弱ければ相手から何もかも奪えばいい。 作:旋盤
ゆっくり見ていって下さい。
自分の片腕だった物を見るのは、人生で初めての経験だ。
それに、両腕がある状態で切り離された腕を見るのは、前の世界ではあり得なかっただろう。
自分の切り離された腕を見せられた時は、ある一種の恐怖を感じた。
さらに、その腕を見せてきた人は、それを記念にすると言っている。
そんな事を言う人を俺は初めて見た。
「というか、腐ると危ないから焼いておけ」
「腐らせません。その方法もあります」
即答ですか。そうですか。
「その方法は?」
「魔法の中に閉じ込めます」
出たよ魔法…。なんでもあり過ぎてもうなんも言えねぇ。
しかし、魔力の消費は発動させた分だけなのだろうか?維持に使う魔力は無いのだろうか?
そうなると、俺が創った魔王城(仮)の維持魔力はどうなっているんだ?
「魔法の維持に魔力は必要なのか?」
それに首を傾げて、不思議そうな顔で、
「はい」
と言われた。
この世界では常識なんだろう。
そして、そんな常識を聞いてしまったから、こんな顔をしたのだろう。
今はそれは置いておこう。
維持魔力が必要なら、あの魔王城の維持は難しいはずだ。今でも、あの大きさの建造物を維持するために俺の魔力が使われているはずだ。
だが、そんな感じはしない。
「それにしては、俺の魔力が使われている気がしないな」
「ああ。そういう事でしたか」
何か納得したような顔と声を出してそう言った。
「このエリアは主人様のもので、主人様の魔力が流れております。それはこのエリアが永続的に生み出します。その魔力は主人様の数十分の一程ですが、主人様程の魔力量になると、維持魔力の心配はありません」
そうだったのか。どうりで維持魔力の消費が無かったわけだ。
しかし、彼女も物知りだな。彼女がいればこの先の心配事は無いに等しいだろう。
まあ、いずれは俺も彼女の上に立つ者として恥ずかしくないようにはしておきたい。
「ありがとう」
それにいつもの事務的な口調で
「いえ、まだエリアボスになったばかりですので、知らなくて当然です」
知らなくて当然の事を彼女はなぜ知っているのだろう?
「お前はなんでこんな事を知っているんだ?」
「それは、父が同じエリアボスですから、父に教えてもらいました」
マジか。この子の父親がエリアボスとは。驚きだな。
確かに、父親がエリアボスなら色々知っていてもおかしくない。
ただ、なぜこのエリアに来たんだ?父親がエリアボスならば、そのエリアにいればよかったのではないか?
「なぜこの場所に?お前の父親の所にいても良かったんじゃないか?」
「……」
何か気まずそうな顔をして、言うか言わないか迷っているように見える。
俺はそれを黙って待つ。言うのは彼女次第だ。俺が強制する事でもない。
そして、意を決したようで、口を開いた。
「まずは、笑わないで下さいね」
「ああ。絶対笑わない」
内容による。と、心の中で付け足しておく。
「家出です」
「……」
……家出?ああ。家出ね。マジか。彼女にも可愛い所があるじゃないか。
事務的な口調を崩さず、大人びた雰囲気を持っている彼女が言った、子供じみた理由。
それは意外だった。
正直、ニヤッとしそうになったが、笑わないと言ったからには、堪えよう。
「今、心の中でニヤッとしていますね?」
「………いや、そんな事は無いぞ」
なぜバレたんだ。なぜ俺の心を読める奴が多いんだ。
この世界の住人は人の心を読む術に長けているのか?読唇術か、悟りか?第三の目か?
「しかし、なんで家出なんかしたんだ?」
「……」
またしても気まずそうな顔をされる。
また恥ずかしい理由があるのか?
「親が過保護気質でして、外に満足に出させて貰えませんでした。ですから、家出をしようと決意したんです」
「ああ。なんとなくわかるよ。その気持ち」
外に出たくても、出られないってなんか、イライラかなんかするよな。多分それだ。
「わかってくれるのですか?」
「大体だがな」
「それでも十分ですよ。では、この一件がある程度片付いたら外出してもよろしいでしょうか?」
それは、俺に聞かなくても別にいいのだが。
「俺にお前の自由を侵害する権限は無いと思うのだが」
その言葉に薄い笑顔を浮かべて、
「感謝いたします」
そう言った。
薄い笑顔だったが、表情に乏しい彼女からすれば、満面の笑みに近いのだろう。
できる事ならば、これから先も笑顔を見せてくれた方が嬉しいのだが、時間がかかるだろうな。
まあ、のんびり焦らずやっていこう。
面白ければ幸いです。