ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第227話「宣伝戦」

 

 相手が止まったのを確認して、再び椅子に腰を下ろす。

 

 弾丸のブチ当たった壁を見ながら、機体のすぐ横でNVを眺めつつ、ヒルコへ送った情報の解析結果に目を細める。

 

「婿殿……一体、何を見せておるんじゃ?」

 

「ん? ああ、オレが月からごパンの国に帰る時、適当に流そうと思ってたプロパガンダ用の宣伝映像を編集した奴だ」

 

「……何故に? まさか、連中が婿殿の人間味溢れる過去を見て、改心するとか思っておるわけでもなかろう?」

 

「いや、まさか。そんなわけないのは分かってるよ。ただ、これからの交渉で一番必要なものを相手に教えておくというだけの事だ」

 

「必要なもの?」

「落としどころだ」

 

「……この世界を消滅させようとした輩にかや? そもそも本星すらも地軸が曲がったらしいんじゃが……天海の階箸からのデータは婿殿も見たであろう」

 

「分かってる。だが、あんなのを連射されたって困るのはお前だって一緒だろう? 怒りとか憎しみみたいな感情で動いて成功する奴なんか少数だ。オレはあいつらとこれから交渉するに当たって、考える材料を与えた。そして、それを相手も理解する以上、追い詰められれば、こっちの思惑に載って来ざるを得ない」

 

「ふぅむ。では、どれどれ……ちょっと拝見……んぅ………何か延々と婿殿と家族の仄々した映像や思わず笑顔になりそうな状況やらが映し出されておるんじゃが……これが落としどころとはどういう事かや?」

 

 肩を竦めこそしないが、テーブルの上に置いた神剣に表示されるカウンターを見ながら、もうしばらくはいいかと纏めていた考えを伝える事にする。

 

「恐らく、USA……アメリカ単邦国の軍隊はこいつらが全部じゃない。というか、確実にあの星の外に連中の本拠地はある」

 

「む? あの星の外に? いや、だが……それは考えられるのかや? 委員会が殆どの国家を破壊して、それも封鎖した世界から逃れられたとは到底思えぬのじゃが……そもそも未だあのフィルム層を突破したのは嫁子達を確保して突破した宇宙船しか無かったのじゃぞ? それは天海の階箸のデータからも確かなわけじゃが……」

 

「本当にそうか? いつでも例外は何処かに転がってる……オレみたいなのから、財団とやらが遺したオブジェクトまで……物理法則なんぞブッ千切ってる連中の巣窟でその考えは危険じゃないか?」

 

「ふぅむ。でも、ならば、どうして奴らは今更に行動を? 今よりも前に行動に出ていなければ、おかしいではないか。それこそ自国の在った大陸が沈むより先に何かをするべきであろう?」

 

「ああ、まぁ、普通はそう考えるよな」

「普通?」

 

「オレが知る限り、アメリカは移民の国だった。そして、移民に求められたのは最初期から労働資源としての側面と他国が有した知識階層の流入と形成だった。ぶっちゃけ、優秀な人間が欲しかったら、雑多な砂の中から一粒の金を掬う必要がある。それを上手くやったのがアメリカだとオレは思ってる」

 

「話がまったく見えん」

 

「分かり易く言うと。アメリカの恐ろしさは国家として考えられる限り、軍事や金融、商業、工業、あらゆる先進国に必要な分野の技術と知識の開発に莫大な予算を割けるところだった。知的最上層階級に属する天才や在野の研究者達は国家の恩恵を多大に受けて、次なる時代への構想を練り、先駆けとなったんだ。フロンティア・スピリットってやつだな。あらゆる分野で最初期に独占を敷いた先駆者は多大な利益を享受出来るが、オレの時代に先進的な分野を独占したのは間違いなくアメリカだ。そんな国家では権威よりも能力が重視される。権威は能力の後に付いてくるというのがまぁ……アメリカン・ドリームとやらだと昔は解釈してた」

 

「ぬぅ。それは分かり易い説明なのか?」

 

「まぁ、聞け。オレが言いたいのはアメリカの国家としての機能を果たす組織、それを構成する人間は本当の意味での能力至上主義によって成り立ってたって事だ」

 

「能力至上主義……」

 

「ピンキリでもピンの上澄み層が潤沢だったんだよ。それを莫大な資本が後押しして、国家のエンジンを回すとなれば、勝てる奴なんていない」

 

「とても凄いの一言で良いのじゃ。ワシはそろそろ寝てもいいと思う……ふぁ……」

 

 本当に欠伸するヒルコにまぁ、そうだなと苦笑しつつ続ける。

 

「オレが最初にあいつらが攻めて来たのを知って思ったのは今更どうしてって、お前と同じものだったが、次に思ったのは……自分達のいる世界すらも滅ぼしかねない兵器を今更に使い出した理由に付いてだ」

 

「……結論は?」

 

 ヒルコが長引きそうじゃなぁと核心を訪ねて来る。

 

「結論。連中はこの星に見切りを付けた。星が滅んでも一向に構わない大勢がようやく整ったんだよ……恐らくな。その自信の基幹となるのはたぶん星間移民、星間連絡、星宙間での永続的な長期生存を可能とする技術の開発終了だ」

 

「つまり?」

 

「連中は別の星にいる。もしくは宇宙空間で生き残れるだけのコロニーの建造が、それも1機や2機程度じゃない……国家と呼べるだけの数を整えた、はずだ」

 

「ふむ。要はいつもの婿殿の妄想じゃな♪」

「そんな妄想当てにしてオレに協力してきただろ?」

 

「カッカッカッ、違いないのう。じゃが、それだけでは理由としては弱いのでは?」

 

「ああ、だから、此処でオレが狙われた理由に辿り着く」

「……ラスト・バイオレット権限かや?」

 

「ああ、そうだ。連中は恐らくオレの権限が欲しい。保有してる奴が狙われたと考えるべきだ。そうでなきゃ、世界を滅ぼしてまで動く理由が無い。アメリカが今欲しいとしたら、それはオレの持っている何か? そう考えれば、自然と答えは導かれるよな?」

 

「ラスト・テイル……天海の階箸を掌握する気だと?」

 

「連中がアレに執着する理由が幾つか思い当たる。勿論、巨大なコロニーとしても有用だし、蓄えられた技術知識、中身に付いては喉から手が出るほどに欲しいだろうさ。その上、惑星1個をテラフォーミングするレベルの資源確保能力、インフラ整備能力、巨大な工場を作る工場みたいなもんだからな。生産能力だけで言えば、完全に掌握して動かしたら、今のごパンの国を何万国だって養える……という事は?」

 

「と、言う事は……今回、世界が滅びそうなのは婿殿のせいじゃな!!」

 

 ヒルコがあっけらかんと言い放つ。

 

「いや、そうだけども、そうじゃない。あいつらは恐らく本星にいるアメリカ単邦国とは別口だ」

 

「別口?」

 

「何処かの時点で外に脱出を完了させていた連中って事だ。オレが知る限り、別のオレはあの星で生き抜いて来た共同体がアメリカ単邦国だと言った。日本帝国連合と一緒になってるってな。じゃあ、宇宙にいるのは何だ? あの星から人間が国家単位で今逃げ出せない事なんて馬鹿でも分かるぞ。あの艦隊の最終兵器っぽい武装をとても撃つ許可なんてしないだろう。なのに、撃った……」

 

「そういう事かや。ようやく分かった。アレの艦隊の祖国となる場所は“飛び地”……なのじゃな? それも頭の良い頭でっかちが沢山いて、本国に反旗を翻した……」

 

「正解だ。オレの見解はこうだ。敵USAを名乗る宇宙軍はJAと名乗る国家共同体の宇宙に逃れた少数分派が何処かで築いた戦力である。恐らく、その国力は本星程は無いだろうが、それにしても人類初の星間連絡国家に近い存在に違いない。その上で地表の分派前の同胞を見捨ててもオレのラスト・バイオレット権限を欲しがってるって事だ。この月の大半を破壊しても構わず、ぶっちゃけ、メンブレン・ファイルもコアさえ残ってりゃいいって考えなんだろう」

 

「合理主義者が仲間を見捨てると……何とも哀しい話じゃのう」

 

「世界を崩壊させられてから倫理なんて言葉がどの程度、人類に残ってたのか知らないが……宇宙で国家規模の勢力を育てたんだ。並大抵の合理主義じゃない……どれくらい“人間”なのかも定かじゃない以上……今流してるプロパガンダでオレ達の落としどころを伝えてるんだよ。これが正しく伝わり、解析され、分析され、オレが望んだ通りの答えが返ってくれば、オレは連中を人間として認めよう……」

 

「違えば?」

 

「“世界を滅ぼす悪魔”にはご退場願おうか。それこそ生存闘争になるかもしれないが……な」

 

 こっちの顔が見えているのかいないのか。

 

「おお、怖い怖い。最初の建前は何処へやら、じゃな。婿殿の怒るところなんぞ見るものではないのう。というか、嫁達の前でその顔は“えぬじー”じゃぞ?」

 

「オレも嫁の首を全員斬られて、ちょっとは学んだんだ。時には他人に厳しくしなきゃなって。二度も嫁を殺されそうになったら、そりゃ怒らなきゃ嘘だろ人間として……」

 

「それは果たして“厳しい”で済むのかのう。ワシは今、あの最終兵器を向けられるより、婿殿を敵に回す方が百倍怖いと思うが……」

 

「それは重畳……なら、連中も怯えて方針転換するかもしれないな……」

 

「ふむむ。そろそろ映像も中盤じゃな。何かヤケに美化されたワシとか嫁各種とか物凄く“ろまんちっく”な言葉を吐く婿殿とか……脚色され過ぎじゃないかのう?」

 

「いいんだよ。()()よりは()()()()()()()()の方が物語ってのは受けがいいもんなんだ。カレーの国でソレがよく分かった」

 

「……婿殿が超絶詐欺師に見えて来たのじゃ(汗)」

 

 戦いを前にして軽いお喋りもそろそろお終い。

 果たして、相手はどう反応するのか。

 見極める為、神剣を持って立ち上がる。

 そろそろ身体も温まって来たか。

 ある程度はロボ相手にも動けそうだった。


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