「あれ?…」
気が付くと何故か草原に立っていた。
「ここ何処だ?」
確かに武偵校に居たはずだが、何時の間にか知らない場所にいて頭が混乱している。
「ん〜…つか此処日本か?」
雰囲気と言うか…取り敢えず日本ではない感じがする。
「レキ達とメシ食ってて…レキが可愛い仕草して鼻血出して…あ、夢かこれ」
幻想的な雰囲気だったが一度夢だと理解ると、不思議と驚きがなくなってきた。
「そーいや、だだっ広くて草が生えてる所なんて実家の庭でみなれてるわ…」
頭をかきながら辺りを見渡すが、目に入るのは雲一つ無い空と広い草原だった。
「参ったなぁ…夢ってどうやって覚ませばいいんだ?…崖から落ちて体がガクってなっておきねぇかな…」
(汝、我が一族を見よ…)
「あ?」
突然の声にまた辺りを見渡すと今度は動くモノが目に付いた。
「ありゃあ…人…か?馬に乗った…しかも全員女!?」
50人に満たない何処かの民族衣装を身に纏った女性が馬に乗り、こちらに近づいて来ていた。しかも銃を担いで。
(我がウルス族は長きに渡り土地とウルスの血を守って来た…しかしウルス族の数は減り、その血により女子しか産まれなく衰退していった)
「あの馬に乗っているのがウルス族だよな!?意味が分からんぞ?ウルス族?長い戦い?それが俺にどう関係があるって言うんだ?つか、お前はだれだ!?」
(汝に彼女達ウルスを…47女を…託す)
「だァかぁらぁ!!人の話を…」
謎の声にキレかかったその時、先程の馬に乗ったウルス族が目の前を走り去って行くとその中に見覚えのある人物がいた。
「レ…キ?」
「…」
馬に乗り草原を駈けるレキによく似た少女と目が合うが、すぐに正面を向き走り去った。
「おい!?レキ待ってくれ!」
追いかけようと足を一歩出した瞬間、まるで階段を踏み外したようにガクンとなり下を見るとそこは草原ではなく、底の見えない崖になっていた。
「ゲッ!?…これってよく高い所から落ちてガクってなって目が覚めるやつか!?クソ…こんな時に覚めなくてもいいだろうが
ぁぁぁぁぁ〜」
走り去った少女に手が届かず崖から落ち、体がガクっとなり目が覚めた。
「武さん目が覚めましたか」
白い天井が目の前に広がり、ここが保健室のベッドの上にいる事に気づいたのと同時に聞き覚えのある少女の声が聞こえた。
「レキか…カグラはどうした?」
天井を見ていた顔をベッドの横にある椅子に座るレキに向ける。
「武藤さん達と武さんを保健室に運んだ後夕食の支度があるからといい先に帰りました、その時私も夕食に誘われたのですが…」
「いいじゃないか、運んでくれた礼だ一緒に食べよう」
「…」
何故が下を向いてしまった。
「ドアを開けるくらいしか…」
「充分だ、ありがとな」
布団から出る手を出しレキの頭を優しく撫でると、レキは笑顔になりそれを受け入れた。
(何か…犬みたいだな…)
「なぁレキ」
「はい、何でしょう?」
撫でるのを止めると名残惜しい顔をするレキを他所に話をかける。
夢でレキに似た少女が遠くに行ってしまい、それが何故か悲しくその姿をレキに重ね愛おしくなってしまった。
「もし良かったら…」
「はい?」
レキに傍にいて欲しい、その気持ちで心がいっぱいになっていた。
「俺のパー…」
「レキ!!武は起きたかしら?」
「アリア!ちゃんとノックしないとだめだろ
!?」
俺の言葉はかき消され、保健室に入ってきてベッドを囲むカーテンを捲りアリアとキンジが現れた。
「はい起きましたよ、それで武さん今何か言ってませんでした?」
「いや…何でもない…アリア…キンジ…何の用だ?」
意を決した告白を尽く邪魔されてしまい、疲労感に襲われた。
(明日また言えばいいか…2人の時に…)
「キンジにはもう話したけど武!私の奴隷候補になりなさい!!」
「は?」
腰に左手を当て人差し指を伸ばした右手を俺の方に向け、ドヤ顔をしているアリアの言葉が理解出来なかった。
「なぁレキ…」
「は…はい?…」
アリアの言葉にはレキも驚いたらしく、少し引きつった顔をしている。
「俺の聞き間違いかもしれないが、今アリアから奴隷って言葉が聞こえたんだが?」
「…私も…そう聞こえました…」
「やっぱり言ってたのか…」
深いため息を吐きながら起き上がり、靴を履き上着て銃や刀を装備する。
「悪いなアリア俺にそんな趣味はないんだ、さぁレキ帰ろう」
支度を終え保健室のドアノブに手を伸ばすと、キンジが俺の手首を掴んできた。
「何のつもりだ?キンジ」
「悪いな武…俺も奴隷候補にされてるんでな…お前にはアリアに選ばれて貰わないと俺が奴隷になっちまうんだよ!?」
「は?意味がわからんぞ?」
「おわ!?」
掴まれている手を引き掴まれていない手でキンジの手を掴み、体を捻り小手返しをしてキンジを床に倒し手を掴んだままうつ伏せのキンジの上にのる。
「イタタタタッ!?ギブギブ!!」
「見事な小手返しね!」
「そりゃどうも、でどう言う意味ださっきのキンジの言葉?」
「イタタタタッ!!その前に離せよ武!捥げる!腕が捥げる!!」
「武とキンジが私と組んで事件を解決するの!」
痛がるキンジを他所にアリアは話を進める。
「それで私と相性が良い方が奴隷候補から奴隷になるの!」
「何でそれが俺とキンジなんだ?お前の目的はなんだ?」
(奴隷ってパートナーって意味か…)
「あの…腕の感覚が…」
「私には力が必要なの…聞いたわよ、キンジは教官を倒し1年でSランクに…まぁ今はEランクに堕ちたみたいね…けど…」
「ん?」
アリアの顔が急に険しくなる。
「武…アンタは1年で…教務科を倒したのね…」
「な!?…」
「…ッ」
アリアの言葉にキンジやレキが動揺する。
「アンタに関する色々な噂を調べていたら1番驚いた話があったの…それが教務科を倒したと言う噂をね、それで調べたら分かったの…アンタは本当に教務科を…蘭豹を倒した事を」
「ほ…本当だったのかよ!?しかもあの蘭豹を…」
「ったく…懐かしい話を…」
「是非ともその話を、どうして蘭豹と戦うことになったのか知りたいわね」
「大して面白くない話しだ、長いしつまんねぇぞ?」
悪戯をする少年の様に武がにゃと笑うとアリアやキンジ、レキまでもが唾を飲み込んだ。
「教務科を倒したって話がつまらない理由ないじゃない…」
「俺も気になる!!だが話す前に…手離してくれ」
「キンジ、今の洒落か?」
「違うわ!!」
キンジの拘束を解きレキの方を向くと、レキも気になると言った表情でこちらを見ていた。
「レキも気になるのか…」
苦笑いを浮かべ、レキの頭を撫でベッドに腰をかけた。
「まぁいいさ…話してやるよ、蘭豹はな俺の刀の師匠の知り合いでな結構前から俺も蘭豹とは知り合い…格闘の師匠?みたいな感じだったんだ、もちろん貴蘭會のボスの娘である事も知ってた、そんである時蘭豹の親父さんから無理やり見合いをさせられるって話を聞いてな、見合いの阻止と俺の実力を見るために師匠の命令で香港に乗り込んだんだ」
「スゲー壮大な話だな…」
「だろ?んで香港に行って蘭豹の親父さんを説得するために貴蘭會の本部に行こうとしたら港に蘭豹がいて、帰れだの自分に関わるなとか言いながら殴り掛かってきたんだ」
「蘭豹先生は自分に関われば貴蘭會が武さんに危害を与えると思ったんですね」
「だろうな、それは俺も分かってたんだが応戦していくにつれ中々引かない俺に蘭豹がキレ始めたんだ…そんで何時しか俺と蘭豹は本気て殺りあってた、そして三日間続いた殺し合いは…」
「武が勝ったのね」
「三日間も…お前暫く学校来なかったのはそれが理由か!?」
「その通りだ!んでな戦ってる間に色々移動してたみたいで無人島が四つ地図から消えたって香港のお偉いさんにどやされたっけ」
少し話すつもりだったが、何時の間にか余計な事まで話していた。
「島を…化け物じゃねぇか…」
「それで蘭豹を連れて帰って来たの?」
「いや、貴蘭會の本部行って見合いを辞めさせるように頼んだんだが、ブチ切れた蘭豹の親父さんと部下達と乱闘して俺が勝って見合い話が無くなり、今に至ると」
「それで一本映画作れるんじゃね?…」
「ますますアンタの力が欲しくなったわ!チームを作れば無敵ね!」
「だから!俺は断るっていってるだろ!!」
相変わらず自分の意思を曲げないアリアに、俺は少し強めの口調で訴えた。
「五月蝿い!なんとしてもアンタとキンジは私の戦力にするんだから!!」
アリアはホルスターからガバメントを取り出し、構えを執った。
「はぁ…勇敢と無謀は…違うんだぞ…?」
武はベッドから立ち上がるのと同時に、体育倉庫の時とは比べ物にならないくらいの殺気を出した。
「クッ…」
「一応パートナー候補としてなら依頼を受けてやる、もし相性が悪かったら諦めるんだぞ?」
「え?…」
「レキ帰ろう」
「はい」
武は殺気を消し何時もの優しい顔つきになり、アリアの肩をポンと叩きレキと共に保健室が出ていった。
「武さん」
「ん?」
昇降口に向かう途中で、レキが話を掛けてきた。
「もし、私が武さんのパートナーになりたいと言ったら…武さんはアリアさんの様に断ったのですか?」
「いいかレキ?俺が断るのには理由があってな、俺はかなりヤバイ件にも首を突っ込んだ事があるから相当な奴に狙われる事がある、もし俺を狙ってる奴が俺の仲間を狙わないとは限らないだろ?」
そう言うとレキはハッとした表情をして立ち止まる。
「私では…力不足ですか?」
レキの言葉に思わず足を止め隣を歩いているレキに顔を向けるがそこに彼女は居なく、少し後ろの方に佇んでいた。
「違うんだ、もし俺の仲間に手を出したやつがいたら俺は武偵憲章9条を破る自信がある」
ゆっくりレキに近づき、またレキの頭を撫でる。
「そしたら俺は武偵でいられなくなる、悪を正せなくなっちまうんだ…だからアリアの件は絶対断るがな」
「…」
レキは少し納得いかない顔をしながら撫でられている。
「まぁ、俺がピンチの時は助けてくれな」
「はい」
レキは笑顔になり、俺達は寮に向かった。
その時俺は心の中で(俺には敵が多い…だからパートナーになる奴を危険に巻き込む事になる…だからあのレキに対しての気持ちは気のせいだ)と自分に言い聞かせていた。