機動戦士ガンダム0079 Universal Stories 泥に沈む薬莢 作:Aurelia7000
第十六章
ブルネイの方面軍司令部はクロエとドナから得た情報を元に、ミンドールに第五機甲連隊が集結していると断定した。直後、三旅団に対して作戦開始命令が発せられる。
第一旅団は命令とともに作戦の最終確認を行い、各候補地の中間に設定された集結・待機地点から攻撃発起地点へと速やかに移動。
そこで旅団は正面の連邦軍防衛線に対する偵察を行い、ミノフスキー粒子の散布と各部隊の前進を命じた。
現地時間で、ちょうど日付が変わる時のことであった。
『ゲラルス隊、出撃を許可』
『《ゲラルス・ワン》、出撃する』
『続いてクレスモダ隊、どうぞ』
『《クレスモダ・ワン》、出撃。吉報を待て』
誘導員の合図に従い、二重反転ローターを備えた公国軍攻撃ヘリがFARPから次々に離陸する。
地面にピン留めされ、機体から仮設の指揮所まで敷かれた光ファイバーケーブルのコネクターが上昇と共に外れ、次々に地面に落ちた。
状況は既にミノフスキー粒子が散布され、出撃後の通信は短距離のレーザー通信に限定される。古代の昆虫名を冠する二個小隊は、それぞれリード機に続き作戦地域に進出した。
第一旅団に下された攻撃命令、後方から飛び立ったいくつかの航空部隊に続き、旅団の各部隊が動き始める。偵察部隊の次に大きな動きを見せたのがMS部隊だった。
第二十MS強襲大隊は第一旅団が装備するMSのほとんどが所属する強襲部隊だ。MS-06Jb―湿地帯での運用とボルネオ方面軍での戦訓を反映した改修を施された陸戦型ザク―とMS-07Bで構成され、旅団の矛を担う。
「各機へ。ようやくだ。“賽は投げられた”ってやつだ」
第三中隊長のダルビニャン大尉が、部下のパイロット達に出撃前最後の訓示を行っていた。
「仕事は簡単! 第一、第二中隊より多くの敵を死地へ送れ。死神が失職し、地獄の税関が苦情を出すくらいにね。私が出世すれば貴様らも報われる。だから野郎ども、足を引っ張るんじゃないよ」
まだMSが登場する以前―ゴブル宇宙戦闘攻撃機で敵艦隊に突入するのが仕事の時代―からパイロットだった彼女は、高い攻撃性と能力を持った指揮官だった。
「無能は置いていく! いいな?」
『あまり部下を締め付けすぎるなよ、大尉』
彼女に声をかけるのが一級道路から東に外れた密林内の道路を通る、頭の大きな指揮官機。指揮通信機能を強化した大隊長のザクだ。すぐ後ろを副大隊長機とその護衛機が続く。
「了解! 第三中隊出撃!」
大隊長機と同様にツノの生えたザク、ダルビニャン機が道に踏み出す。多雨気候に合わせて増設されたモノアイレールの庇を雨水が伝い、丸みのある頭頂部からスリットの端にある支柱まで導かれて落ちた。
泥に沈み込まないように拡張された足が未舗装の道路を踏み込み、大きな足音がジャングルを揺らし始める。その足音は増え、夜の森を蠢く巨大な多足生物を思わせた。
ミンドールに続く連邦一級道路四百八十五号線に布陣しているのは、連邦陸軍第八師団の第三歩兵連隊を基幹とするRCT3であった。
歩兵連隊に師団の砲兵大隊、機甲騎兵中隊を混成した戦闘団で、補充と増強を受けながらこの地点で敵の南下に備えている。
彼らに課せられた任務は、バンジャルマシン占領を目指すジオン公国軍に対し、防御または遅滞戦闘を行うこと。一級道路とそれに並行する複数の二級道路等を侵攻する敵部隊を想定し、道路上に構築した障害と大隊ごとに築城した防御陣地が彼らの備えだった。
最前面に展開した機甲騎兵中隊に所属する偵察LAV―単に軽装甲車の頭文字をとって通称される六輪の車体に角ばった砲塔を載せた車両―。車長のプラノは側道に機関砲を向けて停車しているキューポラから上半身を出し、道の先を眺めていた。
『高濃度のミノフスキー粒子を検知した。敵進出の可能性大。警戒部隊は警戒を厳となせ』
ヘッドセットに中隊長の声。プラノは双眼鏡を覗き込んだ。夜空には星が瞬いている。光量を増幅した双眼鏡内の映像にノイズが混ざり始めていた。
「操縦手、エンジンを温めろ。砲手、いつでも撃てるようにしておけ」
彼とその僚車が見張る側道は一級道路から二キロほど東にある、狭い生活道路だ。後方にある農園と旧市街、SAまで曲がりくねって続いている。一級道路との間には小さな川があるが、濃密な熱帯雨林に阻まれてここからは何も見えない。
「砲手。見えるか」
彼は映像の中に、小さな影を見つけた。倍率を上げ、双眼鏡のパラメータを調整する。見えたのはジオンの空飛ぶバイクだ。
「こちら四号車。敵偵察を確認。交戦する」
『本部了解。対偵察、交戦を許可する』
ミノフスキー粒子により無線機は既に小隊程度の距離でしか使えなかったが、中隊本部まで繋がっている光ファイバーケーブルが通信回線を維持していた。
「砲手、対空射撃。距離二千。浮遊機」
車内に体を戻し、キューポラのハッチを閉めたプラノは素早く下命した。アイドリング音がくぐもって響く車内に、砲塔の動作するサーボ音が割り込んだ。きびきびと動く砲身が空中のワッパを捉える。
「目標確認」
「バースト。撃て!」
号令に合わせて機関砲が煌めく。車長サイトの映像が一瞬、発射炎でホワイトアウトするが、すぐに空中を飛翔していく弾道が見え、ワッパを掠めたのが分かった。
「撃墜するまで撃て」
今度は反転し逃げようとしたワッパの後部に命中。制御を失って墜落していった。
「二号車も接敵したと言っています。聴音哨は足音が聞こえると」
通信手が有線通信網から得た情報を報告する。
「足音? モビルスーツのことか」
「おそらく。多すぎて数や距離が掴めないそうです。小さくエンジン音もあるって言ってます」
聴音哨は彼らよりずっと前方で、ジャングルの中に身を潜めている複数の前哨部隊だ。視界と引き換えに万全の偽装を施し、地中に突き刺したアンダーグラウンド・ソナーとかいう装備で音を頼りに敵の動きを警戒している。
「やはり敵は来るか。機甲連隊を待つまでもない。ここで返り討ちに―」
「待ってください。聴音哨が、足音が遠ざかり始めたって……。多分、街道から―」
「分かった。もういい。ケーブルを切断しろ。操縦手! 後退! 予備陣地まで下がれ!」
偵察部隊と交戦し、敵の主力が近づいている。真っ当な戦争のやり方だ。次に何が起こるかプラノは予想がついていた。
「後退!」
同時にケーブルが切れ、RCTの有線通信網から切断されたことでヘッドセットの中が一気に静かになる。だが、その静寂も長く続かなかった。散発的な砲弾の落着が始まり、高まっていくエンジン音よりも彼の鼓膜を刺激したからだ。
―彼ら機甲騎兵中隊より十数キロ北方。ジオン公国地球制圧軍ボルネオ方面制圧軍、第一旅団第十六強襲戦車大隊が集結する、攻撃発起地点。
「栄光あるジオン公国軍戦車兵の諸君へ。大隊長のマシーレである。我々の敵は第五機甲連隊、連邦陸軍にしてこの地の防衛の要を担う精鋭。旧世紀からの機甲戦術を受け継ぎ、我々よりはるかにこの地を知り尽くした強者達だ。……それを今日、我々は完膚なきまでに叩き潰す!」
大隊長の歌劇じみた演説が、各車に接続された光ファイバーケーブルで伝達される。
「まずは前面に立ち塞がる第八師団の歩兵連隊を突破する! ジオンの鉄と諸君の血が必ずやこの地に居座る連邦を砕き、宇宙移民者による独立国家建国を達成すると私は信じる!」
大隊長の目にはモニター内で二列に並んだマゼラ・アタックの車列があった。すべての砲が空に掲げられ、車体から伸びたケーブルが中隊本部を経由し、大隊本部の指揮車まで繋がっている。
「よって、各員の奮励努力を期待するものである。ジーク!」
『ジオン!』
『ジオン!』
「撃ち方始め!」
大隊長の号令に合わせ、砲撃指揮車がケーブルに繋がれた約六十両のマゼラ・アタックを一斉に砲撃させる。175ミリ砲から放たれた砲弾は、連邦一級道路の周囲に降り注いだ。
連邦軍の警戒線と、その奥に見えるいくつかの陣地。ナイトビジョン越しの映像に、キラキラと大きな光が開き始めた。遅れて爆発音が空気を振動させる。キャンドルのようにオレンジ色の光が木々を染めるのが見えた。
樹幹ぎりぎりの高さに浮上したワッパ。跨る第十六強襲戦車大隊の偵察兵は、修正射が正しく行われたことをヴィーゼル装輪偵察警戒車の車長に知らせた。
先行した部隊が敵と接触したことで、おおよその布陣が把握できた。密林内の頑強な陣地を一掃するというわけにはいかないだろうが、攻勢の準備砲撃としては十分だろう。
ワッパから繰り出された有線通信ケーブルは、浮遊機としての機動性を損なうが、代わりに装甲車を中継し、そのまま後方の本隊まで彼の観測情報を届けることができた。
『そろそろ反撃が来る。位置を下げよう』
ヴィーゼルの車長に促され、彼はワッパを車体にゆっくり下ろした。乗員が固定具を装着すると、四輪の装甲車は背中にワッパを背負ったまま走りだす。乗り心地は浮遊機に比べると劣悪であった。
プラノらがいた位置から実際に第一大隊が布陣する位置を含む一帯に、公国軍の野戦砲兵とマゼラ・アタックによる砲撃が続いた。だが同時に、第八師団の砲兵大隊による曳火射撃がジオン軍の観測員がいると予想されたエリアを鉄と火薬で耕し始める。
ミノフスキー粒子の下では無線を使った近代的な観測射撃は不可能だが、有線通信で代替することができる。ジオンはワッパ等を用いた創意工夫で可能な限り砲兵の恩恵を受けていたものの、前進を続ける攻勢時には、圧倒的に防御側が有線通信の維持に向いていた。
「生きてる! クソ生きてるぞ!」
通信手が叫ぶのを聞き流し、プラノは周囲を観察した。
予備陣地のおかげで彼らのLAVは激しい砲弾の雨を生き延びることに成功したようだった。
『こちら三号車……………れない。手伝ってくれ』
「こちら四号車」
『倒木のせいで……できない。排除を……』
「そんな時間はない。すぐに敵が来る。放棄してこっちに乗るんだ」
道を挟んで反対側の穴に入っていた偵察LAVからツナギを着た四人が這い出てくる。車体には砲撃で倒れた木が乗り、そのせいで壕から発進できなくなっているらしい。
「奴らを収容したらすぐに後退する。連隊の計画通り、対MS戦だ」
周囲はやはり熱帯雨林だ。道路にも無差別に弾着痕があり、大きな穴が空いている。だがあれだけの砲撃があったにも関わらず、ジャングルは変わりないように見えた。鉄の雨でいくつも木が折られ、土が耕されたはずだが、無尽蔵な植生がいまだに緑のカーテンを残している。
道路上に出たLAVの後部ランプが開き、四人の兵士達が乗車した。彼らは息を切らしながら、まだ命があるのは奇跡だとか神は偉大だとか口々に言っている。
「まだ人生が続くと思うのは早いぞ。奴ら発煙弾を混ぜてやがった。嫌なぐらい想定通りだ」
弾着した発煙弾が煙幕を形成し、北側の視界を遮っていた。まだ漂っている砲撃による土煙の奥で巨大なカーテンがかかり、突撃する兵力への照準を阻害している。
「第二大隊の戦闘地域まで後退します!」
「砲塔は背中を向いておけ! すぐにMSが来るはずだ!」
全速力で走り出したLAV。視察装置が姿を捉えるより早く、巨大な地響きが聞こえはじめていた。
メイン・モニターに映る前方の視界。密林を通る狭い側道を進む全高十七・五メートルの巨人からは、友軍の砲兵が作り出した白い幕がよく見えた。
『中隊。小隊単位で突入』
第一旅団第二十強襲モビルスーツ大隊の第三中隊が一級道路の東側で白煙の中に突入する。
MS-06Jbのパイロット、デロジエ中尉は小隊長機に続き自機も大きく跳躍させた。背部ランドセルのスラスターが青白い炎を吐き出し、ザクの巨体が夜のジャングルから飛び出す。
加速に伴うGが緩まったと思うと、浮遊感がデロジエの体を包む。スモークで視界は悪いが、可視光線とレーザーを組み合わせ安全そうな位置を読んだ。空中でスラスターを始動。調整する。
直後、眼下で爆発が起きた。榴弾だ。敵の砲撃が始まったのだ。
『怯むな! 前進を続けろ!』
小隊長の声が無線で響く。MSの無線出力はこのミノフスキー粒子下でも小隊内の通信回線を維持していた。
再び跳躍。そして着陸。これを繰り返し、MSより背の高い密林で進出していく。デロジエの目に映る画面内が、鬱蒼としたジャングル、樹冠を突き抜けてその上空へと目まぐるしく変化した。
樹冠より下の森の中は、ほとんど先が見通せない緑の霧のようなものだ。さらには煙幕で、上に飛び上がっても遠くは見えない。
「野郎はまだ生きてるな」
デロジエは画面の端でスラスター噴射を煌めかせて似たように機動する僚機を見て呟いた。
直後、彼の機体を衝撃が襲う。閃光がモニターに走った。
「くそったれ!」
両手に握られたスティックを操作し、ペダルを踏み込む。空中で榴弾が彼の機体に衝突したのだ。機体の状況を確認するより、姿勢制御が先だった。
空中でバランスを崩したザクが、背中から推進剤の炎を吹き出して抵抗する。みるみる近付く地面。高木を薙ぎ倒しながら、彼のザクはなんとか着地した。サブモニターはけたたましく左腕喪失と脚部異常を叫んでいる。
「くそくそくそ! 置いていかれるのは俺かよ!」
左肩の残骸をパージすると、彼の機体は重量バランスを更新した。AMBACの維持に必須のシステムだ。再び地面を蹴り込むべく膝を曲げたザクの頭上に、もう一発の榴弾が飛び込む。
闇夜に爆発閃光が続けて光る。ひときわ大きなものはMSを仕留めた花火だ。
樹冠から突き出した伸縮式のポールに備え付けられたカメラの映像で、地球連邦陸軍の指揮官はそれを目にした。
「敵が煙幕を突破」
「撃破確認は一機のみ」
連隊戦闘団、RCT3の指揮所は戦闘地域の後方に築城されている。モニターの並んだコマンド・ポストで、連隊長のウィボウォ大佐は腕組みして戦況を監視していた。
「敵機甲部隊は?」
連邦陸軍の歩兵科出身の指揮官はアジア系の鋭い目を尖らせる。
RCT3はこの地で敵の侵攻を遅滞させるべく防御計画を立案した。ボルネオ島は密林と山岳が殆どを占め、元より機甲戦力は少ない。軽歩兵主体の連隊戦闘団でジオン機甲部隊に対抗する術を、半年間の戦闘で得たノウハウから検討してきた。
「車両部隊はまだ確認されていません。前哨陣地が交戦したきりです」
「MSが来ました! 第一大隊が迎撃します」
指揮所の兵士達が有線で構成された通信網を飛び交う情報を報告する。
「狼狽えるな!」
MSは開戦当初の予想に反し、密林を比較的自由に機動できる。しかし地球侵攻作戦の初頭でこそ、その踏破性に翻弄されたが、陸軍は無策ではない。この場合、練られた戦闘計画があった。
「第二大隊の主戦闘地域まで追いかけさせろ。騎兵は?」
「残存する戦力で後退しつつ牽制しています」
「砲兵の投射量、地域は計画内のまま、砲撃は継続させろ」
ウィボウォの計画。それは、MSの撃破を主目的としないことだった。ジオン軍のMSは本格的侵攻に際して、戦車や歩兵と協同する。占領地域を拡大するため、単に敵の防衛戦をMSで突破するだけでなく、戦車や歩兵といった従来の兵科により掃討と占領を行う必要があるからだ。
つまり、MSを撃破せずとも、戦車や歩兵に損害を与えれば、ジオン軍は進撃を維持できない。そしてボルネオ戦域には機動予備として第五機甲連隊と機械化混成旅団がある。
RCTがジオン軍の戦車や歩兵を攻撃しつつ遅滞戦闘を行い、主力の機甲部隊が疲弊した敵に反撃するのだ。
そしてウィボウォが布陣したこの位置は最適な地形であった。MSと近い、車両部隊が大規模な軍事行動を起こせるのは実質的に連邦一級道路に限られる。
「砲弾の消費量が計画量の半数を超過!」
複数の監視カメラ映像にはMSが密林から密林へ跳躍し装甲車を追撃するのが見えた。連邦軍が《グラス・ホッピング》と呼ぶ、MSの戦闘機動だ。
充分に散開したMSはバッタのように密林を飛び跳ね、その上投射量を制限しているため砲撃の成果が芳しくない。
「敵機の数は推定二個中隊。ザクとグフを視認」
「敵は第一旅団じゃないのか?」
「分かりません」
敵第一旅団はMS大隊を保有するはずだ。MS大隊は三個中隊で構成される。残る一個中隊は予備、あるいは車両の護衛だろうか。
「連隊長、MSが主戦闘地域に侵入するまで時間がありません。計画を変更し、全力射撃するべきでは?」
「ならん。必ず機甲部隊が後続する。砲兵火力はそちらへ向ける」
散開して高速で進むMSには大隊程度の砲撃では大した効果は望めない。連邦一級道路上に車列をなして現れるはずの機甲部隊こそが本命だ。障害で足を止めたところに、砲火力を集中する。
ミノフスキー粒子を散布しようとも有線構成された防御陣地と戦場の女神の恐ろしさを、ジオンは身をもって知るだろう。
「敵MSが第一大隊戦闘地域を迂回します!」
「LAV部隊を出せ! 奴らの注意を引き続けろ!」
「機甲騎兵中隊、対MS戦闘開始させます」
二級道路、側道で待機していた機甲騎兵中隊のLAVが道路上に姿を現し、機関砲を射撃し始める。砲塔に据えられた有線ミサイルがコンテナから飛び出し、MSを狙った。
対MS重誘導弾リジーナ。対戦車ミサイルを対MSに転用したものだが、原型同様に車載が可能だ。砲塔照準器が捉えた道路上のグフに向けてミサイルが直進する。
指揮所まで有線で送信された映像は解像度が低いが赤外線で補正され夜間でも使用できた。まっすぐ飛行する光点がミサイルだ。
三千メートル先のMS-07に向けて発射された誘導弾は直進を続け、機体と重なり炸裂する。
「やったか!」
兵士が声を漏らす。
爆発の明るさでカメラが一瞬ピントを外し、すぐに戻る。そこには道路上を突進するグフの姿がまだあった。左腕にある盾がミサイルの弾頭から機体を守ったのだ。
LAVは怯まず次弾を撃ち、今度は回避されたものの道を高速で後退しながら機関砲を乱射する。
「敵MSの半数がそのまま迂回を続けています。サービスエリアの側面を目指しているようです」
「敵車両部隊の接近を確認! 偵察車両の後方に軽戦車含む中隊規模!」
「敵の先頭集団ですね。交通障害で止まります」
ウィボウォはプロジェクターで投影された映像をしがみつくように凝視する。そこには一級道路上に構築された対戦車障害物が見えた。
「来たな!」
画角内に敵の車列が侵入する。先頭を進むのが二両の装輪偵察車だ。
うち一両が、障害の数百メートル手前に敷設された地雷を踏み、爆発する。
『停車!』
先行するヴィーゼルの後方で、マゼラ・アインの車長が命令する。彼は第一旅団の先頭を進む中隊規模の集団を護衛していた。
マゼラ・アイン空挺戦車は第一旅団の機械化歩兵部隊が保有する唯一の戦車であり、主砲は133ミリ滑腔砲で装甲も薄く、連邦軍が運用する61式戦車に比べれば数段劣るものの、通信偵察手を含む四名の乗員は警戒能力に優れる。
「砲手、AMP、障害! 次弾もAMP!」
「目標確認!」
「撃て!」
基部の飛び出た歪な形状の砲塔。そこから伸びる133ミリ滑腔砲が火を吹いた。車内にも砲声と衝撃が伝わり、エンジンを一時的に掻き消す。発射と同時に後退した砲座が焼尽薬莢の底部を吐き出すと、高い金属音が鳴った。薬莢が砲塔の床に当たる音と同時に自動装填装置が次弾を送り込む。
「撃て!」
数秒で二発目がコンクリート製の障害物に命中する。車長はそれが対して効果を挙げていないことを認めると、
「警戒しておけ」
と偵察手に命じ、自分は後方を確認した。砲塔に備え付けられた大型のセンサーポッドがゆっくり旋回し、この車両が割り当てられた正面の幅を監視する。障害の構築された位置には二級道路と合流するジャンクションがあり、側方から射線が通る危険な位置だった。
そんな場所を選んでいるのだから、連邦軍が利用しないはずはない。車長は車載無線機の出力で電波が届くぎりぎりの後方にいる工兵車に無線を送る。
「多目的弾で破壊できない道路上の障害、及び地雷原」
『……了解』
先頭で二両の装甲車と四両の空挺戦車、二両の歩兵戦闘車が警戒する中、片側三車線の連邦一級道路を工兵車が前進する。戦闘工兵車はマゼラ・ベースに工兵と機材を載せるための改造を施したもので、多目的弾で破砕できないコンクリート障害や地雷を除去する能力も持っていた。
地雷に吹き飛ばされなかったヴィーゼルが後退するのと同時に、戦車小隊のいる位置まで工兵車が前進する。まずは地雷を爆破し、その後に障害を除去する寸法だ。
「発射炎! 九時方向!」
偵察手がモニターを見て叫ぶ。直後、枝道から発射された対戦車ミサイルが戦車小隊のうちの一両に命中した。爆発反応装甲が起爆し、灰色の煙が炎と共に広がる。
「スモーク! 工兵車をカバーしろ!」
再び爆発音。今度はミサイルの炸薬とは規模が違う。
「敵の砲撃だ!」
遠くで鳴り続けるMS隊の戦闘音、敵歩兵による攻撃、そこに砲撃が加わる。
用意された障害。砲兵はとっくに標定を済まし、いつでも進入するジオン軍に砲撃ができた。
「操縦手! 微速後退! 砲手! HE! 敵AT! 次弾も同じ!」
「目標確認!」
「撃て!」
133ミリ砲が放った多目的榴弾が三キロ先の対戦車陣地の致命的な至近距離で爆ぜる。だが連邦兵は既にその陣地を放棄していた。代わりに林縁から飛び出た別の兵士達が、次々に無反動砲やロケットランチャーを近距離で射撃し始める。
「砲手! HE! 散兵! 次弾、発煙弾!」
マゼラ・カンプが砲塔に備えた33ミリ連装機関砲で林縁を薙ぎ払う。後方の機械化歩兵を乗せたマゼラ・ベースはガードレールを轢き潰し、盛り土を降り始めた。
「工兵車が!」
戦闘工兵車の至近に榴弾が着弾し、左側の走行装置が無惨に破壊される。
『敵砲兵が健在! 被害が拡大する! 小隊後退!』
先頭集団はようやく後退を始めたが、既に連邦陸軍東南アジア方面軍第八師団RCT3の火力はこの地点に注がれており、全力射撃を行う砲兵大隊の砲撃は後方に並ぶ装甲兵員輸送車にも被害を出し始めていた。
「このままじゃ全滅するぞ! 砲手! 同軸機銃! 目の前の―」
ロケットランチャーを携えた歩兵が数十メートル先の林縁からこちらを照準している。車長はすぐさま砲手に命じたが、既に連邦兵の人差し指は引き金を絞り切っていた。
射出された弾頭はメイン・モーターを点火し、その初速をほとんど保ったままマゼラ・アインの砲塔側面に衝突する。
貼り付けられた爆発反応装甲が弾頭の装甲貫徹力を無力化するが、タケヤリと呼ばれたその兵器は、それでも個人携行の対戦車火器としては異例のマガジンボックスを持っていた。連続して多弾を放つことが可能である。
二発目が爆発反応装甲の剥がれた砲塔側面に飛び込む。HEATの弾頭が起爆し、メタルジェットが装甲に対して侵徹を発生させた。破片と残ったジェットが小さな穴から砲塔内に飛び込み、車長の胴体を貫通して自動装填装置の即応弾を爆破する。
第八装甲突撃大隊に所属する機械化歩兵小隊長、ペレイラ少尉は第一旅団のB戦闘団にあって、先行するA戦闘団が連邦陸軍の壮絶な抵抗によって次々に起こす爆発を見ていた。正確には、曲がった一級道路のその先で上がった、特に大きな爆発を。
増やして欲しい要素はなんですか?
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人間ストーリー
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戦闘シーン
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モビルスーツ
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普通兵器
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歩兵