機動戦士ガンダム0079 Universal Stories 泥に沈む薬莢   作:Aurelia7000

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第十一章

第十一章

 

 「これで戦争してなきゃ、あの宮殿に家族を連れてってやるんだが」

 湖に浮かぶ壮麗な宮殿を空から見下ろして、連絡機の乗客が呟く。

『戦争がなきゃ来られてないでしょうよ。勝って凱旋した後にすればよろしい』

 もう一人の客人はヘッドセットのマイクにそう吹き込んだ。

 ボルネオの名前は十六世紀の探検家が、島の北にある王国を尋ね、その国の名前で呼んだことに由来する。

 その王国とは、ブルネイ。

 その名を継いだ自治州の上空を飛行する一機の垂直離着陸機。ジオン軍がコミュと名付けた、卵形のキャビンに小ぶりな翼とローターをつけたような見てくれの連絡機は二人の客人を乗せ、学術都市の郊外にある軍事施設へ向けて高度を下げ始めた。

 第四次地球降下作戦でボルネオの東にあるスラウェシ島に空挺堡を築いたジオン軍が、まっさきに向かったのがキナバル鉱山と、打ち上げ基地のあるこの都市であった。ミノフスキー粒子の影を進軍するモビルスーツで即応部隊を粉砕し、ほとんど無傷でこの地を手に入れたジオンはそこに戦域司令部を設置した。

 『元々この州にあった国はブルネイ・ダルサラームといったそうです。ダルサラームってのは平和の住処とかって意味だとか』

 二人の客人に、コミュのパイロットがガイドの真似事を披露してみせる。

「まあ、その名の通りこの街は戦火を免れたわけだ」

 地球降下作戦直後の電撃戦によって市街戦を展開する暇もなく地球制圧軍の手に落ちたブルネイには皮肉な歴史である。

 戦域司令部が置かれたのは、ブルネイ州都バンダルスリブガワン―地球連邦の官僚はともかく、ジオンはたいてい、単にブルネイ市と呼んだ―の郊外であった。

 ―ドナが村を離れる三時間前。二人の客人を乗せたコミュは方面軍司令部のヘリポートに着陸した。

「サフィーク中佐でありますか? 方面軍司令部のベニテス少尉であります」

 “ボルネオ方面制圧軍”。書類上そう呼ばれる部隊群を統括し、指揮を行うのがこのブルネイ司令部だ。コミュのブレードが起こす風に制帽を飛ばされないよう片手で押さえつけながら、曇り空を見上げる髭の生えた中佐に、出迎えの若い将校が尋ねる。

 中東の商人を思い起こさせる顔立ちと、唇の上に伸ばした黒い髭。彫りの深い眼光から注ぐ視線はただ空に向かっており、代わりに背後の部下が答えた。

「そうだ。出迎えご苦労」

 少尉はまだ二十前後に見える。第二種戦闘軍服と呼ばれるのが所謂マントなしである。ジオンの軍服にお馴染みの紋様が黒いケープの代わりに胸に直接象られ、肩章と紋様が階級を表す。

 軍服にケープがあれば、それが少なくとも将校であることは分かる。下士官兵にとっては便利だ。だが将官や佐官が集うこの司令部ではむしろ彼のような下級士官までもが着用するとかえって不便となる。

「お待ちしておりました。司令部まで車でお送りいたします」

 そのため少尉は、マントのない軍服を着ているというわけだ。サフィークが旅団長として中佐の第三種戦闘軍服を着てマントをたなびかせているのとは対照的である。マントは地上軍では部隊指揮官の象徴だった。

「ああ。頼んだ、少尉」

 少尉が四輪駆動車のアクセルを踏んだ。地球制圧軍がそのほぼ全ての部隊で使用する四人乗り車両、サウロペルタのモーターが回転を始め、タイヤが砂を噛む音と共に車体がゆっくり動き始める。

 フェンスで囲まれたポートを抜けると、敷地内を張り巡らせた道路に出た。使用者特有の事情―戦車や最大七十トンを超える二足歩行機械が移動する都合―に合わせ金属フレームと排水スラットを含む強化コンクリートで作られている。車がその継ぎ目を乗り越えるたびに振動した。

 その道を走る彼らの向かう先には、ひときわ大きなジオン国章の掲げられた以外は―あるいはそれも含めて―鉄筋コンクリート製の没個性的な箱があり、その周囲を送電や通信、レーダー用の鉄塔が立ち並んでいるのが見える。巨大なレーダーや通信アンテナが聳え立つ光景は、そばに控える長距離防空ミサイルの発射機がなければ研究施設の一つに見えたかもしれない。

「相変わらずこっちは雨か。うん?」

 サウロペルタの前輪がコンクリート上の水溜りを通過し、跳ねた水がサフィークのブーツにかかったが、彼は気にも留めない。

 代わりに路肩でトラックの帆から雨水を落とす兵を見て、少尉に向けて軽い口調で言った。

「ええ。沿岸部はほとんど一年中この調子だそうです」

 隣で答える少尉に、そうか、などと返しながら後部座席の作戦参謀を見やると、苦笑してこちらに視線を送っていた。天気の話ですか、と表情に書いてある。

 サフィークが近くにいる者を、階級問わず雑談に付き合わせるのは旅団では見慣れた習慣的光景だったが、ベニテスと名乗った少尉はそれを知らない。

「極端で困るよなあ。地球は」

「ええ。私もそう思います」

 真面目な奴だ。

 この若い士官に自分の相手をさせるアイデアに見切りをつけると、後席の大尉をいつものように付き合わせることにする。

「しかしこれだけ広い敷地を確保できるのは嬉しい限りだよなあ」

「本国とは大違いで」

 助手席から見える景色に、下半身をマゼラ・アタックの車体部分に置換したモビルスーツが入ってくる。

「あれ、うちの旅団にも欲しいな。工兵の連中が喜ぶぞ」

「別の旅団のザクが足を吹っ飛ばされたら回されるかも知れませんね。それより我が隊にもザクをお願いしたいですよ」

「そいつは准将閣下にお願い申し上げるんだな。俺は御免だ。ベック大佐とオルロフ大佐が怖い」

 サフィークの影響があってなのか、第三旅団の作戦幕僚である大尉は開戦してからというもの、皮肉屋の気質におしゃべりまで加わった気がある。

「どんどん新型機が増えているんだから、うちにも中隊のひとつぐらい……」

 サフィークの退屈を紛らわせる手段であるところの男が愚痴をおかわりした頃、車は司令部前の車寄せに入った。

「ありがとう少尉。司令部勤務も頑張ってな。帰りは?」

「帰りも旅団長の方々はヘリポートまでお送りする手筈です。私かは分かりませんが」

「おおそうか、もしもってことがあるからな。話のネタでも考えといてくれや」

 衛兵の大袈裟な敬礼を受けつつ、サフィークと副官は入り口に敷かれたマットでブーツの泥を落とす。

 ジオン様式とか言うのか、はたまた欧州にでも行けば本物が見られるのか定かではないが、入り口はギリシャだかローマだかのものを意識したように柱が形どられている。こういうのはジオンのお偉方が決まって好む趣味だった。

 屋内に踏み込むと、概ね軍服姿、時折秘書官制服や背広が見える。まだ制圧も終わらないまま占領地の治安維持や軍政を任されれば、司令部建屋は雑多な人間で溢れかえる。

 エントランスの正面には大きな国章がまたも吊り下げられていた。

「前に来た時より豪華になってるな」

「ええ。戦勝したらどうなってしまうことやら」

 受付の職員に官姓名が記された公国軍身分証と命令書を見せると、二階の会議室だと言われる。そばに立っていた憲兵が二人分のナバンを預かり、所持品にも危険物がないか検めた。

「他の部隊の指揮官は?」

「何人か。オルロフ大佐はまだおられません」

「そうか」

 つまりベック大佐の方は既に入館したということか。

「こちらが入館証です。憲兵に提示を求められた際にお使いください」

「ありがとう。なくさないように気をつけんとな」

 金髪の女性職員が差し出した二枚の紙切れを受け取り、片方を大尉に渡しながらサフィークは歩き始める。

「中佐? 上では?」

「まあまあ……」

 ロビーの最奥にある大階段―というにはやや小ぶりだが―を無視して食堂のある側に向かい始めたサフィーク。まだ真新しい床板を軍靴が踏みつける音が響いた。

「おや、サフィークじゃないか。早いな」

 中庭が見える窓のある廊下で声をかけられる。声の主は方面軍参謀長のデュクレ中佐だった。

「どうやら今回も俺は脇役みたいだからな」

「そう拗ねるな。おかげで大損害を出して准将を悩ませるようなこともなく今日があるんじゃないか」

 そう返すとデュクレはサフィークの一歩後ろで立っていた大尉の手を握った。

「サフィークを頼んだよ。こいつは俺の友人でな。同じ中佐同士の付き合いだ」

「光栄であります」

 大尉はデュクレの灰色の瞳を見つめて握り返す。

「滞っている補給はあるか? 今日は兵站参謀もいるから、多少の力添えはしよう」

「特殊被服がまだ全隊に行き渡っていません」

「そうか。なら軍需局長に聞いてみるとしよう。今日は重要な作戦の確認が主題だ。会議後に」

 デュクレの制服はサフィークと違い、ベルトこそしているものの内勤用の仕立てになっていて、マントもない。特に肩章は飾り紐がついてよく目を引いた。

「それと、今回の役回り。主役ほどじゃないが、貴様にも活躍してもらう必要がある」

「その割には事前説明はほとんどなかったが」

「色々と急なのさ。会議を楽しみにしておけ。東岸の戦況は?」

「相変わらずだ。レンジャーは手強い」

 サフィークが指揮する第三旅団は歩兵を主体に構成され、モビルスーツや車両の機動が制限される山岳地帯での戦闘を担っていた。現在は連邦軍の第二レンジャー連隊と、ボルネオ島南東部で日夜戦闘を繰り返している。

「敵もバンジャルマシンを見下ろす高地は渡したくないだろう。砲兵陣地だってある」

「なんとかしてみせるさ」

「心強いな。今はどの部隊も疲労が溜まってきている。本国の慰問があるらしいが、姑息に過ぎんよな」

 確かにそうだ、とサフィークは答える。

 ストリップショーだとかいつもと違う甘い食べ物だとかでジャングルにうんざりしている兵達が納得するはずもない。欲しいのはより強力な兵器、弾薬、燃料、一週間で死なない補充兵、食料、寝床、防虫剤、それに勝利と休暇だ。

「今じゃこうして冷房の効いた部屋で参謀長なんて呼ばれてるが、士官学校で塹壕を掘ったり行軍したことは忘れちゃいない。現場のことも見えてるつもりでいる。……おっと、そろそろ失礼するよ。会議の前に席を外していたんじゃまずいからな」

「ああ。偉いさんにその考えを聞かせてやってくれ」

「そう言うなよ。底なし沼は地球にしかないんだ。どうせ煙草だろ? 付き合いたいところだったが―俺は実働部隊の円滑な連携も支援する立場なんでな」

「いったい何を言っとるのか分からんが……それじゃ」

 利発な好青年が軍隊の中で順調に歳をとっていくとこうなる見本といったダークブラウンの短髪の男を見送り、サフィークは廊下をまた歩き始めた。

 大尉が例の皮肉屋の口で言う。

「参謀長は同期で?」

「ああ。ん、言ってなかったか?」

「かなり重要なことだと思いますが、不思議にも」

「おいおいおい、責めるなよ。別にあの男が同期だからってザクを融通してくれるわけじゃない」

 大尉は煙草を吸わない。高い税金を払って公共の空気と自分の体を汚染したいスペースノイドは元から少ないのだ。

 中庭に面した喫煙所に一人で入ると、サフィークと同じ第三種戦闘軍服の後ろ姿が目に入った。予想もしていなかった人物の姿に、彼は一瞬だがたじろぐ。

「大佐」

 サフィークは、デュクレが言い残した台詞の意味を理解し始めた。

 近寄りがたい雰囲気のベック大佐―方面軍主力、第一旅団の指揮官―と自分とに、円滑な連携のための第一歩、コミュニケーションを取らせるのが参謀長としての責務である、と言っていたのだ。

 どうやら参じて謀るに管轄外はないらしい。

「サフィーク中佐」

 ベックは紙巻を吸いつ応じた。短く切り揃えられた黒髪の下には、太い眉毛を斜めに貫く傷跡がある。それは訓練時の事故によるものらしいが、頑丈そうな鼻筋や筋肉質な顎、鋭い眼光がどうにもそれを決闘や実戦で受傷したものでは、と思わせる。

「ついに、という雰囲気ですな」

「……ああ」

 それだけ答えてベックは煙を吐いた。サフィークも制服から取り出した煙草に火をつけ……と思ったが、私物の安物ライターが弾切れを起こしていた。虚しいクリック音を響かせていると、ベックが無言でオイルライターを差し出す。

「ああ、ありがとうございます、大佐」

 表面におなじみの地上軍徽章がレーザー刻印されたライターで火をつける。

「このライター。いいご趣味で」

「……」

「ああ、いや、助かりました」

 サフィークは内心、自分の弱みが出たような気がして恥じた。部下が相手なら良いが、格上の相手だとこれだ。その気がなくても謙って媚びたように取られる。

「本国の甥がくれたんだ。地球は煙草が安いだろうからと言ってな」

「賢い子で。将来は総帥府ですかな」

 頬を緩めるでも、受け取ったライターを見つめるでもなくベックは言った。

「父親がルウムから帰ったら贈るつもりだったのだろうな」

「それは……お悔やみを」

「そうだな」

 デュクレの大馬鹿野郎。もう少し想像力ってものを働かせたらどうなんだ。

 このサフィークの直感では、最初から一番相性の悪いタイプだということは分かっていたぞ。そんなんでどうやって参謀長様をやってるんだ。

 胸中で次から次へと浮かんでくる恨み節をなんとか表情の下に押し込めて、依存性物質と発がん性物質をミックスしたガスを吸い込んだ。

「だが、もはやこの宇宙には親類が死んでいない人間の方が少ないのだ」

 それが統計的に事実なのかサフィークは知らない。そして、おそらくいかなる研究者もこれを証明することは戦後の調査を待たねば叶うまいが、ベックは彼に気にする必要はないと言っているようだった。

「終わらせたいものですな。この戦争」

「長くはするまい」

「え?」

「勝利に近づくためにこそ今日の軍議もあるのだ」

 デュクレの言うように、この作戦はよほど重要なものらしい。

 サフィークの脳裏には、あの二枚目の参謀が言った言葉がまだ残っていた。―第三旅団にも活躍してもらう―。

「もちろん第一旅団が主役なのでしょう?」

「そうだ」

「我々は何を?」

 ベックは煙草を煙缶に放り投げると、

「そのための会議だろう」

 と言って喫煙室を後にした。大佐に敬礼したままの大尉が扉の隙間から怪訝な目線を送ってきているが、肩をすくめるほかなかった。

 「図られたよ、デュクレの野郎に」

「心強い参謀長でなによりですよ、中佐」

 それから少しして、ジオン公国軍ボルネオ方面軍第三旅団長サフィーク中佐と、旅団作戦参謀の大尉は本館の階段を上り、廊下に歩みを進める。窓から差し込む光が、二人の影を白い壁に写していた。

 軍人達が行き交う廊下の先に見える二人の憲兵。それが会議室の入り口だ。ヘルメットを被った無表情な二人は入館証を検めると、サフィークと大尉の為に木製の扉を開いた。

 視界に最初に入ってきたのは、大きな窓の前に立つベックのシルエットだった。

「第三旅団、ファリス・サフィーク中佐、ただいま到着しました」

 ベックの隣の人影がこちらを向いたのが分かった。長身のベックと並んでも体格の良さが目を引く白人男性。彼はサフィークを見るなり、

「まだ揃っとらん!」

 と言った。天井の照明が小刻みに震えた気がした。

「オルロフ大佐」

 大男のオルロフ大佐は、第二旅団長である。つまりこれで、この部屋にはボルネオ方面軍の主力三旅団の長が補佐の部下を従えて参集したことになる。

「受付が、大佐はまだご到着でないと言っていました」

「今来たところだ。貴様が寄り道したのだろう」

 確かにサフィークは喫煙室に寄っていた。そしてオルロフが到着したばかりというのも本当らしい。彼の幕僚らしい女性士官が彼の胸ポケットからサングラスを抜き取る。

 サフィークは今まで彼女を見たことがなかったが、大男に小柄な女性の組み合わせは大昔のお伽話を想起させた。

「中佐は相変わらずメラトゥスでレンジャーにてこずらされているらしいな」

「ええ、お恥ずかしながら。オルロフ大佐の方は?」

「パランカラヤという街の手前まで進出したが、それっきりだ。連邦が待ち伏せているし、その先は通れる道が少ない。突破した先で戦車連隊の逆襲に遭うのがオチだ」

 東南アジア戦線は―否、重力戦線そのものが、多かれ少なかれ似たような状況だった。ミノフスキー粒子とモビルスーツが作る新しい戦場に連邦軍は適応し、ジオンの側も広がるばかりの戦線を維持するので精一杯で、進撃が鈍っている。

「いっそのこと三旅団でぶつかってみてはどうか。戦力を集中すれば、敵主力は蹴散らせる。あとはどうとでもなろう」

 オルロフが分厚い皮膚に埋め込まれた青い瞳を光らせてベックを見つめる。

「この島にはそれをやる地理的条件がない。第四地上機動師団もそれは分かってここを方面軍扱いにしたのだ」

「要は宿題というわけだ。そうだな? それを言う割に、彼らは全然こっちを忘れているようだが」

 細身のサフィークには猛獣のそれとしか見えない太い腕を組んで、オルロフは息を吐き出した。

「だいたいこの会議も、我々が先について他が姿を見せんとはどうなっとる。前線で動きがあったら、この俺ではなくうちの若造が指揮を取るんだぞ」

「まあまあ大佐、それは私も同じですから……」

「大佐。こうして三旅団の長が互いに意見を交換できる機会も、それはそれで得難いものかと小官は考えます」

 オルロフの巨体が作る影に潜んでいた女が直立不動で言う。目線は天井に向かっており、上官同士の会話に口を挟むに最低限の礼節をもっていた。サフィークなどよりよほど長い時間をオルロフと過ごしている将校だ。激情家の大佐がヒートアップしない術も心得ている、そう顔面には記されていた。

「まあ、それもそうだ。ところでベックよ、新型機はどうなのだ」

 オルロフは部下の手腕によって見事に進行方向を変更した。彼の率いる戦車のように、巨体に似合わぬ敏捷性であちらかこちらかと猛進する男だ。

「どう、と言うと?」

「あれはザクのマイナーチェンジや局地戦仕様とは訳が違うのだろう? 戦力として……」

 モビルスーツを持っていないサフィークは、二人が話すのを聞き流しながら横目に窓の外へ視線を移した。ジオン国旗が掲げられた黒いSUVが車寄せに入ってくる。基地では珍しい類の車だ。

「失礼。今日はVIPがお越しで?」

「占領政策局のファン・ダイク特務少佐がお越しです。先方の希望でもありますが、今日の会議の内容からして、必要と判断しましたから」

 そう答えながら会議室の奥の扉から現れたのはデュクレ中佐であった。

「ほう。それは期待が……」

 オルロフが言い終わるより前に、デュクレが自分で開けたままにした扉を見返した。自然、会議室にいた面々の視線がそちらに集まる。

 会議室に隣接された執務室から現れたのは、佐官らより良い生地で仕立てられたマントのない制服に派手なジオン的紋章をあしらった将官であった。制服が示す階級は准将。ホルツ方面軍司令である。

 会議室に軍靴の踵が打ち鳴らされる音が静かに響く。

「そのダイク特務少佐を迎えてくる。貴官らはもう少し待っていて欲しい」

 ホルツ准将は面々の敬礼に軽く返礼しながら制帽を被り、会議室の扉へと向かう。

「ダイク女史の前で失礼のないように」

 ホルツの後ろに控えた方面軍副司令のソーンヒル大佐が言った。サフィーク達は彼らを挙手の礼をしたまま見送る。

「おや、中で待っていればいいものを」

 廊下に出たデュクレの声が聞こえる。促されるようにして入室してきたのは半袖の制服を着た大尉と、対照的に青白い顔で軍規通りの制服を着こなした中佐だった。

「コールマン中佐にシュノク大尉。よく来てくれた」

 ベックは二人の手を順に握り言った。青白い方は方面軍の航空部隊を指揮するコールマン中佐。半袖でいかにも船乗りといった見てくれのアフリカ系の男は、確か―。

 彼が何者だったかを逡巡する他の佐官を見かねてか、ベックが「制海中隊のシュノク大尉だ。第四地上機動師団の海軍と連携して、通常は連邦海軍を抑えている」と手短に紹介した。

「よろしくお願いします」

 制海中隊。あの水陸両用の、変わった形をしたモビルスーツを使う部隊か。

 コロニー落としが引き起こした大津波を生き延びた連邦海軍はジャワ島に引き籠っているから、普段はあまり関わりがない。サフィークは知っていることを思い出したが、それ以上の情報はなかった。

「戦力は再編できたか? 中佐」

 オルロフがコールマンに尋ねる。コールマン中佐の率いる方面軍空中戦闘大隊はサネプト基地攻略戦の際に、その戦力にかなりの損害を受けていた。

「正直、厳しいと言わざるを得ません。その……練度の高いパイロットの損失が……」

「ふん。愚痴が聞きたいのではないわ!」

 芳しくない回答に鼻を鳴らすと、オルロフは彼に興味を失ってしまった。

「航空基地の制圧には空中戦闘大隊の功績が非常に大きかったと聞きます。連邦空軍は常に最大の脅威ですから」

「そう言って貰えると、死んだ部下の為にも……。敵も疲弊しているのが幸いです」

 サフィークは気弱な若い中佐に同情して、フォローをしてみる。

 現地改修の特別機を駆っていたというエース・パイロットとその優秀な部下達はみな、先の戦闘で戦死してしまった。ラッキー・クローバーの異名で恐れられた敵のエース、その撃墜およびサネプト基地の奪取と引き換えに―。というところまではサフィークも知っていた。

 コールマンによれば、敵基地で墜落した爆撃機隊の隊長は命こそ取り留めたものの、ブルネイの病院で目覚めぬままでいるらしい。連邦空軍の航空優勢を挫いたものの、ジオン側の消耗も著しく、互いに大規模な航空作戦は困難というのが実情だった。

 そうした指揮官たちを悩ませている諸事情についてのディスカッションがやりとりされた後、ようやく会議に出席すべき面々が部屋に集まり始めた。議長役を務める副司令のソーンヒル大佐。会議で主に発言する方面軍参謀部のスタッフたちとそれを束ねるデュクレ中佐。そして頂点に立つホルツ司令。オブザーバーとして参加するファン・ダイク特務少佐等々。

 彼らが席につくと、ソーンヒルの合図で天井からスクリーンが降り、部屋の明かりが消灯される。

 薄暗い会議室で、サフィークは出席者をそれとなく見回していた。




いつか書いてみたかった軍の偉い人が集まる会議パートです。
次回も会議。
次次回からドナとクロエの視点に戻る予定です。

キルケーの魔女は最高でしたね。
特に州名が出てきたところが。

増やして欲しい要素はなんですか?

  • 人間ストーリー
  • 戦闘シーン
  • モビルスーツ
  • 普通兵器
  • 歩兵
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