ガンダムSEED×00~異世界にイノベイターは何を思う?~<完結> 作:MS-Type-GUNDAM_Frame
では、キラとウズミの対面からです。
話バッサリと変わりますが、先週の日刊ランキング入りました(22位)。読者の皆様、お気に入り登録してくださった方々、評価をつけてくださった方々。
いつも誤字報告をしてくださる方、感想を寄せてくださる方々にも感謝です。
ありがとうございました。これからもますます精進していく所存です。
キラは困惑していた。オーブの行政府まで来てほしいと言われ来たは良いのだが、入るように言われた部屋から尋常でない殺気が放たれているからだ。アスランのいる隊と同レベルなので確実に殺す気だ。
粘つくような重い空気に、思わずキラは顔を引いてしまう。だが、見たところ表札には代表首長と書かれている。つまり、あまり入らずにぐずぐずしているわけにもいかない。
意を決して扉を四度ノックする。扉の中からは、穏やかに「入りたまえ」と声が発せられたので扉を開けた。
中で待っていたのは、オーブ最高首長、ウズミ・ナラ・アスハだった。口元に立派なひげを蓄え、髪の色から老いていることはうかがえるものの背筋の通った衰えを感じさせない姿勢で椅子に座っている。まあ掛けたまえ、と椅子を指し示されたのだが、正直に言うと笑顔の圧力が凄まじい。完璧な笑顔なのに、こんなにも恐怖を感じさせるのは何故だろうか?とりあえず指示に従わなかった場合殺されそうなので素直に座る。
座ったことを確認すると、ウズミ氏も机を挟んだ向かいの席に着席した。
「娘のカガリが世話になったようだな」
そう言って、頭を下げたウズミを見てキラは慌てる。
「いえ、僕の方が寧ろお世話になっちゃいまして・・・」
「いや、あれはここを出ていく前は不出来な娘だった。それがああも成長して帰って来てくれたのは君たちのおかげだ。重ね重ね、ありがとう」
そう言って。もう一度頭を下げた。が、急に圧力が再発生した。
「それで、うちの娘のことだが、君はどう思っているのかね?」
間違いなく、下手な答えをすれば殺される。その証拠に、ウズミ氏の目は今までで見たことが無いほど凄烈な光を湛えていた。流石にすぐには答えられず、ごくりと唾を飲む。答えが無いキラに、ウズミ氏はさらに畳みかける。
「娘が君を護衛に雇いたいと言ってきてね、まあ私が直接人物を見ようというわけだよ」
キラとしては、一体何を言えばここまでの圧力を受けながら面接を受ける羽目になるのか、軽く一時間はカガリに問い詰めたい気分だったが、とりあえず頭をフル回転させてこの状況を切り抜けなくてはならない。
だが、モビルスールのパイロットをしていてもここまで死が近い事などあっただろうか?極度の緊張で頭が上手く回らない。
「ふむ、そういえばまだ名前を聞いていなかったね。キラ君、とりあえずフルネームを言ってもらえるかな?」
「キラ・ヤマトです」
それぐらいならどうにか、と名前を口から絞り出したが、その一言で圧力が消えた。
「もしかして、ハルマ・ヤマト氏の息子かね?」
「はい、そうですけど・・・」
何故こんな殿上人から父の名前が出てくるのか?今度は停止から混乱へと一気に頭が移り変わるが、ウズミ氏は失礼、と席を立ち、どこかへ電話をかけ始めた。電話は比較的すぐに終わり、席に再び戻ってきて神妙な顔で立ち上がるように手振りで示した。
「これも運命か・・・いや、すまない、君にはしなくてはならない話があるが、これは君のご両親にも関わることでね、勝手で申し訳ないがお二人を呼び出させてもらった。こちらへ来てくれ」
そう言って、ウズミ氏は立ち上がり執務室を出て廊下を歩き始めた。キラが扉を閉めると不穏な金属音が響いたが聞かなかったことにする。ウズミ氏はどんどん地下へと下っていき、キラもその後を追いかける形だ。そうしてしばらく歩くと、突然木製の扉が現れた。
扉を開けると、そこは広いサロンになっていた。窓からアークエンジェルが停泊しているのが見えるあたり、ここは秘密ドックの横にあるということだろう。近くの椅子に腰を掛けるよう言われ、座ると向かいの扉から入ってきた給仕がコーヒーを置いて行った。
ウズミ氏は再び電話をかけていたようだが、またすぐに仕舞ってコーヒーの置かれた席に座った。
あまりの状況にどうしても疑問が抑えられなくなったキラは口にした。
「こんなことになるような・・・僕の秘密って何なんですか?」
「申し訳ないが、すべては君の両親が来てからにして欲しい。あと十五分ほどだ」
確かにコーヒーは美味しかったが、キラには自身にはどうしようもない焦りで時計の針が止まっているようにさえ見えた。だが時間は止まらず、言われたよりも少し早く扉が開かれた。
「ウズミさま・・・キラ・・・!」
「母さん・・・・」
扉を開いた母は、ウズミに挨拶をしてすぐにキラの方へ駆け寄ってきた。自分をぐっと抱き締める母に、今更ながら心配をかけたものだと涙が出そうになる。
父はウズミ氏に挨拶をしたあと、穏やかな顔で頭に手を置き、生きていてくれて良かった、と言う。
怒られるかもしれない等と考えていた自分が少し恥ずかしい。
ウズミ氏も微笑ましい、と家族を見ていたが、話があると全員を席につかせた。
ウズミ氏は、まず呼び出したことに対する謝罪から始めた。親二人は、いつかこんな日が来るとは思っていた。どうぞ話を続けてほしい、と呼び出された時点で用事はわかっていたらしく、続きを促す。
「まず、大切なことだ。先に言っておこう。君はお二人の実の子供ではない」
「それは・・・」
昔は、何故僕をコーディネーターにしたのだろうと悩んだ事もあった。だが、どうやらそれは筋違いだったようだ。むしろ、コーディネーターの子供をわざわざ引き取って育ててくれたということになる。
「そう・・・ですか。でも、血が繋がっていなくても二人とも僕の両親ですよ」
ウズミ氏は、それはそうだろうと頷く。両脇の両親も、ありがとう、と言ってくれた。確かに大事なことだが、まだ話には続きがあるらしい。
やはりと言うべきか、それは実の親の話だった。いや、実の親と言うには語弊があるだろうか?
「君の親、と言うよりは・・・悪い言い方をするが許してほしい。君を作った人物と、君自身の体の話だ」
ユーレン・ヒビキ博士。究極のコーディネーターを作ろうとした男は、妻の子供の遺伝子からある特殊な遺伝子パターンを発見した。SEED因子と呼ばれたそれは、従来の限界を超えた性能を人間にもたらすだろうと予想された。
特に、反射神経の予想値は今までのどのようなコーディネート技術をも上回る値を記録した。
ヒビキ博士の研究は、平たく言えばコーディネーターの調整をより完璧にする事だった。如何に完璧なコーディネートを施そうとも、子供を育てる母親の体が環境として不完全なのだ。
人間でダメなら機械で実現すれば良い。ヒビキ博士はそう考え、人工子宮の開発を進めたのだ。世界の様々な場所から集められた優秀な遺伝子に現状で施せる最高クラスのコーディネートを施し、人工子宮で人間の赤ん坊まで到らせようとした。コーディネート技術の改良を行ったのだ。無数の赤子の犠牲と共に。
コーディネート技術よりも先に人口子宮は完成した。それによって数人の全く新しいコーディネーターが産まれたが、ヒビキ博士は満足しなかった。
丁度妊娠が発覚した妻の腹の子供から発見したSEED因子を組み込んだ新しいコーディネーターの胚を作り、人工子宮で育て始めた。
妻のヴィアは博士を何度も止めようとしたが、結局聞き入れられる事はなく、カガリと名付けられた実の子供と同じ日に、SEED因子に適合したった一人残った被検体、キラが産まれた。
博士が狂喜したのも束の間、ブルーコスモスの過激派が博士の研究室に攻め込み、人的被害は皆無だったものの施設は大部分が破壊されてしまった。
ヴィアは子供の身元を隠し、カガリをウズミへ、キラをヤマト夫妻に預けて隠遁した。
ヒビキ博士はヴィアとは別に逃亡したものの、ブルーコスモスから殺害したとの声明が出ている。真偽は不明だ。
「それが、僕ですか」
「確かに、ヒビキ博士の研究は狂気の沙汰だった。だが、生まれてくる命に何の罪があろうか。ヴィア博士はそう言って君を預けた。君は確かに人とは違う出自だが、その身を生かしているのは他の人間同様に愛だということを忘れないでほしい」
今まで只のコーディネーターだと思っていた自分は、狂気の実験の成果だった。ただ、それは新しい恐怖を助長する。コーディネーターだと差別された自分は、どうしても周りの見る目が変わってしまうのではないかと考えてしまう。
そんなことをするような友人たちでは無いだろうに!
とにかく、お礼を言う。
「教えてくださって、ありがとうございます。カガリにこの話は?」
「私が実の父でないことは既に知っている。後はあの子次第だ。知りたいと望めば教えよう。それと、君の出自のこと、信用のできる者以外には話さないでくれ。広まってしまえばジョージ・グレンのように・・・」
ジョージ・グレンは、自分がコーディネーターで無いことを呪った少年によって銃で撃たれ死んだのだ。ある意味第二のジョージ・グレンであるキラがそうならない保証はない。
それくらいに、連合、プラントの両方に影響のある話なのだ。スーパーコーディネーターとは。
同時にウズミの頭には疑問が立ち上がっていた。キラ・ヤマトがモビルスーツで戦果を挙げるのは頷ける。では、そのスーパーコーディネーターを上回るパイロットというのは何者なのか?とにかく、情報を集めるだけでもしておく必要があるだろう。
◇◇◇◇◇◇
再び執務室で、ウズミは頭を抱えていた。結局、へリオポリスに居たということと、好い人物であるらしいということしか解らなかったからだ。
調べさせたところ戸籍にも問題はなく、中東の国から移り住んだことになっていた。異常はない。だから異常だ。少なくとも、あれほどの能力を持った人間が存在していて騒ぎにならないはずがないのだ。
だが、目くじらを立てて逃すにはあまりにもったいない人材である。今までの行動の調書から好人物であることはわかっていが、どの様な物を求めているのか、何を信じているのか。知らねば陣営に引き込むには心許ない。
「やはり、直接顔を会わせるのが一番か」
深い溜め息と共に、本日数度目の電話をかける。
「私だ、モルゲンレーテのシモンズ主任に繋いでくれ
主任か?ああ、そうだ。ソラン・イブラヒム君を此処へ向かわせてほしい。なに?やっぱり?それは・・・いや、そうだな、確かに簡単に予想のつくことだ。全くもって優秀な部下だよ、君は」
◇◇◇◇◇◇
オーブ近海に停泊しているZAFTの潜水艦内では、ザラ隊のメンバーがそれぞれ以前アップグレードされていたストライクのデータを使い、シミュレーションを重ねていた。当然、オーブに滞在している間にアップグレードされていることも折り込み済みである。
そして、イザークは対ジンの訓練も繰り返していた。今までの分析から、銃撃戦よりは白兵戦の方が得意らしいと判断したイザークは一番に足止め役を志願した。最重要目標はストライクなのだが、どうしてもジンが邪魔になる。
故にジンの足止めは必要不可欠なステップなのだが、イザークにはどうしても勝利のビジョンが見えなかった。
シミュレータのジンには勝てる。当然だ。だが、普通のジンの動きを見れば見るほど、敵の異様さが際立っていく。三点射でコックピットを撃ち抜いた。奴なら当たらない。ビームサーベルでチャージをかける。腕を切り落とされた。組み付いて衝撃で落とす。体術レベルが違いすぎて不可能だ。
幾通りもの戦術を考えるが、例え平地や市街地だったとしても厳しいであろう。まして、考えられる戦場は海上。敵はホバーで縦横無尽に海面を走れるが、こちらは鈍重なグゥルの上なのだ。
ジンの残骸が映るシミュレータの画面を睨み付けながら思案していると、アスランが様子を見に来た。
「イザーク、話があるんだ」
「貴様がか?」
けして仲が悪い訳ではないが、イザークは一方的にライバル視していたアスランから覚えが良いとは思っていなかった。だが、頼むと頭を下げるアスランに、それは俺が勝ってからやれと軽く叩き自室へ連れていく。
「それで?」
いつも、軟弱な、と思っている情けない顔でこちらを見てから、アスランは話を始めた。
ストライクのパイロットが元親友だと。
始めは憮然として聞いていたイザークだったが、それでも俺はあいつを討つと力強く言い切ったアスランに、それでこそ、と思わずにはいられなかった。
そして、自分の打ち明け話をしたアスランに、借りを作りたくないとこちらからも話をしておく。
「悔しいが、俺はあのジンには勝てる気がしない。お前ならどうだ?」
かぶりを振ったアスランに、お前でもそうなのか、と歯噛みをする。だが、アスランから出た提案は思いもよらない物だった。
「正攻法では厳しいだろうな。こういうときは、ディアッカが良い案を出してくれそうじゃないか?」
正攻法ではアスランが一番強いが、詭道的な戦いではディアッカがかなり強い。性格もあるのだろう。
そして、一人で戦うことに拘りすぎていた事に気がつく。
とにかく時間が惜しいと、ディアッカの所に行ってみると、まずディアッカから発案されたのは機雷を仕掛けることだった。本人曰く、有るとわからせるだけでも価値が有る。他にも、単純な一騎討ちではあり得ないような案を出していく。二人は、それは卑怯だ、そんなことを言っていて勝てるのかと夜遅くまで議論していた。
そして、オーブの軍事演習が有ると言う知らせが届いたのはその次の日の朝だった。おそらく、そこで紛れて出てくるのではないかとは入国を手伝った工作員の談である。
艦内はあわただしく動き始めた。
次回、遂にキラと迷いを捨てたアスランが激突。
イザークは刹那を止めることが出来るのか!?
(そこ!出来レースとか言わない!)
何を間違ったらそうなったと言わんばかりの進化を遂げたストライクに、アスランたちはどう戦うのか。
ちなみに最悪来週はお休みします。忙しいです。ただ調子が良かったら上がります。出来る限り頑張ります!