大洗女子 第64回全国大会に出場せず 【改訂版】   作:エドガー・小楠

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第3話 怪物と戦うには……

 

 

 

 

 大荒れに荒れた予算委員会の数日後。

 華は会長職務代理者として優花里を指名して、連盟主催のこの合宿に参加した。

 優花里はいたって快活に「はい、お任せください」と答えて彼女らを見送った。

 優花里が快活なのは普段どおりなのだが、あんな風に予算で他の生徒たちと激突して、孤立無援状態になったあとであるからこそ、みほも華も不安を感じている。

 

「あら、こんなところにいたの」

 

 みほと華がMREを食べ終え、容器類を同伴の雪上車が持ってきたダストボックスに捨てたところに、肩までのボブカットの研修生が声をかけてきた。

 みほといろいろと因縁があり、先だっての全国大会決勝戦で雌雄を決した黒森峰女学園の現隊長、逸見エリカだった。みほの実姉で先代の黒森峰隊長、西住まほもいる。

 まほは昨年暮れから卒業後の進路であるドイツ陸軍の戦車の聖地、ニーダーザクセン州ムンスター市にあるニーダーザクセン戦術大学へ留学準備のために学生見習いとして単身渡独しているところだったが、向こうでの準備がひととおり終わったので、黒森峰の卒業式に総代として出席するために一時帰国している。

 あとは卒業式以外予定は何もないので、この研修にも参加している。。

 この二人とみほの間には「ある事件」をめぐって、みほが黒森峰から大洗女子に転校しなくてはならないほどの因縁があって、一時は断絶状態にあったのだが、大洗動乱と呼ばれる高校生連合対大学戦車道選抜軍との戦いを通じて、いまは互いに和解している。

 

「お姉ちゃん、ドイツでの一人ぐらし、いろいろ大変でしょ」

「まあ言葉と習慣がな。

 お前も息災そうで、何よりだ」

 

 まほはみほと違って、初めからただ者ではない厳つい雰囲気をまとっている。

 以前は「殺気」と形容しても良いくらいだったが、いまは妹を見る姉の目をしている。

 家元後継者という立場は華と同じだが、華道と戦車道の差がその所作のちがいとなって現れているといっていいだろう。

 もっとも、五十鈴華も本質は「求道者」であり、道のためには母と義絶するのもいとわない戦闘的な一面を持っている。

 一門を率いるということには、それだけの覚悟が必要だ。

 華を生けるのも砲弾を撃つのも、ともに「一発勝負」である。

 そういう意味で華は、みほの姉であるこの人物の考えを理解している。

 だから心の中だけでは、あいかわらず不器用なご姉妹ですね。と思っている。

 

「次年度の全国大会で当たったときは覚悟するのね。

 断じて勝たせてあげないわよ」

 

 逸見はみほに隔意があったころは、揶揄するような言動で挑発することも多かったが、これは揶揄でも挑発でもなかった。真剣なのだ。

 

「次年度に向けてⅣ号ラングはすべて入れ替えたわ。

 あれは戦車購入資金がショートしそうだったからパンターの代用として導入したのだけども、うちの戦術にはまったくあわなかった」

 

 Ⅳ号ラング(70V)は、主砲こそ強力なの70口径75mmだったが、長大な主砲と重くなった傾斜前面装甲のため極端なフロントヘビーであり、機動力は「移動が自力でできる対戦車砲」と考えてよい程度だ。さらにこの車両は無砲塔だ。そのために角谷にかく乱されたときに機敏に対応できず、むざむざ撃破されたものもいた。

 結果からいえば、決勝戦におけるⅣ号ラングの戦果は皆無だった。

 この戦車は遮蔽物や身を隠すものが多い地形に自分で移動し、あとは敵が来るのを息を潜めて待つという、人間の兵士でいえば狙撃兵に当たる車両であり、機動戦を旨とする黒森峰のドクトリンとの相性は良くなかった。

 

 決勝戦の敗北は、黒森峰の選手たちが、逸見も含めて大洗を舐めきっていたことも一因だろう。さらにみほが姉の立場と性格を利用してフラッグ同士の一騎討ちに持ち込んだ時点で、黒森峰は各個に分断され、相互の連携も不可能になっており、強豪が弱小に負けたという以前の「戦車の数と性能以外すべてにおいて負けていた」という無様な敗北を喫したと評されても仕方ないありさまとなってしまった。

 その中にあって、この年初めて黒森峰が導入した「Ⅷ号戦車マウス」は動力系の不安さえ克服できれば、戦車道ルール内の戦車が相手なら正面から撃破されることは決してない「掟破りの怪物」といっていい戦車だった。全国大会決勝戦でも撃破3両という最大戦果をあげている。逸見が単独1両、共同1両であり、残りの撃破はヤークトティーガーの相討ちと4両で追いかけ回したあげくの八九式だ。隊長のまほは戦果無しである。

 もしマウスの車長が功を焦ってみほの罠にかからなければ、大洗戦車隊を文字通り殲滅したかもしれない。

 

 そして黒森峰以外の各校も「編成替え」を模索している。

 理由は簡単であり、無限軌道杯における逸見のドクトリン変更があったとしても黒森峰は依然として無敵と言って良い大戦終盤の「アニマル・シリーズ」を多数保有していること。無限軌道杯では島田愛里寿とセンチュリオン試作型というイレギュラーにより聖グロが黒森峰を下したが、次はわからないだろうこと。いずれにせよ正面装備の充実がなければ、全国大会の優勝は困難を極めることは自明であること。

 また今後の全国戦および世界戦はM26パーシングのような第一世代MBT相当の戦車で戦われると、誰もが理解したといっていいだろう。

 

 逸見はなぜ、半年後に戦うかも知れないみほにこんなことを聞かせるのか。

 単に強豪とはこういうものだと誇りたいのだろうか。それとも、貴様らの勝利は絶望的だと、また揶揄しているのか。

 いや、そうではない。逸見の目は、真剣そのものなのだ。

 今年の栄光を泥に埋もれさせたくないなら、もう全国大会には出てくるなと言っているのだ。

 全国大会の黒森峰が時代を変えてしまったと。

 当然みほはさらに先も考える。

 四強の残り3校が今年の黒森峰を見て、何の対策も講じないとは考えられない。

 そして大学選抜の主力戦闘戦車のみの編成を見ているのは、彼女らも同様なのだ。

 

「みほ、お母様は大洗動乱の時「大洗を存続させて来年雪辱を期す」とおっしゃっていたが、あれは大人げないのを承知の文科省に対する牽制ではなく、完全に本気だ。「家元」として西住流に泥を塗った大洗とお前が本気で許せないのだ。

 流派の面子だけではない。島田に対する失地回復のためにもお前を完膚無きまでに叩き潰した上で全国大会で優勝を飾ることが、お母様の宿願なんだ。

 お母様にとって、お前はあいかわらず「敵」なんだ。それはおぼえておけ」

 

 

 

 

 

 

『黒森峰は無限軌道杯で運用が難しいとわかった戦車を整理して、重戦車の入れ替えをおこなったとはいえ、もし我々が現状のままで奴らと当たればどうなるかしら』

『史実を持ち出すまでもない。我々のシャーマンなど一方的に倒される』

『第二次大戦は、5万両のシャーマンがあったから何とか勝てた』

『しかし、戦車道の試合は同数戦よ。結果は火を見るより明らかじゃないかしら』

『なら、大洗をどう思う?』

『私たちが一番よくわかってることじゃない。

 もし大洗が去年の勝利から何も学ばず何も変えないというなら、結果は見えている』

『黒森峰が馬鹿をやったせいで、これからお金のないところはかわいそうなことになる』

『いずれにしても、皆様方からは優勝を要求されている。

 大会に花を添えればそれでいいなどという、お優しい学校経営者などいない』

 

『……ならば、シャーマンは全部スクラップね。

 モンスターになった黒森峰に確実に勝つのならば……』

『怪物と戦うには、怪物になるしかないか……』

 

 

 

 

 

 

 

 

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