カジノでの騒動の後、剣護達と合流したキンジは車輌科のドックに来た。そのドックの第7ブリッジと書かれた所には武藤が油まみれの顔で何かを整備していた。
武藤「よう!来たか」
剣護「何これ?ミサイル?」
剣護が尋ねると後ろからジャンヌと理子が現れた。
ジャンヌ「それは『オルクス』。私が武偵高への潜入用に使った潜航艇だ。元は3人乗りだが今回の改造で部品が増えて2人乗りになっている」
キンジ「こいつで行くってことか……アリアの居場所は?」
理子「ちゃーんと調べてあるよ」
剣護「……この前の祭りで来なかった理由はその眼帯か」
剣護が言ったように、理子の右目には眼帯がされていた。
理子「うん、パトラのスカラベでね」
ジャンヌ「私の足にしてもそうだ。今思えばもっと早く気づくべきだった」
キンジ「祭りの時、アリアの浴衣の中に入ったのも……」
白雪「おそらく同じものだと思う」
剣護「なるほどねぇ……」
キンジ「それで武藤は…聞いたのか、俺たちの…その……」
武藤「……聞きゃあしねえよ。ま、ここ数ヶ月、お前らが危ねえ橋を渡ってたって事ぐらいは分かってたけどな」
するとその後ろの潜航艇のハッチから不知火が出てきた。
不知火「みんな薄々分かってたよ。武偵だもん。それに危ない橋の1つや2つ、みんな渡ってるからね。それにやっと手伝える時が来て、少し嬉しいしね」
キンジ「お前ら…………ありがとう」
武藤「気にすんなって!俺ら長い付き合いじゃねえか!」
不知火「もちろん行くのは、遠山君と月島君だよね?」
剣護「ま、そうなるな」
装備を整え、キンジと剣護は潜航艇に乗り込む。すると白雪が剣護に声をかけてくる。
白雪「剣ちゃん……ちょっといい?」
剣護「どうした?」
白雪「あの………………」
剣護「……もしかして護衛任務の時の占いか?」
白雪「うん……あの後何回か占ったんだけど…撃たれるってことだけは変わらなかったの…」
剣護「まあ撃たれたとしてもそれでくたばる俺じゃねえさね」
白雪「でも…どうしても嫌な予感が抜けなくて…」
剣護「うーん…一応用心はしておくよ」
白雪「気をつけてね……」
ジャンヌ「ではハッチを閉めるぞ。武運を祈る」
自動でハッチが閉まると2人を乗せた潜航艇は第7ドックから魚雷のような速さで出航した。
太平洋を北東へと進んで10時間後、潜航艇のディスプレイに目的の場所が表示された。
キンジ「着いたな……あれは…アンベリール号か……」
剣護「スヤァ……」
キンジ「おい、着いたぞ。はよ起きろや。てかよく寝られるなお前」
剣護「んあ?着いた?」
キンジ「あぁ、乗り込むから準備しろ」
剣護「あいあい。てかなんだよあのデケェピラミッドは」
キンジ「ジャンヌが言ってたが、あれがパトラの能力の源だと」
剣護「てことはあれぶっ壊せば無力化できるってか」
キンジ「爆撃機でもないと無理だろな」
剣護「………いや、一応壊せなくもない。てか確実に吹っ飛ばせる」
キンジ「マジ?」
剣護「でもやったら船沈みかねんよ?」
キンジ「じゃあやめとこう。うん」
アンベリール号に乗り込むと、神殿のような内部を進んでいく。
剣護「なんか内部全体から妙なものを感じるな。これが魔力か」
キンジ「これ全部パトラの魔力でできてんのか」
迷路のような通路を進み、ピラミッドを上っていく2人。ピラミッド上り詰めたところで巨大な扉が2人の前に現れた。
キンジ「この先にいるっぽいな」
剣護「そだな。それじゃあ……」
キンジ「あぁ………」
金・剣『おっじゃまっしまああああああああす!!!』
2人同時に扉を思い切り蹴り開けるとバギャアッと壊れる音が響くと共に扉は前に倒れていった。
パトラ「ちょおおお⁉︎何扉ぶっ壊してくれてるのじゃお主ら⁉︎」
キンジ「アリアを返してもらうぞ!」
剣護「カチコミじゃゴルルァ‼︎」
パトラ「ヤクザか⁉︎ま、まあよい。なにゆえ、聖なる『王の間』に入れてやったか分かるか?極東の愚民ども」
剣護「そっちが入れる前に扉蹴り壊されてるけどな」
パトラ「やかましいわ!…コホン、けちをつけられたくないのぢゃ。妾はイ・ウーの連中に妬まれておるでの。ブラドを呪い倒したにもかかわらず、奴らは妾の力を認めなんだ」
剣護「そりゃそうだろ。倒したの俺だし。なんならブラドにやったことまんまアンタにかましてやろうか?実際にビルの上から落ちながら」
キンジ「やめろよ?相手は人間だぞ?あの時のアレはブラドだからアレで済んだんだからな?やめろよ?」
パトラ「お主、一体どんな倒し方したのぢゃ……」
フンスと前に出て胸を張る剣護とそれを宥めるキンジの様子を見て、パトラは引きつった表情を浮かべる。
パトラ「おっと話を戻すぞ。奴らはブラドはこのアリアが、仲間と共に倒したものだ、などと云いおる。群れるなど、弱い生き物の習性ぢゃというのにの。ともあれ、そのアリアを仲間ごと倒してやれば……奴らの溜飲も下がろう」
そう言ったパトラが水晶玉を投げると、ガチャンとアリアの入った黄金柩にぶつかって割れた。
パトラ「イ・ウーの次の王はアリアではない。妾ぢゃ!『教授』も、妾がアリアの一味を斃し、アリアの命を握って話せば、王位を譲るに違いないぢゃろ」
金・剣『…はぁ………』
そう言ってハイヒールのサンダルをカツンッと鳴らし、仁王立ちするパトラに、キンジと剣護の2人は大きく溜息をつき、こう吐き捨てた。
金・剣『あ ほ く さ』
パトラ「んなっ⁉︎」
剣護「しょーもねーことをダラダラダラダラ聞いてりゃあよぉ…そりゃこんな言葉吐きたくもなるわ」
キンジ「そんなことのために…アリアを、俺のパートナーを殺されてたまるかってんだよ」
剣護「彼女の間違いでは」
キンジ「ちげーよおバカ」
パトラ「ええい!これだから男はキライぢゃ!特にトオヤマキンジ、お前はトオヤマキンイチに似ておる」
キンジ「しょうがねえだろ、兄弟なんだから」
パトラ「ぢゃからお前は今、ここで殺す」
すると王の間の黄金が全て砂金へと変わっていく。剣護はキンジの前に立ち臨戦態勢に入る。
剣護「あいつは任せろ。お前はアリアのとこに行け」
キンジ「……頼む!」
剣護「走れ‼︎」
剣護がパトラに突っ込んでいくと同時に、キンジもアリアの方へ駆け出す。パトラの手には星伽から盗んできたであろうイロカネアヤメが握られている。
パトラ「ほほほ、良いな。少し遊んでやろう」
剣護「遊べるもんなら遊んでみな!」
十六夜を振るい、パトラと斬り結ぶ剣護。力の差は圧倒的でパトラの方がいとも簡単に弾き飛ばされる。
パトラ「ぐぅ⁉︎な、なんて馬鹿力ぢゃ……」
剣護「月島流、富嶽峰斬り!」
パトラ「ごふっ⁉︎」
弾き飛ばした隙に峰打ちを叩き込む。すると峰打ちを受けたパトラはサラサラと砂金になって崩れた。
剣護「偽物?」
パトラ「ほほほ、惜しかったのぅ」
剣護「っ⁉︎」
瞬間、砂金が剣護の手足に纏わりついて拘束し、崩れた砂金からパトラがイロカネアヤメを拾い上げながら現れる。
剣護「ちょ、全然動けな…⁉︎」
パトラ「残念ぢゃが……終いぢゃ」
ザシュッと、パトラは拘束を振り解こうともがく剣護の胸に深々とイロカネアヤメを突き刺し、貫いた。
剣護「がっ……あっ……」
キンジ「けんっ……⁉︎」
貫かれた剣護にキンジは思わず叫びそうになる。
しかし、次の瞬間ボフンッと剣護は煙となって消えると貫いたはずの身体が丸太に変わっていた。
パトラ「なっ⁉︎」
剣護「残念だったな、変わり身だよ」
柱の裏から本物の剣護がパキポキと拳を鳴らしながら現れた。
剣護「アヌビスを砂で作ってるあたりからそんな方法取ってくるのはお見通しなんだよ」
そう言いながら剣護は、腰を低く落とし、右拳を地面に叩きつける。
剣護「王とか言ってる割に裏の裏をかかれるなんざ、馬鹿な王だな」
パトラ「馬鹿………?王である妾のことを馬鹿じゃと…?」
剣護「あぁ、馬鹿だよオメーは…自分のことを王とか言ってる時点でな」
パトラの足元の砂金が何本ものナイフに変え、宙に浮く。
それに対して剣護はパキパキと音をたてながら髪を変化させていく。
パトラ「黙れ‼︎妾は王ぢゃ!いずれはこの世の女王になる存在ぢゃ!お主のその言葉、ファラオへと冒涜と知れ!」
パトラが叫ぶと無数のナイフが剣護めがけて飛びかかる。しかしナイフが当たる寸前、剣護の姿が消える。
パトラ「なっ、消え…⁉︎」
剣護「シャオラァ!」
パトラ「いっづあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"⁉︎」
全力の平手打ちがパトラの背中に叩き込まれ、凄まじい破裂音を響かせる。あまりの痛みにイロカネアヤメをその場に落としてパトラは転がり回る。その背中にはハッキリと手形が残っている。
パトラ「あ"あ"あ"あ"あ"……‼︎」
剣護「ほい、回収っと」
ジタバタと悶えるパトラを他所に、剣護は盗まれたイロカネアヤメを拾うと納刀し、腰に差す。
キンジ(見てるだけでめっちゃ痛々しいな…でも今のうちなら…!)
キンジはアリアの元へと走る。しかし、アリアの入った黄金柩の上のスフィンクスが行手を阻むように動き出した。
キンジ「こ、こいつ…動くのか⁉︎」
パトラ「っ……させぬ!」
剣護「そのまま走れ、キンジ」
キンジ「無理に決まってんだろ⁉︎」
剣護「じゃあ横に避けろ」
剣護は十六夜とイロカネアヤメを引き絞るように構え、弾丸の如く飛び出した。
パトラ「させぬと言ってるであろう!」
それを阻むように砂の盾が3枚出現するが、剣護は構わずスフィンクスへと突進する。
剣護「月島流…富嶽巌砕突き・双!!!」
2つの螺旋の衝撃波と共に二刀での突きが砂の盾をいとも容易く吹き飛ばし、スフィンクスを粉砕する。
パトラ「な…なんつー破壊力してるんぢゃ……⁉︎」
剣護「行け、キンジ!」
キンジ「っ!」
パトラ「っ!待て!」
砂金のナイフがキンジめがけて飛びかかるが、剣護が全て斬り伏せる。
剣護「逆転したな。パトラ」
パトラ「おのれぇ……!」
剣護「キンジを止めたけりゃ……俺を倒してからにしな‼︎」
パトラ「小僧がぁ……図に乗るでないわぁ‼︎」
砂金が大量のナイフ、腕へと姿を変えて剣護に襲いかかる。
剣護は焦ることなくナイフや腕を斬る、殴る、蹴る、避けるなど、次々と対処していく。
剣護「オラララララララララララァ‼︎」
パトラ「ええい!しぶとい奴め!」
剣護「お前もな!畜生、当たらん!」
パトラ「これなら、どうぢゃ!」
無数の砂金の腕が剣護の周りを取り囲み、一斉に襲いかかる。さらに足元の砂金が剣護の足に纏わりついて妨害する。
剣護「月島流……富嶽鉄槌割り!」
対して剣護は鉄槌割りで足元の砂金を吹き飛ばす。
剣護「月島流、富嶽八重斬り!」
さらに周囲に刀を振るい、幾重もの斬撃を全方位に繰り出し、砂金の腕を斬り飛ばす。
一呼吸置くのも束の間、体から上がる蒸気が上がっていき、今度は体が乾いていく感覚が剣護を襲う。
剣護「っ⁉︎……かっ……は……」
パトラ「油断したのう」
剣護「が……う………」
パトラ「所詮は人よの。神より力を授かりし妾には敵わぬのが道理。お前達が妾に逆らうなぞ無理だったのぢゃよ」
勝ち誇るように高笑いするパトラ。口が、喉が、眼さえも乾いていくも、剣護の怒気を含んだ眼光は全く衰えない。
「それじゃあ……もう少し無理させてもらおうかしら」
その時、銃声が響くと共にパトラがその場から下がった。
同時に剣護に頭から水がかけられ、乾いた体が一瞬で水を吸収していく。
パトラ「っ……お、お前は……キンイチ…いや…!」
金・剣『カナ!』
カナ「待たせたわね。2人とも」