武偵高の一角
「もともと作戦に参加していたのは20名。うち死んだのが13名。【平和連合】全体の人員の喪失の内訳は行方不明者129名、脱退者43名。連合の残存戦力は90名を下回り、そのうち後方支援員は40名です」
【通信科】に所属する【平和連合】の隊員がいった
その報告を聞いてるのは雨埼と雪原の二人だけだ
遠山金次がパトラにさらわれたアリアを取り戻すために準備を始めてる中、雨埼達は【平和連合】の戦力の確認を行っていた
「……ヤバい。戦力が足りない。いや、無いに等しい……雪原、霧島と雷木はどうした?」
実は雪原はピラミディオンの依頼そっちのけで敵情視察に徹していたのだ
「うん、霧島くんは【破壊の使徒】に行っちゃって、雷木君は【正義の執行人】に入ったよ。他のいなくなった人も半々ぐらいでその二つに入ったみたい」
雪原が何枚かの写真や証拠を見せる
つまり、【平和連合】の誇る【奇跡六人衆】は既に残り二人になってしまったのだ
「……仕方ない。今は我慢の時だな。強襲科に所属する生徒を後方支援員に護衛として向かわせろ。横山不満をもっている隊員はいるか?」
雨埼が先ほどレポートを読み上げた少女、横山飛鳥《よこやまあすか》に聞く
彼女の能力は
「今の平和連合に不満を持ってる人の代表は……彼です、牟田原仁《むたはらじん》。強襲科のBランク」
「よし、そいつを筆頭に似たようなやつを何人か選び抜け。そいつらをまとめてイ・ウーの戦いに放り込む」
「雨埼、何をするき?」
「雷木なら確実にあの戦いに参加するはずだ。そいつらをぶつけて他戦力を消耗させる」
「わかりました、手配します」
「頼んだぞ、横山」
イ・ウー船内
「失礼します」
【イ・ウー】内部において【調律師】というのはかなり危険な仕事だ
【調律師】は治安が無いに等しい【イ・ウー】にて不利益につながる(船の位置や情報が漏洩するなど)を取り締まるMP(軍隊の警察)のようなものである
その【調律師】は下手したら超人たちからの妨害にあう可能性も無きにしも非ずであり、非常に危険である
そんな【調律師】を束ねるリーダーであるフランソワ・プレラティー32世は【イ・ウー】の校長たるシャーロックの部屋を訪れていた
「いらっしゃい、待ってたよフランソワ君」
革張りの大きなソファーに寝そべっていたシャーロックが起き上がる
「ご用件は何でしょう?」
「うんうん、君も知ってると思うだろうが、もうじき遠山金次くんがこの船にやってくる。すでにパトラくんも準備万端だし、我々も準備が必要だ」
そこでと、言葉を区切りシャーロックが杖を突きつける
「君が開発した
「っ!?ダメです!まだ早すぎます!」
とたんに焦りだすプレラティー
「いいかい、やるんだ。金次くんにくっついてくるお邪魔虫に緋弾の継承を邪魔されるわけにはいかない」
シャーロックは本気だ。本気で【魔の混沌】を放り出せと言ってる
「ですがまだ蔵書の解読も終わってません!下手したら暴走しますよ!?」
「じゃあ、早く解読するんだ。けど、僕の推理だと暴走しても案外大丈夫だよ」
「……わかりました」
しぶしぶ、納得するフランソワ
「それと、君の分の脱出艇も用意したから、気が向いたら乗ってね」
発射キーを投げ渡し、話は終わりといわんばかりに机に古びた羊皮紙を広げる
「失礼しました……」
フランソワが出ていき、シャーロックは薄めたウイスキーを舐め、羊皮紙、正確には【聖書】の原本を眺める
「ここから……70文字飛ばし……」
シャーロックは今、【聖書】の暗号を解読しようとしているのだ
あのアインシュタインが生涯をかけて研究したといわれる【聖書】の研究。シャーロックは散りばめられた暗号を拾い、地道に解読していく
「……邪なる、人工物が……海に放たれる、時……帽子を、被った……名の無き、不死者が……全てを、飲み込む……フム、名の無き不死者……」
シャーロックがウイスキーを飲み干し顎を撫でる
「わが友よ、君はなになら殺せるんだい?アメリカは君のために核と水爆を用意した。ソ連と中国は君のために大地を埋め尽くす様な大群を用意した……我々は君のために劣化品ではあるが邪神を用意した……しかし、君はそれすら、食らい尽くすのかい?」
シャーロックが少しだけ、寂しそうに呟いた
MI6地下600m地点
極秘シェルター コードネーム【円卓】
コンクリートで作られた四角い部屋に13人の人間がいた
しかしその中に生きてる人間はおらず、全員ホログラムである
『最近、日本を中心に世界の均衡が崩れつつある』
『全くだ。末端組織のいくつかが壊滅的ダメージを受けた。替えが効くとはいえ、ちと厳しいわい』
『そんなことより問題はイ・ウーです。連中のミサイルがこちらに撃ちこまれたらたまったものじゃありません!』
『しかし、ランスロット卿。そうは言っても情報が無くては動きようがない』
『それは問題ありません』
『おや、ガレス卿。どう、とは?』
『現地に私の子飼いの者が日本で有力な情報を手に入れた』
するとその場の全員の視線がガレス卿に移る
『セバス』
ガレス卿が呼ぶと
『こちらにおります』
燕尾服を着た一人の優男のホログラムが追加される
『では、報告いたします。イ・ウーのメンバーがあの”緋弾のアリア”を誘拐いたしました』
その一言に全員が凍りついた
『これはゆゆしき実態だ。ガレス卿!日本はあなたの管轄だ!現地の戦力は!?』
『先日の襲撃で壊滅的打撃を受け、まともに機能しておりません』
『難たることだ……ヨーロッパ支部も忌々しい【魔女連隊】と抗争状態になって手出しが出来ん』
『パーシヴァル卿、中国の支部は?』
『ヨーロッパに人員を割いているため派遣できる人員がいない。これ以上中国を開けたらランパンを抑えていれない』
侃々諤々《かんかんがくがく》の議論が巻き起こる中ずっと黙っていたセバスが声を発した
『畏れながら我が主よ。現地の勢力を使いになっては?』
『なに?どういうことだセバス』
『ハッ、わたくしの調べによると騒動の中心、東京武偵高にはあまたの実力者がおります。中には超人ランクに入っている者もおります』
『なるほど、ガレス卿、いい執事を持ったな』
『この身に余るお言葉、ありがとうございます』
『では、決を採る。現地勢力を使って今回の騒動を鎮圧する。異論は?』
「天にましわす我らの父よ。あなた様の威厳と力により、我ら地上代行者にどうか、お恵みと力をお与えください。エェイメン」
一人の男が祈りを捧げ、立ち上がる
「アデル神父長。ヴァチカンから増援で来ました。スイス傭兵連団【Schwert】のオデッサです。お会いできて光栄です、アデル神父」
左頬に切り傷のある快活そうな青年だ
「こちらこそ、来てくださり感謝します」
「なぁに!我々はヴァチカンに盾突くバカを張り倒すのが仕事です!」
オデッサは手にしたSIG552を肩に担ぎ部下と一緒に補給にかかる
「アデル神父長、彼らは……」
コーネリアがそっとアデルに聞く
「同じ大義を掲げる仲間です。唯一の違いは彼らが我らが主の手先たる神罰の地上代行者ではないことぐらいです」
その言葉はうらをかえせば人間辞めてるかそうでないかの違いだった
「なんだこりゃ……」
イ・ウーに乗り込むため武偵高のヘリポートにやってきた牟田原率いる【平和連合】の隊員たち
そこに止まっていたヘリは三機。重武装のMi-28ハボックとCH-47Dの改良型のCH-47Fだった
「お待ちしておりました」
そのヘリを背後にしてるのは燕尾服を着た一人の男
「誰だテメェ…転生者か?」
牟田原がスパス12を持ち上げる
「わたくしはセバスチャン・ドルネード。このヘリをあなた方に差し上げるために参りました」
燕尾服の男が腰を丁寧に折る
「我々、【リバティーメイソン】はあなた方【平和連合】を支援致します」
「ッ!……塩崎《しおざき》、調べろ」
「わかった」
オリジナルスキル【悪意と善意】という罠を見つけて解除するスキルを持ってる彼がハボックとチヌークを調べる
「では、わたくしはこの辺でお暇致しますね」
「待てや!何でだよ!何がしたいんだよ!おめぇはなにもんだ!?」
牟田原がセバスチャンに噛み付く
「………では、また。生きてたら」