ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第215話「真説~秘されし花冠~」

 ………ALL_RE:START.

 

 LINK_SYSTEM_RESTORATION.

 

 PLANET_SMART_LINK_SET_UP.

 

 SUB_UNIT[GOD_EYE]-TRUTH_FUNCTION_RELEASE-.

 

 START_UP/HELLO_OVER_THE_WORLD.

 

 MASTER_MACHINE-COUNT_UP[3]-.

 

 ALL_SYSTEMS_GO.

 

―――月猫首都シュレディング。

 

 何が起こった。

 人々が互いに訊ねるのはその事だけだった。

 

 あらゆる光に目を焼かれたに等しい彼らはしかし……すぐに明滅する脳裏に意識がハッキリとしてくるのを自覚し、外にいる者は空を、建物内にいる者は窓の外を見上げた。

 

『何だアレは……』

 

 西の空の彼方。

 遥か天の大蒼海はその全てが黒ずみ色を失っていた。

 

 そして、その巨大な暗黒に染まる空の中心には漆黒の穴のようなものが開いている。

 

 だが、その何もかもを呑み込みそうな洞は天に突き上げるようなまた暗黒の何かによって塞がれつつあった。

 

 そうだ。

 吹き伸びる巨大な間欠泉。

 

 否、その何も光を映し出さない無色の闇がやがて天の暗黒を呑み込み。

 

 辛うじて未だ世界に存在する光の陰影によって巨大な樹木。

 

 いや、塔となった事を誰もが知る。

 

 そうだ。

 

 人理の塔よりも尚太く。

 

 天を貫く虚無を前にして背筋を凍らせた者達は大いに慄いた。

 

 しかし、彼らの中にまた違う意見を持つ者がいる事を、この時……都市の防衛に当たっていた者達の一部は知っていた。

 

 巨大な神の生み出した都市覆う壁。

 

 その厚さ50m、高さ120mの連続した盾の連なりによって形成された壁上。

 

 今正に竜の咆哮と轟炎、恐ろしき威力の超重量武装の一撃を数機掛かりで留めていた全てのキリエ達は閃光の最中、バタバタと落ちていった巨体と滲み出るように現れた芋虫達を認識してしまった。

 

 続いて起こる天変地異。

 

 大地が激震に震え、天候が急激に変化して暴風と竜巻に覆われていく。

 

 否、何もかもを呑み込む空の穴とそれを塞ぐ虚無の塔を見て、彼らがたった一人の男を想起したのは無理からぬ事だっただろう。

 

『隊長!? 何が起こっているのですか!?』

『分からん!? 分からんが、アレは恐らく―――』

 

―――シュレディング中央行政区月兎大使館。

 

『う、目をやられた者はすぐに治癒魔術が使える者に視覚の回復を!!』

 

 キリエ達の戦闘指揮を魔術で行いながら、残った近衛隊を率いて市内の反乱分子の掃討を行っていた彼ジン・サカマツはあまりの光に倒れている者達を開放しつつ、混乱する兵達に逐一指示を飛ばしては状況を把握しようとすぐに行動を開始する。

 

 簡易司令部と化した大使館内の一角。

 

 魔王応援隊を護衛する近衛三人娘、ルアル、ソミュア、リリエが咄嗟に張った結界内部で猛烈な壁すらも透過したのではないかという光をやり過ごした後、周囲で倒れている少女達の介抱を始める。

 

『な、何や何や!? 今の光!!? この振動もどうなっとるん!?』

『だ、大丈夫二人とも?! う、うわ、ゆ、揺れてる!!?』

『う、うん!! それよりもけが人がいないか確認を!!』

 

 そう三人が言っている合間にも異変が周囲で起こる。

 

 周辺を警護していた近衛達が次々に体中の鎧をガチガチと鳴らせていた。

 

 それと共に室内にあった様々な家具や容器、小物、殆どが金属製のものばかりが宙を飛んだかと思うと同じ金属製の物品へとひっ付いていく。

 

 それは鎧も例外ではない。

 

 大使館の強度を高める目的で入れられていた四方の巨大な金属製の支柱に引き寄せられ始めた護衛達の誰もがすぐに鎧を脱げというサカマツの言葉に従って、鉄分が含まれる装備を次々に脱いでいく。

 

 ガンゴンガガガガッと周囲の鉄製品の大半が支柱に向かって張り付いた。

 

 そうして、最後に残ったのは鉄分が含まれたり、そのものである壺などの重量がある代物ばかり。

 

 ズリズリゆっくり音を立てて動く様子に誰もが目を丸くしていた。

 

『サカマツさん!! 空が!?』

 

『此処は一旦外に!! 今、この建物内部が安全かどうか確信が持てない!!』

 

 ソミュアが窓の外を指差し、異変を察知した現在の指揮官はこのまま建物内部にいては状況が分からないと全員で外に出るよう指示する。

 

 全員が窓脇のバルコニーから外部に出れば、異様な暗さと空の先に立ち昇る虚無の塔が見えた。

 

『アレは……まさか、奴の身に何か?』

 

 誰が向かった方角なのかは一応知っていたサカマツが次々に部隊から魔術で入って来る情報に適宜指示を飛ばし、防衛体制を引き続き維持させながら、ケーマルと魔王の協力者と名乗り、彼らに様々な状況を伝えている相手《ヒルコ》に繋ぐ。

 

『サカマツ殿だな? こちらはケーマル・ウィスキー。状況は把握している。恐らく魔王閣下が向かった遺跡で何かあった。それと先程は空からの強烈な光が射した事を複数人の部下が確認している。他にも地平まで一瞬、世界が紅に染まったという話も郊外では飛び交っているようだ。何らかの攻撃を受けて、それに彼が反撃した、ように思えるが、何か情報は?』

 

『こちらサカマツ。そうか、貴殿もそう思うか。なら、我々の盟主は恐らく、あの塔の下だな。迎えを寄越していいのか迷う。協力者殿、貴女の方に情報は入っているか?』

 

 それに僅かな沈黙があった。

 しかし、すぐに声が響き始める。

 

『先程、灰の月とお主らが呼ぶ世界の勢力から此処に攻撃があった。本来ならば、一撃でこの世界は滅んでおるぞよ。感謝するのじゃな。あのお人よしな婿殿の準備と自己犠牲に』

 

『自己犠牲? まさか……』

 

『まだ、死んではおらぬ。だが、恐らく、肉体の大半を使い果たしておるはずじゃ。婿殿が生み出したあの塔のせいで助かったはいいが、今度はそのせいで連絡が付かぬ。魔術無しでも活動出来る超越者をそちらからも招集して捜索隊を編成したい。あそこは近付くだけで体力と精神が削れ、魔術も全て無力化される魔境となっておるだろう。強靭な生命力を持つ者が必要じゃ』

 

 サカマツが目を細める。

 

『今は非常事態だ。とにかく、そちらの事情は混乱の収拾が終わってからでいい。このような状況では各国とも混乱しているはずだ。月蝶と麒麟国の戦線もどうなっている事か。ウィンズ卿にも分かった事はこちらと同様に伝えて欲しい。あの男からの事前指示はあるか?』

 

『ある。婿殿は準備を欠かさぬ男故。そちらは既に終えておる。ファスト・レッグの難民達も大丈夫じゃ。婿殿の装備が役に立った。ただ、これで混乱は終わりではないぞよ。外からの攻撃はまだ続くじゃろう』

 

『何だと?』

『終わりでは、無い?』

 

 ケーマルの声が思わず不穏な言葉に曇る。

 

『このままじゃと……3日後辺りに艦隊……灰の月の一部勢力の軍がこの恒久界に到達する。そして、先程の一撃から推測して、この大地全ての民が排除される可能性が極めて高い。本来、この世界が滅びているはずだからのう』

 

『排除、とは……皆殺しになると?』

 

 サカマツの声に短く肯定が返った。

 

 その突然の話にケーマルも通信越しではあったが、開いた口が塞がらない様子らしく声が上擦る。

 

『そんな!? 世界を滅ぼす魔術があると言うだけでも信じられないというのに!? そんな輩が攻めて来ると!?』

 

 さすがに文官。

 どんなに場数を踏んだ政治家とはいえ。

 

 根本的なところでは軍人程に冷淡に成れない彼、彼女にとって……何一つ交渉出来ない絶対者のようなものは相性が悪いに違いなかった。

 

『今回は分が悪いのう。まさか、あんな隠し玉をこのタイミングで……婿殿が色々と自分の時代の話をしてくれておったが……その言葉が正しければ、この地で連中に対して戦えるのは神格クラスの連中だけじゃろう』

 

『馬鹿な!? 神と同格だと言うのか!?』

 

 ケーマルの言葉にサカマツも同じように喚きたい気分ではあった。

 

 この混沌とした状況下で月竜からの襲撃。

 

 更にその月竜を操っていると思われる存在が僅かながらも明らかになったのだ。

 

 こんな時、何処の誰とも知れぬ輩が世界を滅ぼしに来て、滅ぼせはしなかったが、ならばと直接乗り込んで来る。

 

 そして、その相手が少なくとも神と同格以上の力を持つ勢力だと言われて、ハイそうですかと納得出来るものではない。

 

『婿殿曰く。嘗て、世界の全てと戦って勝利し得た唯一の勢力にして、超大国の名乗りを誰もが納得せざるを得なかった者達……この世界の神に追われながらも、今まで生き残っておった事は確認自体取れていた。だが、此処でこの世界を滅ぼしに来たという事は……連中の狙いは恐らく婿殿が欲しがっていたモノじゃろう』

 

『彼は一体、何を求めて……そもそも灰の月に彼が関わっていたというのはこちらにしても未だ聞いていない情報だ!! 開示願いたい!!』

 

 ケーマルの最もな声にヒルコが溜息を吐いた。

 

『よいぞよ。まぁ、その内に話そうとは言っておったしな。婿殿はな。此処に己の嫁を取り戻しに来た。そして、その方法として……この世界が生まれた理由たる機械……魔術の根源にして神格達の力の源を得ようとしていた。これの名をマスターマシン【メンブレン・ファイル】と言う』

 

『!??』

 

 僅かにケーマルが固まった様子が通信越しから二人に伝わる。

 

『どうかしたのかや?』

『メンブレン……そう、言ったのですか?』

『ああ、そうじゃが、まさか知ってるとか言わんじゃろうな?』

 

『………いや、この後に及んでは情報を統括し、整理する事が必要……とれば、いいでしょう。こちらの情報をお話しましょう』

 

『ほう?』

『知っているのか? そのメン何とかというのを』

 

 ヒルコとサカマツがケーマルの言葉を待つ。

 

『我が国のマオの家系にはユニ様のような方が世代を跨いで出ます。ですが、表向きに公表されている以外にも、もう一つの特性を持つ者が殆ど同時期に生まれます。それは未来予知とはまったく違う能力に目覚めるという事であり、同時にこの事は長い間、秘されてきた……神すらも知らぬだろう我が国の秘密があるとすれば、それでしょう』

 

『勿体ぶるのは良いが、具体的には?』

 

『マオの家系が能力を得るに至った理由。幾度とない文明の崩壊より生き残った訳。その最たる秘密……マオの家系は……この世界へ最初に降り立った化物の王……初代魔王の血筋を引く者なのです』

 

『『!?』』

 

『そして、マオの一族、始まりの女性が生んだ子は二人。一人は未来を予見する力に満ちた母親似の娘。そして、もう一人は……この世の魔術の全てを使えた父親似の娘……彼女達は一族の光と影になり、その力は永遠の繁栄を約束すると連合には伝わっている』

 

『ふむ……コレは……どうやら()()()()()()()ようじゃのう。昔の“魔王様”も』

 

『この事実を隠す為、一族は長い年月の間、力を尽くしてきた。その始まりの姉妹の姉は……魔王の血筋たる彼女は……自身の力をこう称していた。私には運命の車輪を回す女神が見えていて、その女神が回す車輪を自分も使えるのだと……』

 

『その車輪の名が……』

 

『【メン・ブレン・ファイル】……花冠の称号を得し者……魔王の御力に愛されし御子……高祖《こうそ》たる魔愛《マオ》……一族の名は光である妹ではなく。影である姉、彼女の名から取られたのですよ……』

 

 どうやら彼らの知らない事情は何処までも高く。

 知らぬ間に積み上がっているらしかった。

 無論、その中心人物の事など差し置いて。


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