私は恵まれた人間だった。
ブリテンの豪族の長男に生まれ、政略結婚でありながら両親に愛され、信頼できる親友と幼馴染がいる。
そんな幸福な人間だと、思っていた。
* * *
「お前を生んだのは隣町の娼婦だ。本当なら中絶させるところだったんだが、あの女との間に子供が生まれない可能性があったからな。あの女、現に孕まなかったし」
両親は仮面夫婦だった。
今まで自分に注いだ愛情が偽りだったとか、本当は母親に憎まれていたとか、きっとそんな事はないと確信できる。母の確かな愛を感じていたから。
だけど、理想の夫婦だと思っていた両親はお互いを愛していなかった。
笑い話で済むと思っていたんだ。
母との年齢差が13年しかないから父が実はロリコンだったとか、そんな他愛もない話が聞けると無邪気に信じていたんだ。
「よお、何悩んでんだ?」
オレには親友がいた。
彼は豪族の次男に生まれ、家同士の仲が良かったから頻繁にうちの領地に遊びに来ていた。
オレにとって彼は兄弟のような存在で、どんな秘密でも共有してきた親友だった。
「……ああ、実はオレは隣町の娼婦の子供だったらしくて……おまけに両親が仮面夫婦だったみたいなんだ」
「重っ、予想外に重いな!」
「ーーちょっと!二人で何話してるの!?」
オレたちには幼馴染がいた。
彼女は豪族の長女で親友と同じように家同士の仲が良かった。
オレと親友は彼女に惚れていて、婿養子になれる親友が一歩リードしてるのが現状だった。
両親と前みたいに話せなくなったオレにとって親友と幼馴染は最後の繋がりで、オレたちの仲良し三人組みたいな関係はずっと続くと、思いたかったんだ。
* * *
親友と幼馴染は婚約して3年後に結婚することが決まった。
オレは当然悔しかったけど2人はお似合いで、親友が相手なら許せると心の底から思っていた。
「オレ、実はお前のことが好きなんだ」
ただ、幼馴染への思いに踏ん切りをつけたかっただけなんだ。
なのに、
「わ、私もあなたが好き!」
何で今さらそんな事言うんだよ……
お前は親友を選んだんだろ?
オレより親友の方が好きなんじゃないのかよ?
その日オレは、罪を犯した。
* * *
オレはその日から何もする気になれず、ただ部屋に引きこもって冷めた料理を食べる日が続いた。
数日も引きこもっていれば親友が遊びに来たが、幼馴染との事が親友に申し訳なくて、当然のごとく会わせる顔なんて無かった。
扉の前で独り言のように話し始めた親友によると、幼馴染も同じようで部屋に引きこもっているらしい。
「……なぁ、親友。いつになるかわからないけど、聞いてほしい事があるんだ」
「ああ、気長に待つよ。親友」
親友と最後の会話をしてからどれくらい時間が経っただろうか。
いつものごとく部屋に引きこもっていたオレは、扉の前で使用人が話すのを聞いた。
「ねぇ、聞いた?坊ちゃんのお友達の領地で地震が起きたんですって」
「ああ、それね。私が聞いた話によると婚約者の方もちょうどいらっしゃるタイミングだったらしいわね」
それを聞いて、オレはやっと決心することができた。
何も伝えられずに親友が死ぬのは嫌だったから。
罵られてもいい、嫌われてもいい。
それでも、ただ一人の親友に正直でありたかったから。
「そこをどけぇええええ!!!」
「私は運命。たとえキミの望むところではなくても、キミは今日ここで死ぬ運命にある」
親友の領地に続く一本道。
そこに居たのは究極の理不尽だった。
誰か、こいつがジョゼフをモデルにしてると言ってわかる奴はいないか?