ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第306話「交渉」

 

 目の前には地球儀が1つ廻っていた。

 

 自分にこれでもかと現在の状況を教えてくれる電子部品マシマシな代物だ。

 

 惑星を模した丸い物体の上には今現在起こっている戦乱のリアルタイム情報が遅々とした動きで書き込まれている。

 

 ポ連最大最後の大戦争。

 

 大国家戦争と名付けられた東部戦線の状況は全く以て悠長だろう。

 

 3週間の期限が区切られたらしいのだが、ポ連側は少しも進めていない。

 

 それもそうだろう。

 小連山と化したフォートの残骸。

 

 正しく残骸としか言いようのない機能停止状態の破壊不能の巨大な合金の塊が進軍を邪魔しているのだから。

 

 120万の軍を空から輸送しようにも、彼らに後方はもう存在しない。

 

 虎の子の空挺は敵の包囲や大突破用、後方への浸透強襲によって一時的な退路を断つ時に使う代物であって、前よりも強固になった敵戦線の防御力を前にしては使い処が限られる

 

 ついでにこれを期とばかりに連山に逸早く辿り着いた連邦軍が砲陣地化。

 

 後方も砲塁だらけの為、もしもとなれば、後退して残していった砲弾毎相手を爆散させる手筈である。

 

 ポ連側にしてみれば、いきなり特大の難関が降り注いで来た上に破壊出来ない陣地が大量に生えたのと変わらない。

 

 数で押し込めはしてもあまりにも無茶な行軍をすれば、頼みの数は一瞬で擦り減るかもしれないのだ。

 

 予備部隊が存在しない以上。

 彼らに出来るのは隙を見付けて雪崩れ込み。

 

 ごパン大連邦側の部隊が結集する前に戦線を崩壊させる事だけだが、今のままではそれも不可能。

 

 敢無く事態は膠着状態となったわけである。

 

 これはごパン側には天恵であり、再編成の時間が稼げるだけ有り難い話だろう。

 

 どうやら未だに沿岸部には二度三度と絶え間なく50m級の津波が押し寄せているらしく……浸水域からの離脱には成功しているが、最後尾の避難民を連れた軍の撤退は遅れているようだ。

 

 他にも内陸に移動したはいいが、何処も彼処も食糧以外は物資不足で衛生環境も何とか天海の階箸からの支援で保っている状態。

 

 ごパンの地には今まで内陸なんて見た事の無かった人々が大量に流入し、その難民キャンプの設置と治安維持に追われているとの事。

 

「まったく、こんな時に戦争しなくてもいいだろうに。地球が太陽に向けて加速中とか笑えないどころか滅亡の危機だろ。ついでにラグランジュポイントがあちこち崩壊して、宇宙の方も色々困ってるんじゃないのか。というかだ……何故、宇宙のアメリカさんが鳩さんと繋がってる?」

 

 室内は極めて穏やかな色合いだった。

 天蓋はガラス張りで陽光を恵み。

 

 広い一戸建てくらいありそうな周囲には芝生が敷かれ、樹木と草花が生い茂る野原が広がり、室内だと言うのを忘れそうなくらいに開放感のある造りで影があまり出来ないような造りになっている。

 

 家具調度品の類は質素なものであるが、その品の良さというのが滲み出ており、温かみのある色合いで好感が持てた。

 

 テーブルとソファー。

 その前方には大きなディスプレイ。

 

 そこだけが今も悲惨を極める地球上の沿岸部を観察しているらしき上空からのドローンによる空撮映像を映し出しており、開運が盛んだったらしいポ連の沿岸の属領が半分以上海底に沈んだ様子が放映されていた。

 

 だが、問題はそこではない。

 こちらの目の前にアメリカの軍服。

 

 それも軍高官らしき大佐を示す階級章を付けた士官がいる事だ。

 

 十万年先だと言うのに御立派な制服は殆ど変わっていない。

 

 その鳥さんの紋章だけでハリウッド映画でも見ている気分である。

 

 彼女は40代くらいだろうか。

 

 ぶっちゃけ、目じりの皺の先から鋭い視線が飛んでいるので何か恨みでも買っているのかと勘繰ってしまう。

 

「ラスト・バイオレットと御呼びしても?」

「構わない」

 

「我々、アメリカはこの宙域からの離脱を望んでいます。ですが、我々の独力では外宇宙航行船の建造は恐らくまだ2000年以上掛かる見込みです」

 

「それ言っていいのか?」

 

「ええ、この程度は予測済みでしょうし、理解しているかと思いましたが、違いますか?」

 

「違わない……で、オレに天海の階箸を動かす権利を譲渡しろと?」

 

「それは最終手段です。本来ならば、我々はあなたを消滅させた後、その権限を引き抜く算段がありました」

 

「それも言っていいのか?」

「これでも交渉担当官として派遣されていますので」

「中佐。アンタに二つ聞きたい」

「何でしょうか?」

 

「宇宙に出ていきたい理由は何だ? 表向きのお題目は要らん。本当のところを教えてくれ。無論、アンタが知らされてる範囲でいい」

 

「……それではこちらの質問にもお答えして頂けますか?」

「無論だ」

 

 金髪を後ろで纏めた理知的な女性。

 

 そんな完璧に秘書とかやってそうなオバサンがこちらに視線を合わせた。

 

「我々アメリカはこの世界から旅立たねばならない理由を抱えています」

 

「それは?」

 

「今現在、この宇宙の収縮がこの地点に向かって加速していると判明しました」

 

「何?」

 

「この宙域は恐らく後4000万年程で凝集したあらゆる質量とエネルギーによってブラックホール化し、全ての存在が圧壊する。ビッグ・フリーズやビッグ・クランチのような宇宙規模の終焉が現実になったと言っています。この宇宙における破滅の根源は収縮です。人類の永続を願う我々アメリカにとって、それは極めて重要な生存条件の激変でしょう。その内向きへの収縮から逃れる為には時間が必要です。技術開発、光速に限りなく近い宇宙空間航法を確立するまでにどれだけの年月が必要か今のところ知らされていませんが、光の速さに近付いて移動する以上、時間的な猶予をあまり残されていないと上層は知っているのでしょうね」

 

「ああ、そういう事か」

 

 どうやら、()()()()()()()()()()はあちらも知らないらしい。

 

 だが、何処まで現場の人間に知らされているものか。

 実態として色々と上層部は下に隠していそうだとも思えた。

 

「超光速で空間が収縮した場合、光の速さに近い程度で脱出していても限界がある。空間の果て、宇宙の果てに付いては未だ観測されておりませんが、その先に行く航法も考え出さねばならない。今現在、現物として外宇宙航行用船舶として実用に耐えるのはラスト・バイオレット権限によって解放されるあの船のみ。我々にとってあの船は正しく宝の山なのですよ」

 

「じゃ、2つ目の質問だ。お前らがオレを殺そうとした時、どうやって位置を特定した?」

 

「……彼女から位置情報を買ったと聞いております」

「彼女、ね。買った……買ったと来たか……何を支払った?」

「それは三つめの質問では?」

「オレも三つは答えてやる」

「分かりました。我々が支払ったのは組成表です」

「組成表?」

 

「我々が現在宇宙で活動する為に用いている核融合系統の技術に用いている超重元素と呼ばれる原子核魔法数の高い超高密度元素とその分子塊の組成表です」

 

「―――それってオレを撃ち殺そうとしてた時に使ってた砲弾か?」

 

「御存じでしたか」

「お前らなんつー事を……キチガイに刃物って言葉を知らんのか」

「キチガイとは?」

 

「お前らが相手にしてる鳴かぬ鳩会は月のラスボスと同格だぞ。そんなのにヤバイ元素のデータ渡すとか」

 

「私の管轄でありませんので。その批判にはお答えしかねます」

 

「ああ、そうかい。シビリアン・コントロールも場合によりけりか。絶対、お前ら軍部の中に渡すなって強行に主張してた連中いるだろ? もしいたら、そいつらは限りなく正しい判断をしたと記録しといた方がいいぞ」

 

「……こちらの質問に答えて頂けますか?」

「はいはい。好きにしてくれ」

 

 それから数分、訊かれたのは大そうな情報でも無かった。

 どうやって封鎖された月から、この地表に来たのか。

 どうやってあれだけの数の宇宙艦種、宇宙船を作ったのか。

 そして、何故あの状況で降伏したのか。

 

 それに全部答えたら、あちらの顔は動かなかったが内心で驚いている事が分かった。

 

「……空間制御技術に月と地表の天才が用いる万能の力、量子転写技術。そして、それを上回る“あの女”の妨害工作ですか」

 

「オレが船作って地球に降りようとしたら、あっさり見付かった上にシステムがオールダウンするとか。あっちの方が五枚六枚上手だな」

 

「空間制御技術については何処で取得、開発したのですか?」

「それは4つ目の質問だな」

「こちらもその分だけお答えはしましょう」

「とある鉱石を見付けたんだ」

「鉱石?」

 

「ちょっと電気を与えてやると空間を引き込んで僅かな物質を崩壊させて大きなエネルギーを引き出す代物だ」

 

 懐から原石を取り出す。

 

 こちらの地球へ来る前に色々とフラムに訊いて採取しておいた代物だ。

 

「……それは希少なものですか?」

「さぁ? 地球上にまだ残ってるかは知らない」

「それを譲って頂く事は?」

「別にいいぞ。ほら」

 

 コロンとテーブルの上に鉱石を転がす。

 それを見てあちらは僅かに目を鋭くした。

 

「嘘、ではないですよね?」

 

「嘘吐いてどうするんだよ。別にオレは幾らでもこれを造れるから必要ならやると言っただけだ」

 

「やる。この状況で我々相手の交渉材料にしなくていいと?」

 

「材料にするなら、もっとマシなのを材料にするさ」

「………どのような質問でもどうぞ」

「中佐。あんたの名前は?」

 

 そのこちらの言葉に少しだけ鉄面皮が驚いた様子で瞳を細める。

 

「よろしいのですか? そんな事に貴重な権利を用いて」

 

「あんたが次の瞬間に死んでても訊ねた事は合理的だったとオレは判断する」

 

「……マリア。マリア・カーターです。階級は中佐。現在、“あの女”と貴方との交渉担当官を拝命しています」

 

 僅かに煤けた金髪。

 仕事一筋の鉄面皮。

 お局様的なメガネ秘書系軍人はそう名乗った。

 

「で? 結局のところオレを生かしておきたいのはお前らじゃなくて、あっちなのか?」

 

「まぁ、そういう事ですが」

 

「ふむ。お前らにしてみれば、さっさと殺して天海の階箸をゲットしたいところだろうが、それを協力者である鳴かぬ鳩会の総帥が許さないと」

 

「そこまで分かっているのならば、大人しく権限の委譲をしてみては如何でしょうか?」

 

 はぁ、と溜息を吐く。

 

「お前らなぁ。何つー呑気な事してんだ」

「呑気、とは?」

 

「オレが察するにオレの可愛いフォートが全機ガラクタになった理由は深雲のハブ機能を司ってた階箸からの回線遮断が原因だ。最低限の機能は自立してるんだが、アレ殆どクラウド制御なんだよ。オレの権利があれば、介入出来ないと思ってたら、一斉に墜落。恐らくはもう乗っ取られたに等しい状態だな」

 

「?!」

 

「少しくらい考えてみろ。適当に造った船を1万隻も自立制御するなんぞ面倒過ぎるだろ? オレが深雲との大容量通信に耐えられるハブを使って制御してるんじゃないか、くらいの憶測くらいしろ。ラスト・バイオレット権限が欲しい癖にその内実についてお前ら鈍過ぎやしないか? 事前諜報くらいちゃんとやれ」

 

「―――まさか、捕虜に批判されるとは思いませんでした」

 

「批判じゃない。改善点の提示だ」

「それは余計なお世話というやつでは?」

 

「じゃあ、反論してみろ。お前ら策士気取りで策に溺れてないか? お前らのところの陸軍元帥連中とやってた時も思ってたが、ドクトリンが旧過ぎる」

 

「古い?」

 

「ああ、ラグランジュポイントを崩壊させかねない月の破壊をやろうとしたりする時点でダメダメだな。自分達にとっても戦略拠点や重要拠点である場所をわざわざ破壊しようとしたり、最終兵器っぽいものを不用意に使ったり、敵に回すと厄介な連中がいるって分かってる癖に最初期の目標を達成しようと事前の再調査も無しに突入しようとしたり。何か言い訳あるか?」

 

「言い訳……私は貴方の生徒では無いのですが」

 

 困惑よりは渋い顔になった彼女が半眼になる。

 

「中佐。オレならあの砲撃を受け切られた時点でまずは本国に戦力を固める。その上で事前諜報して、月面内部を丹念に調べるよう部下に指示を出す。撃った以上、それ以上のものを撃たれる可能性を考慮しない事がもう愚かとしか言いようがない。ゲーム理論くらいまだあるだろお前らのところにも。やったらやり返すのが最も効率がいいんだ。最終兵器出しといて自分のところにソレが撃ち込まれないとどうして言える? 仮にもお前らを滅ぼし掛けた委員会だぞ?」

 

「私は軍の一士官でしかありませんので」

 

「だが、一士官ですら理解は出来る話だろ? 戦略次元で大失敗しといて、それを挽回もしくは失敗した原因を探らずに再度、戦力を投下するのは愚策じゃないと?」

 

「………」

 

「いいか? 世界最高の軍隊の中佐殿。あの月を落したわけでもなく。事情を知ってそうな協力者に月の事情を詳しく訊きもしないで、無力化した捕虜なんぞに交渉を持ち掛けてる時点でダメだとオレは言ってるんだ」

 

「拷問されたいと?」

 

「合理性0だと言ってる。オレを確保したのは鳴かぬ鳩会側の兵隊だ。それもピンポイントでオレのいる船を強襲してくれた。それを見てたはずのアンタはまず鳩会側に疑問を以て訊ねに行くべきだった。その上で疑問に対する回答を上に報告後、オレを一番あしらえそうな鳩会側に任せて、さっさと権限を引き抜いてくれと交渉するべきだった。何か間違ってるなら言ってくれ」

 

「……重要な事を得たいの知れない相手に任せるべきだと?」

 

「逆に問いたい。艦隊の話を聞いてるはずのお前らがオレをどうにか出来ると思ってたのか?」

 

「……認識が甘かったとは思えませんが」

 

「言っておくが、今のオレでも今からお前らの本国とやらを破壊して塵にする事くらい出来るんだぞ?」

 

「ふ、御冗談を……」

 

 そう笑って見せる中佐の表情筋は完璧に制御されているが、生憎と技術で表向きは誤魔化せても肉体が止まったわけではない。

 

 耳にはハッキリと心音の高まりが、目には相手の体温の上昇が感じられていた。

 

「可能かどうかの問題だ。オレは倫理的にも道徳的にも実利的にもそんなナンセンスな事は今のところする必要が無いってだけなんだ」

 

「―――先程から訊く限り、貴方の言っている事は多くが実現不可能に思えます」

 

「思えるじゃダメだろ。交渉担当官なんだから、相手の言動くらいちゃんと読め。オレが嘘を言ってるか?」

 

「生憎と表情も視線も読めない方が相手ではとてもとても」

 

「中佐。勘繰ってるところ悪いが、オレは敵に対してでなければ、一々この言動を変えてやる事は無い。事前に艦隊の連中との会話くらいは聞いただろ?」

 

「ええ、まぁ」

 

「これがオレの素だ。臨床心理学くらいは習ってるな? それを使って普通にオレの言動を整理してみろ。オレは一々こんな局面で格下に策を弄して面倒な小細工をするタイプか?」

 

 中佐は押し黙った。

 アメリカが格下。

 

 そう言われてハイそうですかと頷けるなら軍人はしていないだろうが、オブジェクトや委員会のようなトンデモがいる世界にそれは今更だろう。

 

 最も重要なのは合理性であって、それは生存特化の共同体となっているはずのアメリカにこそ重要な代物だ。

 

 そのドクトリンが旧いという事実を眼前の元理不尽から指摘されて受け入れられないならば、彼らは軍人を名乗る資格はあっても、生存の為に多くを捨てて来た共同体の人間という意味においては無知蒙昧に堕する。

 

 精神力で真空の宇宙を生活の場と出来るなら、誰も苦労しないのだ。

 

「生憎と今のお前らはオレの敵じゃないし、敵にするメリットも無い。ついでに言うとだ。お前らの総軍が掛かって来ても“オレの相手にはならない”」

 

 こちらの言動を見て、凄く……物凄く渋い顔をした女性が額を揉み解した。

 

 どうやら理解してしまったのだろう。

 ご愁傷さまだが、そうでなくては困る。

 

「………………まったく、この私が交渉担当官を止めたくなるなんて、いつぶりかしら……」

 

 眼鏡が外された。

 

「ようやくか。で、アンタはどう思ってるんだ? オレから権限を取り上げるべきか否か?」

 

「任務ならばYES。個人ならNO」

 

「じゃあ、答えは簡単だな。軍人止めろ。それしか今のところ、お前らの望みを叶えてやれる可能性は無い」

 

 こちらの言葉に苦笑でも苦笑いでも呆れた視線でもなく。

 化かし合いに疲れたような顔で彼女がこちらを見やった。

 

「私が軍を止めれば、貴方が我々の望みを叶えてくれると?」

 

「ああ、いいぞ。天海の階箸が欲しいなら、お前が本当に軍を止めるなら、くれてやる」

 

「冗談、ではない……貴方が希代の大嘘吐きでもない限りは……」

 

「全部終わったら好きにしろ。どっちにしろ。この世界の天秤は今のところお前の肩に掛かってる。これは嘘大げさ紛らわしいでもない。単純な理屈だ。オレは今困ってる。そして、オレを今のところ救ってくれそうなのはお前だけだ」

 

「……何をしろと?」

 

「それを言う前にアンタの()()()()を聞いておこう。中佐殿」

 

「それにも気付くのね。怖ろしい男……」

「何歳だ?」

「11……」

「案外、若いな」

 

 その言葉に顰めっ面になった中佐が自分の顔を“剥いだ”。

 

 中から出て来たのは年相応な先程までの女性の少女の頃そのものだった。

 

「中身の年齢とも少し食い違う。プリカッサーだな?」

「地表のアメリカではそう呼んでいたそうね」

「で、だ。中佐殿……アンタは軍を止めるか?」

 

 答えには逡巡があった。

 

「―――YES」

「中佐殿。アンタはオレを助けてくれるか?」

「YES」

 

 その声はもう自棄に聞こえる。

 だが、それでこそだ。

 相手の真理を見透かす交渉担当官に選ばれる程の逸材。

 無知蒙昧では勤まらない合理性と真実を見る瞳。

 何が最も確率が高く。

 何が最も祖国を救うか。

 

 それを見誤らない軍人失格な人物こそが今この場には必要なのだ。

 

 今の今まで魔王様の情報を収集してきたはずの彼らにしてみれば、こちらの一般的には誇大妄想で片付けられる提案も現実として見られるようになる人物が必要だったのだろう……それは逆にこちらにとっても重要な人物と言える。

 

「中佐殿。なら、()()()()()……その後に色々と相談しようか。時間は残り3分……まぁ、肉体が11でもその懐のものがあれば、簡単なお仕事だ。全部終わったら、世界を救った英雄として適当に銅像くらい建ててやる。頼んだぞ」

 

 相手はもう完全に何とも言えない顔となった。

 

「懐にあるのは生憎とよく切れるナイフ一本よ」

 

「ああ、だから、いいんだ。軽く“首をスパッと横に頼む”」

 

 もしも、世界一苦い漢方薬がこの時代に残っていたなら、きっとそれを噛み潰したような顔に違いない。

 

 生憎と此処にはござる口調の幼女はいないのである。

 

 交渉担当者は物凄く何かを言いたそうな瞳でこちらの親指が首を横に横断する様を見て、口をへの字にしたのだった。


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