ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第111話「結集!! 縁と愉快な仲間達PART1」

 

 世の中には絶対、敵にしてはならない人種がいる。

 

 除隊して船に乗るコックとか。

 密林帰りの元兵隊とか。

 家族の事を愛している元諜報員とか。

 恋人の死んだ元暗殺者とか。

 少なくとも、共通するキーワードは一つだ。

 手を出したら確実に死ぬ。

 そう想起させるには十分な都市迷彩。

 

 いや、仮装を前にして顔は引き攣らざるを得なかった。

 

「カシゲェニシさん。お久しぶりです」

 

 柔和な笑みの巨女。

 

 戦車の入り口とか取っ手を普通に捻じ切れる腕力の持ち主。

 

 パン共和国の実質ナンバー2。

 

 その明らかにただのパン屋の正装をしたベアトリックス・コンスターチの危険度は見る限りMAX限界値を突破していた。

 

 ガトーとヒルコによって現地調達(鹵獲)した武装一式を最も近い地表への出口へ運んで十五分。

 

 ほぼ移動させ終わると同時にパン屋の看板が掛かった大きな馬車が猛スピードで数台。

 

 明らかに軍用車両と分かる太い車輪からシュウシュウ煙が上がるのも厭わず。

 

 ドリフト気味に出口の鉄扉前に付けた。

 

 それだけでも十分に顔は引き攣ったわけであるが、その馬車の後ろから初めに出てきたのが巨躯持つ総司令官という時点で渇いた笑いしか出ないのは常識的な反応だろう。

 

「即応部隊が来るって聞いたんですけど」

「はい。ですから、こうして此処に私が」

 

 笑顔だ。

 限りなく笑顔だ。

 ベアトリックス・コンスターチは笑顔過ぎる!!

 

 その理由がすぐに理解出来たのはグッタリ気味に胸ポケットへコサージュみたいに生けられていた黒猫を見たからだ。

 

「さすがにパン屋が動物を胸ポケットに入れてるのは不自然じゃないかと」

 

「あ、そうですか? ん~~残念です」

 

 クテェッと死んでいるのではないかと思うようなグッタリ加減で黒猫ボディーなヒルコがムンズと掴まれ、優しくこちらの頭へ乗せられた。

 

「敢えて聞くが、どうしたんだ?」

 

『ワシは知らぬ。何も知らぬ。ワシもうお嫁に行けぬのじゃ!!? カフッ?!!』

 

 もうダメです宣言と同時に死んだ目となった黒猫が沈黙した。

 

 一応、無視して話を進める事にする。

 どういう遣り取りがあったのかとか。

 聞きたくないし、そんな時間も無いだろう。

 

 現在位置はナットヘス・タワーから数km離れた水道局管理下の下水処理関連施設前。

 

 パン屋がずっと止まっていられる場所でも無い。

 

「それであの空飛ぶ蝿共を撃ち殺す武器というのは何処でしょうか?」

 

 その物言いに殺伐としたモノを感じたが、何を言う必要も無いだろう。

 

 自分の父親を守り切れなかった挙句。

 敵国に送るしかなかったらしいのだから。

 

「それはもう後ろに運んであります。馬車に積める重量なのは確認済みで。今から運ばせますから。ガトー!!」

 

 こちらの声に従って、一応、鉄扉の後ろにいたNVが姿を現し、横に積んであるレールガンをイソイソと馬車の荷台へ載せ始めた。

 

「合計6挺を規定の場所までお願いします」

 

「分かりました。現地にはもう狙撃部隊を送って隠れさせてあります。あちらの監視に掛からぬよう観測機材の場所も把握済み。指定された水準の照準機器も工作部隊が現地で設営中。使い方は猫ちゃんから聞いた通りで構いませんか?」

 

「猫ちゃん?」

「はい!! 実は結構、ウチにも居るんですよ。猫ちゃん」

 

 そのベアトリックスの少女みたいな興奮のしようと機嫌の良さの理由……猫ちゃんとのスキンシップを思い。

 

 ご愁傷様と頭部の黒猫の我慢強さに内心で敬意を表しておく。

 

「と、とりあえず。それで」

 

「分かりました。それにしても凄い武器をこちらだけで多数使うというのは少し気になるんですけれど」

 

 ベアトリックスが白いエプロン姿で人差し指を頬を当て、首を傾げる。

 

「使いますが、それは地表からじゃないので」

「それはどういう?」

 

「伝達させてもらった通り。機甲戦力で多方面から圧迫し、一時的に相手の行動を拘束するのは分かってもらえると思いますが……その最中にアレが墜落した際、出来ればあちら側の母船と人材を抑えたい」

 

「あちらの戦力は如何ともし難いのでは?」

 

「戦……輸送鉄棺に気を取られている間に地上戦力を空中からも挟撃します」

 

「空中から?」

「こちらが乗ってきた輸送機のことは?」

 

「あ、はい。でも、観測手の話では確実にあの見えないのが1体以上張り付いているという事ですが」

 

「それを排除して、逃げ出したと見せ掛けて高空から一撃。そのまま機体だけ飛行船の群れに突っ込ませて、出来れば何機か落としつつ、乱戦の中に突入という事にしようかと」

 

「まぁ、それは楽しそうですね」

「はは……そう、ですか」

 

 自分もそうしたいと言わんばかりな巨女の身体からは威圧感がビシビシ出ている。

 

 かなり敵へのフラストレーションが溜まっているのだろう。

 

「ですが、本当に誰も乗っていない戦力ばかりで相手が食い付くでしょうか?」

 

「そっちは構いません。食い付かざるを得ない仕掛けをする予定です。というか。もう機甲戦力の合流地点に必要物資は送りました」

 

「?」

 

 ヒルコ達と事前に組んだプランだ。

 

 途中意見をもらって微修正したが、基本的に最初こちらが考え付いた通りの速攻で仕上げた紙一枚の計画書を相手に渡す。

 

「ふむ……地下で鹵獲した機体を改造して輸送車両に……鹵獲品を鉄棺に括り付けて囮という事ですか?」

 

「自分達の兵器が載ってる以上、相手は無視出来なくなるはずです」

「ですが、それではこちらの狙撃を気付かれるのでは?」

 

「自分より格下と思ってる相手の浅知恵を鼻で笑ってる合間に決着は付きます。敵の主力兵器が主に対人用だった事から考えて、同レベル相手の戦闘になるとは思ってません。相手は使い方が分からない武器を何とか運用しようとするこちらの鉄棺を危険視して、叩き潰しに来るはず。その時に敢えて、間違った使い方をしている車両を前面に立ててやれば、敵の油断が誘える。その合間にあの爆弾を狙撃して敵の母船を複数破壊。同時進行で空から狙撃してやれば、敵は遠方の敵と上空からの敵に対処しなければならなくなる。事前の打ち合わせ通り、爆弾狙撃後に武装を廃棄して逃げてくれれば、敵の無駄な攻撃も誘える。この状況なら敵は自らに突撃してくる馬鹿がいるとは考えない。戦術的には防衛用部隊を残すでしょうが、実際には自分達の本陣に突撃してくるような敵戦力はないものとして考えるはず」

 

「ん~~~其処をその見えないヤツと同タイプの乗り物とカシゲェニシさんで強襲する、と」

 

「敵がバラければ、戦力的には対処可能と判断します。例え、相手が戻ってきても、守備戦力を全滅させるか半壊させて母船や人材が人質に取れる状況で補給路を絶てるなら、相手に降伏勧告を出す事も出来る。こっちに鹵獲されてるレールガンの数は現在12挺。その半数が狙撃地点で破壊されても、まだ余裕がある。お前達の見えない場所から狙っていると脅せれば、死なば諸ともと攻撃されても、犠牲は矢面に立つオレだけで済む」

 

「詐欺ですね。死なないのに」

 

 ベアトリックスが肩を竦めて笑った。

 

「そういう事です」

 

「お話は分かりました。地下遺跡の化け物達の話。信じるかどうは保留にしておくとしても、我が国の首都をこれ以上蹂躙させるわけにもいきません。作戦はしかと遂行しましょう。でも、一つ訂正を」

 

「訂正?」

 

『積み込み終わったぞ』

 

 ガトーがもしもの為に再び鉄扉の中へと戻ってくる。

 その横にはレールガンがまだ5挺程残っていた。

 10m級の機体が使う武装だ。

 如何に小型NVとはいえ。

 手に余る大きさなのでご苦労様といったところだろう。

 

 しかし、おもむろにソレの横まで歩いてきた巨女が、その2mしかない身体で4m程の大きさのソレを()()()持ち上げる。

 

『………』

 

「………」

 

 ベアトリックス・コンスターチがこちらにニコリとした。

 

「突入部隊の仲間に入れて下さいな」

 

 やっぱり、敵に回したくない。

 本当に心からそう思う。

 

 少なくともNV《ロボ》相手に初見で善戦、生存、戦闘指揮をしつつ……首都機能の後退までやってのける化け物を相手にしたら、超兵器万歳主義の油断する兵隊に突撃するより疲れるのは……確実だろう。

 

「あの蛆虫達の掃除は私の役目ですので♪」

 

 その目は実際、笑っていなかった。


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