ガンダムSEED×00~異世界にイノベイターは何を思う?~<完結> 作:MS-Type-GUNDAM_Frame
戦況は、連合が不利と言えば不利だった。
だが、ほぼ拮抗していると言って良い。
つまり、アークエンジェルの働きがいかに大きなものかということがわかる。
故に、一人、また一人とメビウスのパイロットが減ってゆき、急ぎ編隊を組みなおしていても、連合の兵士たちは最後の瞬間まで前を向き、勇んで散っていった。
刹那とて、そんな状況に思うものがないわけではないが、この世界の両陣営の真偽を測るまでは純粋種の力を晒すことさえ大っぴらにはできない。
現在、メビウス部隊の損害は二割。
もう少しで、普通なら撤退を開始する損害率だ。
しかし、この戦闘はアークエンジェルが降下軌道に乗るか、アークエンジェル含む第八艦隊が全滅するまで終了することはない。
刹那が4機目のコクピットを潰した直後に、アークエンジェルから入電があった。
『曹長、本艦は作戦の変更により一時戦線から離脱します。至急帰投を』
「・・・了解。帰投する」
おそらくは・・・
今回の作戦の要旨を考えれば、自ずと答えは分かる。
刹那は暗澹たる気持ちを押さえつけながら、機体をアークエンジェルの方へと向ける。
すると、もう一通通信が入ってくる。
『曹長』
「あなたは?」
『自分は、第八艦隊所属、メビウス第08小隊隊長、シロー・アマダです。
今回は隊を代表してお礼を申し上げます。この度は、「エンデュミオンの鷹」殿共々、鬼神のごとき働きぶり、御見それしました。
あなた方なら、自分たちの・・・俺たちの未来を託すことが出来る!どうか!地球までご無事で!』
「・・・すまない。必ずアラスカまで到達すると誓う」
全員生きて帰るぞ!
銃身が焼け着くまで打ち続けるんだ!
そんな声が、回線を開きっぱなしの通信機から聞こえてくる。
刹那はムウと合流し、アークエンジェルへと向かう。
『おい・・・』
「なんだ?」
『任されちまったよ』
「俺もだ」
『そうか。そうだよな・・・』
託されたものの重さを実感しながら、ムウと刹那はアークエンジェルへ帰投した。
アークエンジェルでは、キラが体を丸めてドックを漂っていた。
「どうしたんだ?ボウズ」
「ムウさん・・・」
「メビウス部隊の連中に何か言われたのか?」
「・・・あの人たち、僕がいないと不味いのに、笑顔で頼んだぞって。
なんていうか、その、僕が思ってたよりストライクのパイロットは重いんだなって。
今更ですけど思い知ったというか・・・」
刹那はいつもの仏頂面だが、いつもより真剣な顔をしている。
「気持ちはヒトを強くする。だが、それに押しつぶされるようではいけない」
「ソランさん・・・」
「幸い、お前の友人たちは親身だ。きっと分り合える。分かち合ってくれる」
一方のムウは笑っているが、やはり目は真剣そのものだ。
「そうだな。頼れば、背負った物の大切さは消えなくても、押しつぶされないようになる。
昔の兵士さんも言ってるんだぜ?一本の矢より三本の矢、だっけな?」
「毛利元就だな」
「おまえ詳しいな!」
「以前滞在したことがある」
もはやキラそっちのけで煮物がおいしいだとかサブカルチャーがすごいだのと話している二人だが、そんな二人を見ているキラの心はとても楽になっていた。
「その、ありがとうございます。気が少し楽になりました」
「良いってことよ。とっくに戦友だからな!」
「艦長から作戦の説明があるはずだ。急ごう」
五分ほど遅刻した三人は少々怒られたが、作戦の伝達はつつがなく終わった。
「では、本艦は予定より早いが地球降下軌道へ入る。目標は北アフリカの砂漠地帯。ZAFT勢力圏真っただ中だ。」
「なぜそのような地点に?」
「こちらの資料に目を通してくれ」
「内が抜けた後の第八艦隊の被害予想と・・・レジスタンス?」
「現在降下することが可能なポイントのうち、陸上でありかつZAFTの包囲網を抜けることが可能で、陸上のために物資の補給もできる・・・そんなとこかい?艦長さん」
「そうです。連合があえて横流しということで物資を流している工廠が近くにあるため、そこから弾薬や各種機器の補給が出来ます」
「しかしこれはどうなんだい・・・「砂漠の虎」って・・・」
なんとなく答えは分かっているのであろうが、周りのためと思ったのかムウが質問を続ける。
「これは准将のお言葉になりますが・・・
『その先には「紅海の鯱」やジブラルタル基地など、障害が多数ある。口惜しいが、我々の戦力不足がアラスカまでの道のりを険しいものにしていることも確か。だが、「砂漠の虎」を破れぬようなら恐らくその先へ進むことも難しいだろう。君たちへの期待と、我々の力不足からそのような非常な決断をせざるを得なかったことを謝らせて欲しい。
だが、こちらも全力を尽くして君たちを地球へ送り届け、例え私たちが死ぬとしても現地で援護が受けられるように取り計らう。
地元の民衆からZAFT支配への反対の声が年々強まっているということもあって、砂漠の虎は倒さずには通れぬ敵なのだ。
よろしく頼む』
・・・以上、ビデオメッセージの音声です」
まず、元一般人のキラが声を上げる。
「砂漠の虎ってどんな人なんですか?」
「ZAFTきっての名将、アンドリュー・バルトフェルドという男のことだ。奴が北アフリカを制圧してから、アフリカ方面でわが軍の作戦は一度たりとも成功していない。元々は広告心理学者ということだが、そのせいなのかどうか、兵士の士気も練度も高いことで有名だ」
「そんなすごい人なんですか・・・」
次に、刹那が声を上げる。
「使用するMSは?」
「砂漠用に無限軌道を使った高機動型MS、バクゥだ。最近の話ではビームサーベルを装備しているらしい。また、隊長機らしき大型のバクゥも確認されており、こちらはビームライフル二門を所持。高速機動中でも一切ぶれない精密な射撃を行うとのことだ。MSパイロットとしても優秀なものがいるらしいな」
最後に、ムウの質問だ。
「おすすめの食べ物は?」
「大尉は後で懲罰房まで来てください」
ムウは、おそらくキラに気は楽になったかとアイコンタクトを飛ばしたが、目元の涙が彼が失った物の大きさを物語っていた。
「では、各自戦闘配置へ。本艦はこれより地球降下軌道へと移ります。砲座とレーダーは注意、ストライクとジンはアークエンジェル上部で近づく敵のけん制後、限界高度突入前に出来る限りドックへ帰投してください」
「「「了解!」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「すいません、マードックさん。コクピットの掃除までしてもらって・・・」
「いいってことよ!お前さんがコクピット汚いせいで全力が出せなくて死んだなんざ笑い話にもなりゃしねえからな」
「でも手が空いてるときは自分でするのよ?」
「もちろんです」
「で、ランチャーパックでいいのね?」
「はい、牽制だけなので」
「使わねぇ間に改良しといた。前より思った通り撃てるはずだ」
「ケーブルですか?」
「いや、ジェネレーターを並列につないでだな・・・おっといけねぇ。早く発進してもらわないとな」
「はい・・・・僕、頑張ります」
「おうおう、良い意気だ。気張りすぎるなよ?ボウズ」
「はい!ボウズなりに頑張ろうと思います!」
「ははは、そんだけ言えりゃあ十分だな。行ってこいキラ」
「!・・・はい!」
少しは認められたのか、名前を読んでもらえたキラはそのうれしさを少し噛みしめながら、しかし背負ったものの重さを実感しつつ、ストライクをアークエンジェルの上部甲板へと立たせる。
だが、接近してきた敵の姿を見て顔色を変える。
「・・・デュエル!?」
このあとシローさんはコロニー出身の女性と結婚して片足欠損で名誉除隊した後、
戦争終了後にも生き延びて末永く幸せに暮らしました。
キラの周りが大人すぎてメンタルヘルスケア要らない・・・
はたしてフレイは人間関係ブレイクできるのか!?
次回:赤い視界の中で
6/23追記
小変更しました。