週明けの夕方、キンジは理子に大事な話があると呼ばれて台場のクラブ・エステーラに来ていた。
キンジ「で、話ってのはなんだ」
理子「あーんしてくれたら教えてあげる」
背に腹はかえられず、仕方なくキンジは理子からモンブランを一口もらうと目で早く教えろとすごむ。
理子「くふ、あのね。警視庁の資料にあったんだけどね……過去に『武偵殺し』にやられた人ってバイクとカージャックこ2人だけじゃないかもしれないんだって。そこに見つけちゃったんだ。多分、そうじゃないかなぁって名前」
キンジ「なんだよそ……れ……!」
キンジは背筋が凍るような感じに襲われつつも目を見開き、理子が取り出したコピー用紙を見つめる。
『2008年12月24日 浦賀沖海難事故 死亡 遠山金一武偵(19)』
そのコピー用紙にはキンジの兄、金一の名前が書いてあった。それを見てキンジは意識が飛びそうになった。
そんなキンジを見て理子は快感を得たような表情で近づき、しがみつき長椅子の上に押し倒す。
キンジ「理子!?」
理子「ねぇ、キンジぃ……せっかく個室取ったんだから……ゲームみたいなこと、してもいいんだよ……?だぁーれにもバレないし、白雪はS研の合宿だし、アリアはイギリスに帰るから……今はもう羽田かな。だから……理子といいことしよ?くふふっ」
理子が誘惑しながら迫る中、ヒステリアモードに覚醒していたキンジは頭の中に何かが閃いた。
キンジは一瞬で推理すると理子の目の前で指を鳴らした。
キンジ「お子様は、そろそろお家でネンネの時間だろう?」
理子「ひゃあっ!?」
理子を抱え上げ、体を入れ替え長椅子に横たわらせ立ち上がると部屋を飛び出していった。
キンジは羽田空港の第2ターミナルに着くとゲートに飛び込み、ハッチを閉じつつあったロンドン行きの飛行機に駆け込んだ。
キンジ「武偵だ!離陸を中止しろ!」
CA「お、お客様!?失礼ですがどういう」
キンジ「説明をしてる暇はない!とにかくこの飛行機を止めるんだ!」
慌てて駆けていったアテンダントが見えなくなるとキンジはその場で膝をつく。ここまでの全力疾走で体力がほとんど残ってないのだ。
アテンダントが戻ってきて話を聞くと管制官からの命令でしか止められないらしくキンジは窓を睨んでから頭をフル回転させる。
(仕方ない……作戦を変えるか……剣護が居てくれたらなぁ……あいつどこ行ったんだよ……)
アテンダントを落ち着かせ、キンジはアリアのいる個室に案内してもらった。
アリアと合流すると案の定アリアはキンジに詰め寄ってきた。
アリア「な、なんでキンジがここに!?」
キンジ「まあちょっとな……」
アリア「アンタがいるってことは剣護も?」
キンジ「いや、あいつとは一緒じゃない。っていうかどこ行ったんだよあいつ」
アリア「あたしが知るわけないじゃない」
キンジ「だよなぁ……」
しばらくして機内放送が流れ機体が少し揺れ始める。さらに雷が鳴り響き、それを聞いたアリアがガタガタと震えベッドに潜り込んだ。
アリア「き、キンジぃ……」
キンジ「はいはい、テレビつけてやるから」
アリア「う、うん……」
『この桜吹雪、見覚えがねぇとは言わせねえぜ!』
ドォォォォン!
「うひゃあ!?」
「おぉう!?」
キンジがテレビをつけて遠山の金さんのセリフが流れるとともに雷が近くで鳴り響いて2人は軽く飛び上がる。
アリア「うぅぅぅ……」
キンジ「大丈夫だって、な?」
ベッドに埋もれるアリアを宥めているその時だった。
パンッ!パァンッ!
機内で音が鳴り響く。先程まで聞いていた雷鳴ではなく、キンジ達が最も聞き慣れている銃声である。
キンジは通路に出て、銃声のした機体前方を見るとコックピットの扉が開け放たれており、さっきのアテンダントが機長と副操縦士を引きずり出し、床に投げ捨てた。
キンジ「動くな!」
CA「Attention Please.でやがります」
キンジは拳銃を向けるが、アテンダントは胸元からガス缶を取り出すと放り投げる。キンジは機内にいる全員に部屋に戻れと叫ぶと自分もアリアを部屋に押し込み扉を閉める。
キンジ「あのフザケた喋り方……あいつが『武偵殺し』だ。やっぱり出やがった」
アリア「やっぱり……?あんた分かってたの?」
キンジ「『武偵殺し』はバイクジャック、カージャックで事件を始めてさっき分かったことなんだが、シージャックである武偵を仕留めた。そしてそれは、たぶん直接対決だった」
アリア「……どうして」
キンジ「そのシージャックだけお前が知らなかったからだ。電波、傍受してなかったんだろ」
アリア「う、うん」
キンジ「ヤツは電波を出さなかった。つまり、遠隔操作する必要が無かった。ヤツ自身がそこにいたからだ。バイク、自動車、船と大きくなるのと同じように今回は自転車、バス、そして飛行機だ」
アリア「……ってことは」
キンジ「そうだ。コイツはメッセージだったんだ。お前は最初からヤツの手のひらの上で踊ってたんだ。かなえさんに罪を着せ、宣戦布告して、そして兄……いや、シージャックで殺られた武偵を仕留めたのと同じ3件目で、今、お前と直接対決しようとしてる。このハイジャックでな」
キンジの推理を聞いて、アリアは、ギリ、と歯をくいしばる。そこにベルト着用サインが注意音と共に点滅をし始めた。
アリア「和文モールス……」
アリアが呟いたのを聞いたキンジはそれを解読してみる。
オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ
オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー ニ イル ト オモウ
キンジ「……誘ってやがる。でも、なんで最後曖昧なんだ」
アリア「知らないわよ。風穴あけてやるわ」
和文モールスの曖昧な部分に違和感を持ちつつも2人は1階のバーへと向かっていった。
アリアとキンジは慎重に1階へと降りていき、バーのカウンターを見るとフリルだらけの武偵高の制服を着たアテンダントと1人のバーテンダーがいた。
CA「今回も、キレイに引っかかってくれやがりましたねえ」
アテンダントはそう言いながら、ベリベリと顔に被せていた、薄いマスクみたいな特殊メイクを剥ぎ、中から出てきたのは
キンジ「理子!?」
理子「Bon soir」
手にした青いカクテルを飲み、キンジにウィンクしてきたのは理子だった。
理子「アタマとカラダで人と戦う才能ってさ、けっこー遺伝するんだよね。武偵高にも、お前たちみたいな遺伝系の天才がけっこういる。でも……お前の一族は特別だよ、オルメス」
アリア「!……あんた……一体何者……!」
アリアの問いに理子はニヤリと笑いながら答えた。
理子「理子・峰・リュパン4世。それが理子の本当の名前」
キンジ「リュパンって……探偵科の教科書に載ってた、あのフランスの大怪盗……」
理子「そう。でも……家の人間はみんな理子を『理子』とは呼んでくれなかった。お母さまがつけてくれた、このかっわいい名前を。呼び方がおかしいんだよ」
アリア「おかしい……?」
アリアがそう呟くと理子は突然キレた様子で叫ぶ。自分は理子だ、数字じゃないと怒っていた。
理子「100年前、曾お爺さま同士の対決は引き分けだった。つまりオルメス4世を斃せば、あたしは曾お爺さまを超えたことを証明できる。キンジ……お前もちゃんと、役割を果たせよ?」
キンジ「なに…………?」
理子「オルメスの一族にはパートナーが必要なんだ。初代オルメスにも優秀なパートナーがいた。だから条件を合わせるために、お前をくっつけてやったんだよ」
キンジ「俺とアリアを、お前が……?」
理子「そっ。正直、剣護は予想外だったけどね。かなり。キンジのチャリに爆弾仕掛けて、わっかりやすぅーい電波を出してあげたの」
アリア「あたしが電波を追ってることに気付いてたのね……!」
理子「そりゃねー。あんなに堂々と通信科に出入りしてればね。でもキンジがあんまり乗り気じゃないみたいだったから、バスジャックで協力させてあげたんだぁ」
キンジ「バスジャックも……!?」
理子「キンジぃー。どんなに理由があっても、人に腕時計を預けちゃだめだよ?狂った時間を見たら、バスにチコクしちゃうぞー?」
キンジ「何もかも……お前の計画通りってワケかよ……!」
理子「んー。そうでもないよ?予想外のこともあったもん。主に剣護のことなんだけどね……チャリ蹴るわ、銃弾斬るわ、トライドロン作ってるわ……うん、なんかこの先もいろいろやりそう」
金・アリ『それは否定しない』
理子「もしかするとこの飛行機に乗ってたりしてね?」
金・アリ『……ありそう』
理子「まあとりあえず、キンジが理子がやったお兄さんの話を出すまで動かなかったのは、意外だった」
キンジ「兄さんを、お前が……お前が……!?」
兄のことを出されてキンジはふつふつと頭に血が上っていくのを感じていた。
理子「くふ。ほらアリア。パートナーさんがおこだよー?一緒に戦ってあげなよー!あとねキンジ。いいこと教えてあげる。あなたのお兄さんは……今、理子の恋人なの」
キンジ「いい加減にしろ!」
アリア「キンジ!理子はあたしたちを挑発してるわ!落ち着きなさい!」
キンジ「これが落ち着いてられるかよ!」
???「それなら、私の出番でございますね」
金・アリ・理『え?』
理子「ほがっ!?」
突然、バーテンダーが口を開いたかと思えば次の瞬間、いきなり理子が吹っ飛んで壁に激突する。あのバーテンダーが理子を殴り飛ばしたのである。
キンジ「え?え?……え!?」
アリア「え……て、店員さん?」
理子「ゲホッ……な……え……?」
???「少々おいたが過ぎましたねぇ……峰理子様」
アリア「だ、誰なの……?」
アリアの呟きにバーテンダーはニコリと笑うと理子と同じようにベリベリと顔のマスクを外して服をバッと剥いで、出てきたのは
剣護「ドーモ、理子・峰・リュパン4世=サン、月島剣護です」
武偵高の制服を着て、両腕に手甲を付けた剣護だった。両手を合わせお辞儀をしてアイサツの姿勢をしている。
金・アリ・理『えぇぇぇぇ!?』
機内に3人の絶叫が響く。無理もないだろう、バーテンダーに変装していたのは剣護だったのだ。武偵徽章を使い、飛行機に乗り込み、このバーの店員にお願いして代わってもらっていたのである。
理子「なっ……剣護、本当にいたの!?」
剣護「冗談で言ってたのかよ。一瞬バレたかと思って内心焦ったわ」
アリア「あ、アンタいつから理子が『武偵殺し』って気付いてたの?」
剣護「バスジャックが解決した後、理子の部屋に小型メカ忍ばせて盗撮、盗聴してた。しかも全部」
理子「理子のプライベートォォォォ!」
剣護「いやぁ〜……面白いくらいペラッペラペラッペラ独り言で喋ってくれてさ〜」
理子「あああ……ああああ……」
剣護「まあ……うん……ちょっとヤバいもんも写っちゃってるんだけどもさ」
理子「ま、まさか……夜中のも!?」
剣護「………………まあ」
理子「……理子、もうお嫁に行けない……」
剣護のあまりの行動にアリアとキンジはこう思った。
金・アリ(ダメだこいつ……もうどうにもできねえ……)
剣護が散々やり過ぎたせいで燃え尽きたかのように真っ白になって項垂れる理子を見て、アリアとキンジも流石に理子に同情の目を向けるのだった。