ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第287話「真説~孤独と世界と狂人と~」

 

『委員長。全起動準備整いました』

『よろしい。では、始めよう……001の人為的な再起動だ』

 

 薄暗がりの中。

 次々に遠方に灯りが付き始める。

 それは何て事ない何処にでもあるLEDの電球の光だ。

 しかし、総延長300km以上は確実に存在するだろう。

 

 幾多、オブジェクトが存在するこの世界において、001と呼称されるモノは決して一つではない。

 

 その内の最も大きいものがこうして南米沖に眠っている事は彼らにとって天恵にも等しく最後の希望となっている。

 

 今まで彼らの手によって南米沖海底に、産業廃棄物として様々なものが複数のコンテナ船で投棄されてきた。

 

 それも全ては今日のような日の為。

 

 世界規模での記憶操作が行われ、大陸の一部を削る程の被害を出した彼らの手に出来た唯一の001がそうして目覚め始める。

 

 基本は歯車だ。

 

 そう、まるで生きた歯車のようなソレが噛み合いながら回っていく。

 

 中には嘗て大陸の一部内に取り残された車のエンジンや発電所設備、電源設備、電波塔、医療機器、電子機器、生物由来の動物性淡泊資源、98%を占める土砂、火山の一部、海洋生物、人間などなどが……世界の全てが融合しながら納められている。

 

 ソレが生み出すモノは基本的には歯車を基軸としながら、内部に融合されたモノを象り、更には有機的な作用を以てエネルギーを生み出し、柔軟な部分を形作る。

 

 外殻は全てたった一つの点であらゆる攻撃に無敵だ。

 

 超大質量。

 

 山を核で焼いても土砂の中心までは威力が届かない。

 

 それだけの事だ。

 

 この21世紀の時代に100kmの岩盤を一撃で貫く兵器は存在しない。

 

 その質量が動くという事は膨大なエネルギーがいる。

 

 だが、取り込んだモノを順次最適化して動力源のように様々な物理量を抽出、また連動して自身内部に取り込んだ物体を出鱈目に融合した構造体をそのエネルギーによって収縮、拡大させて応力集中の原理である程度移動させる。

 

 この伸び縮み時に破断しない程の弾力と強度を構造体に付与させるのがその001において最も重要な機能の一つだろう。

 

 1000mのものが100mまで縮むのだ。

 

 それを蠕動運動に用いる事でソレは莫大な質量のままに移動が可能となる。

 

 呑み込んだ全ての物体を融合させながら再配置し、エネルギーを抽出し続ける事はソレにとって活動可能なサイクルの前提条件。

 

 嘗て、複数のサイトを呑み込み。

 

 内部のオブジェクトの性質を多数取り込みながら活動を維持してきたソレは封じ込め成功後も其処にずっとあった。

 

 今、それは委員会最後の一派による一押しを受けて、投下され続けて来たエネルギー抽出用の汚染された核廃棄物をまるで再利用するかのように集合させ、新たな動力源として起動する。

 

 見た目は山だ。

 動くのみで地殻を削り、撓ませ、溶かし呑み込む。

 

 砕けた世界の中心で新たな世界の卵にでもなろうかというソレを彼らは最後の楽園として戦うだろう。

 

 要塞?

 

 そんな生温いものではない。

 これは動く星。

 巨大な星の表面を這う小惑星。

 彼らの最後の安住の国。

 

『起動確認!! 全サブコンバーターによるエネルギー抽出速度増大!! 内導循環の再活動確認!! 各所に繋げた全観測機器の正常稼働確認!! 中枢機構周辺部への外殻体積開始されました!! 動きます!! 動きますよコイツは!!』

 

『当たり前だ。制御が出来ないとはいえ、誘導と調整は可能だ』

 

 白衣の男女が忙しく立ち働く専用の指令室。

 

 それ自体が50m四方を囲う巨大なドームで囲まれた室内は至るところに急場凌ぎで作られた配管や配線だらけで正しくやっつけ仕事な上、キーボードもコンソールもディスプレイも全て市販品だ。

 

 彼らがこの地に持ち込むはずだった彼らの研究成果の大半は各国と財団含め数多くのオブジェクト蒐集団体によって抑えられた。

 

 しかし、どれだけ研究成果を没収されようが、彼らは技術者にして科学者だ。

 

 その力は我が身の中にある。

 

『各国との回線を開け。数万年後を目途にするはずの起動をこんなところで無様に行わなければならなくなった事を後悔させようか。諸君らの没収された研究、そして私の成果をブチ壊したファースト・クリエイターズとやらにも事態の深刻さを知ってもらわねばならないな』

 

 委員長。

 

 そうプレートを胸元の白衣に張り付けた男は指令室の中央。

 自らの作成した惑星改造ツールの断末魔。

 最後に送られてきた映像を見やる。

 それはアトラス・パイル子機からのものだ。

 超耐圧、超耐熱の装甲。

 深雲による既存技術による先鋭化研究。

 

 正しく地球を征するはずのテラフォーム・ツールは悍ましい金属らしき枝に貫かれた。

 

 正体不明の未知の金属。

 そんなのはこの世界にも幾らだってあるだろう。

 

 しかし、それを今や地殻内部のマグマ溜まりやマントル内から大樹のように浸食させ、極東のプレートを改造する程までに肥大化させるなど。

 

 明らかに地球滅亡シナリオの一つだ。

 なのに、もはや財団にはそれに抗う力は無く。

 世界は謎の侵略者の前に屈しようとしている。

 

『そうだ。我々こそが救世主とならねば』

 

 その言葉に多くの白衣達が恍惚としたような表情で頷いた。

 ヒロイックな衝動に身を包み。

 彼らこそがヒーローだ。

 地球を救うんだという使命感に燃えた。

 

 それを平静な瞳で見つめながら、彼は自らの前にあるディスプレイに表示された全長300kmの巨体の再隆起を予測演算されたCGで眺める。

 

 本来、この世紀の瞬間こそを衛星において全世界に発信するべきだったが、その頼みの衛星は全て撃ち落とされ、現在は侵略者達の攻撃衛星に空は支配されている。

 

 彼らの制御を受け付けるのならば、001は正しく神にも等しい力を以て衛星程度撃ち落とす事はわけないだろう。

 

 しかし、現実は残酷だ。

 準備不足。

 

 万年単位で制御方法を確立するはずだったのが、昨日の今日のような状況で満足な物資搬入も出来ずに再起動。

 

 これで出来る事は限られている。

 

 それでも例えどれだけ優秀な魔術師だろうが、オブジェクトだろうが、多数のサイトを取り込み、内部の品々の相互作用によって外界からの世界変容能力の干渉を防ぎ止めるコレは止められない。

 

 そう知るからこそ、委員会は最後の切り札としてコレを用いる事に決めた。

 

『各国のホットラインと通信網の一部にアクセス致しました!! 機器そのものがシャットダウンされない限りは行けます!!』

 

『よろしい。では、カウントを始めよう』

 

 指令室内部。

 誰もが薄暗いLEDの灯りの下。

 自分達の戦いがこれから始まるのだと息を呑んだ。

 人類を救う為、世界はまず一つにならねばならない。

 

 その過程は苦難こそあるだろうが、いつか後世においてきっと理解されるだろう。

 

 そう、信じて。

 

 カウント0と共に委員長の大演説が始まり―――世界が陥っている危機を、人々が目覚めなければならない理由を、断固として委員長……彼は真実のみを語っていく。

 

 そうして、全ての演説が終わった後。

 その映像が途切れようとして。

 クツクツと。

 クスクスと。

 何か堪え切れなくなったような笑い声が。

 抑え気味の笑い声が。

 彼らの耳に響き。

 

 それに眉を顰めた委員長はしかし、その声が自分達の用いる機器のスピーカーから零れて来ているのだと理解するや目を細める。

 

『何者だ!! 姿を現せ!!』

 

 今の今まで001のモニタリング情報で埋め尽くされていた画面に空が映し出される。

 

 それは衛星軌道上からの映像だ。

 

 ズームされた300kmにも及ぶ島のような何かが黒鉛や噴煙を噴き上げて、微振動している事がハッキリと映し出されている。

 

 浮上し、周辺海域の生物を全て死滅させただろうソレの直上。

 

 浮かぶ何者かがいる。

 

「委員長……ハロルド・ワイズマン。お前は真実を語りはしても、足元は何も見ちゃいないんだな」

 

『ファースト・クリエイターズ!? ふざけた名前の狂人か!!』

 

 黒と蒼。

 

 二つの色に染め上がる少年は地平線を望む虚空で一振りの剣を掴む。

 

 黒き鋼のようにも見えるソレ一つのみを手にその姿が掻き消えた。

 

 同時に何を感知したのか。

 

 巨大な島の一部で隆起が巻き起こり、まるで地上から塔が伸びるかのように蛇腹状の無機物と有機物と生物の混合物にも見える斑色の何かが無数に伸び上がる。

 

 ソレがオブジェクト001の本能と呼べるかどうかも分からない自己防衛の為の一撃だと理解する彼らはその映像に見入った。

 

 全てを取り込み肥大化する001ならば、戦える。

 

 この地球そのものを取り込み続ける限り、稼働は止まらないのだ。

 

 ならば、その圧倒的物量の前にどのような理不尽とて折れるのが道理だろうと考えるのは自然だろう。

 

「委員会。貴様らは情けなくないのか?」

 

『な、に?』

 

 委員長の顔が僅かに歪む。

 

「他人から貰ったオブジェクトを弄り回して遊んでるだけで世界の救世主気取りとはやれやれ呆れる」

 

『貴様らがソレを言うのか!!?』

 

 叫ぶ間にも巨大な触手染みたソレが無数に見えざる何かの航跡を追って高速で動き始めた。

 

 その巨大さ故に拘束で巨大な物体が動くとその先端は赤熱する。

 

 正しく音速を超えて乱舞する大質量の坩堝。

 それが絡み合う事もなく一つのものを追っている。

 

「誰がお前にそんな事をしてくれと頼んだ? 誰がお前をその役目に選んだ? それはオレも同じだ。別に構わないさ。いつだって、世界を動かすのはオレやお前みたいな傲慢野郎だ。子羊みたいに敬虔で物事を真面目にやろうとする正しい連中が歴史に名前が残るようなのが稀なのを見れば、それは事実だろうよ」

 

 半径30km圏内の湾曲した山岳。

 

 その大歯車の連なりを裂く様に一筋の蒼い雷撃が地表へと落ちる。

 

 爆心地は吹き飛び、001の再構成も許さず灼熱させ。

 しかし、それもまた数十秒も持たない。

 ゆっくりと蠢き出した大地。

 空から歪み迫るビルの如き迫る音速の巨塔。

 

 それが一点を穿つよりも先に爆撃でも始まったのかという巨大な爆風が周辺地形と上空から迫る何もかもを崩壊させて再生すらも許さずに消去っていく。

 

「だが―――」

 

 まるで見下ろすように見上げる瞳は真っ直ぐに画面越しの男を捉えた。

 

「世界の構造が歪だと見下してみたところで……お前もその一部だろう? 合理主義結構。理性的な回答結構。でも、人間をもう少し評価してやったらどうだ?」

 

『なに?』

 

「お前の採点方法で幸せになれる人間なんて今の世界に多く無い」

 

『何が言いたい!?』

 

 委員長。

 彼の声を少年は聞いていないだろう。

 

 そして、彼もそうでありながら、まるで会話しているかのように話す。

 

 それは巨大な予測演算システムを両者の後ろにあるからだ。

 

「今、地球の人事をどんな神様がやってるか知らないが、人間そのものの愚かさを攻めたところで何も変わらない。必要なのは糾弾ではなく、理解だ」

 

『ふッ、付け上り、己の行動を省みず、何もかもを理解してすら、他者の為にと理屈を糊塗し、己の利益を貪ろうとするのが今の人類だ!! 深雲の計算は決して違えない!! それは決定付けられた人類の業であり、体質だ!!』

 

「破滅から人類を救おうなんて愛を持ち合わせてる癖にお前は自分が信じられないものを理解しようとはしないんだな」

 

『理解だと!? はははは、深雲と同等に近しい演算能力を持つ貴様らが笑わせてくれる!! 人類の心理などもはや解明されているに等しい。貴様は全て知る立場に有りながら屑を斬り捨てるのにセンチメンタルを語るのか?』

 

「さて、オレは屑とやらも捨てたもんじゃないと思うぞ? お前のその判断基準が厳しかろうと緩かろうと屑にだって屑なりの役割があるだろう」

 

『ッ、詭弁を……蟻のようにはなれぬ我ら人類がどのように団結すると言うのだ!!』

 

「烏滸がましいんだよ。団結なんて誰も望んでない。必要なのは個人が個人を想い直す事、見つめ直す事であって、お前の言う現実的な地球限界論じゃない お前は理想は語っても過程を無視する主義主張マシマシな原理主義者と同じだ」

 

『個人主義に陥った人々に何が出来る!? 我々こそが団結し、世界を変容させる程の力を得た!! それをやろうとしている貴様がそれを否定すると言うのか!?』

 

「御立派なお題目。明日の食事。今日の生存。全部、満たしてやれる程、社会は簡単じゃないだろうさ。でも、お題目は言えなくても、窮状から抜け出したい心は誰もが持ってるはずだ。そいつの人生がどれだけ満たされていようとそいつの戦場はそこなんだからな。明日の食事も今日の生存も考えられない人間だって、目の前にある尖った小石に気付けば、踏まぬよう避けはするだろう。オレはそいつを少し手伝ってやるだけだ」

 

『何を言っている……』

 

「オレらが小石の無い世界を作るよりは小石を掃除する方法を教えてやる方がいいんじゃないかって話さ」

 

『貴様がやった事を棚に上げるのか!? アレの何処が手伝うだと!?』

 

「オレが人類に対してやった9割以上の事はオレが考え付いた事じゃない。それこそ、いつかの人々がこうしていれば良かったってな無念……“人類の総意”だよ。そもそもだよ。お前は一つ勘違いをしてる」

 

『何?』

 

「オレは少なくとも人類に悪い事をしてるという自覚を以て、悪事をやってるわけだ。お前みたいに人類愛を以て良い事とやらをしてるわけじゃないし、お綺麗な敵味方ごっこで管理する社会が欲しいわけでもない」

 

『貴様!? 我々の計画を―――』

 

「ああ、知ってるとも? 未来人ですから」

 

『くッ……』

 

「お前の人類愛が人社会の管理化システムを万年進めるモノなら、オレのお節介はその先にあるものだ。愛で人類減らすより、悪意で人類増やそうってオレの方が圧倒的に博愛精神に溢れてて民主主義的な支持を得られると思わないか? 合理主義者さんよ」

 

『―――我々が求めた結果の先を貴様が実現するというのか!? 悪意を以て、人の社会を進めてやろうというのか!? その傲慢さを悪意だから良いのだと嘯いてッ!?』

 

「オイオイ。アンタはこの後に及んで合理主義を投げ捨てて、オレの最短最速の合理的な最終的人類の結末に、()()()()()()()にケチを付けるのか? 今言っただろ? 社会は簡単じゃないんだ。お前がやろうとしてる事なんざ、オレがやろうとしてる事の万年前の過去なんだよ。アンタがどんなに気に食わなくても、()()()()未来(ゴール)なんだ。残念だが、これは覆らない単純無欠の結果論だ」

 

『恐るべしッッ!!! 貴様は人類を豚に落すか!? 未来人!!!』

 

「オレは此処に不満足な豚が沢山いたから、満足な豚に変えてやるという錬金術を持って来ただけの人間だ。いいじゃないか。別に不満足な人間が偉いわけでもないだろう?」

 

『貴様のようなモノが人類の未来を騙るだと!? 笑止!!!』

 

「人の幸福度はどれだけ高めても最終的には物質じゃないんだ。満たされた精神を獲得するには足りた衣食住と最良の隣人さえ要ればいい。それを生み出す社会基盤をわざわざ未来から持ってきてやったんだ。ありがたく受け取れよ過去の残骸。それともお前は人類愛とお前の野望の為に自分を糊塗してきた理論を今更投げ捨てるのか?」

 

『投げ捨ててなど!! 得体の知れない貴様が合理主義だと!? 未来から貴様が破滅を齎したと理解して尚、そう囀るか!? 私は少なくとも人類を愛している!!』

 

「でも、人間は愛して無い」

 

『ッ』

 

「そもそも劇薬が無けりゃ何も変わらないのはお前も同じだろ? らしくないじゃないか。人類の救世主。全ての悪行を被り、人類を生存させようと努力してきた合理主義者のハロルド・ワイズマンさんはいつから個人の主張の為に人類の確定的な幸福を阻害するような害悪になった?」

 

『それを幸せと呼ぶか!! この外道め!?』

 

「外道結構。でも、おかしいなぁ? オレの情報に拠れば、お前は旧人類が結局は好きになれない人間としてしか記録されてないんだが。いつから他者を信じられる人間になった? 人間賛歌を唱えるにはお前の()()は未来じゃ積み上がり過ぎだぞ? 人間が嫌いな癖に人類が未来に懸命だと信じてるなんて、なんて一般人的楽観主義なんだ。ああ、まったく呑気で羨ましいこった」

 

『―――』

 

「いつまでも善人ぶってないで、人間らしく本音でトークしようぜ? 人間が穢い臭い汚らわしい生き物だと認めてこそ、人は少しだけ進歩すると歴史は証明しまくりだぞ。小奇麗な理想論を具現するより先にお前はアメリカ大統領でも目指すべきだったな。ちょっとはこのニートなオレより現実とやらを知れ」

 

『ッ、私は―――』

 

「過程を大事にすると言うなら、結果も大事にして欲しいもんだ。それがお前にとって最も認め難い、お前の支配を経ない人類の進化だとしても」

 

『進歩だッ』

 

「ほう?」

 

『私は人類を貴様の力など無くても進歩させて見せる!! 人類の幸福な未来を創ってみせる!! 貴様に全てを委ねるなど断じて許さないッ!!』

 

 次々に襲い来る無限の千塔はしかし一度も少年のいる大地を捕らえる事なく。

 

「ダウト」

 

 一定領域以下に落下した瞬間にボロボロと崩れて逆巻く大気に融けるようにして消えていた。

 

「お前は確かに人類を進歩存続させるだろうさ。だが、お前の造る未来に幸福なんぞ定量化してみたって不幸を上回ったりしない。幸福と生存の等価交換出来る魔法を持って無いお前が、自分の未来すら予測して知っているお前が、それを言うのは明らかに人類への裏切りだ。もう認めたらどうだ? お前は―――」

 

『言うなッ!!!』

 

「お前は自分が人を幸せに出来ないと知って尚、自分の理想の為に人類を生かそうとした。単なるオレと同じ狂人だよ」

 

 001直上に分厚い雲が垂れ込めていく。

 

『―――未来からの修正者……貴様にはどうやら未知を以て相対するしかないようだ……貴様を屠らねば、我々の未来は―――』

 

 委員長。

 

 その腕がヌッと自身の座席周囲にあるコンソールの一つに手を伸ばした。

 

「オレは人類がエゴの塊だと知ってるし、ろくでもない連中ばかりなのも理解してるが、人間は愛してる。豚さん呼ばわりはしてもそれは厳然たる事実だ。それに豚さんはカワイイし綺麗好きなんだぞ? 不満足な人間よりは余程に幸せかもしれない。絶望マシマシ人類を量産した挙句に未来で()()()()()()()()()()と全部投げ出した誰かさんと一緒にしないでくれるかな? OK?」

 

 そして、カチリと紅い○ボタンを押す。

 

『破滅を呼びし創造主!! 消えろ!! 我々の世界からッ!!』

 

「嫌だね!! そうだとしても、それでもオレは……この世界に“終わらない明日”が欲しい!!」

 

 そうして、不意に世界の全てが暗転した。


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