ガンダムSEED×00~異世界にイノベイターは何を思う?~<完結>   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

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うーむマスカットジュースウマー


30話:紅海の鯱の叫び

「ああ。試運転は不要だ」

 

整備班が「試運転もしていないのに流石に戦闘は・・・」と渋ってはいたが、刹那は敵が迫っていることを理由に整備班を押し切ってジンに乗った。

 

「良いですか!?フルスロットルで吹かさないでくださいよ!?ホバー部分が壊れても知りませんからね!?」

「了解。ジン・マリンカスタム、フルスロットル!」

「(絶句)」

 

どうも、やるなと言われてやってしまうのは刹那の十八番かもしれない。まあ、整備班の自信作は壊れることもなく無事発進したわけだが・・・

 

「これが・・・魚雷を撃つ側に回るのは初めてだったか?」

 

艦載の魚雷を撃てるようにカスタマイズされたランチャーは、キラが魚雷を直線に飛ばせるように調整している。そして、ジンはアークエンジェルのレーザーと電波でターゲットのソナー情報を共有している。更には、刹那は脳量子波で敵の居所を探ることが出来るため、敵を見逃す心配はほぼ無かった。

 

『ソランさん、僕が囮になります』

 

続いて発進したソードストライクは、ワイヤークローに小型の推進器が追加され、水中での機動性を向上されていた。

 

「無理はするなよ」

『はい!』

 

刹那のつぶやきは、ある意味自分へ向けられたものだったかもしれない。だが、少なくともキラは特に何か感じたわけでもなく、素直に返事をして潜っていった。

刹那も、無理をさせないのが俺の仕事か。と心の中で呟いてランチャーを構える。

敵らしき反応を意識で追いながら、ふとロックオンもこんな気持ちで俺を見ていたのだろうかと思った。同じような事をしているからだろうか。

そんなセンチメンタルな事を考えていても、指は自然に動いて、こちらへ直進しようとしていたグーンに魚雷が発射される。

魚雷はグーンの頭頂部に直撃し、破損した頭部から水が入ったグーンは水圧で自壊した。

感情や心の動きと体で全く違う動きができるのは、刹那がイノベイターだからか、それとも戦士としての力なのか。どちらにしても、キラにはそうなって欲しくないものだと思いながら、二発目の魚雷を発射した。しかし、今度は相手からも魚雷が発射されている。水上で停止していたジンは、スラスターに点火しスケーターのようにその場から動いて回避した。一方、水中のグーンは躱しきれずに直撃し、水上まで爆炎を上げた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

水中のキラは、今までとは違う緑色のMSに追われていた。

 

「硬い!」

 

水中用の新型MSゾノは、水中での格闘性能を高めたグーンの後継機である。水中で十分な馬力を出すために、一般的なMSよりも高出力だ。また、水圧に耐えるために装甲も丈夫で、電子ビームの使えない水中では正に要塞のような相手だった。

その上、水中用の水圧ジェットですさまじい速度で水中を泳ぎ回るのだ。潜れるだけのストライクでは苦戦は必至だった。

先ほど一度接近されたときに、アーマーシュナイダーで斬りつけてみたものの、装甲に流されてあまり効果は無かった。そもそも、水が強く揺らされてエネルギーが無駄になるため、アーマーシュナイダーは水中ではあまり効果が無いのだ。

今はただただ逃げ続けているキラに、水中用の信号弾でメッセージが届いた。

 

「一度帰投せよ?」

 

今のままでは何もできないので、一旦ワイヤークローをアークエンジェルへ伸ばし、急いで帰投する。後を追ってきたゾノは、アークエンジェルから発射された下向きの対空砲火で水中へ引き戻された。いつの間にか戻ってきていた刹那から、接触回線で声がかかる。

 

『魚雷は効くと思うか?』

 

どうにも、あまり効果が無さそうだと返事をすると、動きを止めて欲しいと頼まれた。

 

「分かりましたけど、どのくらいですか?」

『10秒ほどで良い』

「ちなみに、どうやって撃破するんですか?」

『二発の魚雷で挟む。圧力差で潰れるか、内部から破裂するはずだ』

 

つまり、二発の魚雷が作る爆発圧で潰し、そのあと発生する真空で内部から外側へ力を発生させて自壊させるというのだ。時間稼ぎは、信管の時間調整と魚雷の位置合わせに必要なのだろう。

もっとも、二発を全く同時に爆発させるだけでなく、目標との相対距離も調整する必要がある酷く実戦に不向きな技なのだが。

 

とりあえず、二機はアークエンジェルの脚部から水面へ降り立ち、ストライクは水中へ、ジンは水上に構えた。

水中へ戻ってきたストライクは、ゾノから熱烈な歓迎を受けた。ゾノのクローが、ストライクの頭と腕をつかんだのだ。

 

『やっと捕まえたぞ!我らの家族の裏切り者が!』

「何のことだ!」

『貴様も!コーディネーターならユニウスセブンのことを忘れたとは言わせんぞ!私の妻、私の娘!何の罪もない家族を虐殺し!それでものうのうと正義を騙る連合などになぜ屈するか!その機体、へし折ってカーペンタリアまで持ち帰ってくれるわ!』

 

ゾノのパイロット、マルコ・モラシムは、クルーゼからストライクのパイロットはコーディネーターの裏切り者で、連合が更なる力として開発した新型MSのパイロットをしている。このまま放っておけば再びユニウスセブンのような悲劇の引き金になるだろうと。

あらん限りの言葉で煽られ、当て馬にされていると気づきながらも、コーディネーターの裏切り者が許せずにこんなインド洋の下側まで来てしまっていた。

 

『貴様を放っておけばまた犠牲者が出る!ここで始末してくれる!この裏切り者が!』

 

語彙が怒りからうまく回らなくなっているのか、とにかく裏切り者と連呼する相手パイロットに、キラは混乱していた。なぜ自分の素性を知っているのか。

アスランが僕を売ったのか?軍人だから当然なのか?それとも別の誰かが?誰が?

 

頭が真っ白になって抵抗を忘れたキラは、ストライクが海底へ叩きつけられた衝撃で我に帰った。見れば、敵MSは頭をねじり取ろうとしていた。まだ自由な左手にアーマーシュナイダーを握らせ、頭をつかむ右腕のの手首に勢いよくぶつけさせた。上手く関節部に食い込んだのか、右腕から力が抜けた。その隙に、もう一撃肩関節にねじ込み、右腕全体の動きを止める。敵も黙ってやられているわけもなく、左腕で今度はストライクの右前腕部をつかみ、体全体でストライクの体を抑える。

 

『ふん!これで動けまい!』

 

今度はその言葉に耳を貸さず、右腕で敵のボディを抑え込んだ。

次の瞬間、泡を伴いながら二発の魚雷がゾノを挟むような形で着弾し、全くの同時に爆発した。泡が収まると、辺りにはMSの残骸が散らばっている。魚雷とゾノの爆発の衝撃で頭がくらくらするキラだったが、変形に対して絶対的な防御力を持つストライクの装甲と気圧の変化に対応するパイロットスーツが、キラを無事守ってくれていた。敵はいなくなったらしく、水中に再び撤退信号が光った。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「僕は裏切り者だって言われましたよ」

 

キラは、ムウに格納庫で愚痴っていた。

 

「でもよ?俺らからするとなんのこっちゃって感じじゃねぇか?」

 

もちろん、裏切り者と思っている人間はアークエンジェルにはいない。だが、キラとしては敵意を前面に押し出されて裏切り者呼ばわりされたのが多少堪えたらしい。気にするなと声をかけても沈んだままのキラに、ムウは仕事の命令を出した。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「バルトフェルドさん?食事を持ってきましたけど・・・」

「お、ありがたいねぇ。コーヒーもなんて気が利いてるじゃないか」

 

以前マリューに出した時も、あまりいい出来ではなかったのだが。それでも、一応コーヒーを淹れて来たキラだった。バルトフェルドは、ふふんと匂いをかいで笑ったが、何も言わずにコーヒーを飲み干した。

 

「一つ、聞きたいことがあるんです」

「何かな?まあ、このコーヒー代くらいは答えてあげよう」

「僕は、裏切り者と。そう見えますか?」

「うーん、どちらとも言えるね。コーディネーターの裏切り者とは言えないかな。プラント以外にもコーディネーターはいくらでもいる。一方で・・・いや、今のコーヒー代だとこのくらいまでかな」

 

これはコーヒーをもっとうまく淹れて来いということなのだろうか。それよりも、もっと違うアプローチで攻めるべきかとキラは考える。

 

「次の差し入れはコーヒー豆のブレンドキットでどうでしょうか」

「君は、プラントをコーディネーターにとって唯一の国と考える連中から見た裏切り者。そういうことだよ」

「ありがとうございます。では明日の昼食の時、コーヒー豆とか持ってこれるか聞いておきますね」

「ああ。ありがとう」

 

つまり、彼はコーヒーを淹れることに関しては自他ともに認める程度には上手だということだ。キラが上達するよりは自分で淹れさせた方が早いだろう。くるりと背を向けて牢から立ち去ろうとすると、バルトフェルドから待ったがかかった。

 

「チリソースの彼女にヨーグルトソースの良さを・・・あ、待ってくれたまえ・・・冗談なのに」

 

キラは足早に牢から立ち去りながら、一つの疑問が持ち上がっていた。

プラントをコーディネーターの聖地と考えるかどうか。アスランにとって、僕は裏切り者なのか?




バルトフェルドさんは差し入れに応じた情報をくれる代償付きドラ〇もんです。
良いコーヒー豆かヨーグルトソース味のケバブで大体何でも喋ってくれます(ZAFTの情報を除く)
しかし、刹那さんの水上用ジン・カスタムの出番はまだまだこれからでゲスよ!(生贄:某仮面の隊の皆さん)

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