ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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間章「●●●-39999」

 警告:登録‐【            】‐の承認事前申告を要す

 

 当該情報へのアクセスはプロトコル/フィアーを受けた者にのみ許可されます。このプロトコルは視覚野を通して“神の枝”によって集積された映像による脳機能及び催眠誘導の臨床データで開発されたミーム汚染を誘発するオブジェクトの一部です。これが一種の精神保護機能を持ったプロテクトとして機能する事が確認された前文明期[5世代前]より追加された為、事前処置における前情報保有者の終了はプロトコルより削除される事となりました。このプロトコル/フィアーは本情報の知覚者に対して優位に働く事が導入後もログで確認され続けており、プロトコルの再改定にはクリアランス/ゴールド以上の承認を必要とします。追記される詳しいオブジェクト情報に関しては●●●-30003を参照して下さい。

 

 

 取得者のミーム汚染を確認/リクエスト実行中。

 

―――正常作動中―――正常作動中。

 

―――23%―――23%―――23%―――エラー/コードを確認。

 

 破損/ファイルを再構成―――取得します。

 

 全情報を取得者の大陸標準言語もしくはマスター言語-JP-に変換……完了。

 

 ●●●-39999

 

 クラス:ケテル

 

 特別収容プロトコル:●●●-39999の一部を隔離する場合、その隔離用の施設の材質は全て安価に手に入れられる通常の建設資材として下さい。また、収容時、その施設を完全に密閉してはなりません。密閉した場合、●●●-39999の特異性により、室内でミーム汚染が広がった時、精神衛生上の致命的な問題が発生します。

 

 ●●●-39999を管理下とするサイトには如何なる場合も武器及び特殊機材、宗教的アイテム、核、その他、財団における人的資源以外の如何なる特殊な資材も搬入してはなりません。収容オブジェクトもアノマラスのみに限られます。他の通常運営されるサイトの平均10分の1以下の原資で賄われる事を確認して下さい。

 

 ●●●-39999の一部隔離後、研究及びインタビューを行う時は既存の根治可能なミーム汚染に晒された者を出来れば1人、それが不可能な場合は少人数で行わせて下さい。これらの行為を行った人材とサイト管理者は如何なる場合でも情報を共有、接触してはなりません。

 

 これらの基準が守られた事を確認し、研究中及びインタビュー終了後までサイト内で如何なる物体の棄損も行ってはなりません。建材は元より、消耗品や機器や食料もこれに含みます。それが些細な食べ掛けのクラッカーや壊れ掛けの腕時計、スマホ、紙製のマッチ箱、ゴミに分類される空箱やペットボトル、ビンなどであったとしても、それ以上破壊されないよう留意し、一度でも不意に破壊されたものは飲食、使用を禁止して下さい。

 

 サイト職員自身も血液の300ml以上の喪失、手足や指の欠損を引き起こさないよう注意して下さい。臓器不全による各種臓器の摘出、移植手術などもサイト内では控えて下さい。

 

 施設内の空気に関しては規定値以上の粉塵などで汚れる事を避け、オブジェクトによって空間ごと抉り取られる、空間そのものが異次元のゲートになる、もしくは物質的に変質する事などの類似例を避けて下さい。規定されている値以上の空気に関する変動が一つでもあった場合は研究とインタビューを即座に中止して下さい。●●●-39999がそれらの異常性を獲得する可能性があります。

 

 また、サイト内で●●●-39999による[ミーム汚染から回復した者]が出た場合、接触前に受けた汚染からの回復という名目で記憶処置を施して下さい。これらの処置を施す人員には唇の動きを読むようなスキルを持つ人材以外を当てて下さい。安価なヘッドフォンを供給し、処置中は大音量の音楽で回復者からの情報は出来る限り、遮断する必要があります。

 

 ●●●-39999由来のミーム汚染を[再度取得するには]主に健康的な生活を送らせる事が最も効率の良い方法である事が判明しています。この為、汚染から[回復してしまった者]には有意義な休暇、家族との団欒、アルコールと薬物以外の刹那的な娯楽、向精神薬、恋愛を目的とした男女の会合などを与えるか。十分な恩給、その地域において良識的な精神病の権威者、精神病院への紹介状や案内状を出す事を視野に調整して下さい。

 

 ●●●-39999の封じ込めは物理的に不可能ですが、封じ込めに関する建議は可能です。その場合、[  ]の議決時に一人でも反対者がいた場合、その案件は保留となります。

 

 

 

 概要:●●●-39999は現在文明期より[32文明期]前から確認されている全世界規模でのミーム汚染を引き起こしている[世界規模認識災害]です。これらの実存は大戦最初期の文明にて確認されました。その実体は[惑星上のあらゆる領域に必ず4m程の等間隔を開けて蠢き移動する乳白色の人の掌程もある芋虫の群体]です。

 

 ●●●-39999は人類が既知である既存のあらゆる幼虫とまったく異なる種類の生物である事が確認されています。その実体を構成するのは有機細胞ではなく。あらゆる電子観測機器、人間や他の生物に光学的に観測され得るにも関わらず、物理量が観測されない[何か]であり、見えるが質量を持たないと[断定]されます。

 

 この群体が惑星上を覆い尽しているという[幻]を始めに財団が認知するに至った切っ掛けは現在喪失した隔離サイト-D32232内において収用違反を解決する為に送り込まれたD-大隊9393がBクラス職員を保護した事でした。発狂した状態で酷く地表や壁を怖がり、Dクラス人員に自分を紐で吊るして運ぶよう懇願した彼はその後、望んだ状態で安全なサイトに輸送されていましたが、途中トレーラーが収用違反オブジェクトの襲撃で破壊された際、周辺の荒野に投げ出されて死亡した事が車載カメラのデータから確認されています。オブジェクトにより部隊が壊滅した後、後続が到着して周囲を探索した結果、回収物として襲撃直前のインタビューと思われるレコーダーを発見し、これが偶然その回収班の戻ったサイトに居合わせた[   ]博士によって解析された結果、●●●-39999の存在が証明される結果となりました。

 

 [現在、●●●-39999はクラス:タウミエルと成り得るかどうかを[  ]が議論中です。この議論に関するノートを参照する場合は別途、[  ]または[   ]博士に申請して下さい]

 

 補遺39999.1: インタビュー

 

 アクセス承認

 

 以下のインタビューは壊滅したD-大隊の一人が行ったもので車両の出発前の出来事であると思われ、外部からの音声が入力されていた。

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 D-9393-21:オイ、名前言えって……こっちも仕事なんだ。

 

 Bクラス職員:[不明瞭な呟きと啜り泣くような声]

 

 D-9393-21:何だって?

 

 Bクラス職員:僕は蟲が嫌いなんだ……嫌いなんだよ。

 

 D-9393-21:蟲?

 

 ???:[しっかりと噛んで食べるんだ。[表現不能の音声:1]は美味しいぞ]

 

 Bクラス職員:いるじゃないか―――き、君の横にまるで1000$必要なコールガールみたいにお淑やかに座ってる!!

 

 D-9393-21:はぁ……薬でもキメてんのか?

 

 Bクラス職員:僕がソレを見えるようになったからって―――みんなッ、みんなが僕に君みたいな視線を向けたよ……でも、いるんだッ、いるんだよッ!!

 

 D-9393-21:………チッ(舌打ち)、気が触れちまってるのか……レーションがマズくなるぜ……ったく。

 

 ???:[ハッピーバースデー、君のママがメールしてくるぞ]

 

 Bクラス職員:!?!?!―――うぅ……最初に見たのは幻だと思ってた―――でも、こいつらは違う、違うんだよ……実在するんだッ、オートミールみたいな色でブヨブヨしてッ、うぞうぞ動き回って……うッ(吐き気を堪えるように唾を飲み下す音)

 

 D-9393-21:で、芋虫が見えるアンタの名前は?

 

 Bクラス職員:ラ、ライオット……ステファン・ライオット。

 

 D-9393-21:じゃあ、ライオット……紐とベルトで吊るされた馬鹿みたいなアンタに質問だ……その芋虫ってのは何なんだ?

 

 Bクラス職員:か、彼らはきゅ、救世主だ!!

 

 D-9393-21:はぁ……おっと、メールだ……ママからか……後で返さないとな。

 

 ???:[どうやら収用違反の[言語化出来ない音声]が襲撃してくるようだ]

 

 D-9393-21:芋虫が救世主ねぇ……ハッ(鼻で嗤うような声)。

 

 ???:[第8期核戦争か……まぁ、打倒なところではある]

 

 Bクラス職員:君が僕を嗤うのは構わない……けど、彼らは存在する―――いつもいつも人々の、オブジェクトの傍らにある……彼らが僕らの社会で知らない事なんて一つも無いんだ!!

 

 D-9393-21:いい加減にして欲しいな。

 

 D-9393-32:オイ!! 聞いてみろよ!! ラジオラジオ!! ユーラシアの西で核が落ちたって!!

 

 D-9393-21:またかよッ、クッソがあのアカ共―――ポンポンポンポン核は使って楽しいクラッカーじゃねぇんだぞ!?

 

 Bクラス職員:あぁ―――また、世界がッ、またッ!!? [置き換わる]!!!?

 

 ???:[怯える必要は無い……我らが隣人よ……人類は愚かだが、滅ぶ程でもない……[表現不能の音声:1]がいる限り、君達には安寧と繁栄を与えよう……そうだ古の[言語化出来ない音声]が[言語化出来ない音声]を繋ぎ止めていたように……まぁ、近い内に開放されるかもしれないが、それもまた[表現不能の音声:1]がいる限り、滅びではない]

 

 Bクラス職員:か、彼らは―――身を挺して“全てを”欺瞞してくれる……ぁあ、そうだともッ、ひ、ひひ……僕の彼女だって、僕のかの……ぁああぁああぁ……ッッッ!!?

 

 D-9393-21:錯乱すんなッ、トランキライザー3単位っと……それにしても彼女、ね……アンタみたいなのでも女はいたわけだ……物好きだな。

 

 ???:[[表現不能の音声:1]なら幾らでもある……幾らでも……]

 

 D-9393-21:やっぱ、チョコ味だな……帰ったら、アンタにはまた色々と話しをしてもらう事になるぜ。

 

 Bクラス職員:彼女は綺麗だった、良い匂いの香水を付けてて、ママよりもずっとずっと綺麗で……僕に優しく笑い掛けてくれて……なのに、なのにどうしてッ、どうしてだッ、どうしてなんだッ!!?

 

 ???:[彼女の事は残念だった……いや、本当に惜しい人を亡くした……だが、君は出会っただろう? だから、思い出を大切にするべきだ。[表現不能の音声:1]との記憶を]

 

 Bクラス職員:あぁああっ、ぁぁぁあ………アンジェリーナッ!!

 

 D-9393-21:ステファン、ステファン……こいつか、同じ部署の美人て事は名簿にもええと……恐らくこの美人……収用違反が起こった時に亡くなってるのか……。

 

 Bクラス職員:(憔悴した様子で呻く声)

 

 D-9393-21:彼女が亡くなった事は残念だったが、アンタはまだ生きてるんだ……自分のやるべき事をやるんだな。

 

 Bクラス職員:はは、ははは……自分?……それが自分だとどうして分かる?……それが本当に自分なのかどうか誰に分かるって言うんだ……アンジェリーナは……あの子は……最初から、最初からッ……君だって―――半分は[彼らじゃないか]!!

 

 D-9393-21:は?

 

 D-9393-32:先行してた偵察部隊からの連絡が途絶えたッ、全周警戒ッ、急いで此処を離れないとヤバいぞ!!!

 

 ???:[……実に残念だ……共に在れて良かった……]

 

 Bクラス職員:これでようやくこの欺瞞から解放される……この偽りだらけの世界から!!

 

 D-9393-21:また錯乱かよ……はぁ……ママのパイが恋しいぜ。

 

 D-9393-32:あの山は迂回して向かうぞ!!

 

 ???:[バーンズ。ママの事なら心配するな。君もまた[表現不能の音声:1]の血を引く者……ステファン……君と彼女の娘が見られなかった事だけが[表現不能の音声:1]の心残りだ。そうすれば、君もまた[表現不能の音声:1]の一員になれただろうに]

 

 Bクラス職員:ひ、ひひ、ひ……山より大きな芋虫が、僕らの行く手を阻むよ♪ 僕らはもうみんな芋虫になって、なって……僕らは彼女のようにただの塊になるんだ……芋虫のお家に車、ひひひ、ひひ……芋虫のレーションに芋虫のパイ………彼女のよ―――あぁあ゛ぁぁああ゛ああ゛あ゛ああああ゛あぁぁああ゛あ゛あ゛あ―――。

 

 

 

 補遺39999.2: 研究D-1録音

 

 アクセス承認

 

 以下の録音は[   ]博士が隔離サイト-D32232跡地で●●●-39999の異常性と実在を証明した後、サイト管理者[   ]と行った通信が記録されたものです。

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 サイト管理者[   ]:結局、これは一体何なんだね博士。

 

 [   ]博士:……人類が知るべきではないパンドラの箱というところか。

 

 サイト管理者[   ]:パンドラだと?

 

 [   ]博士:ああ、人類の生み出してきた価値の暴落と喪失に繋がる不景気の正体みたいなものだと言っておこう。

 

 サイト管理者[   ]:何を言いたいのかまったく分からないが、異常性はあると?

 

 [   ]博士:ある……パラノイアやサイコパスが妄言を吐いているというのはよくある事だ……睡眠不足の者や薬物中毒患者が自分の身体に虫が這う幻覚を見るという事実に近しい。

 

 サイト管理者[   ]:ならば、どうしてそんな顔をしている?

 

 [   ]博士:もし、そういった人々の幻覚が、実際には幻覚ではないのだとしたら?

 

 サイト管理者[   ]:何?

 

 [   ]博士:人間の現実とは脳の認識する幻覚に過ぎない……もし、その脳の認識する幻覚が人類規模において舞台の書き割りみたいな有様で……長年使い古され……それに人類がようやく適応し始めている、または……ちょっとした脳機能の変化で無効になっている、としたら?

 

 サイト管理者[   ]:ははは……ならば、人類は芋虫に支配された奴隷種族か何かか?

 

 [   ]博士:………君とは3か月程しか同僚として働いていないが、君の顔はそんなに[多眼]だっただろうか?

 

 サイト管理者[   ]:何を、言っている……?

 

 [   ]博士:我々の活動は果たして本当に成果を上げ、解決されているのだろうか……もし、それが[置き換わっていただけ]ならば、どんなヒーローが活躍したところで……世界は最初から救われているのかもしれない。

 

 サイト管理者[   ]:―――博士……君は我々の、いや……人類の創り上げてきた文明の全てを否定しようと言うのか?

 

 [   ]博士:そんなつもりはない。異常なものは何処にでもあるだろう……だが、一度とて我々はその解決したはずの異常が最初から[置き換わっていたのではないか]……という思考を持った事があっただろうか?

 

 サイト管理者[   ]:博士ッ、君は―――。

 

 [   ]博士:現実は何も変わらない……我々が顕微鏡越しに見る細菌の入ったシャーレに番号は振っても……一つ一つの個体に名前を付けたりはしないように……[彼ら]の次元で全てを見る者が無い限り、この異常は根本的に知る意味の無いものだ。

 

 サイト管理者[   ]:………。

 

 [   ]博士:もし、全てを解決する必要があるとしたら、その時人類は……正しく今のような[置き換える事すら不可能な大戦争]をするか……あるいは100人の隣人を20人以下にし、今まで築いてきた文明そのものを半数より多いくらい自らの手で処分する必要性に駆られるだろう。

 

【―――頁項目が再々更新されました。現在の個体残存数凡そ「        」体。修正事項のエラーが確認された為、現情報の凍結が開始されます。お手数をお掛けしますが、凍結解除を行うには管理者への申請を行って下さい。それまで本項目はクリアランス・クリア以外のアクセス権限より秘匿されます-保守管理者-】


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