機動戦士ガンダム0079 Universal Stories 泥に沈む薬莢 作:Aurelia7000
第十二章
前線基地から撤退してきた兵力を取り敢えずまとめ上げ、野戦本部と化したサネプト航空基地の戦闘指揮所は、士官たちでごった返していた。
「敵の航空戦力は!?」
「分かりません! 迎撃機も帰ってきません!」
「全滅したのか?」
「……にしては、敵の侵攻が遅すぎる。善戦していると考えたいものですな」
管制塔の地下にある戦闘指揮所は本来、航空作戦の支援のみを考えて設置されたシステムだ。そこに戦車隊などの指揮に使う一式の設備を持ち込み、陸軍と空軍の士官が入り乱れている。指揮系統も混乱があり、空軍の現場指揮官である基地司令の少佐と戦車中隊の指揮を執る陸軍少佐、歩兵中隊の指揮官の大尉が互いの上官と連絡の取れないままそれぞれの都合で吠えあっているのだ。
「迎撃部隊から一機、帰投しました! 第三小隊の四番機です!」
「彼から直接報告を聞きたい。ここに寄越してくれ」
本格的攻撃の予兆である高濃度のミノフスキー粒子とそれによる干渉空域は依然広がり続けているが、まだサネプト基地はぎりぎりその外だ。しかし少佐の要望によってクローバー・フォー、エドワード・ライナー少尉は直に戦闘指揮所まで呼び出された。
「第三小隊四番機ライナー少尉。出頭しました」
フライトスーツのまま敬礼する彼に、少佐は返礼も省略し、単刀直入に問うた。
「スクランブル隊は? 敵の規模は?」
「はっ。私が最後に見た状況では……我が方に私以外の損失は第二小隊が数機被撃墜、敵の規模は一個中隊程でしたが恐らく半減。我が方が優勢でありました」
戦闘指揮所の誰もが彼の報告に耳を傾けていたが、彼の報告を聞くとみなが安堵した。全員の感想を陸軍少佐が代弁する。
「圧倒的じゃないか!」
「爆撃機は?」
「見ておりません」
中には防衛成功、と安易に見積もる者もいる中、空軍少佐は一人、深刻な感想を持っていた。
「本隊はその後方か……。迎撃に向かった彼らに増援を出せないのは厳しい」
「早く戦線に戻らせて下さい! 彼らは今も戦っているんです!」
汗を流し抗議するエドワード。当然だ。だが、少佐の返答を聞く前に、リア・オルグレンの声が戦闘指揮所に響いた。
「レーダーに感! 敵航空機、数は六! 機影よりドップが四、ドダイ爆撃機が二と断定! 敵編隊反転、ミサイル発射と思われる!」
基地にアラートが鳴り響く。と同時に、エドワードは駆け出していた。
「待って」
急ぐ彼を、彼にとっては間違えようのない声が引き止める。
「絶対に、死なないでよ……」
険しい表情でリア・オルグレンが彼に言う。彼はぎこちない笑みと、サムアップで答えた。
『対空戦闘!』
けたたましく鳴るアラート音に緩めていた気が一気に引き締まる。野戦レーダーが感知したのはいくつかのミサイルで、どうやら対地ミサイルらしい。
「目標、対地ミサイル! 数は八!」
「迎撃用意!」
言われて空軍基地の前方に配置された対空陣地所属のパーシーという若い連邦兵士は対空砲を操作する。ジョイスティックを倒すとその方向に砲塔が旋回し、大まかな位置を定める。画面はレーダーと照準で、彼はそれを見て狙いを定めるのだ。
目標のミサイルは残り数秒で射程に入る。三、二―」
「―迎撃開始!」
もはや目で狙うような照準ではない。ひたすらにレーダーと演算装置を信じて引き金を引き続けるのだ。距離が近づいてくると、砲身が少しだけ稼働する。細かい修正が加えられるのだ。
あまりの速さに繋がって聴こえる発砲音が耳当ての上でくぐもっている。照準の電子音は小さくテンポを刻むだけだ。
すると、目標のうち一つが消失した。自分の機関砲がやったのか、それとも友軍のミサイルがやったのかわからないがとにかく、一つのミサイルを迎撃したのだ。パーシーは次の目標に向けて射撃を開始する。
いくつかの目標が次々と消える映像は、一瞬にしてノイズにかき消された。パーシーは驚愕する。
『……だ! ………が……………」
高濃度のミノフスキー粒子と見られる反応だ。この戦場では何度も経験しているが、それらを超える濃度だった。レーダーは使用不能、通信機器も一切が示し合わせたようにサボタージュである。
「み、ミノフスキー粒子下戦闘に移行! 照準は……光学に切り替え!」
自走対空砲に追加で備え付けられた光学式のセンサーが作動する。モニター越しに見える夕方の空、当然ミサイルが目視できるはずもなく、パーシーは引き金に手をかけたまま動きを止めてしまった。
ミノフスキー粒子の込められたミサイルが炸裂しレーダー、電波通信の一切が用をなさなくなると、先まで騒がしくしていた対空砲とミサイルランチャーが鳴りを潜めた。それに呼応して、六機のジオン航空機は一気に切りかかる。
走って愛機に向かうエドワード少尉。開けっ放しのドアから飛び出ると、滑走路の上には整備士たちが集まっていた。その中心にいるのは愛機セイバー・フィッシュと技術士官アツシ・ユンだった。
「なにをなさっているんですか!?」
「時間がない! 君を見込んでの行動だ!」
セイバーフィッシュの主翼に、巨大なブースターが設置されている。更にそのブースターにミサイルが積み込まれつつある。その機体を背景に、アツシ・ユンは説明を始めた。
「手短に。これがこの機体を作った奴の想像した本当の姿だ。ブースター・ユニットはミサイルランチャーを内蔵。推力を三倍に向上させつつもミサイル搭載数を十二まであげている。あと少しで作業は完了する。初飛行がこんなことになってしまって申し訳ない。だが、やってくれるね?」
「……はい! 勿論です!」
「ありがとう。この基地を守ってくれ。―急いでくれ! 敵は既に来ている!」
エンジンの轟音が彼の怒号すらかき消す。すぐそばの空には既に六機のジオン航空機がいて、防空隊と戦闘を繰り広げている。
『わ、我々も防衛に当たる! この基地は守らなきゃらならないんでしょう!』
スピーカーを通し叫ぶのは、子供のように若い女性の声。その主、タチアナ中尉だ。
「なにやってるんです!?」
『ミデア《フラミンゴ》、離陸許可は出ていない。繰り返す! 戻って来てください、タチアナ中尉!』
格納庫の扉を開け放ち、VTOLによって飛び立とうとしているのは目立つ黄色い機体色の輸送機ミデアだ。
『ミデアとて、少しぐらいは役に立つわ! 対空砲起動!』
『あいよ!』
ミデアは戦闘指揮所の許可がないまま離陸し、備え付けられた二機の対空機関砲を作動させている。しかし、対空機関砲があるとはいえ所詮は輸送機。とても戦闘機の相手になる代物ではない。
『無茶です! 戻って来てください、タチアナ中尉!』
ミデアは制止を無視し戦闘空域に入る。地面の対空砲VADSや対空ミサイルと共に対空戦闘を開始した。
「基地を守ってあげるのよ。あんな緑のアヒル、さっさと落として!」
タチアナ中尉が《フラミンゴ》のコックピットで汗を滲ませながら勇敢に指示を飛ばす。対空砲が増えた事で、確かに敵戦闘機の足止めには貢献しているようだ。
まだミノフスキー粒子は到達していなく、近距離ならばレーダーが使用可能だ。
ミデアの対空機関砲が照準を固定させ、火を噴く。曳光弾の混ざった砲弾が空を切り裂いている。
「―あっ!」
機体を激しく揺らす。ミデアの一つのエンジンにドップの放った機関砲弾が数多と吸い込まれる。エンジンは炎を吹き出し、ミデアの機体は黒煙を引き摺った。
戦闘の光に目もくれず、整備士たちが一心不乱に準備を進めた結果、ついにセイバーフィッシュは飛行準備を整えた。
グレーの機体に同じくグレーのブースター・ユニットが装着されている。元々大型だったエンジンナセルは更に肥大化し、鶴のようだったフォルムは梟のようにずんぐりとした体を手にした。八基の増加スラスターノズルは推進剤が満載され、空に飛び出る時を待ち望んでいる。
「ありがとうございます!」
ヘルメットを被ったエドワードは脚立を駆け上り、コックピットシートに収まる。キャノピーを閉鎖し各種計器をチェックした。
『機体の各種パラメータもブースター・ユニットに対応している。期待している、やってくれ!』
アツシ・ユンは彼らしい軽快な敬礼をして、機体から離れていく。
滑走路上のものは全てがどかされ、空へエドワードを送り出す準備を整えた。管制の指示がすぐさま入る。リア・オルグレンの声だ。
『こちら管制。四番機、出撃準備完了。離陸どうぞ』
「……エドワード・ライナー少尉、セイバーフィッシュ。テイクオフ!」
『気を付けて、エド!』
自分を呼んだリアの声を脳内で再生しながらエンジンを加速する。甲高い音がいつもより大きく鳴り響いた。
―リアと、基地のみんなを守る―
「うっ!……」
胸中で何度も繰り返し、自分を鼓舞した直後、強烈なGが彼の体を締め付けた。
すぐさまセイバーフィッシュは離陸する。翼が風に同化し、空に舞ったセイバーフィッシュは最大出力で戦闘空域に飛び込んだ。ミデアの隣を突き抜け、ドップたちを引きつける。
一目散に護衛のドップが集まっていった。コックピットに警告音が鳴り、敵にロックされた事を彼に知らせる。
後方確認モニターにもキャノピーの向こう側にも戦闘機だ。ミノフスキー粒子の濃度は既に戦闘濃度に届き、レーダーと無線は汚いノイズを垂れ流しにしている。
彼は出力を目一杯上げ、彼の機体もそれに答えた。まるで、新たな力を手に入れ喜ぶように。
ブースターがバーニアを吹かし、凄まじい速度でセイバーフィッシュがドップを突き放す。
ドップのパイロットは驚愕した。信じられない加速だった。次元が違う、としか表現できないような。まるで宇宙戦闘機が行うような超高速戦闘―
―宇宙戦闘機。そう。このセイバーフィッシュは宇宙戦闘機なのだ。大気圏内外両用として開発されたセイバーフィッシュ。そのC型は空軍向け仕様でエンジンはジェットエンジンのみになっているが、こうして化学燃料ロケットを搭載した現在では、セイバーフィッシュの純粋な使い方、つまり大気圏内で使用可能な宇宙戦闘機としての力を遺憾なく発揮できるのだ。
エドワードはそのまま一旦距離を置くと、旋回する。今度は前方に敵機がいる形だ。照準にはしっかりと敵影が捉えられている。そして再び―
―加速する。
いつもより数段速い速度で過ぎていく景色と接近する敵機。狭くなる視界の中、彼はすぐさまドップをロックし間髪入れずにミサイルを放った。普段のようなミサイルを撃つ、という感覚よりミサイルを落とす、という感覚に近い。機体の速度が一時的にミサイルのそれを追い越したせいだ。ドップの隣を通り過ぎたセイバーフィッシュの後方で、ミサイルが着弾する。だが彼はそれには目もくれないで次の敵を探していた。
一刻も早くこの敵部隊を殲滅しなければならない。基地のみんなや、リアを守るために。
―機銃!
目に入った敵爆撃機に向けて航空機関砲を射撃する。護衛戦闘機に任せて爆弾を防空隊に落としていた爆撃機に機関砲を叩き込む。凄まじい速度によって威力を底上げされた機関砲弾はあっという間にドダイの爆弾倉に搭載された航空爆弾を爆発させる。ドダイは大爆発を起こし、スクラップとなった。
後退し始めた手負いのミデアを横目にエドワードは編隊をかき回し続けた。時間を稼ぎつつ、確実に彼らを仕留めていく為に。
「調子に乗るなよ、宇宙戦闘機!」
ベルタの駆るドップが突然現れ、瞬く間に二機を撃墜せしめたセイバーフィッシュに肉薄する。上方から接近した彼女は背中を取ろうと小回りを効かせて格闘に持ち込んだ。
だがいくらドップが背中をとりかけても、セイバーフィッシュが加速をかければあっという間に置いていかれてしまう。
「くそ!」
ベルタはノーマルスーツのヘルメットの中で苛立ちを募らせた。あまりにも機体の性能差がありすぎる上、奴はいいパイロットだ。ベルタは最大出力で加速し、セイバーフィッシュの背中に必死でしがみつく。そして何度か機関砲を射撃したが、どれも外れてしまっていた。
「こいつ、しつこいぞ!」
エドは加速をやめ、機首を起こしブレーキで急減速をした。彼の得意とするコブラ機動だ。機体は強烈な衝撃を伴って減速する。最高速度で追いかけてきていたドップは誤って彼を追い越してしまう。
彼は機関砲の引き金を引く。感情を持たない鉛の機関砲弾はドップの翼を、胴体を、そして、ベルタの体を引きちぎった。
炎に包まれる敵機を意識から外し、次の敵を求める。彼は完全に、戦士の動きで空を舞っていた。
「くそ!」
射出座席を吐き出す事なく爆発したベルタのドップを見て、フィコは毒を吐いた。既に四機いたドップのうち二機が撃墜され、二機のうち一機のドダイが屠られた。対し敵の基地はほぼ無傷。その上完全に撤退のタイミングは失われた。彼ら別働隊は、奇襲によって敵基地の指揮能力を喪失させるどころか、返り討ちに遭おうとしていた。
「このまま無駄死になど……死んだ部下に示しがつかない!」
ケストナー大尉がドダイのエンジンの出力を上げる。ドップの護衛下を抜け、全速で基地に向かった。
彼女は唸る体とエンジンを無視し、目の前の攻撃目標だけに集中する。兵装はロケットランチャー。無誘導だが角度と風向き、距離次第ではしっかり当たる兵器だ。
だった一機の迎撃機の視界から逃げ、敵の対空機関砲を意識から外す。
「……喰らえ!」
彼女が引き金を引くと、ドダイGAの機体に埋め込まれたロケットランチャーが斉射される。十八発のロケット弾頭がランチャーから飛び出し、基地に向かい殺到する。それを見届けた直後、ケストナーの機体はVADSの35mm機関砲弾に貫かれた。黒煙と炎を吹き出し、ドダイGAの残骸は基地の格納庫に突入した。追って爆発が起こり、一層勢いを増して黒煙が吹き上げた。
VADSが目視で迎撃を開始する。だがそれがすべての弾頭を破壊できるわけもなく、数発が基地の建物に着弾した。
「ケストナー大尉! ……くそ!」
フィコが撃墜された味方機を睨んで叫ぶ。反転し、味方機を追うセイバーフィッシュに近付いた。
「お前さえ墜とせば、まだ!」
レーザー照準を固定し、ミサイルを発射。ミサイルランチャーから放たれたミサイルはブースターを点火しレーザーの光を追う。ミサイルの速度ならば、セイバーフィッシュに追い付く事が可能だ。
だが、空対空レーザー誘導は非常に難易度が高く、相手が回避行動を取れば簡単に照準が外れてしまう。現にセイバーフィッシュがフィコ機との距離を開きつつ回避すると、ミサイルは容易く目標を見失ってしまった。
フィコはキャノピーの外をめまぐるしく動き回る雲にふと目をやった。一瞬の事だ、幼い頃に飛行機に惚れた時の感情を思い出す。
急降下するセイバーフィッシュにミサイルの追跡者を送り込む。だが彼らは超低空まで下がったセイバーを追おうとするあまり勢い余って地表を爆撃してしまった。舞い上がる土をジェットエンジンと化学燃料ロケットの炎が吹き飛ばす。
戦闘指揮所では管制塔から入ってくる光学映像に誰もが注視していた。ドダイが突っ込んで来た際はパニックになりかけたが、今はそれも収まっている。
「撤退の準備が完了しました。敵の足止めは機甲部隊と砲兵部隊により行いましょう」
他とはやや違い、前線に赴く兵士が着用する茶色いカーキ色の地球連邦陸軍制服を身に纏った男が報告と提案をする。
「いや、敵の目的がここなら深追いはしないはずだ。速やかに撤退を済ませ、被害は最小限に抑えたい」
陸軍の兵士と士官が撤退についての協議を進める間、空軍の指揮を持つ少佐は静かにモニターを眺めていた。
「少佐、後退して来る味方航空隊を確認。機数は三機です。……! 機影より、メルヴィン・ライアン大尉機は撃墜されたと思われます。帰還、ありません……」
オルグレンの声が震えた。彼女はほんの少し残った理性によって涙を収め、軍務を投げ出さずにいる。
許されるのならば積み重なった書類やPCに当たり散らし、泣き叫びたい気分だった。命令とはいえ自分がメルヴィンを死地に送り込んだのだ。
「辛くも逃げ帰った、というところだな。敵が満を辞して前進してくるぞ、一兵たりとも死なせず逃げる。それが今、我々の考えるべき理想だ。……早く取り掛かりたまえ」
「はっ」
クローバー・トゥーが後退して来ると、戦闘を繰り広げる二機の戦闘機が目に入った。二機とも腕が立つらしいが、セイバーフィッシュの方は間違いなくクローバー・フォーである上、ブースター・ユニットを装着している。
「あいつめ……戦い方が隊長に似てきたか?」
クローバー・トゥーはエンジンを唸らせ、ドップに食いつく。逃げるドップはあらゆる機動を駆使し振りほどかんと必死だ。そして、ドップの回避機動が功を奏しトゥーが彼を離した瞬間に、彼の真下からエドワードが急接近する。四連装25mm機関砲をドップに向けて連射。弾が切れるまで指を離さなかった。
セイバーフィッシュがドップの後ろから超空へ舞い上がったり直後、ドップは爆発した。
「ますます上手くなりやがってよ!」
クローバー・トゥー、クローバー・フォー、アロー・スリー、アロー・ワンの四機編隊が交代しながら滑走路に降り立ち、緊急で補給を受ける。
「敵航空部隊、全滅を確認。付近に敵影ありません」
「今が唯一の機会だな。撤退命令発令。全軍は当基地を放棄する! 工兵の破壊工作は?」
「現在四割ほどが終了しているとのことです」
「急がせろ。ミデアは使えるな?」
ミデアは《フラミンゴ》が攻撃を受け飛行不能だった。その為使えないミサイルによる破壊が決定していた。残った《ペリカン》が撤退の中心となる輸送機だ。残りはトラックを使う。
「《ペリカン》が使えます。現在、士官と重要物資から優先的に積み込んでいます。少佐殿もお早く」
「我々陸軍士官は陸路を使う。ご心配なく」
背筋を正して陸軍少佐と大尉が敬礼を見せる。綺麗な敬礼だ。彼らは踵を返し、軍靴を鳴らして出て行った。戦闘指揮所に残っているのは少佐と数人の士官のみだ。
「爆弾の設置をしますので、脱出を」
ぞろぞろと工兵達が入って来る。
「頼んだ。私のジャブロー転勤の夢の最期、派手に吹き飛ばしてくれ」
少佐は自嘲的な笑みを浮かべるとベレー帽を被りこみ、部下とともに部屋を後にした。
「隊長……メルヴィン隊長は……?」
撤退のため既に移動した士官達から外れ、一人力なく歩く女性士官がいた。
リア・オルグレン少尉である。
目に涙をため、疲れ切って地面に足を下ろした四機の戦闘機を見つめる。その中に、白いセイバーフィッシュはない。
「オルグレン……リア」
フライトスーツ姿のエドワードがリアを抱き締める。彼もまた、メルヴィンの未帰還に打ちひしがられた人間の一人だった。
「僕もさっき聞いたんだ。でも、隊長は脱出できたらしい。きっと……生きているよ」
「うっ……うう……」
子供のように声を上げることをよしとせず、嚙み殺すように声を漏らすリア。彼女を、ひたすらエドワードは抱きしめ続けた。彼女の金髪を、優しく手で包み込む。そして、囁いた。告白だ。本当はこんな時にするつもりはなかった。けれど、気持ちを抑えることなど、彼にはできなかったのだ。
「……愛してる」
増やして欲しい要素はなんですか?
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