ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第204話「異説~胸のふくよかな救世主~」

 世界には馥郁たる香りが満ちていた。

 

―――影域【高楼《こうろう》の虎国】

 

 狐の次は虎。

 薄暗い世界の端でも軍事に秀でた貧乏国家。

 

 兵士は強いが、装備は竹槍……を地で行く虎っぽい見た目の蛮族【吼虎《ティーガル》】が蔓延る地域は他の影域と違ってかなり治安の良い事で有名だ。

 

 暗さをカバーするのは最小単位の村からでも建てられた魔力で動く灯台。

 

 過去の文明の遺物という話だったが、傍目には送電線を引っ張る電柱に大きな太陽みたいな光を発するライトを括り付け、和紙製の間接照明用の覆いを被せているようにしか見えなかった。

 

 そんな国というよりは邦のちょっとした地方都市の片隅。

 場末の娼館兼酒場みたいな探訪者《ヴィジター》のギルド。

 その昼間はメシ屋なカウンターでランチが飛ぶように売れている。

 いや、売れているというよりは奪い合いになっている。

 

 というか、殺し合いになりそうなので途中から周囲のギルド職員、要は妖艶な娼婦兼ウェイターなお姉さんとかがチャンバラを始めそうな男達をド突いて黙らせていた。

 

 彼女達が運ぶのはこの店で一番高い昼飯……ではない。

 精々が今日の稼ぎの5分の1くらいするちょっとお高い弁当だ。

 

―――特製薫香弁当1箱800YEN。

 

 円じゃないのかよ。

 イェンって何だ?

 

 とかは言わないお約束だ(というか、未だに単位に円が使われている理由自体が闇が深そうなので見なかったことにする)。

 

 ついでに初めて弁当を食って泡を吹いているギルド周囲の所属探訪者達が次々にこの二日くらいで慣れた手つきとなった街の診療所の職員にカモられてドナドナされていく。

 

 黄色い獣のマークと赤い煉瓦の建物が並ぶメインストリート。

 ギルドの前は現在満員御礼長蛇の列。

 

 誰もが突如としてギルドが売り出した超が付くと噂の美食を求めてギスギスした瞳でホクホク弁当を買い終わった者達を見ている。

 

 少し埃っぽかったギルドの長くて黒ずんだカウンターはあまりに弁当の木箱が上を擦れて移動していく為、往年の輝きを取り戻し、獣油製のランプは臭いがキツイからと儲けた金で植物性の油が満タンまで入れられていた。

 

 ギルドの脂ぎってベト付いたはずの厨房はたった一日で驚きの白さ。

 

 妖精さんの魔術で清掃完了後、たった一人の料理人とそれを手伝う少女達の砦と化している。

 

 ギルドの厨《くりや》を預かっていた本来の料理人達はその新たな主の料理を一口食べて泣き出し、二口食べて絶叫し、完食する頃には灰になった様子で大人しく辞表を提出して消えたので小煩い事を言う者はいない。

 

 小太りな60代マネージャーなどは最初にやってきた時の横柄な態度が一変。

 

 今や神様の如く崇め奉る勢いでこちらの指示した品はとにかく金に糸目も付けずに買い付け、ギルド本館の奥にある倉庫前にドンドン積み上げ、手の空いた人員がイソイソ運び込んで予定していた分の物資の大半が集まっている。

 

 後1日もすれば出発出来るだろう。

 

『僕は、僕はこの日の為に生まれてきたんッッッだぁああああああああああああ!!!?』

 

『うぅうううううううううううまああああああああいいいいいいいいいいいぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

『この透き通るようなスープの琥珀色。この麺の黄金の穂波のような美しさ。破ッ?! これはまさか!?! 麺の中に香辛料が練り込まれている?!! だが、スープに溶け出す味には……ッッッ?!!?! じ、時間差で香と味が変化する、だとッッッ!!? まさしくコレは神の御業にも―――』

 

『べん、とうというのか。これは……はむ………―――』

 

『お爺ちゃん!? え!? し、心臓が止まって?!! だ、だだ、誰かぁああああああ!!? お医者様を、お医者様をおおおおおおおおおおおお!!!? そんなお婆ちゃんとこの間旅行に行った時より幸せ奏な顔で逝かないでぇえええ!??』

 

『え~次の停車場は天国行きです。天国行きです、お降りの際は馬車に財布をお忘れなきよう願います。願います。いえ、そうしないと御者は確実にその金で弁当を買いに行ってしまいますので』

 

『オレの心はオオカミだとずっと思っていた……だが、そうだったんだな……オレは本当はただ美味いメシが食いたいだけの羊だったんだ!!? う、うぅ、オレ、マスター止めて料理人になる!!!』

 

『マスターが正気を失ってるぞ!!? 弟子入りを何としても阻止しろ!!?』

 

()()ギ、ギルマスが乱心したぞおおおおお!!? 取り押さえろぉおおおおおおお!!?』

 

『昨日も乱心して記憶無くしてたじゃないですかヤダァアアア!?!!』

 

『だ、ダメです!? マスターの魔力係数はオーバー300!! 交差多重三次元結界とか、仲間に使っていいわけねぇでしょうよぉおおマスタぁあああ?!!』

 

『ぐっはぁあああああああ!!? しゅ、周辺領域から魔力吸い上げる結界とか鬼畜にも程が!!? 心のお医者様(お水のねーちゃん)を早く連れて来い!!』

 

 何やらガヤガヤと昼時のランチと弁当で大混乱しているようだが、そんな店内の喧騒を治めるよりも今はやる事がある。

 

 その足で店内を後にしてギルド裏の倉庫へと向かう。

 

 適当に稼いできた大金でこの地域での活動に必要な装備は整えた。

 

 現在、それら身に着ける予定の物は双子な軍人が倉庫内のテーブル上で針仕事をチクチクしながら調整している。

 

 お下劣妖精はソレに魔術を重ね掛けして何やら神様だって殺せちゃう装備にしている最中であの喧しさが嘘のようにムッツリと黙り込んでいた。

 

「……ああ、此処がパラダイスだったんだ」

「うん。此処がパラダイスだったよ」

 

 だが、そんな男衆?に差し入れた弁当というか。

 コース料理はもはや常識的ではない感じの豪勢さでかなりの出来だ。

 仕事がてら食うには豪華過ぎて出てきた途端に全員の手が止まっていた。

 

「これは何かの中毒ではないかと近頃思い始めたんだが……ぐぬぅ」

 

 警戒するように目を細めたジャックがしかし抗い難いものを前にしているようにフラフラしながら震えつつソレ……妖精用のスプーンとフォークに手を伸ばし、双子が我慢出来ずに骨付き肉のソテーを食らい始めたと同時に前菜へと飛び込んでいく。

 

(まぁ、その気持ちは分からんでもない)

 

 実際、この世界に来てからまとも以上のものを食べたという点では同意しかなかった。

 

 無論、それは双子も同じ。

 

 ごはんだのパンだので戦争していた大陸でも一番マシな糧食がカレー味の片手で十秒チャージ出来そうなパックに入ったオートミールみたいなものとパンやごはんの組み合わせだったのだから、全うな料理というのは正しく神の恵みに等しい。

 

 いつもお茶らけた様子の海軍と陸軍の人とて、そこそこに過去の味をまだ覚えている。

 

 あまりにも世紀末世界での活動が長かったせいで記憶自体は少ないが、まだあの大陸の料理が大抵不味いと感じられている辺り、()()()()だろう。

 

 ほんわ~と口角を緩めて食事に勤しんでいるそんな二人を横目に小さな妖精さんの方に視線を向けると『どうしてこの体はこんなにも小さいんだ!! おお、ジーザス!!?』という量的な限界を前にしても構わず料理を流し込んでダウンする姿が映った。

 

 設置された魔術具や武装が広げられたテーブルの上で引っくり返っている様子はそこらの中年オヤジが酒の摘みを齧りながら横になってテレビでも見ているかのようだ。

 

『A24~~終わったのよ~~』

 

 パタパタとギルド裏の厨房の勝手口から今日の仕事が終わって戻って来たもう一人の自分のハーレム要員達が戻って来た。

 

『ふぅ、やはり慣れない事はするものじゃないな』

 

『まぁまぁ、おひいさま。これもすっぽかしていた花嫁修業の類だと思えば』

 

『しょうがないでござるよ。フラム殿はエニシ殿がリュティ殿の料理を美味しそうに食べてるのを見て、自分も作ってみようとしたものの、満足のゆくものが出来ず。金髪メイド隊に目撃されて、KOMEパンでニッコリ脅すくらいの腕前でござるから』

 

 懐に手を入れたナッチー美少女が純日本風幼女に懐から何かを引き出して向けようとするも、相棒たる拳銃が無いと気付いて舌打ちし、渋い顔でギロリと睨んだ。

 

 そんな視線も何処吹く風なロリペロリストは明後日の方向に口笛を吹きながら、ササッと豆の国のお姫様の背後にフェードアウトする。

 

「?」

 

 ほんわか天然な天真爛漫少女だけが頭にクエスチョンマークを浮かべて、こちらに近付いてくると先程は持って来なかった飲み物の入ったバスケットを横に置いて、全員に適当な木製の取っ手の付いたジョッキを渡し、注ぎ始めた。

 

 そうしている合間にもフラムとリュティさんが近付いて来る。

 

「カシゲェニシ様。今日のお勤め終わりました」

 

 メイドさんが売り上げの伝票を集計したらしきものをこちらに渡してから、軍人コンビのやっていた針仕事を手伝い始める。

 

 そうして、残ったフラムがテーブルの対面へと座った。

 

「そちらの調子は?」

 

「ああ、もう明日には終わる。悪いかったな。そっちだけ働かせて……」

 

「適材適所だ」

「さよか……」

 

 短く言われて、何と話を繋げたものかと考えたが、何も浮かんでこない。

 

 それはしょうがないと言えば、しょうがない。

 

 もう一人の自分と結婚した相手を前にして話したい事、なんて……まるで思い付かなかった。

 

 きっと、本当なら教えられる事は沢山あるのだろう。

 

 だが、それはもう一人の自分と彼女達の間で育まれるものであって、此処で答えをカンニングさせるというのも馬に蹴られそうな話だ。

 

 倉庫内は埃っぽくは無いし、木箱が周囲に積み上げられている以外は木造でヒンヤリとしている。

 

 複数のランタンに映し出された影の下。

 

 対面に座る美少女……恐らく己にとって見た目だけなら超好みであろうナッチー美少女フラム・オールイーストが何かを言い掛けようとして、額をポリポリと指で掻いた。

 

 その仕草にはどう接すればいいものかという困惑が未だに抜けていない様子が見て取れる。

 

「……エニシ。いや、此処はカシゲと呼ぼう。いいか?」

 

「ああ、オレはあいつじゃない。少なくともお前達とは出会わなかった時点で同じ記憶を持った別人と考えてくれ」

 

「ぁあ、そうさせてもらおう。それで今まで場当たり的に流してきた事を幾つか質問したい」

 

 その瞳は真っ直ぐだった。

 

 パシフィカがジョッキに並々と果汁20%と残り砂糖と水みたいな飲み物を注ぎ終わってもこちらの事を考慮してか軍人二人の方に話し掛けている事から、これは()()()()の本題だと分かる。

 

「今一度確認させて貰うぞ」

「いいぞ」

「お前はカシゲ・エニシ、なんだな?」

「ああ、そうだ。オレはカシゲ・エニシだ」

「そして、我々の夫とは別人」

 

「そうだ。別の意識を持ってる時点で、そう断定していい。この記憶が統合でもされない限りはお前達の知ってるカシゲ・エニシのお前達と出会う前の人物というものに等しいと考えてくれ」

 

「遺跡の力、なのだな?」

 

「無論、そうだ。お前達もある程度はあいつから聞かされてるだろうが、遺跡の力を使えるのはオレが遺跡を作った連中の親玉みたいな組織の最初の創設者。その血縁だからだ」

 

「……長生きしているわけではなく。遺跡から生まれた、という事で合っているか?」

 

「遺跡が遥か過去に存在した時代の人間、オレのオリジナルの情報を元にして生み出しているのがどうやらオレ達だ。お前らの知ってるカシゲ・エニシはその一人という事になる。そして、恐らくこの時代にオレは2人いた。他にもいるかもしれないが、それがいたとしてもまた別人と考えてくれ」

 

 こちらの言葉に大きな溜息が一つ。

 

「思っていた以上に私は男運が無いようだ。どうして、そんな面倒そうな相手を好きになったんだか……まったく、お前のせいだぞ? ()()()()()()()

 

 その微苦笑混じりの言葉に―――言い様の無い気持ちが胸へ渦巻く。

 

 不快ではないし、冷たくも無い。

 しかし、平静に受け入れるには恥ずかしく。

 自分への正当な評価、なのだろう言葉が何処か心に痒かった。

 

「A24はやっぱりA24なのよ♪」

 

 パシフィカがこちらの話にそうニコリとして口を挟んだ後、ハッとお口にチャックした様子で慌ててリュティさんの方を手伝いに行く。

 

 こちらが頬を掻けば、何やら軍人少女は可笑しそうに口元に手を添えていた。

 

「可笑しいか?」

 

「いや、お前が……あいつが照れるところなど、中々見られないからな。そういうところだけは一緒だな」

 

「同じ人格ではあるからな」

 

「……だが、今回の一件……我々の拉致にもまたお前が関わっていた」

 

「何?」

 

 初めて聞く話に目を細める。

 

「あの日、ようやく初夜かと思った時……油断した我々を襲った見えざる機械……それを操っていたと思われる相手の姿は確認した。それはお前の姿をしていた……」

 

 この数日、あの紅の輝きが全てを再構成してからというもの。

 

 とにかく身の安全の確保とこの世界の常識や状況を飲み込み、軍人二人に今後の帰還予定やらやらなければならない事があるからと諸々事前準備として周囲の溶け込む為の努力をしていた為、殆ど相手側の事情を聴取出来ていなかったが、此処で明らかになるらしい。

 

「オレがまた一人いた。そして、そいつがお前らを此処に連れてきた、と」

 

「そうだ。首から上だけ……この体にしてくれてな」

 

 妖精さんが魔術で変えていた姿は確かにこの世界でも異質だ。

 

 ファンタジーな町娘風のパッチワークなドレスタイプの洋服の下。

 

 本来なら少女達の誰もが首から全身が真っ白という肉体はどう見ても普通ではない。

 

「オレにはリョナ的趣味なんて無いんだが……」

「リョ?」

「何でもない。だが、逃げ出してきたんだろ?」

「ああ、しかし」

 

 チラリとフラムの視線がこちらの横に向く。

 

 いつの間にか音も無く幼女が横の椅子に脚をプラプラさせて座っている。

 

「この世界のエニシ殿はもう死んだでござるよ。何やら我々の夫の方であるエニシ殿に何かをさせたくて、此処まで導く為、我々をあのような乱暴な手段で拉致したようで。どうやら寿命で時間が無かった様子であった」

 

「他の連中もこの世界にいるって話だったが、そいつらは?」

 

「まだ、死んだエニシ殿のいた施設でござる。そちらにも某がいるので安全面は保証出来るでござる。問題なのは味気ない“ぱっけーじ”に入った糧食しか無い事くらいでござろう」

 

 サラッと後ろの軍人さん達のような存在であると自分の事を暴露した幼女を思わず見るが、ケロリとしている為、それ程彼女達にとって重要な事実でも無いらしい。

 

「つまり、今回のバッタリ出会ったのは偶然、なのか?」

 

「どうでござろうか? 偶然なのか。あるいは何者かの恣意的な意志が働いているのか。死人に口無し。ついでに死んだ方のエニシ殿が遺した施設は某の理解力では手に余る。実際、何がどうなっておるのか解明は出来ておらん。ただ、この世界の設計図らしきものは拾ったが……」

 

 その言葉にピクリとフラムが反応し、ジロリと半眼で幼女を睨む。

 

「そういう報告は受けていなかったが?」

 

「某とて諜報機関の一員。今の状況に悪影響出そうな情報とかは遮断するでござるよ。無駄に混乱させてもアレであろう? 意味の分からぬ事実を告げられて困惑しつつ、脅威に対する警戒がおろそかになった方が危ないと思うのでござるが……」

 

 幼女は限りなく笑顔だ。

 ぐぬぬ状態なフラムが呆れたように溜息を一つ。

 だが、それ以上は何も言わなかった。

 

「3日目にしてようやくゆっくり意思疎通出来た気がする……」

 

「うむうむ。エニシ殿達のこの世界に溶け込んでとにかく装備と衣食住とかを揃えるという計画に乗っかっては見たものの、何処から何処まで話してよいやら図りかねていたところはあった。これである程度は隠し事は無しで良いのではないか?」

 

「それは、まぁ……」

 

 後ろに意識を向ければ、何故か軍人さん達は豆の国のお姫様と“豆の美味しい食べ方”で盛り上がっている様子で……好きにしろと暗に言っているのを理解する。

 

「ならば、こちらも明かしたのだから、そちらも色々と明かして欲しいものだな。生憎と拷問用の食パンも拳銃も無い以上、自発的な協力姿勢を期待したいところだが……」

 

「オレ達は……まぁ、お前らが今まで出会ってきた遺跡関連のヤバい連中と同じだ。先駆者《プリカッサー》、旧世界の遺物集団ってやつだよ。空飛ぶ麺類教団と競合する組織って言えば、いいか」

 

「……百合音!!」

 

 フラムが説明を求める。

 それで何となくハーレム勢の力関係が見えた。

 

「ふむふむ。まぁ、予想通りではある……某の知る限り、エニシ殿は余りきな臭い話はフラム殿達にはしなかったが……そういうものと関わりながら、何とか平和を守ろうとしていたのでござるよ」

 

「嫁に隠し事。これは家族会議が必要だな」

「その物言い……今にも処刑されそうだな」

 

 そう苦笑するとフラムがジト目になる。

 

「正しくその光景を再現したくならないよう言動には気を付ける事だ」

 

「心に留めとく」

 

「取り敢えず、此処までは協力してきたが、これからどうする? 一応、百合音からは施設からの脱出は可能だが、戻る方法が無い事は知らされているが……」

 

「そういや、どうやってその施設からオレ達に合流したんだ? リュティさんは?」

 

 今まで針仕事を手伝っていた胸のふくよか過ぎるメイドさん兼料理の鉄人……この周囲では世を偉大なる御業《りょうり》で救う為に現れたに違いないとか噂され始めている救世主がニコリとする。

 

「はい。何やら遺跡のような場所で小さく透明な棺桶らしきものに入れられて、ズビューン、ボゴゴゴゴ、ザッパーン、フワッ、ドシン、プシューという具合に目を回している間にやって参りました」

 

 その擬音だらけの情報に後ろを振り向く。

 

 すると、軍人二人が料理を食べ終えた様子で二人で天井をチョイチョイ指差している。

 

(……なる程、空にある海の中か)

 

「まぁ、色々と問題はあるかもしれませんが、全て些細な事でございますよ♪ 体は変わってしまいましたが、殆ど色以外は同じようですし、これと言って問題も起きていません。健康も恐らく大丈夫……これなら安心しておひいさまもカシゲェニシ様のお子を身籠る事が出来そうですね。オールイースト家のメイド長としてお顔を見てから随分安心致しました」

 

「「ブフ?!」」

 

 思わず噴き出して、被ったリアクションのフラムと視線が合って気まずい雰囲気が周囲に流れる。

 

「そうか。まぁ、その、オレが言うのも何だが……頑張って幸せな家庭を築いてくれ」

 

「それをその顔で言われると頭をブチ抜きたくなるが、まぁいい。言われずとも、私はもうあいつのものだ。こ、子供の事とてちゃんと考えてある!! で、でで、出来たら!! 絶対立派に総統閣下の目に留まっても恥ずかしくない子に育て上げてみせるとも!!」

 

「A24はもう少ししないと赤ちゃん作ってくれないって言ってたけど、きっと大丈夫だわ」

 

「?」

 

 軍人達の横でニコニコとパシフィカが何を想像しているのか幸せそうなへにゃ顔になる。

 

「だって、アンジュとクシャナが、もしもの時は採取しておいたセイショクサイボウ?とかいうのでちゃんと赤ちゃん出来るようにしてくれるって♪」

 

 まだ何も知らなそうな純真無垢な瞳がにこりとした瞬間、フラムは元よりさすがの幼女の顔も引き攣っていた。

 

 どうやら遺跡の技術を独占する男の娘達とは中々噛み合っていないらしい。

 

「じゃ、邪道でござる!! こ、こういうのはお互いに想い合って、くんずほぐれつするからよいでのあって!! その結果として可愛いやや子が出来るというのが最上なのでござるよ!!?」

 

「?」

 

 具体的に何をするか分かっていないお姫様が小首を傾げる。

 

 その無垢さにぐぬぬ状態と化した幼女が何やら敗北した様子でガクッと膝を付く。

 

「うぬぅっ、これが天然の威力……某に勝ち目はあるのでござるか?」

 

 場に何とも言えない空気が漂い始めた時、ダガンッと倉庫の扉が開かれた。

 

 其処には何故か腕を組んで何処かのロボ張りにBGMを背負っていそうな半眼のエミがいた。

 

「エニシ?」

「え、ええと……どうかしたか?」

 

 思わず、本当に思わずそう言った刹那、まるで猫のように敏捷な動きで詰め寄って来た少女のボディブローがどてっ腹に炸裂し、くの字の折れ曲がって浮いた瞬間、器用にシャツの襟を掴んだ手がまるで柔道のようにこちらを浮かせて投げ飛ばしていた。

 

「エニシの馬鹿!! HENTAI!! こ、こんなに可愛い子達全員を手籠めにしてたなんて!? 例え、神様と神殿が許しても、私は許さないんだからね!!?」

 

 軍人ズが『ああ、これがジャパニーズ焼きもちとかいう伝統芸能か』とか『うん。漫画とかならいいけど、初めて見たよね。こういうの』とかやっている合間にも強制的に肺から空気を吐き出させられて意識が遠のていく。

 

 その横ではようやく食べ過ぎから回復したらしい妖精が『おお!? これが日本の伝統芸能的嫉妬:ヤキモチか……もしSNSが残っていれば、よかったねボタンを捨てアカで連打しているのだが……』とか言っている。

 

(オレってこんなラブコメ出来る人間だったか……?)

 

 次なる目的地は人が集まる光域の先進国。

 

 ヤバい奴らが何やらやっているから、それよりヤバい奴の力を借りる為に探し出すという無理ゲーをやらされる事が確定している。

 

『こちらのカシゲェニシ様も中々にして苦労人ですね。ふふ♪』

 

 それまで気力が持てばいいという願いは恐らく無理な相談に違いなかった。


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