弱ければ相手から何もかも奪えばいい。 作:旋盤
薄れゆく敵を見ながら俺は勝利を確信する。
「………………」
「………………」
お互いの間に沈黙が流れる。
勝敗は決したが、お互いの目に闘志の色は消えていない。未だに相手を殺そうとする戦士の目だ。
勝敗は一目瞭然で、誰が見ても刀をもった男の勝利だった。しかし、二人の間では勝敗はまだついていなかった。
刀を勢いよく引き抜く。そうしても闘志の目は消えない。
「俺の勝利だ。どうだ?少しは可能性を信じる気になったか?」
その問いに敵は
「全く」
二人が睨み合い、ちょっとした事でまた戦闘が始まりそうな中、口を開く。
「お前の過去にどんな事があったかは知らないが、過去は過去だ。未来にもってくるな」
その言葉に不快そうに
「あの事を忘れて生きているお前が気にくわない」
そして、過去を思い出すように目を閉じる。
「私と彼女は最初こそ普通に生きていた。そして、私は彼女に恋をした。私は彼女を守れるようにと力を付けた。幸いにもその才能はあった」
「彼女はいつも明るく、まるで太陽のような女性だった。そして、私達はいつしか愛し合い、結ばれ、人並み以上に誇れる幸せを手に入れた」
俺はそれを黙って聞いていた。仮にもこいつは俺の過去の姿。自分の過去を知るのも必要だろう。
それに、俺以外に聞いている奴が数人いるしな。
「そこまで、私の人生は愛する人がいて、友人がいて、順風満帆の人生を送っていた」
そして、目を開けた。その目には溢れ出さんばかりの殺意があった。
「それをあいつら〈ゾディアック〉が奪っていったのだ!!」
「さらにその中の一人とその日に私に魔物退治を頼んできた者が私の友人だったのだ!」
だから友人も恨んでいたのか。そして、ここまでの話を聞いても全く思い出せない。
俺の過去ということはこの場面を一度経験しているはずだがな。
「私が魔物退治に出ている間に、私たちが住んでいた村に襲撃があった。その襲撃によって彼女は命を落とした」
「その時ほど彼女の側に居られなかった事を後悔したことはない。その時ほど、人を恨んだことはない」
「一通り悲しんだ後の行動は速かった。襲撃した者の一人を突き止め、拷問をして〈ゾディアック〉の存在と裏切り者の存在を知った」
「そして、私は復讐を開始した。だが、幸せな生活が長すぎたせいで、私の力は鈍っていた。そして、私は力及ばず殺された」
そして、今に至るということか。
正直〈ゾディアック〉というものは知らないが、こいつの、俺のいつかはわからない前世の過去はわかった。
壮絶なものだっただろう。悔しかっただろう、辛かっただろう、悲しかっただろう。だが、俺にはそれくらいの事しか言えない。
奴を改心させるか、復讐心を煽るかわからないがこの手しかないだろう。
「俺にはお前の過去について何も言えない。だが、あいつらから何か言いたい事があるように見えるぞ」
俺は、普通に見ると何もない空間だがスキルを使うと見える空間を指差した。
そこを見たあいつは、
「何もないではないか」
どうやらスキルを発動させていないらしい。
「〈看破〉を発動させてからまた見てみろ」
そして、また指差していた方角を見つめる。
「!!!!」
そこには、一人の女性と二人の男がいた。
「サクラなのか?……お前たちは!」
3人の幽霊があいつのそばに近寄る。
そして、あいつが女性と男二人の間を隔てるように立ちはだかった。
「リュウ君大丈夫だよ。その人達も嫌がっていたんだよ?」
「………」
その言葉を聞いても動く気配と敵意は全く薄れなかった。
「リュウ君。もしも私が人質に取られて、助けて欲しければ親友を騙さなければならないとしたら、リュウ君も親友を騙すでしょ?」
「………確かに。だが、サクラ。君が殺された事実は消えない」
その言葉に敵意は少し薄らいだ気がした。
そして、幽霊の男が口を開く。
「すまなかった!俺は両親と恋人を人質に取られていたんだ。今更許してくれ、なんて言わない。ただ謝らせてくれ。本当にすまなかった!!」
「俺も許して貰おうなんて思わない。すまなかった!!」
その言葉に嘘偽りがない事は、スキルを使っても使っていいなくても分かった。
「これでも、まだ許してくれない?」
その言葉にリュウは、
「…………まだ完全に許せたわけでは無いが、彼女に免じて許そう」
「よかったー。許さなかったらどうしようって思ったよ。それと、一人称も『私』じゃなくて『俺』の方がカッコよかったよ」
「そうか」
どうやら、もう心配はいらなそうだ。
彼らだけにして、他人は立ち去ろう。そう思って離れた場所まで移動した。
「よかったじゃねーか。勝てて」
聞き覚えがある声を聞いてそこを向くと、俺がいた。
詳しく言えば、この世界でそうなるはずだった俺がいた。
「確かにな」
俺は短くそう答えた。
「ハッ。もう俺の出番はなさそうだな」
そう言うと、目の前の俺の体が消え始めた。
「なんだ?死ぬのか?」
その問いに、面白そうに笑って、
「俺は生きていないんだぜ?なら、死ぬなんてできねーよ」
「確かにな」
そう言って、俺も少し笑った。
「だが、俺はお前を見張っているからな。それを肝に命じておけ」
「ああ」
俺が答えた直後、消えた。最後に腕を伸ばして親指を立てていた。
目の前にいたあいつに心の中で感謝しながら、前を向いた。
目の前には、あの四人がいた。
「少しは信じる気になったか?」
その言葉にリュウは真っ直ぐに俺を見て、
「全く」
短くそう言った。
これは予想外だった。少しは信じる気になってくれたと思っていたのだがな。
「……………だが、信じる努力はするつもりだ」
その言葉を聞いて、俺は一安心した。
そして、リュウの体は今にも消えそうなほど薄くなった。
「もう時間だな」
「そうだね」
そう言うと、周囲の幽霊も薄くなった。
「騒がせた。そして、すまなかった」
そう言ってリュウは頭を下げた。
「私の夫が迷惑をおかけして申し訳ございません」
夫婦仲はまだ全然大丈夫なようだ。愛し合っている事がかなり伺える。
「大丈夫とは言えなかったけど、いいですよ。お前、今度こそはちゃんと守れよ」
それを聞くと、リュウは小馬鹿にしたように少し笑って、
「誰にそんな事を言っている?お前だぞ。守りきれないはずがない」
「確かに」
俺はまたも少し笑った。
「さらばだ。未来の俺よ」
「さようなら。未来のリュウ君」
「ああ。じゃあな」
そう言うと全員消えた。
「俺もそろそろ現実に戻るか」
戻り方?多分、〈無限の世界〉をどうにかすればいいと思う。
確信はないが、予想はできる。
さて、理想を叶えるためにも、俺の守りたいものを守る為にも、戻るか。
面白ければ幸いです。