないように腕は貫いたままなのに!?
『さて、そろそろ終わりにしよう』
彼がそう言った瞬間、体の芯まで凍るような殺気が向けられた。
動こうとするも金縛りにでも遭ったように動かない。
彼の腕が引き絞られ、拳が振るわれる。
蚊が止まりそうなほど遅い拳。
普段なら鼻で笑うような一撃。
だがそこには、明確な『死』が映し出されていた。
ほとんど反射で腕を引き抜き、後ろに跳躍する。
「はぁ......はぁ.......。あ、ありえない。そんな、この私が.....!?」
私は、最後に感じたのがいつか分からなくなっていた感情を思い出していた。
それは『恐怖』。
体の震えが止まらない。
最初とは違う、恐怖による震えだった。
私の戦意は、たった1発の拳で削ぎ落とされていた。
『済まない。大人気なかった。怖かったろう?大丈夫か?』
子供をあやす様に優しい声で語りかけてくるロミオ。
「大人気....!?怖い....!?」
そんな.....そんな馬鹿な........。
『彼は、ロミオは、この戦いを子供の世話とでも思っていたのか!?』
思えば、1度も手を出しては来なかった。
受けるばかりで、私のしたいようにさせている節があった。
そうか、そうだったのか。
彼は、私の手が届くような次元には存在していなかったわけか。
「ふふ、フフフ、アッハッハッハッハッ!!!!......負けよ」
彼は少し首を傾げている。聞こえなかったのか。
「だから、私の負けよ。ほんっっっとうに久々の『完敗』ね」
私は、負けたのにも関わらず、少しほっとしていた。目標ができたからだ。
もう、目標に出来るものなんて無いと思っていた。
それが、急に出てきた。
とても、とても嬉しかった。
私はもっと、もっと上を目指せる。
惜しいところまで思考が回ったゆうかりんに拍手を。
呼び方:「こいつ」→「ロミオ&貴方」→「彼(敬い)」
好感度が1回の戦闘だけで鯉の滝登りみたいな上がり方だなぁ......。
それと、前話との書き分けに気がついた方は居ますかね?
前話『もしあの一瞬で「直る」程の回復力.....
今回『もしあの一瞬で「治る」程の回復力.....
はい。これは主人公の捉え方とゆうかりんの捉え方の違いです。
ゆうかりん→普通に怪我と認識
主人公→勝手に直る
意味無いかもしれませんが、自己満なのでトリビアとして「へぇ〜」と思ってくれれば良いです。
あ、そうだそうだ。これ貼っとかなきゃ。
※これは全て雰囲気の影響です