大洗女子 第64回全国大会に出場せず 【改訂版】   作:エドガー・小楠

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れっつじょいん ばりぼーくらぶ 前編

 

 

 

 2013年3月も、もうすぐ終わろうとしている。

 大洗女子にとっての最大の懸案事項である「戦車道をどうするか」については、外部から仕掛けられた陰謀のおかげで1年間はモラトリアム状態となっている。

 しかし生徒会長五十鈴華にとっては、もっと身近なところで、すぐにも解決しなくてはならない課題があった。

 人員不足と予算を戦車道に振り向けるため、前会長角谷が廃部してしまったバレーボール部の今後についてだった。戦車道高校生全国大会でブリキ装甲、豆鉄砲の昭和五年製八九式を駆って、10年以上未来の戦車たち相手に一歩も引かず戦い抜いた『奇跡のアヒル』の母体である。

 バレーボル部の部員は年度当初で2年生1名、1年生3名のわずか4人だった。

 2年生主将の磯部典子はたったひとりで部の存続をかけて必死の部員勧誘を行ったが、入部したのは近藤妙子、河西忍、佐々木あけびの一年生3人だけ。バレーボールはレギュラーメンバーだけでも6人必要であり、この時点で部としての活動が不可能と判定されて、生徒会から廃部を言い渡されたのだ。たったひとりで奮闘した磯部や、入学したと同時に大好きなバレーボールの道が断たれてしまった近藤、河西、佐々木の無念はいかばかりであったろうか。

 しかし、磯部たちはそれでもあきらめなかった。彼女たちは今度は戦車道授業を選択し、なぜか角谷がなりふり構わず立ち上げた戦車道で自らの力と存在意義を証明し、バレーボール部復活へとつなげようと考えた。彼女たちは、他の部活の好意で体育館の片隅を使わせてもらってわずかな練習を続ける一方で、本気で戦車道に立ち向かう。

 だからアヒルさんは興味本位で参加した他のメンバーたちとは最初から意気込みが違った。

 自分たちが掘り出した攻・防・走すべて貧弱で扱いも難しい八九式を「5人目のバレー部」と呼んで仲間として扱い、最後には自分たちの手足のように操るところにまで至った。たとえ効き目がなくとも撃った弾は必ず当て、準決勝、決勝戦ではどんな名手もおいそれと弾を当てられない「逆リベロ」にまで成長した。わずか3ヶ月ほどで。

 本来ならば最も真剣でなければならなかったのは会長の角谷杏だったろう。しかし角谷は内心の感情を押し殺して「昼行灯」でありつづけた。他の履修生、とくに名門の出でありながら実際は小心な西住みほを萎縮させたくなかったのかも知れない。もっとも角谷も準決勝ともなればそんなことは言っておられず、みほを覚醒させ、自らも持てる力を発揮して戦った。

 とにかく元バレー部は腕と戦術に努力と根性で、自分たちの実力を超える激闘を続けて圧倒的不利をひっくり返してみせたのだ。

 

 角谷が大学選抜戦終了をもって会長を退任し、後任の会長が五十鈴華に決定したとき、角谷から引き継いだ事項の中に「磯部らのバレーボール部の再結成」もあった。本来は部活の結成については生徒側が行うことであって、生徒会側はその承認否認と予算の配分を行うものだ。しかし磯部たちがバレーボール部を復活させたいのは大洗戦車道メンバー全員が知っており、そのため角谷は人数の条件さえ整ったなら、最優先でバレー部を復活させるよう言い残したのだ。

 また、本人たちが希望すれば戦車道授業からの離脱も認めるよう言われている。戦車道履修生から見れば磯部たちがいなくなるのは大きな痛手だが、今までのことを考えれば戦車道の負担から自由になって、好きなだけバレーボールをやってほしいと華も思っている。

(ただし本人たちは、戦車道の継続と自分たちの参加を希望している)

 

 だが一方で、華は最後の条件である「人数」こそが本当は一番問題だと考えている。

 なにしろこの年度、大洗女子にはバレー部はなかったのだ。

 新入生には初めから「大洗女子にはバレーボール部はない」と思っている者も多いだろう。

 最悪の場合、また「人数不足」になる可能性も、わずかだろうがあるかも知れないのだ。

 もし4月にまたバレー部が結成できなければ、磯部はもう高校バレーをすることがなくなる。

 この場合は戦車道の成果が逆にネックになる。磯部典子でさえバレーボール選手ではなく「戦車道のスーパースター」として認知されているのだ。磯部はバレー部復活までユニフォームに袖を通さない覚悟だったが、他の三人も戦車道の試合ではいつも着ているユニフォームではなく、大洗女子の戦車道ジャケットを着ている。

 アヒルさんチームがバレーボールプレイヤーだと知っている者は、大洗女子の中でさえあまりいないのだ。

 

「いや、絶対にバレー部は復活させなければいけない!」

 

 そう、アヒルさんチームの勇戦がなかったら、大洗女子は存続できなかったかもしれない。

 報いる道はただ一つ。

 何があろうとバレー部を再結成するしかない。

 華は放課後に、密談に最適な例のとんかつレストランに「あんこうチーム」全員を集めることに決めた。

 ……断じて自分が「超重戦車カツ定食×3丁」を食べたいからではない。

 

 

 

 とんかつレストランに五人が集合してから、すでに1時間が過ぎていた。

 だが、話はまだとっかかりにすら入っていなかった。

 華はナプキンを取り出して、上品に口周りをぬぐう。

 華の前には、『撃破』された超重戦車マウスが乗っていた大皿が3枚、ピカピカの状態で3枚きれいに積み重ねられていた。お上品に。

 今回は皆、華以外は相談がメインと思っているので、普通の定食を頼んでいた。

 それなのに華は何も言わずにカツをお食べになり、皆と合わせたように同じ時間に食べ終わりになられた。所作は大変お上品なのだが、分量が残念だ。

 

「で、皆さんにお集まりいただいたのは……」

「……」

「……」

「……華ぁ。

 食後の休憩ぐらいさせてよぉ~」

「ケーキ頼んでいいか?」

 

 やっぱり女の子には、食後のスイーツこそが大事なのだ。

 華は店主に名物「戦車ケーキ」を7個頼んだ。

 戦車喫茶「ルクレール」の話を聞いた店主が、対抗意識を燃やして作り上げたものだ。

 

 

 

 皆の前に1両ずつ、一人だけ3両のケーキ戦車がならんで、カフェラッテがそろったところで、華が本題を切り出した。なお、華の前にある戦車は1両だけである。

 

「実は磯部さんたちのバレー部のことなのです。

 もちろん私も次年度には再結成していただくつもりであり、また、角谷前会長もなんとしてもバレーボール部を復活させるよう、引き継ぎの時に強く念を押していらっしゃいました。

 予算も例の『補助金』のおかげで、クラブ活動費を前年度並みに増額できましたし、他のクラブの皆さんもバレー部復活を歓迎するとおっしゃっています」

「じゃああとは必要な人数だけそろえば、すぐにバレー部復活じゃん」

「いや沙織、それこそが最大の問題なんじゃないのか?」

「あっ! それを見落としていた……」

 

 さっさと気がついたのは麻子とみほ。沙織は頭の上に疑問符を飛ばしまくっており、優花里はなぜか「どうしてそんなことを心配するのか?」という表情だ。

 

「華さん、考えてみれば大変なことです。うかつでした。

 磯部さんたちは4人で新部員を勧誘しなくてはなりませんし、去年の新学期のことを考えれば、大洗女子のバレボール人気はさほどないと考えなければなりません。

 新入生にとっては『大洗女子にバレーボール部はない』と思われていますから、今の人数のことも合わせると、バレーをやりたいと自発的に申し出る新入生がいるかどうか」

 

 これには、普段はみほにべったりの優花里が異を唱えた。

 

「磯辺殿たちには、バレボール部復活について最優先の便宜を図ることにすればいいと思います。

 オリエンテーション、部員募集会場、事前PRについても一番目立つよう配慮します。

 それよりも、本当は戦車道履修者の方がお寒い状態なんです。

 はら、全国大会で転倒しなかった戦車って、あんこうとレオポンだけじゃないですか。

 私たちの試合画像は、動画サイトで何千万アクセスもついています、が。

 視聴者はそれを見ながら『ありゃ崩れた砲弾でぐちゃぐちゃだな』とか『風紀委員会は壊滅しましたw』とか、『歴女壮絶に落城』『無茶しやがって』『干し芋死んだな』『マウスにヘッツアー潰されて生きている生徒会三悪は謎カーボン製?』『M3リーって実は風船?』『アヒル、最期にトリプルアクセル』『レオポン、もういい。楽になっていいんだ』『軍神西住みほの英霊に敬礼』『魁!女塾、ここに完結』『ねこにゃー万歳』とか、いろいろとコメントを。そのぉ……」

「……でも、それでも大洗女子は大いに名を上げたんでしょ?」

 

 みぽりんのほっぺがぴくぴくとけいれんしている。私まだ死んでないと。

 秋山殿は伏し目がちに……

 

「……はい、大いに名を上げました。

 黒森峰より殺人的といわれる、『地獄の大洗戦車道』『大洗スパルタ戦車スクール』として……」

 

 終わった。完全に終わった。

 正直5人が5人ともそう思った。

 最初の選択授業説明会で流したあのたいがい過ぎる連盟製作のはもとより、皆で無限軌道杯の頃からがんばってつくった新しいプロモーションビデオを見せても、『うっそだ~』と思われてしまうこと間違いない。(※ PS4版ドリームマッチ)

 これで「乙女のたしなみ」も何もあったもんじゃない。

 そう、人の頭のハエなんか気にしているヒマはないのだ!

 みほは「ふう」とため息をつくと、例の補助金騒動が起こる前に角谷から言われていたことを思い出す。

 

「角谷さんは『戦車道で文化祭も体育祭もできなかった。去年は学校の存続がかかっていたから仕方なかったが、今後はその時の執行部が考えればいい。続けられなきゃやめてもいいと思う』っておっしゃってた。その時私たちはあんこう以外のみんなに続けたいかどうか聞いてまわったよね。でもみんな続けたいっていっていた。磯部さんたちもバレー部が復活しても戦車道はやめないっていってる。(※ 最終章ドラマCD1)

 だから、今年は他の選択授業と平等なあつかいでいいし、それでもやりたいって人でないと、戦車道は続かないよ……」

 

 しかし、あやしげな「補助金」のおかげではあるが、あと1年間だけは戦車道を実施できる。

 だがもしかしたら、今度こそ大洗女子最後の戦車道になってしまうかもしれない。

 だから優花里は、今年はできる限りのことはすべてやっておきたかった。

 

「いやもう逆に、ウチの戦車隊の中では小さめでコミカルなはっきゅんに昼休みにでも校庭か広場に出てもらって、元バレーボール部のみなさんにキャンペーンガールみたいに戦車道のPRをしてもらいたいくらいです」

「……、あっそれ!

 それって使えるかもよ、優花里さん」

「えっ、……??」

 

 みほがまた突然なんか思いついたらしい。

 秋山殿は、全く理解が追いつかない。

 

 

 

 

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