「
「逃がすな!」
下界では、警察や探偵が慌てていた。
そんな様子を高い塔の上から見下ろし、マントをはためかせる一人の女性…。
まるで絵画のような…。
その女性の美しさは、美の女神・アフロディテが全てを注いだかのよう…。
人は、彼女をこう呼ぶ。
怪盗アルセーヌ、と。
「これもあたくしが満足する獲物ではないですわ」
彼女は、手の中にあった
―あたくしは、アルセーヌ・アンリエット・ミステール。
幼い頃のあたくしは、大富豪のお嬢様でしたわ。
しかし、あの嵐の夜、全てが変わった。―
『やあ、アンリエット』
二人の男がー一人は、紳士服、もう一人は、赤いコートを着てー陽気に話しかけてきた。
『なんですの?あなた方は』
紳士服の男が答えた。
『
『君のトイズが目覚める時がきた』
トイズ…、それは選ばれた者だけが得る力…。
それを得たものは、多くは探偵か怪盗として生きることになる…
「あ…あたくしにトイズが…?」
『ああ、俺たちの血筋に代々受け継がれる怪盗のためのトイズ…『幻惑』…だ』
『さあ、目覚めよ!アルセーヌ・アンリエット・ミステール・フィオナ!』
ゴロゴロッ!
次の瞬間、雷が落ち、辺りが黄色くなった。
辺りに闇が戻ったとき、二人の姿はなくなっていた。
鏡を覗くと、仮面を付け、マントを纏っていた。
「アンリエットお嬢様…そのお姿は…」
侍女のウルエラが目を覚ましたようだ。
「ウルエラ、トイズ…『幻惑』が目覚めた以上、この…探偵一族で名高い、フィオナ家の城を出なければなりませんわ…」
外は、次第に晴れ、月明かりが窓から漏れ出した。
「フィオナの名も捨てます。もう
窓辺へ足を向け、窓を開いた。
「ごきげんよう、ウルエラ…」
一陣の風が吹いた。
マントをひらめかせながら、怪しげな夜の闇へ身をやつした。
二度と戻らないだろう、あの城には。
「お嬢様!」
ウルエラの声がいつまでも響いていた。
――――――――――
「いたぞ!」
その声を聞いて、我に帰った。
「幻惑のトイズ…」
アルセーヌの姿がフッと消えた。
「オーッホッホ…!」
アルセーヌの笑い声だけがいつまでも響いていた。