第42話 再会と緊急任務
学園島とレインボーブリッジを挟んだ向かいにある人工浮島。かつて武偵殺しのハイジャック事件で飛行機を不時着させたその島にキンジは来ていた。キンジが見つめる先にあるのは飛行機を止めた時に折れた風力発電のプロペラ、その上に腰掛ける人物がいた。
キンジ「……久しぶりだな。カナ」
カナ「えぇ、久しぶりね。キンジ」
カナ。彼女はキンジの姉……ではなく、キンジの兄、遠山金一がヒステリアモードになった姿なのである。性的興奮でヒステリアモードになるキンジに対し金一は女装することで意図的にヒステリアモードになれるのだ。
キンジ「生きてたなら連絡の1つくらい寄越せよ…」
カナ「ごめんなさいキンジ……」
キンジ「俺も剣護も心配してたんだぞ……」
カナ「そう…あの子にも心配かけちゃったわね…」
キンジ「なんか『もし生きてたらぶち転がしてやる』って言ってた」
カナ?「え、マジで?」
キンジ「素が出てる!素が出てるよ兄さん⁉︎」
カナ「おっといけない」
一瞬、金一としての人格が出ていたがカナは咳払いして話を戻す。
カナ「ところでキンジはアリアのこと、好きなの?」
キンジ「………は?」
カナ「どうなの?」
キンジ「……い、いいいやそ、そそそんなことは…」
唐突な質問にキンジはフリーズしてから顔を少し赤くしテンパりながら目をそらす。
キンジ「そ、そんなこと今は関係ないだろ!」
カナ「そう。なら………私と一緒にアリアを殺しましょう?」
キンジ「……あ"?」
アリアを殺す?
それを聞いた時、ほぼ無意識に声を上げていた。
急に居なくなって散々心配かけといてやっと再会できたかと思えばアリアを殺すだと?
キンジ「…ふざけるのも大概にしろよカナ」
カナ「ふざけてなんかないわ。アリアは巨凶の因由。巨悪を討つのは、義に生きる遠山家の天命…違うかしら?」
キンジ「知らん」
カナ「あなた剣護に似てきてない?」
即答で返してきたキンジにカナは「えぇ…」とでも言いたげに困惑した表情を浮かべながらキンジの前に降りてくる。
キンジ「失踪しといて久しぶり会ってみればいきなり殺しをしようだ?あんたはナニイテンダ」
カナ「やっぱり染まってるでしょあなた」
キンジ「俺がどうなっていようが今は関係ねえだろ。カナ、あんたは今何をやらかそうとしてるんだ?」
カナ「それは言えないの……あなたを危険に晒したくない。だから何も言わずに手を貸してほしいの」
キンジ「断る。俺はアリアのパートナーだ。あんたの話には……乗れねえなッ‼︎」
答えると共に渾身の右ストレートが放たれる。しかしカナはそれを簡単に避ける。
カナ「そう…残念ね……」
次の瞬間、パァン!と発砲音が響き、キンジの腹部に衝撃と痛みが走る。
キンジ「ぐがっ……」
倒れそうになるがなんとか痛みを堪えてその場に踏み止まる。キンジを襲ったのは銃撃……それも銃が見えない銃撃。
キンジ(い…
カナ「ごめんなさいねキンジ……あなたには眠ってもらうわ」
キンジ「な、なに……ごっ⁉︎」
言い切る前にカナの膝蹴りがキンジの腹に打ち込まれる。嘔吐感に襲われつつキンジは膝をつく。
カナは追撃を仕掛けようと動こうとしたその時、大きめの金平糖のような玉が転がってきてカナとキンジの間で爆発し煙が2人の視界を遮った。
カナ「なっ…」
キンジ「っ!」
しばらくして煙が晴れるとそこにキンジはいなかった。
カナ「…仕方ないわね。また会いましょう…キンジ」
そう言うとカナは暗闇へと消えていった。
キンジ「………ハッ!」
キンジが目を覚ますとそこは男子寮の自分の部屋だった。目の前には理子からのメールを見たパソコンがあり、開くと『Replay』の文字が現れた。
キンジ「夢……だったのか?」
クンクンと自分の服の匂いを嗅ぐとほんの少しだけ煙臭かった。あの時自分を逃がすために焚かれた煙幕の匂い。ベッドの方を見ると下の方で怜二がモゾモゾと動いていた。
キンジ「………夢じゃないな。そうだアリアは…!」
部屋を出るとシャコシャコと磨く音が聞こえ、音のする方へ行くと洗面台の前でアリアが歯を磨いていた。ぶくぶく、ぺー、と口をゆすぐとキンジに気づいたのか牛乳を取り出しながら話しかける。
アリア「あら、やっと起きたの?」
キンジ「あ、あぁ」
アリア「あんた、昨日の夜あたしが帰ってきたらパソコンの前で寝てたわよ?」
キンジ「そうか………良かった……」
アリア「どうかした?」
コテンと首を傾げながら顔を覗き込むアリア。ふわっとクチナシの香りがしてキンジは慌てて顔をそらす。
キンジ「い、いや、なんでもない…」
アリア「そっ。なら良いけどね」
剣護「おーい、朝飯できたぞー」
バコーンとドアを蹴り開けて剣護が入ってくる。制服の上にエプロンを付けた状態で。
キンジ「主夫かお前。あと蹴り開けるな」
剣護「大丈夫だって安心しろよ〜。ちゃんと加減してっから」
キンジ「せめてインターホン鳴らせや!」
アリア「ねぇ、なんかネジ一個転がってるんだけど」
キンジ「壊れてんじゃねえか‼︎」
剣護「あれ?」
キンジ「あれじゃねえよ!直せ!あとついでに乗せてけ!」
剣護「わかった!わかった!わかったって!」
あの後ドアを直させて、作ってもらった朝食を食べ、アリアと怜二とライカと一緒に剣護のワゴン車に乗せてもらい登校した。
学校に着くと教務科からの連絡掲示板の前に人だかりができていた。その中にジャンヌも松葉杖をついて立っている。
剣護「おっジャンヌじゃねえか」
ジャンヌ「ん?あぁ、月島たちか」
キンジ「どうしたんだ?その足」
ジャンヌ「ちょっと虫がだな……それより月島に遠山、お前たちの名前が出てるぞ」
金・剣『え?』
ジャンヌが指した掲示板の方を見ると『1学期・単位不足者一覧表』と書かれた紙がサバイバルナイフで留められていた。その中にはキンジと剣護の名前もあった。
『2年A組 遠山金次 専門科目(探偵科) 1単位不足』
『2年A組 月島剣護 専門科目(強襲科) 1単位不足』
金・剣『ファッ⁉︎』
ジャンヌ「どうやらお前たちは問題児のようだな」
剣護「あぁん⁉︎お客さぁん⁉︎」
ジャンヌ「どんなキレ方してるんだ⁉︎お、落ち着け!大丈夫だから!」
ジャンヌが指した方を見ると『夏季休業期・緊急任務』と書かれた張り紙があった。
キンジ「そうか!緊急任務!」
剣護「ほう……緊急任務ですか。たいしたものですね」
怜二「おいおいおい」
アリア「死ぬわアイツ」
3人のボケをスルーし、キンジは単位を取れる仕事を探す。
『大規模砂金盗難事件の調査』
『工業用砂鉄盗難事件の調査』
『砂礫盗難事件の調査』
剣護「…砂系のやつが多いですねぇ…怪しいとは思いませんか?遠山くん」
キンジ「それがどうかしたんですか杉○さん」
剣護「おいやめろ」
キンジ「お前が始めたんだろが」
怜二「あ、これ良くない?1.9単位だって」
怜二が指したのは『カジノ「ピラミディオン台場」私服警備』という依頼だった。
キンジ「これだ!これやるぞお前ら!」
アリア「あたし達も?」
怜二「僕ら単位足りてるんだけど」
剣護「いんじゃね?さっそく申し込むか」
キンジ「だな」
アリア「ちょっと待ってこれ見て剣護」
剣護「ん?」
アリアが引きつった顔で単位不足者一覧表を指し、見てみると
『火野ライカ 専門科目(強襲科) 0.5単位不足』
『間宮あかり 専門科目(強襲科) 0.7単位不足』
剣護「」
ライカ「す、すいません……」
アリア「あかり…あんたねぇ……」
あかり「あ、アリア先輩〜…」
剣護「……キンジ」
キンジ「…わかったよ。こいつらも申し込んでおくよ」
ライカ「ありがとうございます…」
怜二「キンジキンジ、その下見てみ」
キンジ「あん?」
『風魔陽菜 専門科目(諜報科) 0.6単位不足』
キンジ「風魔ああああああああ‼︎」
陽菜「お呼びでござるか師しょ…」
キンジ「これ見ろお前ぇ‼︎」
陽菜「へ?……あっ」
キンジ「あっ、じゃねえだろが!どうすんだお前⁉︎」
剣護「落ち着けキンジ。1単位不足してる俺らが言えたことじゃねえ」
キンジ「はあ……風魔、お前もこれ受けろ。カジノの警備」
陽菜「し、承知でござる!」
その後キンジ、剣護、アリア、怜二、あかり、ライカ、志乃、陽菜にたまたま近くにいたレキに加えて、急遽参加すると白雪と麒麟も加わり全員で11人のメンバーでやることになった。
剣護「ところでなんで志乃までやるんだ」
志乃「……だって1人だけ仲間外れなのは嫌じゃないですか」
剣護「それもそうだな」(ナデナデ)
志乃「んんっ……」
あか・ライ『あ!ズルい!』
アリア「やばい砂糖吐きそう」
キンジ「ブラックコーヒー買っていくか」