ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第201話「女体化MOD(エロ)」

 

「―――何て言った?」

 

 思わず。

 本当に思わずそんな声が出ていた。

 

【いや、じゃから、あらゆる機器のタイマーがおかしいのじゃ。先程の事があるせいかとも思ったが、作動は正常……それで天海の階箸に問い合わせてみたが、そちらもタイマーが合致しておる。我々の記憶と食い違うという事は恐らく我々の中の時間認識がおかしくなったか。あるいはこの世界の時間を記憶、認識する全ての機器と存在に影響が出ているかじゃが……】

 

「恐らく後者だ」

 

【そうか。まぁ、それはよい。それより問題なのは我々があの船で此処に辿り着いた日まで……本星の時間が戻っておる、という事じゃ。それも恐らくはあらゆる物質の状態まで。これはワシの研究室内のあの子達の身体の情報からも明らかじゃ。地表で発行される新聞の日付も確認したが、間違いない】

 

 もう乾いた笑いしか出なかった。

 

「時間遡行……いや、あらゆる物質を自在に操る奴がいるくらいだ。全人類の感覚に影響を出すミーム汚染レベルの()()や物質の素粒子レベルからの崩壊と再構築さえ可能なら、疑似的な時間逆行も可能……恐らく麒麟国の切り札。その仕業だな」

 

 まだ委員会の究極救済装置とやらは関わっていない。

 

 それらの事実は伏せながら、脳裏で物理事象とかでどうにもならない相手への対処法を考えつつ話を進める。

 

 周囲で神様連中は自分達の知らない合間に起こっていた出来事。

 

 いや、それよりも一部の記憶を奪われているという事実にショックを受けた様子で仲間内で会話しては溜息を吐いていた。

 

「神様連中も唯一神名乗る変態の所業にしばらくグロッキーで使い物にならないだろうし、まずはパーンと一緒に情報の再確認を徹底してくれ」

 

【うむ。そちらは進めておる。というか、どうやらあの男は今回の一件でも色々と観測しておったらしい。情報を出してくれるよう交渉してみるぞよ】

 

「ああ、お願いする。取り敢えずの時間が増えたって言うなら、計画の見直しも含めて色々と明日までに考えておく。そっちは進んでた工程がどれくらい変質してるか全部洗って報告を。変わったところは推考して見直し。もしも全部変えなきゃならないって話になったら、オレが動いて色々と工程を短縮するからな」

 

【了解じゃ。それにしても……財団関連は本当にヤバいのう……さすがにこういう状況を生み出す代物を保有しているとは思わなんだ】

 

「同意見だが、どうしようもない。最初の変化の後、更にギュレン・ユークリッド側からの干渉も起こった。それですら何かイレギュラーな事態も起きてたっぽいからな。諸々、事情を詳しく知らないオレ達の情報じゃ、今は全部推測の域を出ない事の方が多い。とにかく確認と情報の収集が最優先だ」

 

【……それは良いのじゃが、その事実を知っている子達には……今回の一件を話すのかや?】

 

「気付いてる奴には他の連中がどうなったのかも含めて話す」

 

【それはまた……】

 

 そのヒルコの言葉に頬を掻く。

 言いたい事は分かっていた。

 

「まぁ、この世界の人類というか。人型生命体の根本的な部分はいつかこの世界の真実に触れた連中には話さなきゃならないと思ってたからな。前倒しになるだけだ。そもそもオレもお前も()()()()()()なんて話を出来る身の上じゃないだろ?」

 

【うむむ。さすがに物理法則をぶっちぎって物体の崩壊と再構成や、世界そのものの再構成とか……ネジが十本か二十本飛んだような詳しい状況説明よりそちらの情報を話して安心させるべきという事じゃな?】

 

「そういう事だ。本当はオレの事情が全部終わってからが良かったんだがな」

 

【仕方あるまいか】

 

「……少なくともエオナと未来予知の御子様にだけは話しておく必要があるだろう。この世界の人々の肉体の秘密と真実ってやつを……」

 

【そこら辺は婿殿の匙加減じゃな】

 

「まぁな。そもそも神様連中の詳しい話が分かる前からこっちでこの世界の住人について遺伝子レベルから構造上の通常人体との差異まで調べはしてた。オレ達はその真実をあいつらの救出作戦に使うカードにすると決めて黙ってたが、今回の一件で存在が再構成されたのは確実。この情報に付いてちゃんと話しておこうってのは間違った選択じゃないはずだ」

 

【了解じゃ。婿殿がそう決めたならよい。では、今日くらいゆっくり休むと良いぞよ。あの子らの無事な確率が高まったというのならば、尚更じゃ……時間は戻らん、とは言えぬようになったが、ワシらとて休息を取らずしてパフォーマンスは発揮出来ん】

 

「……分かった。じゃあ、こっちの問題はこっちで解決しておく。悪いな……全部、押し付けて……」

 

【ワシもあの子達並みに労わるがよいぞよ♪ 何せ帰りの船の操縦はワシしか出来んからのう】

 

「はは……もしお前が壊れたら月に移住しなきゃな……」

 

 笑えない可能性の一つを口にしてから通信を終了。

 そして、張られた幕屋の中。

 ようやく一息吐く。

 

(結局、百合音《あいつ》似の魔法使いとやらの事は言えなかったな……まぁ、オレがどうにか出来なかったら話そう。それよりも今は目の前の事だ……どうにもならない事はどうにかなる事の後でいい……)

 

 色々と今日は酷かった。

 が、だからと言って足踏みはしていられない。

 

 ゆっくりするとは言っても、この場にいる全ての相手から何処から何処までがどう記憶や情報が改変されたのかを確認せねばならない。

 

 立ち上がって、幕屋の外に出ると。

 未だ青い顔でエオナが待っていた。

 その周囲には人避けをしているので誰もいない。

 

 遠目から作った覚えも無い後宮入り確定らしい魔王応援隊のメンバーやらエコーズの面々(女子会で性別的な仲間外れが出なくなった)がこちらを見ていたが、出てきたと同時に控えめに視線を逸らした。

 

 その頬は無駄に仄かな温かみのある桜色に染まっている。

 

(コレ、サービスのつもりなのか……あの変態)

 

 あの変な鳴き声の怪神を頭の隅から振り払って、エオナを連れ立ってユニのところへと向かう。

 

 幕屋の傍には馬車が二十台程止まっており、殆どが魔術式で浮遊して走る仕様である。

 

 その中にポツリとあるのは飴色の材木が傍目にも分かる大型の上等な4頭立て。

 

 だが、その車体を引くモノは白銀の毛並みを持つユニコーンだ。

 

 俗に幻獣とか。

 まんまなネーミングの種族らしい。

 

 ソレは虚空を走る事すら可能な魔術と神の水が生体に組み込まれた人造生物である。

 

 後ろから近付いて覗けば。

 ユニが何やら胡乱な目で今後の予定を話し合う女性達。

 否、元男達を見つめていた。

 

 さすがにポヤンとした天然未来予知幼女も今回の事は許容値が降り切れているらしく、微妙に顔が引き攣っているようにも思えた。

 

「でてくるね~」

 

 幌の中で相談している三人が三人とも頷いた。

 

 つい数時間前までは何処に行くのも一緒というレベルで付いてきたのだが、魔王に輿入れ云々の話が出たので……まぁ、相手側からすれば、婚約者にちょっと付いていく、くらいの感覚なのだろう。

 

 そうして、傍にあった小川の傍まで来ると木陰で気に背を預けて、幼女が( ´Д`)=3と溜息を吐く。

 

 その表情は正しく顔文字張りにどうなってんだよという感情に満ちている。

 

「どーなってるの? まお~」

 

「ああ、それに付いて話さなきゃと思って連れてきたんだ。そう言えば、あの紅の光に包まれた時、お前らはどうなってたんだ?」

 

「そ、それに付いてですが!!?」

 

 ようやくエオナが堰を切ったように先程までの事を話始めた。

 

 紅の光の中で仲間達が一瞬にして分解された事。

 

 しかし、自分だけがそのまま虚空で取り残され、何も出来ずに輝きに埋もれてもがいていた事。

 

 そうして、数時間後に瞬き一つ分の内に周囲が元に戻り、仲間達は傍にいて……何故か此処には居ないはずの魔王応援隊の相手と話していた事。

 

 思わず聞いたが、何も覚えておらず、不可思議な顔をされた事。

 

 だが、何よりも驚いたのは見知らぬ少女が仲間達と親し気にしていた事、らしい。

 

「で、リヤが女になってた、と」

 

 ブンブンと首を縦に振るエオナが今も自分しか認識していない元男であるリヤとの接し方に物凄く困った様子だったのは想像が付いた。

 

「どうすればいいんですか!!? というか、何があったんですか!? セニカさん!!」

 

「こいつと同じようにケーマル達も女になってたのか?」

 

「うん。そーだよー……けーまる、きょうは()()()()っておまたのところでぬののこうかんしてた」

 

 思わずその生々しさに噴き出しそうになったが、息を落ちつける。

 

「まぁ、女になったら色々あるんだろうが、とにかく聞いてくれ。さっき、どうやら麒麟国の連中がこの世界の全てに干渉する大魔術みたいなものを発動させたらしい」

 

 噛み砕くのは大事だろう。

 

 オブジェクトだの財団だの言って一から説明するよりはこちらの方が楽だ。

 

「麒麟国が!?」

 

 エオナがさすがにあの麒麟国の中二病指導者の事は思い出した様子でワナワナ震えていた。

 

「ただ、それ自体が引き金だが、紅に世界が染まったのは唯一神とか名乗る神様連中のトップのせいだ」

 

「ゆ―――」

 

 思わずエオナが倒れそうになったので肩を掴んで支える。

 

「それって……ゆーくりっどしんでんのかみさま~?」

 

「そういう名前なのか……とにかく麒麟国の連中がヤバい魔術を発動して、世界を改変したらしい。それを唯一神が同じような力で再改変した。その結果がこの世界だ。お前らはどうやらその改変に巻き込まれなかったようだな。どうしてかはまだ分からないが恐らくユニはその血筋と能力、エオナは言うまでもなくオレの分身みたいな扱いだからだろう」

 

「そ、そんな―――じゃあ、皆は一度死んだんですか!?」

 

 エオナが思わず襟を掴んできた。

 

「死んだって言うのは妥当じゃない。この世界には幽霊がいるし、交霊術や交霊魔術みたいな名前の技能があるよな?」

 

「え、ええ……それが……?」

 

 首から手を退かして一息吐く。

 

「これから聞く事は此処だけの話しておけよ。いいか?」

「……?」

「それはどういう?」

 

 二人が其々に表情で訊ねてくる。

 

「この事実は本来、まだ告げるべき話じゃないと思ってたんだ。だから、他言無用で頼む」

 

「わかった~」

「分かりました……」

 

 こちらも樹に背中を預けた。

 

「この世界の人類種って呼ばれてる連中は根本的に肉体と魂が別々なんだ」

 

「肉体と」

「たましいが」

「「別《べつ》?」」

 

 二人がハモるのに頷く。

 

「お前らにも分かり易く言うとな。普通の生物ってのは頭に意識が宿るものなんだが……意識は最初からこの世界の一番重要な場所。神様連中が守ってるところに保管されてて、その魂が意識の無い空っぽの肉体を動かす事で此処の世界の連中の大半は動いてる。だから、幽霊もいるし、交霊憑依術とやらも発動する、らしい」

 

「「………」」

 

「麒麟国の世界改変とやらが唯一神とやらに再改変された影響でああなってるが、あいつらは偽物でも何でもなく本人なんだ。ただ、記憶を神に一部弄られてる。そして、その情報はあらゆる記憶や記録において真実であると補強補完される。なので、元に戻せるかどうかは分からないが……一応は安心してくれ」

 

「「………」」

 

 僅かな沈黙の後。

 

「元に戻す方法は今のところまだ見つかってない、と?」

 

 エオナがこちらにオズオズと聞いてくる。

 

「ああ、神様に頼めばやってくれそうではあるが、そもそも改変された記憶の元の情報が保管されてるかどうかが分からない。後、その神様ってのが唯一神なせいで接触するまで恐らく時間が掛かる。だから、元に戻らない事も覚悟しておいてくれ……突然こんな事言われて困惑するのは分かるんだけどな。これが今のところの現状だ」

 

 僅かな沈黙の後。

 コクリとユニが頷いた。

 

「わかった……けーまるもほかのふたりもやさしいのはかわってないから、がまんする~」

 

「もし、元に戻す方法が分かったら適切な時期に必ず開示すると約束しよう」

 

 こちらの言葉にエオナもどうやら一応は納得したらしい。

 

「それにしてもリヤが女の子になるなんて……それに後宮とか、唯一神ユークリッドはどうしてそんな事を……ただ、元に戻すだけじゃダメだったんですか?」

 

 その少女の自問自答の呟きに愉しんでいけと適当な理由で世界をゲーム扱いしてMODを神様のトップが入れていったとはさすがに言わないでおく。

 

「オレも困惑してる。お前ら二人には前と今でオレの周辺で変わった事。情報をとにかく仕入れて欲しい。ユニが魔王に輿入れってのも詳しい事が知りたい。後宮なんていきなり言われてもオレだって困るからな。そっちはエオナに任せる。情報が集まったら、明日から対策しよう」

 

「わ、分かりました。すぐに!!」

 

 エオナがザザッと立ち上がるとそのまま走り出していった。

 残ったユニがこちらを変わらずに見上げている。

 その背後では尻尾がやはりフヨフヨしていた。

 

「どうかしたのか? もう戻ってもいいぞ」

「……ゆにと……けっこん、するー?」

 

 無垢な瞳がこちらを向いていた。

 

「ブッホ?! いや、しないから!! いや、するかどうかは現状の把握して、色々分析して、その上でもしやらなきゃダメって事になったら、するかもしれんけど」

 

「けーまるはさっき、ゆにさまにすべてをおしつけてしまってもうしわけなくおもいます、って言ってたー」

 

「……オレが何かして魔王に半ば生贄みたいに捧げるような事態になってるって事か?」

 

 コクリとユニが頷いた。

 

「また、面倒な事を……もう嫁は十分いるというか。これ以上増やしたら、オレが殺される……」

 

「およめさんいるのー?」

「ああ、一杯な」

 

 溜息一つ。

 

 とりあえずは情報が集まるまでのんびりしていようかと近くの幕屋へと戻ろうとして―――。

 

【野良邪神竜が出たぞぉおおおおおおおおおおお!!!?】

 

「は?」

「じゃしんりゅー?」

 

 首を傾げた時。

 高速で何かが空を突っ切っていった。

 

「……まぁ、アレだろ。MODの強化された敵の強さにご期待下さいって話なんだろ。オレら以外は知ってる未知の敵かもしれないな」

 

「??」

 

「何でもない。さっさと片づけてくるから、お前はケーマル達のところに戻っててくれ。ドラゴンスレイヤー魔王様に好ご期待ってところだな」

 

 どうやらゲームマスターとやらの思惑に乗せられてやる必要があるようだった。


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