ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第272話「身バレ宴席」

 

 東南アジアの中でも2、3カ国には滞在がそれなりに長かった。

 

 なので、現地の言葉がちょっとは……話せないのはしょうがない。

 

 現地の日本語学校通いだったのだ。

 ついでに送り迎えは大抵車。

 

 一応、聞く事は出来るし、現地で目立たない恰好的なものも身には付けた。

 

 そうしないと出歩けなかったのだから仕方ない。

 

 日本人旅行者も行くような場所や大型のモールなどはよく遊びに行く定番の場所だったが、やっぱり日本製のゲームで時間を過ごす事が多かったので本当に知っているのは表のところだけだ。

 

 裏通りや夜間ヤバいような場所には一歩も近付いた事が無い。

 

 なので、そういった場所で営業してたりする屋台や料理店には脚を運ぶということ自体無かった。

 

「え~と、何だったっけ? この単語……確か鳥とか香辛料系だったような?」

 

 世界の善意で核弾頭をほぼ全て平らげ一日。

 

 世界中が混乱しまくりの恐怖のどん底……だったりという事は現在ない。

 

 理由は単純。

 

 原子力発電所には現在もそれなりにまだ使われている燃料棒があり、先進国は計画停電の実施と節電で急場は凌ぐ事にしたらしいからだ。

 

 他にも核弾頭撃ちまくりパーティーをやらかした議会や政府が国民からある程度の突き上げをくらってはいたが、宇宙人か化け物かという敵の要塞が爆沈した様子は多くの人類が目にしていたので賛否は七:三くらいに別れており、一先ず解散選挙というところも無いらしい。

 

 ただ、ダメージを受けたインフラや電子機器が多い先進国などは通常よりも復興に時間が掛かるとの試算が既に出されており、政府は何処も被害確認と復興予算の見積もりにてんてこまい。

 

 ついでに謎の要塞で攻めて来た敵が魔術師のみならず。

 

 世界全体に認知された事を受けて、外交官達はニューヨークで喧々諤々の討論中である。

 

 中進国や後進国の大半も大抵が火力発電所ばかりだったので相対的にはダメージが薄いというだけで国民の大半が持つ通信機器や通信インフラの破壊で混乱しているようだ。

 

 一応、世界規模で病院へは繋がるよう通信端末のデータは監視しつつ、端末が壊れた瞬間に即座、先兵が出撃、その通信先の場所へ急行。

 

 後ろからコソッと重軽傷者を魔術コードで直していたので今回の混乱で病院に行けずに死んだ連中はいないだろう。

 

 大気圏の外側で核戦争より核戦争した為にオゾンとか環境とか破壊されてない?と心配するテレビ局のコメンテーターも姦しく。

 

 今は何処も生活を取り戻そうと躍起になっている途中。

 そんな東南アジアのとある国の首都。

 急拵えの移動拠点を空に留めて。

 

 翻訳頼みで別人の声で店員へ料理を山盛り頼んだのは午後19時。

 

 外にも席を置くそれなりに高級志向らしい店舗は朱塗りの柱みたいなものやら竜やら虎やらが彫り込まれた調度品がチラチラと目に付いた。

 

 どうやら元々は中華系の店だったようだが、居抜き店舗という奴なのだろう。

 

 それらしき姿が見えないので完全に現地人専用と化している。

 

 こちらはロシア系の大男にドイツ系らしき老人。

 それに日本人らしき妙齢の女性に少年。

 

 目立つ事この上ないが、あの事件から一日という事もあり、そうジロジロ見て来るような暇を持て余す人物はいないらしかった。

 

 大抵の人々が適当に麺類を頼んで貪るように食ったら、次々に出て行く。

 

 何処も彼処も忙しいというのがよく分かる光景だ。

 丸い五人掛けの回るテーブルを囲むようにして座れば手持無沙汰。

 

 現地のサーバーなんかも粗方壊れている為、自前のサーバーを使って、まだ生きてる回線を乗っ取り、適当に世界情勢を生きているサイトから覗けば、やはり英語圏では活発に魔術師と人類の叡智で滅ぼされた()に付いてかなり突っ込んだ議論が為されていた。

 

「オレらは外宇宙から侵略してきた宇宙人さんらしいぞ」

「侵略者って……私達、何処も侵略してたりしませんよね?」

「魔術師のねぐらを砂にしたくらいだな」

 

「うぅ、そう言えば、先日確認したら友達の実家、砂になってました」

 

「そうか……」

 

 千音が世界の混乱ぷりをディスプレイも大きな端末で覗きながら、自分のやった事を再確認した様子で落ち込むというよりは複雑そうな顔となっている。

 

「だが、千音さん。これでしばらくは我々もまた裏方だろう。一仕事終えたと思えば、この妙に蒸す夜も中々に清々しいと思わないかね?」

 

「お爺ちゃん……そう、ですね……私達、核戦争とか防いだのですよね……そう思えば、確かにちょっとは良い事した気持ちにもなれるような……」

 

「まぁ、原子炉からまた威力は落ちるが、核兵器の類は作られるだろうけどな」

 

「え?」

 

「前みたいな全面核戦争で大都市が全部焦土になるってのが避けられるだけだ。核兵器の無い空白期間が出来たって事なんだが……ぶっちゃけ、今稼働してる原子炉の炉心分だけでもまだ地球全体を汚染するくらいの核兵器類は作れるから、そういう期待をさせたなら悪いな」

 

「そ、そんな……私達の行いって無駄、だったのですか?」

 

「いいや、そんな事は無い。もう原子力発電や核開発自体不可能な国が増えたってだけだ。だが、別に地球温暖化が進んでも人類は普通に生きてるだろう。問題は環境破壊と一緒に進む地球資源の枯渇であって、それは今後に対処されるべき懸案になる。第一段階はこれで終了。今後の進展は第二段階を御覧じろってところかな」

 

「でも、まだ核はあるのですよね?」

 

「新規の核製造は大国間に限られるし、今までみたいな何処でも開発しようってのは不可能になる。そもそも現在の技術じゃ、今残った核資源を使った地域を放射能汚染する兵器が出来るかどうか。次代の核兵器として運用されても前ほどの精度も期待出来ないだろうな」

 

「そ、それだって十分に危ないですよ!?」

 

「でも、今まで造った分が全部消え失せたから、秘密裏に造ろうとしたら喧々諤々の大論争だ。恐らく、共産圏と西側で核保有に関する新しい条約が発効される。今度は核資源を人類共通の敵に使う分で製造を互いに許す的な事になるんじゃないか? まぁ、まったくオレ達が意図したものとは別のところで進む話だが……」

 

「意図した……数か月後の戦争には間に合わないって事ですか?」

 

 こちらの意図が何処にあるのかと言えば、そこしかない。

 

「ああ、核の撃ち合いが出来る程に揃えるのは間に合わない。それ以前の問題として、人類の敵はドローンみたいな機械だ。それ相手に汚染兵器は意味が無い。つまり、どうなると思う?」

 

「その戦争では核兵器が使われない?」

 

「正解。それだけで十分に()()()のシナリオが変わるだろう。これから必要なのはフットワークだ。まずは委員会の末端の研究所をストレス溜まりまくりの政府連中に潰させる。次にバックアップ取ってる中堅の研究所とか所員を悪の組織にヘッドハンティング。最後に一番ヤバいマッドサイエンティスト層を洗脳して無害な毒にも薬にもならない研究だけして一生を過ごせるよう計らえば、お仕事は半分終了だな」

 

「私達が何か一気に邪悪な組織のような気がしてきました」

 

 千音が汗を浮かべ、ぅ~んと困り顔になり、その様子を老人が愉快げに見つめている。

 

「悪の女幹部アトゥーネ様が今更じゃないか?」

「そ、その呼び方は止めて下さい!?」

「ちなみに最新のスレの内容はコレだ」

「ひぅ?!!」

 

 すっかり掲示板恐怖症になってしまった千音が思わず視線を逸らす。

 

「『アトゥーネ様がッッ!? アトゥーネ様が身罷られたなんて嘘だ!!!!』『アトゥーネ様ぁ~~元気な御美足を見せて下さい~~(涙)』『て、帝国は滅びぬ!! 何度でも蘇るさ!!?』『ぉ~帝国住民が動揺してる……コレはもうダメかも分からんね』」

 

「はんにゃーはーら―――」

 

 念仏的なものを唱えて気を逸らそう戦術が取られるも、構わずに読み上げる。

 

「『同志よ。アトゥーネ神殿スレの建立は順調かね?』『は、はい!! アトゥーネ様のオミアシを御神体にする事が決定致しました』『次スレで追悼二次動画を各サイトにUP予定』」

 

「御神体ってどうなってるのですか?!!?」

 

「『せ、専用のストレージを100万掛けて用意しました!! 今日!!!』」

 

「今日?!! 百万!!? 専用ってどういう事ですか!!?」

 

「『これから信者が個別にアトゥーネ様を祀る時代が始まるのか』『ふぉっふぉっふぉっ、アトゥーネの申し子達の未来が愉しみじゃのう』」

 

「個別に祀る!?」

 

「『オミアシを3Dプリンターで再現したものがこちらになります』『おおおおお!!? 着色は!? 感触は!!?』『当方、実は昔南極的な人形を作る製造業企業に勤めた経験がありまして……同志には定価2万でお譲りしますよ?』」

 

「ひぐぅ?!!?」

 

 どうやら自分の生足にしか見えない物体が画像でUPされている事に衝撃を受けているらしい。

 

「『アトゥーネ様は宇宙人だったんだろうか?』『いやいや、地底人でしょう』『いえ、未来人だって別スレで言ってましたよ』『いや、魔法の国からやってきた魔女っ子だって!! 絶対』」

 

「うぅぅぅ……好き勝手言い過ぎですッ。皆さん!!?」

 

「『それにしてもまだ復旧してないサーバー多いみたいだね』『しょうがないですよ。アトゥーネ城砦が陥落した時の余波凄かったですから』『まだ、お隣さんの家、蝋燭って言ってたな』『人類の核ってスゲー力だったんだな』『え? おめぇ知らないのか? アレ、殆ど核じゃなくて要塞からの攻撃だったって話だぞ』『マジかよ……地表にあんなの向けられてたら、その瞬間に地球滅亡だったんじゃね?』」

 

 途中で何やら昨日の話で盛り上がり始めたのでここ等で止めておこうと端末の電源を切ろうとしたら、こちらの手がハシッと掴まれた。

 

「見たくないんじゃなかったのか?」

 

「ぅ……今も見たくはありません。でも、自分のした事ですから……」

 

「ああ、分かった」

 

 ディスプレイを真面目な顔の千音に渡す。

 

 スクロールさせながら内容を読み込む瞳は何処か憂いを帯びているようにも見える。

 

「………人って逞しいのですね……」

 

 老人が何処か申し訳なさそうな。

 

 いや、恐らくは自分と同じ気持ちを抱いたのだろう歳若き才媛に何も言えない歯がゆさからか、無言で見つめていた。

 

「相席よろしいかな?」

 

 その声に横を見上げる。

 すると、金髪の三十代もしくは四十代。

 

 何処か年齢も定かではない二枚目の白人が一人、席の横に立っていた。

 

「他に空いてる席は有るように思えるが、どちら様だ?」

 

 灰色のスーツは一目で高級だと分かるくらいには質感がそこらの着古されたものとは違っており、縫製の行き届いた最上級のものだと分かる。

 

 若干、背が高いと言っても180程。

 

 蒼い瞳に何処か野心的にも見える光を宿し……しかし、カリスマというやつなのか。

 

 有無を言わせぬだけの風格と落ち着いた鋭さのある瞳は何故か紳士のようなものを思わせる。

 

「初めまして。人類に警告を発せし人達。私はブラウン。ブラウン・ライトフォード」

 

 差し出された手を取って握手する。

 

「あなた達が未来から来た事を知る組織からの使いです」

 

 美丈夫染みた二枚目はしなやかでありながらも軍人然とした拳銃胼胝も力強く。

 

 後ろに撫で付けたオールバックも決まりまくりで凛々しくも涼やかな目を細め、そう微笑んだ。


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