弱ければ相手から何もかも奪えばいい。   作:旋盤

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最後までゆっくり見ていってください。


夢幻の世界

刀と拳がぶつかり合う。

本来なら拳が切られ腕ごと斬り飛ばされるのだが、

 

ガンッ!!

 

硬い金属同士がぶつかり合った時に出る音がして、拳は刀を受け止めている事実がうかがえる。

だが、そんな事はハナからわかっていた。

自分のステータスをそのまま相手取るのだ、大体想像がつく。

ステータスが一緒なら、見た目も同じ。唯一違うのは積んだ修練の時間だろうか。

こちらが一ヶ月と少しの間しか鍛えていない剣術ならば、相手は数十年と鍛えた今の俺で勝てない敵。

その証拠に、連撃を加えているのに相手は見ただけで最小限の動きとわかる様な躱し方をしている。

 

「ステータスは高いくせに剣術はやはり素人だな。お前の記憶通りだ」

 

どうやら、俺の記憶まで知っているらしい。

ますます勝てる気がしない。

スキル〈燕返し〉を発動させ、一旦距離をとらせようとするも途中で腕を握られ、刀を振るえなかった。

 

「スキルとは発動すれば強力な攻撃ではない。発動し当てることができて強力な攻撃となる」

 

次の瞬間、目の前に拳が迫っていた。

気付いた時にはもう目の前だったので、防御することも回避することも不可能だった。

そして、吹き飛ばされる。受け身をとれず、地面をバウンドしながら減速していった。

あらかた減速したところで、受け身をとり態勢を整えようとするが、フラついて膝をつく。

脳震盪でも起こしているのだろうか。急いで回復させるが、その瞬間に敵の追撃が来た。

今度は目で追えた。急速に近づいて蹴りを放つ姿が目に追えた。

それが近づいて来た瞬間に、氷の槍を幾十と創り一斉に発射した。

敵は後方へ飛び回避したが、それを追尾する様に槍をさらに放ち続ける。

その間に回復を終え、手放さず持っていた武器を構える。

あれだけ飛ばされたのに武器を手放さなかったのは奇跡だろう。

一度槍を止め、その瞬間に〈神閃〉を発動させ一瞬で間合いを詰め斬りふせる。

しかし、こちらが相手の知覚スピードを超える斬撃を放ったにも関わらず、敵は上半身を逸らすだけで躱していた。

足下を狙った二撃目を放つが、それすらも躱される。

そして、お返しとばかりに回し蹴りが圧倒的な威力と速度で迫って来た。

それを刀を使って受け止めた刹那、足を戻し逆の足で正面から蹴りを放たれる。

それを横に飛び回避し顔を上げた瞬間には、次の攻撃が迫って来た。

それを寸でのところで躱すも、続けざまの一撃が直撃する。

そして、さらに一撃、さらに一撃とまともに連撃を浴びてしまう。

ここままでは負けてしまう。魔力を多く使い周囲を焦土と化す様な大爆発を起こす。

 

「カハ!!ゲホッ!!ゲホッ!!」

 

もうこの時には心は折れていただろう。

絶対に勝てないのはわかった。ならば逃げればいい。だがそれができない。

勝負にならない様な実力差を見せつけられ、もはや、ここで死ぬ道しか残されていないと知った。

だが、それでも俺は自身の治癒を行い、その場に立っていた。自分ですら意味がわからない。

死ねばこんな所から消えて、天国か地獄もしくはどちらでも無いどこかへ行けると思う。

早くここから消えたいはずなのに、俺は武器を構える。

 

「先ほどの攻撃で実力差を知り、もう立てぬと思っていたのだが、以外にしぶといな」

 

もういいや。考えるのをやめよう。

俺は立って武器を構えている。その行動の意味はわからなくても、それが意味する事はわかる。

 

「では今度こそ……死ね」

 

相手の姿が迫る。

そして、攻撃が無数に放たれる。先ほどの連撃の比では無く、対処のしようがなく無残に殺される。はずだった。

目で見えた攻撃に合わせ武器を振るい連撃を尽く防いでいた。

 

「…………!」

 

敵も少しばかり驚いた様だが、それに気づく事はなかった。

頭に心臓に肺に次は……その尽くを頭が気付いたと同時に剣を振るった。いや、もしかしたら頭が気づく前に動いているかもしれない。

その動きには無駄がなく、敵の攻撃をただ防ぐだけの機械の様だった。

そして、敵がスキルを発動させた。

周囲に無数の影の様に黒い何かが現れる。

スキル〈シャドウブロー〉無数の拳を創りそれで一斉に攻撃を行うスキルだ。

単純なスキルだが、強力である。

そのスキルの発動を一瞥するだけで確認し、それが放たれる前にそのスキルと敵ごと爆発させた。

周囲が砂煙で確認できなくなる。

 

「邪魔だ」

 

刀を横に振るう。それだけで周囲を隠していた砂煙は晴れた。

 

「先程までとは別人だな。私の動きにもうついて来れるとは」

 

だが、その言葉も届いてはいなかった。

無言で武器を構える。

 

「………」

 

敵も無言で構える。

そして、爆音が鳴り響く。

今まで通り、猛攻を加える方とそれを防ぐ方に分かれる。

何故か実力が拮抗し始めていた。

もはや死ぬだろうと思われた男の姿は無かった。

そして、拮抗が崩れた。

ただ、攻撃を防ぐだけだった男が一際強く弾き、蹴りを放った。

それは回避されるが、そこからさらに追撃をかけていた。

攻守が逆転した。

ただそれだけだが、防戦一方から攻守の逆転があまりにも早すぎる。

敵はそれに異常を感じ距離を取る。追撃はせずにただ武器を構えて油断なく立っていた。

敵は己の敵をよく観察し、異変を探り、見つけ出した。だが、異変というには小さすぎる事だが、異変だと感じた。

 

「何故お前は笑っている」

 

「……!」

 

その言葉に男は反応した。

そして、我を取り戻した。

 

「俺は今までどうやって……」

 

どうやら、記憶が曖昧な様だ。

 

「何が起こったかはわからんが、今度こそ死ね」

 

その言葉に男は慌てて武器を構える。

敵の一撃が必殺の一撃となり、当たった瞬間、俺の敗北が決まる。

敵の攻撃が見えた瞬間、武器を動かし防いでいく。だが、敵の流れる様な連撃の前で次第に防ぐのが遅れてきていた。

今のままではダメだ。間に合わなくなる。もっと速く動かなければ。相手の次の攻撃を予測しろ。

そう考えるが、今を凌ぐので手一杯で次の攻撃の予測など考えられない。

速く動かそうとしても今の速度で限界で無理だ。

そして、一発腹にくらう。

その一撃は腹部の深くまで入り、勢いよく吹き飛ばされる。

吹き飛ばされ、宙を浮いている状態で複数の攻撃を一身にくらう。その全てがスキルによる攻撃だった。

左腕は吹き飛び、腹部には穴が一つ空いていた。足は両足とも有り得ない方向に曲がっていた。

そして、殴られ地面に勢いよく叩きつけられる。

その衝撃で自身の体は止まり。同時に死を悟り。目を閉じた。

 

 

 

目を開けると、一面の荒野が広がっていた。見たことがある光景だ。

それと同時に、何故だ?と思う。

俺は多分死んだ。あの状況で目を閉じ、それからの事は覚えていないが、死んだはずだ。

まさか、死に戻り的なやつか。しかし、ここからとなると永遠に殺され続けるのだろうな。

そう考え、呆然と立っていると、

 

「よう」

 

目の前に現れたのは白髪の俺だった。

どうも、先程とは違うようだ。

 

「お前は誰だ?」

 

「俺か?俺はお前だ」

 

またこういう回答か。最近流行っているのだろうか?まあ、どうでもいいか。

 

「正確にいうなれば、この世界におけるお前だった者だ」

 

今ならば様々な事が理解できる。

こいつは、俺となるはずだったのだろう。この世界で。生まれや育ち方、性格も違うかもしれないが、俺なのだろう。

平たくいうならば並行世界の俺。という解釈だろうか。

 

「今、お前が考えた事には少し語弊がある」

 

俺の考えを読むか。どうやら俺は考えている事が顔にでるらしい。隠せていると自分が思っていただけで。

 

「俺にはそういうスキルがあるからな」

 

そういう事にしておこう。

 

「話を戻すが、世界は複数あるようだが、その存在はどの世界でもその存在だけで、別の世界に存在はしない」

 

であれば、おかしいな俺は別の世界で生まれ、育った。なのにこいつは俺という。

 

「気付いたな。元のお前の生まれるはずの世界はこっちだったんだよ。だが、なぜか別の世界で生まれた」

 

俺はそんな特殊な生まれだったとは知らなかった。

 

「俺も知らなかったさ。あいつに会うまではな」

 

俺も教えてくれた人に会いたいな。その人ならば、どうして俺が向こうで生まれたのか知っているかもしれない。

 

「そして、ものは相談だが、俺にお前の体を寄越せ」

 

「お前もか」

 

「そうだ。どうせ死ぬんなら、本来の所有者に返してもらおうか。俺ならばあの現状を打破できるからな」

 

ああ。それならばいいかもしれない。だけど、

 

「断る」

 

「何?」

 

なぜか断ってしまう。断る理由なんてないはずなのに。

 

「お前に残された選択肢は死だけだぞ」

 

「だろうな。だが、断る」

 

何故なのだろうか?俺は何故、俺で有り続けようとするのだろうか?

その答えを探す。

それは直ぐに見つかった。

 

「ああ。そうか」

 

それは実に簡単な事だった。

 

「俺にはやらなければならない事が沢山あったな」

 

目の前の男はそれを聞くなり、

 

「それがお前の行きたい理由か?」

 

「そうだな。そうだろうな」

 

それを聞くなり、俺を見る目が嘲り笑うような目に変わった。

 

「ハッ!くだらねーな!なんだ?お前はそんなくだらない事の為に生きてきたのか?つまらない人生を送ってきたな!」

 

くだらないかも知れないが、それが俺の生き様だ。

 

「そんなくだらない人生をこれからも送るなら、さっさと俺に体を返せ!」

 

「それはできない。俺は俺が成したい事は絶対成す。手に入れたいものは手に入れる。こう見えても欲深いらしい」

 

「だったら、お前にとびっきりの情報を教えてやる」

 

その言葉に少しの興味を覚える。

 

「お前は、平和な世界というものを望み、その夢は消えた。そう思っているみたいだが、お前の中ではその願望が今も強く残っているぞ」

 

その言葉に驚愕する。自分は不可能だと諦めた夢を今もまだ夢見ているらしい。

 

 

「さらに、お前は俺と同じで戦いを楽しんでいる。なのに、お前は戦いのない世界を作ろうとしている。滑稽だな!お前は!」

 

確かに。そうだな。俺は知らず知らずの内に戦いを楽しんでいたかも知れない。

だが、

 

「関係ない」

 

「何?」

 

「関係ないと言っている!」

 

俺がどういう人物でどういう人間かはわかった。

だが、

 

「それが今の俺に何の関係がある!俺は今、この状況を打破して俺が見たい世界を見る。その気持ちに俺がどういう人間かなんて関係ない!」

 

それを聞いて、目の前の男は目を閉じ、笑みを消した。

 

「お前のその先にお前が見たいものが無かったとしても?」

 

「ある!なにせ俺が作るんだ。不可能ではない」

 

目の前の男が目を開ける。その表情には嘲りは無かった。

 

「まるで子供を相手にしたみたいだ。まるで進歩していない。本当に…………俺そっくりだ」

 

その顔は非常に優しそうな顔であった。

しかし。俺そっくりとは向こうもかなりのバカとみえる。

 

「なら、お前がいるべきはここじゃないだろう?」

 

「確かにな。だが、今のままでは勝てないのは明白だ」

 

このまま、戻っても無残に殺されて終わりだろう。

なんとか、窮地を脱する方法を考えなければならなかった。

 

「ハッ!ならば手を出せ」

 

小馬鹿にしたような言い方だが、言われるがままに手を出す。そして、その手が握られた。

何をしようとしているのかわからなかった。

 

「〈略奪〉を使え。といっても、ステータスなんざ無いけどな。さっさとスキルだけ奪ってさっさと行け!」

 

その言葉に一瞬呆気にとられたが、すぐさま〈略奪〉を発動させる。

 

『スキル〈思考加速〉を獲得しました。スキル〈未来予測〉を獲得しました』

 

「感謝する」

 

礼を述べた。今の俺にはそれくらいしかできない。

 

「……あと、ここはお前の世界という事をよく考えろ」

 

それを〈思考加速〉を使い、その意味を考えた。そして、ある事に思い至る。

 

「ここは、俺の心の世界という事か」

 

「ハッ!今更気付くとか遅すぎるんだよ」

 

俺の心。万人にもあるものであり、その風景は異なるが。皆、同じ意味を持っている。

景色は移り変わり、吹く風も変わる。同じ世界はなく。それぞれの世界がある。その名を

 

『固有スキル〈無限の世界〉を獲得しました』

 

〈無限の世界〉これが俺の具現となるものだろう。

 

「さっさと戻りやがれ、俺」

 

「ああ。何から何までありがとう」

 

その言葉をかけると、照れ臭そうに頬をかいた。

そして、最後にこの言葉を聞いた。

 

「これから先、一回でも生を諦めたら俺の体を返させてもらうぞ!」

 

その言葉に、

 

「諦めるわけないだろ!」

 

そう言った瞬間、辺りを砂煙が包んだ。




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