「怪盗アルセーヌ!おとなしく捕まるんだ!」
私が最後に見た彼は、いつもと同じだった。
「あたくしは、そう簡単に捕まらなくてよ、小林オペラ」
彼は、私を捕まえるためには、危険も顧みなかった。
「ならば、トイズで勝負だ!」
そう、彼も私と同じトイズ使いだった。
「あたくし達のトイズに勝てるのかしら?」
でも、もう彼とは対峙できない…だって―
「アンリエット・ミステール…いい名前だね。僕は、小林オペラ。よろしくね」
全ての始まりは、私が探偵の卵として、『ホームズ探偵学院』に潜入した時だった。
彼は、そこの講師をしていた。
「僕は、いつか怪盗アルセーヌを捕まえるのが夢なんだ」
「そう…。あの怪盗は、捕まえるのが大変なのでは…?」
「僕は、まだ会っていないけど、同僚が手間取っていてね…。でも、いつか捕まえる―」
初めて話をした日の夜、怪盗アルセーヌとして、彼に会った。
「アルセーヌ!『月の涙』を返せ!」
「嫌ですわ!返してほしければ、ここまで来るのです」
昼は、学院の一生徒「アンリエット・ミステール」として、夜は、怪盗帝国の「アルセーヌ」として彼―小林オペラに会っていた。
初めは、情報を得るためだったが、いつしか彼に恋をした。
アンリエット・ミステールは、小林オペラのことが純粋に好きだった。
そして、アルセーヌは、彼を好敵手として見始めていた。
怪盗帝国のアジトでぼんやり窓の外を眺めていると―
「アルセーヌ様、何かお悩みでも…?」
ラットが近寄ってきた。
「あたくし…、怪盗をやめますわ。『アンリエット・ミステール』として、生きていきます」
「アルセーヌ様!考え直してください!」
「僕たちの忠誠を…」
三人の従者を凪ぎ払うような言葉を言い放った。
「お黙りなさい!…これがあたくし最後の予告状です。この日の夜…全てが終わるのです」
しかし、従者が私の知らないところである計画を進めていたなんて…
「小林さん、あなたのトイズを見るのは初めてね」
「それは、僕も同じさ」
彼の目に光が宿った。
「さぁアル…、嘘だろ!?」
あたくしは、自分の姿が『怪盗アルセーヌ』としてのものでなく、『アンリエット・ミステール』としてのものに変わっていたのに気づいた。
「僕に近づいたのは…」
「違う!違うの!初めは、そうだったけれど、あなたと会ううちに怪盗をやめようと思ったわ!」
彼は、腕を広げて言った。
「なら、戦わなくていいじゃないか…」
「そ…そうね」
私は、彼に近づいた。
突然、
「覚悟しろ!」
スリーカードが彼を襲った。
彼は、よろけて屋根から落ちそうになった。
下には、トイズを消滅させることができる力を宿す湖ーレテ湖。
とっさに動いて、腕をつかんだ。
「アルセーヌ…」
「アンリエットって呼んでよ。…オペラ、もう少しの辛抱だから」
「いけません、アルセーヌ様!」
ストーンリバーが私たちを引き離そうとした。
「キャァ、嫌よ!」
その瞬間、握りしめた手が緩んだ。
「アルセーヌ…!」
「オペラ…!」
そのあとの彼は見ていない。
次の日、アンリエット・ミステールとして学院寮の自室で目が覚めた。
机には、手紙が置かれていた。
―アンリエット、アルセーヌへ
僕のトイズ―いかなるトイズの力を見破る『観察』は、失われてしまった…。
だから、もう学院で会うことはないだろう。
トイズを取り戻す方法を見つけだし、もう一度君と対決がしたい。
それまで、待っていてほしい。
小林オペラ―
あたくしは、再び怪盗アルセーヌとして、そして、アンリエット・ミステールとして生きることにした。
彼に会う日を夢見ていた。
けれど、アンリエット・ミステールが生徒会会長になっても、アルセーヌが次々に財宝を盗んでも、学院に戻っては来なかった。
(小林オペラ…、いつまで待たせるの…)