機動戦士ガンダム0079 Universal Stories 泥に沈む薬莢 作:Aurelia7000
前哨基地を囲むフェンスを入り口を通って抜け、中に土砂を詰め込んだ二メートルほどの高さがある防壁に仕切られた空間に駆け込む。
HQの前に広場があり、反対側にテントが五つ並んでいる。緑色のチョコレートの紙箱のようなそれから、兵士達がライフルだけは抱えて飛び出してきているところだった。すでに銃声が鳴り響き、陣地を囲う防壁に無反動砲が砲撃を加えていた。
「すぐに塹壕に入れ! 行け行け行け!」
ジムは兵士達に怒鳴り散らしながら地面に掘られた人間の背丈ほどの細長い溝に飛び込む。
「大尉はHQか!?」
「そうであります!」
それはそうだろうと思っていた。答えた若い兵士に持ち場につくよう促すと、無線機を背負った兵士が駆け寄ってきた。
「曹長、観測壕へ!」
中尉はバックルから拳銃を抜き、塹壕に逃げ込んできた自分の部下を捕まえている。
「大尉が敵の規模を報告しろと言ってます!」
ジムは無線手と観測壕と呼ばれる、火器を置かず目立たぬように指揮を行うための屋根付きの壕へ塹壕を走り抜けた。
「各個に反撃しろ!」
観測用の穴から双眼鏡を覗く。木の根をかわせる場所に作られた塹壕と陣地は作りとしては自慢できるものではなく、とても視界が良いとは言えなかった。密林の奥には昼間にもかかわらず闇が広がっており、敵弾はそこからきている。
射線の邪魔になる木々は排除したが、できる限り切り倒して塹壕の床や壁に使ったが、それでもどうにもならない巨木がいくらでも残っている。そういう植物を影に、敵は少しずつ近づいてきていた。特徴的な発射音の敵機銃が、さっきからずっと鳴り止まない。
「敵弾!」
壕の外で誰かが叫んだ。穴から目を離し、口を開けて備える。地面を揺さぶるような爆音が彼の聴覚を奪い、飛ばされた泥と煙が壕に吹き込んできた。熱くなる頭の奥は不思議と冷静で、迫撃砲の爆発だろうな、と考えていた。
「被害報告をしろ!」
『タインがやられた!』
「落ち着け! これは大規模な攻撃じゃない」
『どこが小規模なんですか!』
受話器を無線手に放り投げると、彼は壕を出ることにした。ここにいても何もよくならない。
連絡壕に出ると、砲撃で折れた木が蓋を据えていた。葉をかき分けて先へ進む。数人の兵士が台の上で塹壕から頭を出し、射撃していた。
「カバーしてくれ!」
台に立っていた機関銃手が叫ぶ。背中を叩いて立ち代わりに台の上に立ち、ライフルを構えた。
射線の邪魔にならないように伐採された空間が開け、その先に茂みがある。マズルフラッシュはそこで閃いていた。ジオン野郎がいるのはそこだ。昔ながらのピープサイトの中に敵のいそうな場所を見繕い、引き金を絞る。すると4.85ミリ弾が銃口から吐き出され、一緒に飛び出したガスがあたりのゴミを吹き飛ばす。
隣に立っているライフルマンが叫ぶ。
「無反動砲だ! 奴を撃ち殺せ!」
彼の狙う方向に、大きな筒を担いだ敵兵が見える。照準を合わせて、発砲。弾は近くに逸れたが、敵が怯んだおかげで無反動砲の狙いが狂ったのか、飛び出した砲弾は塹壕を飛び越えて防壁に着弾した。小石やらが飛ばされて背中に当たる。
機関銃手が隣に加わったタイミングで彼のライフルがマガジンの弾をすべて吐き出し終えた。隣のライフルマンの腰からマガジンを抜き出してライフルに差し直す。セミオートで駆け足の茶色い軍服を撃ち抜く。顔面に銃弾を受けたらしい敵兵士の頭から、妙な形をしたジオンのヘルメットが落ちるのを見届けて、次の敵を探した。
戦列に加わり、敵の規模が見えてきた。否、見える距離まで敵が近づいてきている。不意に寒気のする風切り音がまた聞こえ始め、彼らは塹壕内に体を戻して屈んだ。
「自分のところに落ちてくる時は音がしない! 大丈夫だ!」
ほとんど泣き叫んでいる新兵に向けてそう叫ぶ。経験に基づく事実ではあった。
だが、すぐに気休めは裏切られることになる。彼らのいる塹壕の先に、運悪く着弾したのだ。爆風が塹壕の直線部分を走り抜け、彼らは衝撃と爆風に包まれた。一瞬は途切れかけた意識を繋ぎ直しあたりを見渡す。
「おい!」
無線手の半身にいくつかの破片が刺さり、横たわった体が赤く染まり始めていた。体を抱えながら、無線機も助からないと気付く。既に銃座に戻っていた機関銃手は、直後に頭を撃ち抜かれて上顎から先が塹壕の外に吹き飛んだ。皮肉なことに泣き叫んでいた新兵は、一番爆発に近いにもかかわらず無事なようだった。小便を漏らして座り込んでいる。
「死にたいのか! 戦え!」
彼のヘルメットを拳で殴り、ライフルを押し付ける。持たせた銃の槓桿を引き、無理やり立たせてジムは塹壕の先へ進んだ。彼の目指す先はHQだ。
既に敵の砲撃で跡形もないかも知れない。少なくとも基地に設置されていたはずの迫撃砲は駄目だろう。さっきから静寂を保っている。
「どこ行くんです! 逃げるなら俺も!」
HQに一番近い塹壕で、片腕を庇いながら兵士がすがってきた。だが見たところ目と右腕は無事だ。ジムはこれまで覚えた事のない怒りを感じ、彼の頬に拳をめり込ませる。
「逃げるわけねえだろ! 大尉は何やってんだ!」
腰抜けが答える。
「さっき無反動砲が当たるのを見ました! ここはもう駄目です!」
「いいかよく考えろ。この状況でトラックまで無事に辿り着けると思うか? 前歯が一本でもたどりつければ奇跡ってもんだ」
吐き捨てて防壁の影から塹壕を飛び出す。すぐに彼のすぐそばに無数の弾丸が浴びせられた。40ミリまでは平気で防ぐという防壁が半分ほど崩れている。銃弾が耳を掠め、付近の地面を抉り取る。
彼は運良く、HQ近くのコンクリート壁に滑り込むことができた。背中越しに大量のライフル弾を受け止めているのがわかる。ここまで来れば、幸い敵から丸見えであることだけは避けてHQまで辿り着けるだろうが、その間砲撃がきたらおしまいだ。
並んだ防壁の四隅には銃座があったはずだが、とっくの昔に蜂の巣になっている。あちこちに置かれたものがあらかた破壊され、あるいは燃えている。憩いのテントは無惨な骨組みにボロ衣がまとわりついている、まるで朽ち果てた骸骨のような姿に変わり果てていた。意味のない確認をして、彼は地面を蹴った。
防壁で囲んで形作られ、キャラメルブロックのようだったHQ建物は半壊していた。その建物内に、ジムは飛び込む。
一酸化炭素か粉塵か、とにかく吸い込む空気が吐き気を催す。
照明は死んでいるのに、強い日差しが差し込んで目が眩む。机の上に寝かされた兵士は生き絶えていて、その下でサントソ大尉が腹から血を流して倒れている。
「大尉!」
抱き起こした大尉が吐血し、連邦軍の誇りを示す黒い制服のラインが赤く染まる。
「無線機を取ってくれ……」
すぐさまコンピュータの並んだ机の上から無線機をひったくり、彼の手に握らせる。二、三呻き声を上げた後、大尉が最後の力を振り絞って吹き込む。
「なんでもいい。いますぐ救援を送ってくれ。もう持たない!」
「了解。所定の手続きに従い、初期対応を行う。デンジャークロース。繰り返す。デンジャークロース」
無線機から聞こえる相手型の声に耳を疑ったジムの襟元を、大尉が掴む。瀕死とは思えない力強さだった。
「いきなり直撃を喰らって、応援を呼ぶ間も―いや、それより伍長、いますぐ塹壕に戻れ」
「敵がここに集まってきたタイミングで俺たちごと砲撃? 所定の手続きで?」
構築したキルゾーンの意味は? ザクが来た時は道連れにしろってことか? 伍長が大尉の腕を掴み返して叫ぼうとしたとき、これまでの比ではない爆轟が地面を揺らした。
榴弾の連続発射。防壁で囲んだだけの陣地は、あっという間もなく消し炭となる。地面に掘られた塹壕も似たようなものだ。至近弾が周辺の泥濘ごと削り取る。
「一つ目野郎が来やがった!」
「もう駄目だ!」
阿鼻叫喚の様相を呈す連邦軍陣地に、容赦無く120ミリ弾を浴びせていく。単機のザクが開いた突破口に、ジオン軍の歩兵がなだれ込む。
「間に合ったな。掃討は歩兵に……」
コックピットの中で呟いたパイロットの視界に、警告表示が飛び出る。警告音の種類を考えるまでもなく、砲撃警報だ。
シュミレータで体に覚えさせた、ザクの砲撃警報の探知範囲。弾着までの時間は体に染み付いている。フットペダルを踏み込むと、ザクの背負ったランドセルが火を吹く。強烈な上昇Gがパイロットの体を軋ませ、モニター内の黒煙上がる陣地が見る間に縮小する。後方に飛び上がったザクのモノアイは、曳火射撃が辺り一帯を耕す光景を捉えていた。着地の衝撃を受け止めたザクは、すぐにセンサーで新たな敵を捉えた。
三機の経空目標。レーダー反射波によれば、連邦軍のファンファン攻撃機。速度はないが、その分継続的な火力投射が可能な垂直離着陸機だ。
FCSを対空戦闘モードに切り替え、ザクマシンガンに装填された榴弾に諸元がリアルタイムで入力される。モノアイが捉えた目標を分析し時限信管への入力に反映する、簡易的な対地対空両用砲弾だ。
鳴り響くミサイル警報。ザクの電子戦システムは既にミサイルのソフトキルを試みているが、現に向かってきている以上は期待できない。
マシンガンで弾幕を張りながら、またフットペダルを踏み込む。今度は緩慢なジャンプ・アンド・フォールではなく簡易ながら空中での軌道変更を伴う戦闘機動だ。ミサイルはすべて地面に着弾した。そのまま空中で狙いをつけ、ターゲティングボックスに向けてスティックのトリガーを絞る。バースト射撃で放たれた120ミリ弾がファンファンの一機を仕留め、残骸が地面に衝突する。
僚機がロケット弾を斉射し始めた。スティックを倒し今度は地面を蹴って回避行動を取る。同時に機体各部に設置された多目的ランチャーから発煙弾を乱射した。
しかし泥に足を掬われたザクが、オートバランサーの補正限界値を超えて姿勢を崩してしまう。腕部の衝撃吸収動作も虚しく、巨人が転倒した衝撃がコックピットを盛大に揺らした。片手で放たれたザクマシンガンの射撃を軽々かわすと、ファンファンが彼に狙いを定める。
「クソッ!」
彼が毒づく間もなく、メインモニターに警告の赤いサインが刻まれる。爆轟が彼の機体を揺さぶった。
だが、その受難は長く続かなかった。
35ミリ機関砲の弾幕を受けたファンファンの翼がローターごと吹き飛ぶ。もう片方のファンの推力が機体を横倒しにし、そのまま地面へと直行した。もう一機は攻撃体制に入ろうとしたところを、モノアイの発振するレーザで誘導されたフットミサイルポッドで撃墜された。
機体を取り巻く状況の尋常ならざることを伝える警告音がけたたましく鳴り響く中、ザクのパイロットは白煙の中からゆっくりと近づく、一つ目の巨人を見た。
二機は細部にカスタムが加えられているものの、ザクだと分かる。中央の一機は両肩に生えた棘がザクよりも鋭く、マッシブな脚部にはパイプが生えていない。明らかに別の機体である。彼は何度もその機体の話を聞いていたが、実際その姿を見るのは初めてだった。
青い機体の胸には、機体の特徴を写した鎧を着た美女が描かれている。
紛れもなくそれは、《青き虎》であった。
増やして欲しい要素はなんですか?
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人間ストーリー
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歩兵