ガンダムSEED×00~異世界にイノベイターは何を思う?~<完結> 作:MS-Type-GUNDAM_Frame
そこにはあのケバブ戦争のキラにとっての真実が描かれています。
アークエンジェルが明けの砂漠のアジトへ到着した翌朝、アークエンジェル、ナタル・バジルール艦長と明けの砂漠、サイーブ・アシュマンは作戦会議をしていた。
「では、軍需物資の補給は囮を用意しろと?」
「ああ。そちらも生活物資の補給なんかもあるだろう。こっちからはカガリを出すが・・・」
サイーブは、地元の武器商人へ物資の買い付けに行く際に、虎の目を引く囮を用意しようという。
「では、こちらからはストライクとジンのパイロットを出しましょう。ストライクのパイロットは囮、ジンのパイロットは護衛に着かせることが出来るでしょう」
刹那は、中東系の顔をしているため、この北アフリカの町でも溶け込むことが出来るだろう。
護衛としての強さも、現役の軍人以上と申し分ない。
「ああ、あの兄ちゃんか。確かに強そうだな。ああ、それとこの写真なんだが、砂漠の虎があんたらを・・・どうした?」
「大変だ、虎が!」
「落ち着け!なにがあった?」
会議室に、非常に焦った様子の男が飛び込んできた。
サイーブは落ち着けというが、むしろ男はヒートアップしている。
「落ち着いてる場合じゃねぇんだ!虎が町を焼きやがった!」
「なんだと!?それで、何人やられた!じい様たちは!?」
「それが・・・」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
キラたちは、アジトから少し離れたところにある町へ来ていた。
町から少し離れた丘で、町の住民たちが炎を上げて燃える町を悲しそうに、憎々しげに見ていた。
サイーブは、集まった人々の中の老人に話しかける。
「それで、虎が警告をしたって?」
「ああ。15分後に砲撃すると・・・それと、覗き見に気を付けろとか・・・」
サイーブは苦々しい顔をして犠牲者がいないかの確認をし、アジトに貯めてある物資と難民の数のすり合わせを命じた。
一方のキラは、初めてではない焼ける町を、こちらも苦々しく見ていた。
キラの表情を見ていたカガリは、ふいと町に背を向けて呟いた。
「虎の奴は、確かに無駄な殺しはしないさ。けど、これじゃあもうここでは暮らせない・・・アイツはプラントの奴で、コロニーも一つ無くしてるはずなのに、なんでこんな・・・」
カガリの口調に表情にも、抑えきれない憤怒がにじみ出ている。
だが、またしても慌てた男が走ってきた。
サイーブがもううんざりだといった風に男に話させる。
「大変だ!アフメドの奴が虎のところに!」
「あのバカ・・・!死んだ方がマシなんてのは身一つの奴が言うことだ!おふくろを置いてどこに行く気なんだ!」
どうやら、砂漠の虎がまだ補足可能な位置にいると知ったレジスタンスの若者グループが自走砲で襲撃をかけたらしい。
だが、レジスタンスが所持しているランチャーやサブマシンガンでは、バクゥを倒すことが出来ないし、砂漠の虎は敵対者には全く容赦がない。
砂漠の虎は、現段階で歯向かっても本当に無駄で、デメリットばかりが発生する。
だからこその同盟だというのに、若者たちは血気を抑えることが出来なかった。
サイーブは、キラに頭を下げた。
「すまない、あんな馬鹿な連中だが、この町にとっては変えられない仲間なんだ。どうか、助けてやって欲しい・・・頼む!」
年上の男性から頭を下げられたキラは、慌てて頭を上げさせ、コンソールで艦長を呼び出す。
艦長は、あっさりと出撃を承諾した。
「同盟相手だし、人命は優先だ。機体を壊すなよ?」
「はい!」
出撃許可を得たキラは、一度コクピットの扉を開けてサイーブとカガリに呼びかける。
「出撃許可出ました!どっちの方向ですか!?」
「3時の方向だ!艦長にお礼を言わせて欲しいと伝えてくれ!」
「私からも頼む!」
「はい、確かに。じゃあ、行ってきます!」
再度コクピットの扉を閉め、キラはストライクを発進した。
「頼んだぞー!!」
指示された方向へ発信したストライクに、カガリは大声で呼びかけた。
その声に、ストライクは親指を立ててそのまま飛んで行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「もっと早く・・・!」
現在、ストライクは砂漠を飛ぶように
着地しては地面を蹴り、スラスターをふかして飛び上がる。
しかし、まだ速度が足りない。
一歩ごとに足が砂をとらえ、しっかりと踏みつける。
センサから得られた空気流からスラスター周りの空気の流れを演算させ、出力が最適化される。
気温が生み出す気流を、角度を変えた翼が完璧に受け止める。
進めば進むほど、ストライクは完璧な飛行へと近づいていく。
この進化を見れば、連合はおろか、ZAFTの技術者でさえ目を剝くだろう。
遂にはPS装甲の電力さえ分配が変わり始める。
足には装甲では考えられない弾性が生まれ、前面装甲には空気圧に耐える硬さが付与される。
必要ない部分は灰色に変わり、シールドは衝角として空気を受け流す。
一度のジャンプが1㎞の大台に乗ったところで、前方に交戦の煙が見えた。
「見つけた!」
上空から牽制にビームライフルを数発撃つが、ビームは上に曲がってしまい、牽制にならない。
「熱対流か!」
キラは、しまったキーボードを再び取り出し、ビームライフルのジェネレーターの設定を書き換えた。
「これなら!」
次に放たれたビームは、寸分の狂いもなくバクゥの武装を打ち抜いた。
そして、着地してから無事な戦闘車両一台を抱え、やってきた方向へと離脱する。
だが、後方から3台のバクゥが襲ってきた。
「すみません、揺れますけど落ちないでくださいよ!」
ストライクはエールストライカーを軸にくるりと回り、バクゥの方を振り向いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さて、連合のパイロット君はどんなものかな!」
バルトフェルドは、バクゥの一機を借りてストライクに迫っていた。
そのバクゥはテスト用も兼ねてビームライフルが搭載されているし、もちろん技術者が丸一日かけて熱対流の対策も済ませている。
「俺が攻め込む。君たちはミサイルで援護してくれ」
『『了解!』』
着地して一度失速しているストライクの上と左右を、バクゥがミサイルでドーム状に道を閉じた。
前方に離脱すればバルトフェルドのバクゥが、後方に離脱すれば二機のバクゥが道を塞いでいる。
「さあ、この状況をどう凌ぐ?」
コーヒーの調合と同じくらいわくわくする。
どう出てくるのか分からない、そんな楽しみが目の前にある。
そんなバルトフェルドの期待に、ストライクは見事に応えた。
こちらを向いていたストライクは、そのままバックすると空中でバク転しながら後方を躱した。
更に、フォローで撃ったビームを、いつの間にか抜いたビームサーベルで切り裂いたのだ。
そしてそのまま地面に着地すると、持ち替えたビームライフルで見事な偏差射撃を披露し、バクゥ三機の足を打ち抜いて、凄まじい速度で離脱していったのだ。
「全機全速で離脱。負傷者はいないな?」
『ええ、最初からそうしましょうよ・・・』
自分が「死んだ方がマシなんて人間はいるのか?」等と言っていたことを思い出したバルトフェルドは、思わず笑ってしまった。
「今回は僕の失敗だ。お詫びに諸君にはレセップスで僕の成功作のブレンドを振舞おう。それと、少々給料に色を付ける。どうかな?」
『『よっしゃぁー!』』
『隊長サイコー!』
はたして給料が嬉しいのかコーヒーが楽しみなのか。
その答えは、広告心理学者であるバルトフェルドの胸の内のみにある。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
明けの砂漠のアジトでは、アフメドたちがサイーブから 責を受けていた。
「あれほど考えて行動しろと・・・」
「お前にはおふくろが・・・」
この調子ではや30分だが、時計を見たキサカが止めに入った。
「もうそろそろアル・ジャイリーのところへ出発する時間では?」
「おお、そうだったか」
この一言でアフメドたち四人は解放されたが、アフメドは次のサイーブの一言で凍り付いた。
「こいつをカガリについて行かせようと思ったんだが、懲罰房だから・・・」
「一人でも・・・」
結局カガリとキラ、刹那が町へ出向くこととなったのだが、真っ白になったアフメドの耳には何も聞こえていなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一時間後、キラはカガリと刹那と一緒に町中を歩いていた。
車を運転していたノイマンににやにやと「がんばれよ」等と言われ、思わず殴ってしまったのだが、白い眼をしたバジルール艦長からはお咎めが無かった。
「あ、あそこで休憩しよう」
「買い物はすべて済んだのか?」
「多分な・・・けど、このフレイって奴の要求はヤバすぎる。なんだこの化粧品の山」
「あはは・・・」
化粧などなど、女性のことはよくわからないキラは愛想笑いでごまかしたし、刹那はいつも通りの仏頂面だ。
キラは笑いながら、四人掛けのテーブルに座った。
「ケバブサンド三つ頼む」
勝手にカガリが注文するが、二人は特に文句が無いので何か言いはしなかった。
すぐに小麦粉生地の上に削ったケバブが乗り、三つの皿を器用にウェイターが運んできた。
「キラ、お前、ケバブ食ったことあるか?」
「無いけど・・・」
「それならこの「ヨーグルトソースがおすすめだ!」・・・あん?」
赤いソースボトルを持ったカガリとキラの間、刹那の前の席に、いきなりサングラスにアロハシャツ姿の男が座り、ヨーグルトソースの魅力について力説し始めた。
「君、ケバブを食べたことが無いんだろう?ならば!このヨーグルトソースを使うべきだ!
何と言っても肉のうま味も臭みもすべておいしさに昇華するこの優しい味わい、油を適度に変え、口の中をさっぱりさせるほんのりとした酸っぱさ
ケバブでヨーグルトソースを使わない?
ナンセンス!
それこそまさに、ケバブへの冒涜に等しい!
さあ、食べてみたまえ」
男はいつの間に頼んだのか自分のケバブにヨーグルトソースをかけると、キラの方に差し出した。
しかし、これにはカガリが黙っていない。
「ヨーグルトソース?
はっ。そんなお子様のかけるソースはケバブには合わない!
ケバブにはチリソース!
チリソースはカラダを温めて食欲を増やすし、体も動きやすくなる!
なんてったてこのソースの辛さとラムの香ばしさが作るうま味はヨーグルトソースなんかじゃ作れっこないからな!
さあ、キラ!最初の一口はヨーグルトソースなんかじゃなくってチリソースを食べるんだ!」
そう言って、キラにチリソースがかかったケバブを渡そうとしてくる。
皿がカッとぶつかると同時に、サングラスの奥の瞳と、カガリの金色の瞳から火花が散っている。
どうすればいいのかまごまごとしているキラに、刹那が救いの手を差し伸べた。
「お前は辛い物が好きだ。チリソースでいいんじゃないのか?」
本人は、ソースをかけずにケバブを食べているのだが。
その言葉で、アロハシャツの男はがっくりと項垂れ悲しみを、カガリは腕を突き上げて喜びをそれぞれ表現していた。
「よーしキラ。
「
やや罪悪感を感じつつ、キラはチリソースをかけたケバブを口に運ぶ。
目の前では、見たこともないほど嬉しそうにニコニコとしているカガリが感想を待っている。
アロハシャツの男は、刹那に布教を試みていた。
そして、一口目が舌に触れる。
唐辛子のピリピリとした辛味が、肉の油を吸って旨辛く口の中に広がっていく。
小麦粉を焼いた生地は、香ばしさと程よい甘みを送ってくるし、口の中身をきれいに混ざらせて、味が円滑に口の中をめぐるように助けてくれるようだ。
二口目で、キラはカガリがミルに入った胡椒を持っていることに気づいた。
その視線に気が付いたのか、カガリは何も言わずに笑顔で渡してくれた。
振りかけて、三口目に挑む。
コショウの香りと辛さが足されたチリソースは、一つ次元が上がったかのようなおいしさだった。
もしかして、チリソースは胡椒を載せることを前提に調合されているのだろうか。
・・・いつの間にか、キラはカガリと握手を交わしていた。
「カガリ、ありがとう。君と出会えて本当によかった」
「私もだ。同志が増えてくれてうれしいよ」
余談だが、カガリと町へ来たアフメドは甘党のためケバブの味が共有できず、非常に悔し思いをしていた。
アロハシャツの男は、刹那がヨーグルトソースをかけることに応じてくれたためテンションが持ち直したようだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さて、私がここにいるのはもちろんケバブのためということもあるんだが・・・」
アロハシャツの男は、すくっと立ち上がると、いきなりしゃべり始めた。
「実はほかにも目的があってね」
次の瞬間、刹那が二人を机の片方へ引き寄せ、アロハシャツの男が机を蹴り倒した。
「おい!ヨーグルトソースがかかったぞ!嫌がらせか!?」
「・・・気のせいだ!そっちの君!拳銃は持ってる?」
「ああ。援護しよう」
カガリはなおも文句が言いたそうだったが、机に銃弾が当たって黙った。
アロハシャツの男も、懐からサブマシンガンを取り出す。
「じゃ、行くよ」
「右からだ。マシンガンが厄介だ」
そういうが否や、刹那が拳銃でサブマシンガンを持った男の頭を打ち抜いた。
弾幕が薄くなったその隙に、アロハシャツの男がサブマシンガンで拳銃を持った数人を殺した。
すると、銃声を聞きつけたのかZAFTの兵士が集まってきた。
「ご無事ですか隊長!」
「ああ、なかなか上手くいったね」
カガリは、ショックで声も出ないようだった。
刹那が、小さく「砂漠の虎」とつぶやいた。
キラは、叫んだ。
「危ない!後ろに!」
すぐに振り向いたZAFTの兵士が、アサルトライフルで後ろにいた男を撃ち殺した。
「助かったよ。そちらのお嬢さんは偶然「わざとだろ」・・・ヨーグルトソースで汚れてしまっているようだし、僕の家に招待しよう」
相手がこちらの身分を知っているのかは不明だが、もし知られていた場合、逃げ出せるような状況ではなかった。
「世話になるな」
それでも、刹那は普段どおりだったが。
キラは辛党らしいです。
それもかなりの。
作者も辛党だったのでキラ君には食レポをしてもらいました。
まだまだ表現に改良の余地があるような・・・
ちなみに、感想で展開が遅いというお言葉を頂いたので今週のようにじわじわと文字数を増やしていきたいと思います。
また、視点の切り替わりや改行ももう少しどうにかならないかとのお言葉も頂きました。
毎週更新するたびに一話ずつ遡って確かめますので、読者の皆様も突っ込みどころがあったら感想欄なりに意見を寄せていただけると幸いです。