ごパン戦争[完結]+番外編[連載中] 作:Anacletus
世界がたぶん45度くらいの角度を付けて老人の暴露で行き先を転換した矢先。
こうして新たな火種を状況にブチ込むというのは見知らぬ薬品を混ぜて化学反応を見るようなものだろうと実際思う。
知らない間に毒ガスが発生しているかもしれないし、または爆発するかもしれない。
が、しょうがない。
時間は巻き戻せないし、此処以外で歴史へ穏便に登壇させるのは今のところ不可能だろう。
こちらは新しい外套姿。
蒼いクリスタルような光沢を持つ幾何学模様を刻む外套にいつもの半貌を蔽う面。
そして、毎度お馴染みの本日はダークでメタリックなスーツ姿だ。
武装一式が入っていないだけでエラく軽い。
カレー帝国で使ったものの色違いで中身もある程度は変わっているとすれば、相当に進歩していると言うべきだろう。
まるで何も身に付けていないような重量は寝て起きたら全裸なのではないかと思わず自分を見るくらいに不安となる程のものだった。
(さて、始めるか)
これから人々に非常識な話をする。
ならば、この姿も道化師としては丁度いい。
自分達の常識とは相成れない相手。
それでも権威付けは十分に為された。
会話こそマイクは拾っていないが、クローズアップされたあの老人とのシーンは人々に大きく印象的に映ったはずであり、人々にこちらを“そういう人物”と誤認させた事だろう。
このような状況から来る固定観念さえ植え付けられれば上々。
その土台の上に合理的に出来るだけ隙無く話を“盛る”事こそ自分の行うべき最たる仕事となる。
「………」
静々と会場の左右の出入り口から彼女達。
いや、彼らと言うべきか。
どう表現していいか迷う二人が入ってくる。
その姿は常よりも優雅で典雅で艶美だ。
見る者は誰もが女性だと思うに違いあるまい。
アンジュとクシャナ。
【統合】の五人の長の内の2人。
現在、諸々の準備を半分程終えた男の娘達の紹介。
それこそ帰ってきてから共和国のナンバー1とナンバー2を相手に交渉してきた成果に他ならない。
この選択が吉と出ようが、凶と出ようが、手強い政治家というヤツを相手に最後まで粘っただけの事はあるはずだ。
少なくとも自分はそうするし、2人も自分達の命運を握るこれからの行動を一挙手一投足を意識してこちらがヘマをすれば、出来る限り補助してくれるだろう。
『―――カシゲェニシ。あの久方ぶりに顕れた蒼き瞳の英雄が?』
『だが、彼は死んだはずじゃなかったのか!?』
『どういう事だ?! ナットヘス総統からは何も聞かされていないぞ!?』
さすがに首脳陣がざわつき出した。
だが、それも想定内。
会場からも生きていたのか云々という声が無数に拾えた。
やはり、まずはそこからか。
「もう一度、信じられないという方の為に名乗ろう。私はカシゲェニシ・ド・オリーブ。あの数ヶ月前の事件で行方不明という扱いになっていた男だ。何故、生きていると訊ねたい気持ちの方々は多いだろうが、答えは単純だ……私は死んでなどいなかった。今まで総統閣下の密命により、単独この首都を襲った敵【統合】の武装解除と領土併合に関する作業を行っていたのだ」
一斉に会場の役人や大臣クラスの顔が不穏なものを感じ取ったか固くなっていく。
それはそうだろう。
正体不明の敵に襲われた共和国だからこそ、その国力が落ちている今だからこそ、発言力の低下や相手の弱みに漬け込む隙もあるかと彼らがこの大連邦発足の調整を行ってきたのだ。
しかし、その前提の一つにケチが付いた。
明らかにあの老人の策略と言わざるを得ない状況。
内心、渋くもなるだろう。
「そして……紹介しよう。代表者2人を連れてきた。彼女達が新しい【統合】の統治者たる者達だ」
傍までやってきた其々に和装とサリー姿のいつもよりも袖丈が長く色合いの淡い衣装を身に纏ったアンジュとクシャナが会場の者達を見渡して、ペコリと一度だけ頭を下げる。
「さて、まずは説明させて欲しい。【統合】がどうなったのかに付いて。詳細は省かせてもらうが、手短に話すならば、彼らはほぼ壊滅した」
どよめきと恐怖の色が一身にこちらへと向けられる。
それはそうだろう。
首都を崩壊させそうになった巨大な敵が目の前の若造1人に敗北した、という表現に聞こえれば、誰だってそうだろう。
「だが、私はあの首都決戦において彼らを撤退させ、それに乗じて潜入。彼らとの死闘において全ての中核人材の排除を敢行。この戦いに勝利し、彼らを武装解除した。また、この戦いにおいて彼らの多くが私の前に倒れ、そして生き残った者達と共和国への恭順と併合案に付いて詰めていた。閣下から託された権利を行使し、大使館を開設し、その大使としてこの数ヶ月の間、彼らの持つ巨大な力と領土と遺跡の管理体制を構築するべく動いていたのだ」
混迷。
少なくとも会場はそれに呑まれている。
実は共和国は強大な敵を打ち倒し、更なる力を付けている最中だったのだ、と暴露されたわけだから、もう役人連中としては笑うしかない状況だろう。
「そうして、南部にある【統合】の一件がようやく片付きそうな時、あの事件は起こった。そうだ。ポ連軍の大規模上陸作戦の開始だ。私は今まで南部で調査し続けていた【統合】と……もう一つある大遺跡に付いて思いを廻らせた。彼らの目的はもしかしたら、それかもしれないと思い至ったからだ。そして、その危惧は現実となった。ポ連は南部からの侵攻後、【統合】ともう一つの遺跡を強襲。私は【統合】の残存する僅かな兵隊達と共に共同戦線を張り、彼らの遺跡に眠る兵器と数々の超技術の産物を手に50個師団と難戦する破目になったのだ」
まさか、まさか、まさか。
彼ら役人の顔が見る見る曇っていく。
一応、対外的にはポ連軍が途中からその勢いを鈍らせ、現地の風土病に掛かって部隊が全滅し、現地の国家が非営利の国際医療団にその事態の収拾を頼んでいるという事になっている。
事態が錯綜していたあの当時、まともに動けない連中を症状から回復させる端から嘘を吹き込み、情報操作を行った成果である。
これが今までは殆ど通説にして事実だったのだ。
しかし、それが違っていたら?
実は“共和国の蒼き瞳の英雄”が遺跡の力と僅かな兵隊達を使って退けてしまったのだとしたら?
正しく、この目の前にいる男が何なのか理解した者は顔を引き攣らせる以外無い。
無論、こちらが無力化した兵隊が五十個師団なんて嘘っぱちだ。
海から上陸しようとして陸側の被害に天を仰いで祖国へ帰っていった第二陣の輸送船の数から推定で後続は更に
思っていたよりポ連にとって兵隊の損失は切実だったようで30個師団という全上陸部隊の半数近くが原因不明の病で壊滅した時点であちらの海軍はすごすご引き上げていった。
「だが、我々は勝利した。強大なる艦隊を海の藻屑と化させ、空から襲い来る空挺兵達を薙ぎ払い、巨大な群集団と化して突撃してくる一千機以上の輸送鉄棺の壁を打ち貫き、無限に湧き出すかと思われた敵の自動車化歩兵の波状攻撃を新型食工兵装備にて押し返し、敵の司令部を空から直撃して麻痺させ、あらゆる軍事行動を持って、彼らの継戦能力を奪い切るに至った」
もはや御伽噺を聞かされていると言われた方がまだしっくりくるはずだ。
だが、全部が丸々嘘っぱちのこちらの方が説得力はあるだろう。
ヲタクでニートなカシゲ・エニシさんがチート能力をちょっと使って全滅させましたと事実を言うよりは絶対にマシだ。
それを一々指摘出来そうな輩はいないし、非常識が非常識な嘘を付いても全滅したという事実がそれを補強するので問題は無い。
そういう事実を指摘出来そうな中央特化大連隊の巨女はこちらの嘘に苦笑している暇も無く。
現在お話し中。
老人やその家族と一緒にEE達の壁で囲まれている。
あそこにフラムがいたならば、滂沱の涙を流している最中だろう。
が、生憎と今日は別室待機なのできっと生涯悔やむ程度の表情で号泣しているに違いない。
と言う事で、こちらを否定してくれる輩は今のところ誰もいない。
「しかし、その間にもポ連はもう一つの大遺跡。“見えざる塔”と呼ばれるソレを攻略していた。私は後の事を共に戦った【統合】の兵達に任せ、その遺跡へと単独で乗り込んだ。そして、彼らの部隊と遭遇し、この傍らにいる2人と出会う事となった」
後に退くと手筈通り。
アンジュが進み出てしっかりとした声で語り始める。
「地球上の国家の皆さん。初めまして。私はアンジュ……アンジュ・バートン・ワン・テンノウズと申します」
その言い方に違和感を感じた者がいるだろう。
そして、その言い方に感の鋭い人間は予感も感じた事だろう。
それはすぐに現実となる。
「私は遥か古の昔……この大陸に存在した最古の人類の末裔。そして、皆さんに“私達”の事を呼んで頂くならば、たぶん……この表現が一番だと彼に聞いたので、そう名乗る事に致します。私は皆さんの言葉で言うのならば、この世界の外、正確には大気圏の上層……ほぼ真空の海に飛び出しているに等しい高高度に存在する遺跡で暮らす
この世界には未来技術や未来科学を題材にした娯楽作品というものは存在する。
また、宇宙人という発想もまた確かにある。
それが現在、今この時を持って、現実となった瞬間であった。
「我々が住まうのは南部の大遺跡。総統閣下が言っていらした大戦という古の戦争当時の人々が何とか惑星環境の激変から身を守る為、建造した巨大な塔なのです」
そこでアンジュに代わって前に出る。
「私はポ連を追って、無法を働く彼らの部隊と交戦し、偶然にも彼女達を助けるに至ったのだ。彼女アンジュは塔に住まう五氏族の頂点に君臨する家の娘であり、現在はその地位を譲られる立場となっている。また、傍らのクシャナ・アマルティアも氏族の長の娘であり、その地位を継いでいる一人だ。彼女達は古代の人類が現在の環境に適応し切れずに自分達を封じた塔、南部大遺跡に住まう歴としたこの星の人間である。だが、彼女達の祖先は長い年月の中で地上で暮らす事や帰還を諦めてしまっていた。故に自己完結した生態系を有する遺跡で人類最後の生き残りとして古の文化を守りながら暮す道を選んだのだ。もう彼女達は地表に人類がいる等とは思っていなかったと私に語ってくれた……此処まで言えば、分かるだろう。彼女達の氏族は総統閣下が仰っていた戦乱の犠牲者にして……太古の叡智と文化と血統を今に受け継ぐ最後の人々なのだ」
人々のどよめき。
ただでさえ、あの老人の話が衝撃的だったというのに……それを超える事態に各国の人々が混乱するのも無理からぬ話だった。
再び、アンジュが前に出る。
「私達、塔に住まう五氏族は大恩あるカシゲェニシ・ド・オリーブ様に救われて後、外の状況を知りました。そして、同じく自分達から遥か昔に分派したはずの【統合】が変質して共和国に戦いを挑んでいたと知ったのです」
横へズレた彼女の隣でマイクを取って握る。
「【統合】とは本来がこの星の環境に耐性無き人類。つまり、現代の人類の祖先に当たる人々の生き残りだった事が共和国の国立科学院の科学的な検査によって既に証明されている。どうして、彼らが共和国に対して戦いを挑んだのか。それは生き残った末端の兵隊達には分からないとの事だ。肝心の情報が残っていたと思われる場所は彼ら【統合】上層部と私の最後の戦いが起こった時、物理的に彼ら自身の手によって破壊され、既に無い。故に私は戦い続ける理由すら知らない兵達が負けを認めた時、彼らを正しく導き、共和国の一部として復興させようと決心したのだ。そして、見えざる塔に彼らの事を知っている人々がいると知った時、【統合】を導くのは彼女達の共同体しかないと思った。この確信は【統合】の末端の兵隊達が同じ祖先を持つ彼女達の言葉を大人しく聞き入れた時、確信へと変わった」
「今、僅か【統合】に残る兵達は幼い頃より、物のように扱われ、そう在れと教育されてきた人々ばかりでした。私は五氏族の代表者としてカシゲェニシ様より、この話を伺った時、どうにかしなければとの思いに駆られました。もしかしたら、あそこにいるのは自分達だったかもしれないと思ったのです」
アンジュの哀しげな瞳は正しく女優も裸足で逃げ出すレベルだ。
普通の男ならコロッと騙される事請け合いな美少女の憂鬱に見えた。
「私はポ連を退けた後、一時は殺し合い、互いの目的の為に銃弾を撃ち合う間柄だった彼らに自らの敗北後の選択肢を示す事で無用な罰を避けるべきだとの認識に至った。共和国に彼らが与えた傷は余りにも大きいものだろう。しかし、その罪を命令の為に戦った兵隊に課し、罰する事など出来るはずがない。責任を負うべきは彼らを指導するべき立場だった人間達だ。そして、その連中は既に私の手で亡くなっている。末端の兵たる彼らが民間施設を攻撃したならばともかく。命令によって軍事施設を攻撃した事実で、最終的に敗北したからと咎められるのは同じ軍人としても適切な解決方法には思えなかったのだ」
アンジュがここぞとばかりに畳み掛ける。
「【統合】の兵達は今後、我等五氏族の指導の下、カシゲェニシ・ド・オリーブ様の仲介から共和国へ全面的に協力し、全ての技術と残っていた叡智、遺跡の管理権を譲渡することを条件に減刑され、今後は共和国陸軍へと編入される事が決まっています。実際には大連邦統一軍の一翼を担う者として兵役が課される事が総統閣下出席の下、パン共和国陸軍が開いた特別軍事法廷の結果として既に判決が下っています。彼らがこれから直接監督下に置く【蒼《アズール》】の元で統一軍の一般部隊に先進兵器や遺跡に残る古代兵器群の使い方を教導する事になるでしょう」
こほんと咳払いをして、ようやく此処からが本番だとカメラ目線で本題を乗せに掛かる。
「これが【統合】と共和国の顛末であり、私はこの報告を持って大使を退き、また再建される事となった【蒼《アズール》】へと戻る事を此処に表明する」
アンジュにマイクを渡す。
「我々は今まであまりにも長い間。外への扉を閉ざしてきました。しかし、今回の事でポ連を初めとして我々を狙う者達がいる事も分かった。故に五氏族は総意として共和国との間に話し合いを持つ事を求めた。彼、カシゲェニシ様の紹介により、アイトロープ・ナットヘス総統閣下との秘密会談を既に終えております。この話が今此処で開示される理由……それはこの大連邦発足後、後続で参加する国家の第一号案件として我々五氏族を扱って欲しいと我々が閣下にお願いしたからです。閣下はこれを快く承諾して下さり、この数週間で共和国各省庁との間での調整も済んでおります。この調印式後、この大連邦へ参加したいという旨を此処に五氏族の総意として請願し、大連邦を担う全ての国家に認めて頂く為、私は此処に参りました」
普通なら他の国家は『そんな事、軽々しく決められるか』という常識的な対応がなされるのは明白だったが、此処は生憎とこちらの独壇場。
この大陸全土に向けて報道される映像とラジオの情報を前に否定的な意見を軽々しく表出させようとする国家首脳は1人もいなかった。
誰かが割って入るより先にマイクを受け取って、話をこちらで進める。
「私は彼女達の維持して来た優れた文化、優れた技術、優れた思想を目の当たりにした。それは遥か古の人類が我々と同じように戦争を欲す愚かな性なれども、それでも今の私達よりもずっと先を歩いていたという証明に他ならなかった。失われたものは数多い。しかし、彼らがいれば、その復興はやがて成るだろう。それが十年後か百年後かは分からないが、彼らがいる限り、その希望の灯は消えないと私は考える。また、彼らが悪戯に失われてよいはずのない人々なのは疑いようが無い。故にこの調印後の議会第一号案件として全ての加盟国に此処で提案を行いたい」
ようやくだ。
此処からがイカサマ有り有りの博打となる。
「南部にある二つの大遺跡。【統合】本拠地と見えざる塔。この二つを加盟国からの移民を受け付ける大連邦直轄地域に指定したい。これはつまり特定の国家や民族、政治的柵に左右されない新しい地域と市場、経済の創出である」
この言葉が持つ意味を知るならば、それに乗っからない商人はいない。
突拍子も無い話だが、いつでも戦争の理由に経済が絡む大人の懐事情的には好印象だろう。
「統一軍隊初めての駐留案件としてもこれらの地域の選定を共に願いたい。新技術の社会実験や各地域との文化的融合を試みる際の試験地域などはまだ未定となっているが、私は彼らにその大役を、大連邦の一部として果たしてもらおうと考えている。税制特区としてあらゆる国家企業からの投資を行ってもらい。軍事のみならずあらゆる古の技術、文化を勃興し、全ての成果を平等に各地域へと分配。先進技術開発、失われたテクノロジーの復興の担い手として彼らを推薦、支持したい。故に私は彼らを此処に招いたのだ」
背筋を震わせた者が幾多、会場には見えた。
ああ、そうだ。
それでこそだろう。
今の目の前にぶら下っている人参はただの人参ではない。
この世界で最高の味になるかもしれない獲物なのだ。
「総統閣下より預かる勅令担当官としての権限によって、今各庁の最精鋭達に詳細を詰めたものを作らせている。此処に集まる全ての指導者達に私が上奏したのはこれより先の未来に人の輝かしい時代が待つか否か。その分水嶺となるだろう事柄なのだ。調印を既に済ませたあなた方は国家代表者、大連邦上院議会の議員として成立している。その初仕事をどうか此処で行ってもらいたい。此処での議決結果はあくまで推進するか否かであって、内容の詳細に対する各国の利害調整は議決後に始るものである事を念押ししておく。では、此処に総統閣下の代理たる勅令担当官の権限によって、この議案一号の議決を問う。これは大連邦の一翼を担う共和国の正式な手順を踏んだ発議である事を承知して頂きたい」
在るか無しかで言えば、指導者がこんな茶番で転ぶなんて無しだ。
だから、理詰めの次は感情と勘定に訴えるのがよい。
「無作法は承知している。外交儀礼にも反するだろう。しかし、彼らがこの世界に登壇する時、ただ真っ更な気持ちで彼女達を見られる時間は此処にいる誰もが極限られているはずだ。私は此処に彼らを柵無く立たせたいと願い。本日の段取りを取らせてもらった。この世界に生きる新しき仲間を迎えるに当たり、先達たる各国には賢明にして寛大なる裁可を期待する。そして、その代価はこの時代に生きる全ての人々の未来に決して少なくない財産となるだろう。私は私の人生を掛けてソレを証明出来ると確信している」
誰もが見ている只中で世界に決断を見られる指導者という初めての出来事の中。
損得勘定を刺激してやれば、多少の無作法とて問題以上にはならない。
既に各国指導者の資質や気質は調査済み。
その上でこの状況を否定出来る者がいないのもほぼ確定している。
つまり、この語りに辿り付いた時点で勝負はもう終わっている。
半丁博打も真っ青のイカサマに否と叫ぶ程、彼らは“個人”ではない。
国家の顔に少しでも傷を付ける発言は今後の連邦内での支持獲得に支障を来たす一大事。
政治家が一番困るのは人の善行を批難する己という姿を多くの人々に曝す事なのだ。
「我が案に賛同する方々は起立を持って肯定とし、不動を持って否定として貰いたい」
世界が震えている。
振動しているのは人間か。
それともその心か。
「是か非か!! 各々方は意思を提示されたしッ!!!」
それからの三秒が歴史に残る。
起った者はおらず。
しかし、それからの三秒後の歴史にはこう残る。
全者、満場一致、屹立、と。
「では、これにて大連邦上院議会の第一号案件の推進を決定する。全ての人々がこれより先の未来に希望と平和を希求する限り、この偉大なる回答は永遠に記録されるだろうッ!!! ごパン大連邦及び周辺諸国共同体に栄光在れ!!」
声が、声が広がっていく。
その声の輪が世界を包み込んでいく。
歓声を前にしてアンジュが涙を讃えながら、こちら見て微笑み。
クシャナが少し恥ずかしそうにしながらも、ありがとうと呟いた。
―――万歳、万歳、万歳、大連邦に栄光在れ、栄光在れ、蒼き瞳の英雄に―――。
そうして、最後に伝え忘れた事を……片手を上げて声を制し、伝える事にする。
それまで約二十秒。
最後の言葉はとアンジュに視線を向ける。
それに頷いた彼女がマイクの前で高らかに。
当然と言えば、当然のように、己が再出発する国の名を告げた。
「我等五氏族は文化の担い手として、伝えられてきた全ての遺産の叡智を持って、国家・地域としての名を今こう名乗りましょう。我々は
終わりも無く。
再び、高らかに歓声は響いて、二人が抱き付いて来る。
これが終われば、人生の墓場へと直行コース。
一仕事終えたニートには過ぎたご褒美だが、一応は……半眼で画面を睨んでいるに違いない花嫁達へのおべっかと浮付いた心底からの殺し文句を考えておこう。
(こうしてニートでチートでハーレムな主人公は幸せに墓場の王様へクラスチェンジしましたとさ……)
アンジュとクシャナ。
五宗派の内の二派からの輿入れ。
つまりは婚約。
「エミ……大好きですよ♪」
「お、男はあんまり好かないけど、特別なんだからね?」
これが【統合】の
昔ながらの女と情と柵を用いて相手を篭絡し縛る政略結婚というやつだった。
「男の娘と結婚するって聞いたら、母さんと父さん何て言うかな。はは……」
乾いた笑いもそこそこに各国の新聞社から激写される被写体となって、空を見上げる。
そろそろ少女達(一部男の娘達)にとって本命の夜宴《ひろうえん》が近付きつつあった。