機動戦士ガンダム0079 Universal Stories 泥に沈む薬莢 作:Aurelia7000
第十七章
第四地上機動師団のファイター・パイロット、ミネヤ中尉は格納庫で愛機のコックピットを見上げた。
「敵がすぐ来るだろうって話だから、この距離なんだろう?」
「ミノフスキー粒子はまだないんだ。飛ぶだけで下の連中を守れる」
僚機を操縦する男の話に、器用なことだ、と彼は思った。つるりとした機体の表面にあるコックを引くと、コックピットの底が割れ、ゆっくり座席が降りてくる。エア・インテークの前で、彼はアームが伸びきるのを待った。
片手で抱えたノーマルスーツのヘルメットを被ると、やかましい格納庫と低く響く熱核ジェットエンジンがくぐもって緩和される。
座席に座り、コックピットまで持ち上げられた彼はドップを始動させた。
「こちら《ハイド・ワン》。出撃準備完了」
『了解。発進ゲート、オープン』
管制室の通信が入り、目線の奥に立ち塞がる壁がゆっくり開き始める。
その先は霞んだ暗闇で、遠くに月と星とが見える。地球で見る月は黄色く、近い。瞬く星は電球のようだった。反面、その下の地面は夜の闇に閉ざされている。
ミネヤは左側に見えるカタパルト管制室の窓に親指を立てた。直後、彼の体がシートに押さえつけられる。
視界が一瞬のうちに過ぎ去り、彼は空に放り出された。すぐに操縦桿を倒して彼の母艦が進む進路から外れる。
「《ジキル》隊、《ハイド》隊、射出完了。正常飛行を確認。二番機からも発艦を確認」
「発進ゲート閉鎖完了」
ボルネオ島の上空を航行する二隻のガウ攻撃空母の一隻、《G-47》の艦長は、指揮官章のあるヘルメットを被って艦橋中央の艦長席に座っていた。
巨大な空中母艦であるガウが両翼付け根に位置する航空機発進口から左右合わせて八機の護衛機を射出し、その編隊は周囲を飛行する護衛機に合流する。
「諸君、仕事に取り掛かろう。全艦、第一戦闘配備。対地戦闘用意」
「全艦、第一戦闘配備発令! 対地戦闘用意!」
副長の号令でアラームが鳴り響き、各部署が速やかに戦闘開始の備えを完了する。
ガウは航空機ではあるが、クルーの経歴も運用も、宇宙軍の艦艇と酷似している。通常であれば機長と呼ばれる指揮官を艦長と呼ぶのがその最たる例であった。
「ALCM、発射用意。目標、パランカラヤ市街地」
「底部爆弾倉一番から三番、空中発射巡航ミサイル発射用意!」
「爆弾倉一から三番、ロータリーランチャー作動。ALCMオンライン」
「目標! パランカラヤ市街地!」
「目標、パランカラヤ市街地。諸元入力」
ガウの爆弾倉には大量の航空爆弾を搭載可能だが、この機体には通常爆弾が搭載されていなかった。代わりに積まれたのが、航空機が空中で発射する巡航ミサイルである。
「諸元入力終了!」
「目標、発射圏内!」
「ミサイル投下!」
「爆弾倉一から三番、投下!」
「投下! 投下完了!」
「ブースター作動を確認。正常航行中!」
「次弾投下用意よし!」
「投下!」
ガウから落とされた巡航ミサイルは慣性で前進したのち、主翼と尾翼を展開し、ターボファンによって自立飛行を開始した。慣性航法によって事前に設定された経路を飛行し、電波反射による地形スキャンで正確な自機の位置を補正する。この繰り返しによって、ミサイルは外部の誘導を用いずに設定された座標へと向かうことが可能だった。
ガウから発射された計二十発の巡航ミサイルは、十発がパランカラヤに向かい、十発がボルネオ島の連邦最重要都市バンジャルマシンを目標として飛行する。
この攻撃はミノフスキー粒子の散布が始まる前であり、二隻のガウと護衛機の編隊、発射されたミサイルは全て連邦軍のレーダーによって捕捉されていた。
照準を合わせた座標の一つ、パランカラヤでは、地球連邦陸軍東南アジア方面軍第八師団の連隊戦闘団、RCT1がジオン公国軍ボルネオ方面制圧軍第二旅団と対峙している。
第二旅団の攻勢開始に先駆けて飛来した十発の巡航ミサイルは、対空ミサイルによって約半数が迎撃され、残った半数が市街地に着弾した。この攻撃はRCT1に被害を与えたものの、陣地の正確な位置が不明であったため効果は限定的だった。
―バンジャルマシン近郊地下、東南アジア方面軍ボルネオ防衛司令部。
「巡航ミサイル、さらに近づく。数は十!」
「防空システムが対応します」
「RCT3の被害拡大」
レーダーで捉えた機影が、統合戦術作戦センターの正面壁面に投影されたデジタルマップに表示される。蜂の巣をつついたような騒ぎのこの部屋で、ダルヴィス・リンプルは黙って視線を注いでいた。指揮官のデスクは二メートルほど高まった、大スクリーンを見るのに最も良い位置にある。
東南アジア方面軍にあってボルネオ島での防衛戦を指揮するリンプル中将は、ジオンの降下作戦直後に建造されたこの地下施設で半年間、島内の連邦軍部隊を指揮していた。戦力の少ない東南アジア方面軍のボルネオ戦線を支えた功労者であり、戦線が崩壊しかかってもなお再編を推し進め、現在のBJM防衛線を構築した男である。
彼を頂点とする防衛司令部では、唐突に開始された敵の攻撃についての情報が集約され、彼の決心を待っている。
バンジャルマシンから見て北東に伸びる連邦一級道路でRCT3が敵勢力と接触したのとほぼ同時に、東岸側のメラトゥス山脈で海兵隊第二レンジャー連隊が別部隊と交戦を開始した。残る西側、パランカラヤの市街地を通る一級道路ではまだ交戦していなかったが、先刻巡航ミサイルが複数着弾したのを確認している。
「敵航空部隊、さらに南下中」
「イスワヒュディ空軍基地からスクランブル」
「敵航空部隊のレーダー反応が減少中。ガウによるミノフスキー粒子散布と思われる」
「パランカラヤでミノフスキー粒子散布を確認!」
地図上にミノフスキー粒子の散布域が表示される。とは言ってもミノフスキー粒子を直接感知するセンサーが網のように配置されているわけではなく、部隊のデータリンク接続状況から判断したおおまかな粒子拡散の予想円にすぎず、台風の進路予想のようなものだ。
電波通信やレーダーを無力化する厄介な粒子は、RCT3、RCT1、第二レンジャー連隊の戦域と空中、つまりは―報告が正しければ―敵第一旅団、第二旅団、第三旅団、そして先ほどレーダーに映ったガウからそれぞれ散布されている。
敵は三方向で同時に攻勢を展開したのだ。これは予測されていた一つのシナリオであった。
そして、問題はガウ。
「敵巡航ミサイルを撃墜! 三発がなおも接近中!」
「迎撃! 近SAM、対空砲!」
指揮所の中央アイランドを占める作戦部は防空指揮官と十人ほどのオペレーター、通信員などで騒がしさを増すばかりだ。リンプルは金色の口髭を指で擦ると、デスクに置いてあった紅茶に手を伸ばす。
「敵空中空母部隊との会敵予想時刻は四十分後」
空中空母。ガウはそういう兵器だった。二個小隊の戦闘機を運用可能で、さらには一個小隊のMSを降下させることができる。本体もメガ粒子砲に膨大なペイロードによる空爆能力をもち、さながら大気圏で運用される宇宙戦闘艦といったスペックだ。
「サネプトを失ったのは大きかったということだ」
リンプルは初めて口を開く。隣に立っていたマーロウ少将がその相手だ。
「ですな。しかもタイミングが悪い。敵の主攻は中央第一旅団でしょう」
マーロウは参謀飾緒を垂らした制服を着ている。彼の見立ては妥当に思えた。
「ならば、第五機甲連隊がミンドールにいるのは都合が良い。少なくとも、あれと一戦交えてそのままバンジャルマシンまで攻勢をかけるのは無理だ」
だがやはり、リンプルにはガウが気掛かりだった。この戦線にガウが姿を現したことはない。それが二機。相応に本格的な侵攻だということだろう。
「主攻が中央であれば第四機械化混成連隊が使えます。第五の応援に出しますか?」
「待て。ガウがいたのは西側だな? なぜ第一旅団を援護しない」
マーロウが何か口にしようとしたが、指揮所が揺れ照明が落ちる。リンプルは動じず、ただ前を見つめていた。
「巡航ミサイルが変電所に着弾!」
「予備電源に切り替わります!」
基地の損傷は皆無だった。だがガウのペイロードにはまだ余裕があるだろう。このミサイル攻撃は前哨戦に過ぎないはずだ。
「ガウのMSと合わせた第二旅団の戦力があれば、西側に展開するRCT1と第四混成連隊を突破できる。そうだな?」
「……おそらく。第四機械化混成連隊は、攻勢に備えて後方で待機しています」
「方面軍の楽観視だよ。主攻が第二旅団の可能性も捨てられない。西のガウが第二旅団を援護し、そのまま進出すればBJMが危うい。第五機甲連隊を下げるのはどうか?」
「第八師団は捨て石ですか」
「違う。第五機甲連隊の戦力は正しく使わねばこの島を失うのだ。主侵攻軸が判断できない以上、無為に交戦させるのは危険だ」
リンプル中将は第九、第八師団しか島内の戦力を持たない初戦からこの地の防衛を担ってきた優秀な指揮官であった。
まずは地形を生かし、主要街道を歩兵主体のRCTで固める。そして敵の攻勢があれば、主攻と思しき部隊を第五機甲連隊がRCTと協働して撃破する。その防衛計画に拘泥せず、ガウの戦力を予想し敵の意図がどのようなものであっても対応できる術を導き出した。
「第五機甲連隊はミンドールを放棄。郷土防衛師団は引き続きミンドールで敵に対する遅滞戦闘に備えよ。第四機械化混成連隊と第十二騎兵連隊は先んじて最終防衛線で第五連隊の合流を待ち、合流の可否に問わずここで戦闘を行う。空軍と海軍は―」
命令がボルネオに展開する各部隊に伝えられる。ミンドールではミノフスキー粒子の影響もなく、無線で防衛司令部から下達を受けた第五連隊が後退準備を始めようとしていた。
夜のミンドールは明かりもほとんどなく、住人の気配もない。遠目には放棄された市街地にしか見えなかった。
《ムステラ・ワン》とコールサインが割り振られたDFA-03ドップが、メラトゥス山脈の尾根を越えてジャングルの葉を撫でるように低空を飛行する。防空レーダーを避けるために山脈の影から現れたこの機影は、まっすぐミンドールへ向かっていた。
機数は四。
編隊のうち二機が機首を上げ、加速してミンドールに接近した。
『ネイルズ。《ムステラ・スリー》、敵レーダー波を検知』
『《フォー》。こちらもだ。敵の捜索レーダーが我々を捕捉した』
『射撃管制レーダーが来た! 照準されてる!』
先行した二機はミンドールに近づきすぎずに旋回し、代わりにデータリンクされた後方の二機がミサイルを発射した。
『《ムステラ・ワン》マグナム!』
『《ムステラ・トゥー》マグナム!』
発射されたミサイルは対レーダーミサイル。レーダーの発信源を自動で追跡する防空網制圧用のミサイルだ。
これに虚を突かれたのがミンドールの野戦防空部隊だった。彼らは集結地を守るため防空兵器を有し、空の脅威に備えていたが、ジオンはミノフスキー粒子を散布して戦闘を始めると学んでいただけに、純粋な対地攻撃に意表を突かれた。
「対レーダーミサイル! レーダーの管理外使用を禁止!」
敵が牙を向くときにはレーダーの無効化が先立つと思い込んでいた。防空指揮官は指揮所で各レーダーユニット、ミサイル発射ユニットと繋がった回線に叫ぶ。
「レーダー車は退避! ミサイルが飛んでくるぞ!」
レーダーを停止しても、ミサイルは最終位置に向けて飛行を続ける。レーダーは複数を交互に使用するなどして敵の攻撃を避けなければならない。それでも敵の攻撃に晒される危険は付きまとう。
「敵機、接近中! 対空砲射程まで一分!」
「光学照準と赤外線誘導は使える! 戦車を撃たせるな!」
そう離れていない場所で、重く爆発音が空気と地面を震わせた。防空指揮所のテントにぶら下がった照明が小さく揺れる。
「90ミリ対空砲の射程内!」
「対空戦闘!」
ミノフスキー粒子の影響を考慮し開発された、新型の大口径高射機関砲が射撃を開始する。砲口から吐き出された砲弾がドップを目掛けて夜空を切り裂く。砲弾はプログラムされた時限信管で炸裂し、《ムステラ》隊の一機から片翼を奪う。
「よし! 流石の新型だ!」
対空砲弾の撃墜に沸いたのも束の間、90ミリ砲に誘導爆弾が突き刺さる。直後、巨大な短機関銃を立てたような砲台が轟音と共に吹き飛んだ。
《ムステラ》隊の遥か上空を飛行する二機のドップだった。コックピット下面に開いた光学窓からターゲティングポッドが照準を行う。―投下。翼下のハードポイントが航空爆弾を手放すと、レーザー誘導に従って次なる目標へ向かい始めた。
市街の外周に設置された対空陣地が次々に爆撃を受け、その大きな炎が見える。
上空を挑発するように飛び交うドップを狙った対空砲がまた一つ、燃え盛る残骸に変えられた。巨大なアヒルのような見てくれの戦闘機だが、小回りを活かして旋回しつつフレアを射出。翻弄するように赤外線誘導ミサイルを回避している。
「始まったみたいだね」
指定された沼地に身を沈めるアッガイのコックピットで、ドナは市街の空で繰り広げられるサーカスを見学していた。
「我々はこの地点を確保。今のところ敵戦車連隊に動きはないが……」
クロエがモノアイで再び周囲のスキャンを行う。沼地は人気もなければ決して見晴らしの良い場所でもなく、彼女たちが辿り着くのに苦労はなかった。だが川と違い、いつ敵に発見されてもおかしくはない。
「ここからじゃ空爆の支援もできない。一体何をさせようっていうの」
「そう怒らないで少尉さん。何か理由が―」
危険な場所で司令部からは追加の連絡もなく、苛立ちを隠さなくなってきたクロエをドナが宥めようとしたとき、彼女がモニターの映像を拡大した。
「人影だ」
緑色の暗視映像の中には、確かに人間らしき影が複数見える。
「待って」
クロエがスティックのトリガーに指をかけると、ドナが制止した。
「連邦軍の兵士じゃない。それに、まだ気付かれてないみたい」
対空ミサイルが推進剤を燃焼させて上空を飛行し、その明かりが五人ほどの男達がぞろぞろと沼の淵を歩いているのを照らし出した。男達は遅れて聞こえてきた音に身を屈めた。
暗闇で潰れていたディティールがあらわになる。男達はライフルを手に持ち連邦軍のBDUジャケットをだらしなく羽織っているが、下半身は半ズボンだった。
体格も悪く、密集して歩く姿は正規の軍人とは思えない。
「目がいいのね。ゲリラかしら?」
「ただの民間人かも」
「武器を持っているし、一応戦闘服も着てる」
ドナは画面を睨み続けていたが、クロエは内心、既に決めていたことがあった。
アッガイのフレキシブル・ベロウズ・アームが伸長する。先端のウェポンモジュールポッドから鋭く、長い鉤爪が突き出された。
まずは先頭に立つ男をアイアン・ネイルが仕留める。高周波で振動する爪がそのまま、列になった男達を順番に、雑に切り裂いていった。モビルスーツの出力で抵抗もなく、水面のように滑らかに刃が進む。
静かに五つの心臓を止めると、アッガイの腕は機体に戻った。遠く鳴り響く爆発音と虫や鳥の鳴き声だけが響いている。
「敵か分からないのに!」
ドナが声を上げた。クロエはサブ・モニターの隙間から隣席の顔を見た。
「武器を持ってた。服は連邦軍のもの。交戦規定には違反してないわ。発見されるまで放置するわけにはいかない」
「ただの民間人だったかも知れないよ」
ドナはヒステリックになるでもなく、そう言った。彼女にとってみれば、銃を持っているだけの民間人は昨日見たばかりだ。ジャケットは拾ったものかも知れないし、敵兵だと断言できる根拠はなかった。
「言ったはずよ、ドナ。無理は私が判断すると」
ドナは答えなかった。少し間をおいて口を開いたかも知れないが、そうはならなかった。上空の友軍機が、アッガイに呼びかけたからだった。
『こちら《ムステラ・ワン》。聞こえるか』
「こちら制海中隊特務偵察機。問題ない」
無線封止を解き、クロエが応答する。
対空砲をあらかた暴いた《ムステラ》隊の三機と爆撃を行った《カッパ》隊二機は、それを聞くと合流して高度を上げた。司令部が見繕った地点を、潜伏していたアッガイは予定通り確保したらしい。
『《ムステラ・ワン》より各機。微弱だが通信にノイズが乗り始めた。連邦空軍も駆けつける頃合いだろう。デリバリーを見届けて退散する。機体は軽くしておけ』
攻撃隊の各機が、単にPTTスイッチを一瞬押すだけの短音で返答する。戦闘機乗りのYESを意味した。
『《ストーク・ワン》より《ムステラ》へ。露払いに感謝する。DZ周辺はピクニックがしやすそうだと猟兵どもも喜んでるよ』
―《ストーク・ワン》、赤ん坊を運んでくると古い欧州の伝承で伝えられた白い鳥の名を冠した航空機。巨大な機体を浮かせるのに巨大なファンを利用するその不恰好な外観はコウノトリと似ても似つかないが、コールサインの由来は機体の役割をよく表していた。
ファット・アンクル輸送機の胎には赤ん坊ではなく、一つ目の巨人が並んでいる。
防空指揮所はようやく進行中の事態を把握し始めた。
「東から輸送機が来ている! 空挺降下する気だ! レーダーの使用制限を解除! なんとしてでも降下を阻止しろ!」
『レーダー反……が……使用できない……!』
ミノフスキー粒子は既に戦闘濃度を上回り、ミンドールの空域に侵入する二機の輸送機を生き残ったレーダー誘導ミサイルが迎撃することは不可能だった。有力なその他の攻撃手段もドップの編隊が片端から破壊している。
『MANPADS、MG、なんでもいい! 生き残ってる部隊は優先的に―』
ジオン公国軍はミノフスキー粒子の軍事利用にいち早く着目し、それを前提とした戦術の研究を完成の域まで磨き上げた人類初の軍事組織であった。
その戦術的アドバンテージは、ミノフスキー粒子が濃度に応じて電波通信を阻害し、レーダーを使用不能にし、集積回路を不安定化させるといった、彼らに言わせれば初歩的な効果そのものだけにある訳ではなかった。それはあくまで、前提でしかない。
ミノフスキー粒子の海で使用可能な程度に精密機器をダウングレードし、シーリングを施し、画像や慣性航法を利用し、有線やレーザー通信で冗長性を確保する。そういった対策は、ほぼ全てのジオン製兵器にとって当然のものであったし、連邦軍も早い段階で導入の難易度が低いものから順に対応していった。
そして連邦軍は、ミノフスキー粒子の散布が公国軍の軍事行動に先駆けて行われること、ミノフスキー粒子の散布は散布源を中心に行われるため、濃度によってある程度散布源までの距離や時間を計算できることに気付いていた。
しかし、ジオンのミノフスキー粒子を前提とする戦術はそれより高度な次元にあった。つまり彼らのアドバンテージはミノフスキー粒子を散布できることや、粒子の干渉下で異常を来さない機械と組織を有していることではなく、ミノフスキー粒子が決定する戦場の状況にイニシアチブを有していたことなのである。
彼らはしばしば、ミノフスキー粒子の拡散速度と範囲を計算し、自軍の作戦行動に合わせて最適なタイミングでその電波干渉効果が発揮されるよう行動した。ミンドールに飛来したワイルド・ヴィーゼルと輸送機は、まさにその典型であった。
敢えてミノフスキー粒子が到達する前に対レーダー攻撃を行い、粒子の到達後には役に立たなくなるレーダー兵器の使用を抑制する。そして効率的に光学照準や赤外線誘導の対空兵器を炙り出したのだ。
だが、すべての対空兵器を破壊できたわけではなかった。
農園に近い精油施設で、秘匿され見過ごされた対空砲陣地がファット・アンクルに向けて射撃を開始する。
それとほぼ同時に連邦空軍の戦闘機が南から姿を現す。レーダーは使用できないものの、赤外線によりドップとフライアローは互いの姿を認識した。フライアローがアフターバーナーを切り、空戦隊形に移行する。奇襲による一時的な航空優勢と防空網制圧は既に揺らぎ始めていた。
「《ストーク・ワン》が狙われてる!」
ドナが言う。
アッガイのメインカメラで捉えた上空の映像には、ファンに被弾するファット・アンクルが捉えられていた。炎上する機体から脱出する三機のMSが見える。
「誘導用のレーザーはこのまま」
クロエが指示し、モノアイスリットから伸びる不可視のレーザー光線が引き続き降下地点を指示する。マーカーを認識した上空のザクは、スラスターを吹かして落下軌道を調整した。機関砲弾が彼らに向かうのも見える。
「まただ! AAA!」
ドナが報告するが、アッガイには対処できない。
その時、空が一気に明るくなった。遅れて連続する、アッガイの聴音センサーをパンクさせるほどの爆発音。
アッガイからは爆炎しか見えなかったが、続いて響き渡る熱核ジェットエンジンの轟音がド・ダイの機首対地ミサイルであることを示した。
焼夷弾頭を用いた三機の一斉射が、機関砲座ごと一帯を焼き払う。斉射を終えて旋回するド・ダイYSの背中から、ザクよりずっと身軽に飛び出したMS。三機のMS-07Bが器用にスラスターを噴射しながらレーザースポットを目掛けて落下し始めた。
「来るよ!」
ドナの予告から間もなく、彼女とクロエの眼前には黙示録のような光景が広がる。
泥だらけの地面と沼が赤く染まり、血溜まりのように光を反射する。その背後には闇夜に包まれた森。そして―。
そして、炎を撒き散らしながら一つ目の巨人が次々と降り立ち、大地を揺るがしたのだ。
増やして欲しい要素はなんですか?
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人間ストーリー
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戦闘シーン
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モビルスーツ
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普通兵器
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歩兵