ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第320話「真説~嵐の前の牙達~」

―――パンの国。

 

 大陸に存在する全ての国家、全ての街、全ての村、全ての家庭。

 

 いや、他者と関わり合う全ての人々が混乱のどん底に落された時。

 

 ごパン大連邦の今や中枢と言って良いだろう五角形の首都中央の軍事基地内。

 

 大音声が響いた時、全てが静止した……ように誰もが思った事だろう。

 

 静まれッッッッッ!!!!!!!!!!

 

 という拡声器を使った一喝。

 その声の主の事だけは誰もが知っていただろう。

 

 鼓膜が破れそうな程に基地全体に広がった打撃のような一撃は多くを正気に返らせ、狂気の世界に理性と更に真なる恐怖を植え付けただろう。

 

「蒼《アズール》!!! 総員集結!!! これより諸君らの隊長よりの封緘命令を開封する。これより諸君は個人単独において彼の手足となり、現状の打破の為、あらゆる軍事行動及びあらゆる超法規的な活動を許される。不肖、このベアトリックス・コンスターチが諸君らの隊長の代わりとして指揮を執る」

 

 その言葉に混乱を来たしていた者達が即座に手に取っていた小銃を降ろし、声のするエントランスへと向かった。

 

 あちこちのスピーカーに繋がるマイクを渡された彼女が毅然として語り出す。

 

「全館、傾聴せよ!! これより我ら連邦軍は人類の早急な救済の為、彼が残した情報の速やかな伝達を遂行せねばならない!! このような時!! 君達が理性的で合理的で軍人たる己を全うし、その全てを尽くして人々を救うであろうと確信した英雄が残した情報だ!! これから語られる事は全て彼が発見した事実であり、その伝達は人類救済の手段として長らく秘匿されてきた代物である!! 兵站部もただちに全部隊結集せよ!! 新型の小型電信設備及び情報伝達用の全物資を格納庫B-332より搬出!! 速やかに首都及び難民区画へ配布する!! これより全連邦軍への命令の伝達も併せて行う!! 行くぞ!! 我らは人類の盾にして剣!!! そして、全てを護り抜く砦也!!!」

 

 戦いを前に決然と吠える声が、世界に木霊した。

 

(始めますよ。カシゲェニシさん……せっかく六角だった新居を五角に削ってまで貯め込んだのです。今、使わねばいつ使うという事になるでしょう)

 

―――ごはんの国。

 

 パンの国と反目し合っていた国家の中枢。

 

 今、羅丈の多くが輸送機に乗って大陸南部へと向かってしまった今。

 

 残された国家の重鎮は今やこの国の表向きの代表たる男一人となっていた。

 

 鏡を見るまでも無く。

 

 世界に今、変革の時が訪れた事を知る彼は残った羅丈の見習い達を纏め上げ、同じ顔が並ぶ中で遥か月へと旅立っていった自らの半身の事を思う。

 

(お前ならば、ケロリとした顔をして……この有様に笑う事すら出来るのだろう。大事が起きる度に身を粉にして働いて来た貴様が背後にいない。それだけでこれだけの重圧を感じる……何と身も蓋も無い話だ……)

 

 男は自らに許された着物を纏い。

 

 地下格納庫に整列させた未だに事態が呑み込めていない者達を眼下に見て、拳を握った。

 

 悔しい程に見たくも無い書類がその手には握られている。

 もしもの時の為だと。

 

 そう、彼に盾突いてみせた子供とも思えた男から送られて来た代物だ。

 

 凡そ10通り。

 

 そう、この世が滅ぶ為の10通りの事件や状況への対処法が書かれてある。

 

 目を通した時は鼻で笑う事が出来た。

 

 だが、時が経てば、その不合理を取り沿いた先に見える書類に描かれていた対処方法には不都合な真実しか見えなくなった。

 

 ああ、まったく。

 

【世界滅亡回避マニュアル】

 

 馬鹿げた書類の名前に彼はソレを持つ自分を内心で嗤う。

 

 あの大地震と津波の時も……そして今も……それが国家を救ったというのは笑い話なのかもしれず。

 

 馬鹿な男の戯言だと己に言えなくなった彼はしかし、それでも……自らの矜持と国家を背負って起ち、口を開く。

 

 どのような状況だろうと本当のカリスマがあるならやってみせろと言わんばかりのマニュアル内容は徹底的に寡頭制を利用し、あらゆる独裁の手法を用いても、人の世を存続させるという、意志に満ちている。

 

 人の悪性を信じ、人の善性を馬車馬の如く使い倒して、国民を纏め上げる手法はきっと限りなく優しく傲慢だ。

 

 最後の最後の最後まで人命を諦めず。

 しかし、必要ならば、あっさりと見殺しにもする。

 人を扇動し、自ら動かせ、己の背中を見せて考えさせる。

 そんな単純極まる。

 

 本当に単純極まる統率方法は超人か天才くらいにしか勤まりはしまい。

 

 だが、それでもやるしかないのだ。

 彼が超人でも天才でも無い秀才にしか過ぎずとも。

 彼は王なのだから。

 

「これより公国は全人類救済の為、大連邦の一柱として動く!!! 総員、傾聴せよ!! 真実をその耳に刻み付け、人々を救うのだ!!! 己が誰かの英雄ならば、誰もがお前達の言葉に耳を傾けるだろう!!! この事態を我が名において収拾する!!! これは世を朽ちさせる滅びとの聖戦であるッッ!!!!」

 

 大号令と共に真実は語られ始める。

 戦いは始まったばかりであった。

 

―――塩の国。

 

「よく集まってくれた」

「その声は団長!?」

「団長!! 生きて、いらしたのですか!!?」

 

「何もかも投げ捨てたはずだった。何もかも……影の中で終えるはずだった……だが……今はそんなオレのちっぽけな信念など捨て置く!!! 我々は今、未曽有の危機に晒されているが、確かにまた誰かを救う事が出来るんだ!!! これは戦争だ!! 人々を破滅から救う為の!!! オレは帰って来た!! 今、この事態をどうにかしたい!! 己が不甲斐ないのは知っている!! 裏切り者だと罵ってくれていい!! だが、どうか!! どうか!!! 今はこの国を救う為に力を貸してくれないかッッッ!!!」

 

『了解致しましたッッ!!!!』

 

 塩の海の上。

 

「ならば―――塩砂騎士団全軍を招集せよ!!! これより我らの全力を以て、この混乱を収拾する!!!」

 

『オウッ!!!!』

 

 僅か20人にも満たない男達。

 

 もはや使う者がいないはずの符丁を商人達からこの大混乱の中で渡された男達は半信半疑ながらも集っていた。

 

 そこで見たのは己と同じ顔。

 だが、声だけは聴き間違えるはずがない。

 その長と仰いだ男の仕草を忘れるはずがない。

 

 男達は涙を零し、振り切り、敬礼し、全てを投げ捨てて、国を救おうとする若者を前にして再び散っていく。

 

「また、人の上に立つ事になるとは……あの野郎……こんなものをオレに送り付けてどういうつもりだ……だが、妹の故郷を今一度、オレの故郷を……救える手を残してくれた事だけは……感謝してやる」

 

 その手に握られた書類はまるで絵物語に出て来る馬鹿げた話だ。

 

 全てがIFで綴られたかのようにすら感じる代物だ。

 

 しかし、それでも今それを持つ多くの人々が大陸で戦っていると彼は知っている。

 

 そうだ。

 

 人を動かす事、自然と信用させる事、いつの間にか友になっている事。

 

 それをもしも言葉にするならば、カリスマなんて上等なものではないだろう。

 

 でも、確かに理解出来る……他者と関わる時、その男はきっといつでも冷静で真面目で傲慢で優しい……他者への限りない理解の上に立っているのだ。

 

「……早く帰って来い……お前らの子供を見るまで死ねるものかよ……サナリ……無事でいてくれ……」

 

 纏う外套の下。

 

 砂嵐と塩の礫が彫られた鎧を、その古びれた象徴を纏う男が一人歩き出した。

 

 ペロリストではなく。

 騎士団長が今、祖国へ舞い戻る。

 破滅の嵐に立ち向かう為に。

 祖国と妹の帰る街を護る為に。

 

―――豆の国。

 

 オルガン・ビーンズ。

 今、沿岸部難民の実に11%を受け入れている城砦都市国家群。

 嘗て、パンの国と敵対していたのも今は昔。

 

 再び、世界が混沌に陥った時、彼らが縋ったのは今の今まで求心力が低下し、もはや後は議会に全てを任せて退くという決定をしてそう経っていない元皇帝であった。

 

 多くの国民が貴族や下層民出の議員に未だ馴染んでいなかった上、大半が国家の象徴として議会を根本的に見れていなかった事は彼らにとって自身で思っていたよりも国家の長たる象徴が決して小さくないものであった事を示していた。

 

 例え、顔が同じでもその衣装と風格さえ解るならば、厳然として彼は皇帝であった。

 

 誰もが知る存在であり、誰もを導く指導者であった。

 

 人が人の形に見えなくなって初めて多くの国民と貴族達はその自分達の国家の拠り所に気付いたと言えるだろう。

 

 未だ混乱し、互いに傷付け合う争乱が至るところで発生していながら、連邦が用いた電信による音声のみの演説だけでも十分に効果はあった。

 

 今にも互いを恐怖から殺し合う寸前だった者達すら、そのスピーカーからの声に……一度しか聞いた事の無いはずの声であるはずなのに……誰の声なのかは分かったというのだから、それは指導者冥利に尽きる話なのかもしれない。

 

『―――我が民よ。今、互いに殺し合おうとする全ての同胞よ。我が声を聴き給え。我が願いを聞き給え。我ら城の民が幾星霜の日々を超え、共に隊伍を組んで戦って来た事は何故だったか。同じ顔をしているというのならば、それは我ら自身ではないか。我らは須らく1つの民であった。そう……違えし者も皆、この地においては等しく我が民であった。傍を見よ。親の顔を。伴侶の顔を。汝の隣人は汝の顔をしている……それの何が問題だと言うのか。今、正に子や親や伴侶や友人を打ち倒す事に比べれば、それの何が問題だと言うのか!! 我々は互いの手を取り合わなければ、明日にも死ぬ定めの国家では無かったか。我々は今日互いの背を預け合わねば、生き残って来れなかった国家では無かったか!! これが罰だと言うならば、我らが何の罪を犯したと言うのか!!!』

 

 男の声が、老人の声が朗々と響き。

 スピーカーはまるで古の預言者が今に蘇ったかの如く。

 厳かに人々の疑問と恐怖に冷や水を浴びせ掛ける。

 

 ハッと我に返った者達が自らの手に持つ農具や刃物を思わず取り落としていた。

 

「汝の傍にいる者に名を訊ねよ。それは人が持つ唯一にして無二の行いだ。汝は我が国家の民であり、異邦の民もまたこの国においては我が子である。皇帝の名において告げる。人々よ団結せよ!! 今、世に滅びが蔓延るならば、これは人の子が為すべき、己の手で滅ぼすべき、悪徳との最後の戦いである!!! この戦いに武器は要らぬ!!! 人々よ他が為に己の名を誇りと共に告げよ!! 我が―――」

 

 ゴボリと込み上げて来た血に咽て、男がマイクを片手に通信機の前で倒れる。

 

「陛下!!? 誰か医者を!!」

 

 すぐ傍の者達が慌てて救護する間も男は己の娘の姿を脳裏に留めながら、目を閉じて声を続けた。

 

「我が名を忘れても、人の世に汝の大切な者の名を響かせよ。その名を忘れぬ限り、その物の耳にいつか声は届くであろう。我が国に無上の栄光在れ!!!」

 

 薄らと消えていく意識の最中。

 皇帝は最期に夢を見る。

 それは我が子が何人もの孫を抱いて空を見上げ、微笑む姿。

 

(繋がっていけ……我が子ら在る限り、絆は途絶えず……パシフィカ……後は託す……どうか健やかに……夢の先を……子らと共に見続けて……く……れ………)

 

 遥か宙に浮かぶ船には祖国の旗と歓声を上げる家族達の姿があった。

 

―――醤の国-難民区画-。

 

 今、パンの国における難民の数%は魚醤連合の民であった。

 

 内陸国に喧嘩を打ってボロ負けした彼らは今や本当に全てを失ったと言える。

 

 沿岸の祖国は既にまた水没し、全てが破壊された。

 彼らの命綱であった船も今は一隻たりとも存在せず。

 

 人的被害が戦争や津波の被害を一身に受けた割りに少なかったのは彼らを沿岸部から避難させた元敵国のおかげでもあっただろう。

 

 艦隊が敗北した後に囚われていた海軍の軍人達の多くが祖国に戻っており、決死の避難を遣り遂げたが、その1割にも及ぶ人命が巨大な津波の中に消えた。

 

 そして、今……艦隊総司令だった男は一人。

 

 難民受け入れの大勢を整える為に元敵国の膝元で調整役として書類と部下から上がるあらゆる困難を前にして戦い続けていた。

 

 この現状を何とか収拾する為、演説に向けて電信設備の用意が整うまでの間の僅かな時間を使って休息していた。

 

 その手には確かに会った事の無い男から届いたマニュアルが握られている。

 

 横では何処か詰まらなそうな顔をしている彼と同じ顔の娘が一人。

 

「………フン。あんな国、滅んで清々したわ」

「そうか」

 

 数年ぶりに海賊の下から帰って来た姉妹の片割れ。

 

 彼が最後には生贄の風習から護り切れなかった少女はジロリと片腕が義手の父を見上げる。

 

「全部、波に呑まれて消えたんですって? 報いよ!! こんなところに押し込められて愚痴ってる連中も皆死ねばいい!!」

 

「そうか」

 

 娘の罵詈雑言に男はそう言った。

 

「ッ―――何とか言ってみなさいよ!! 無謀な作戦で艦隊の人間を無用に死なせた無様な総司令官さん?」

 

「事実だ……」

 

 その嘲りと侮蔑を受けても男はただそう呟く。

 

「そうやって肯定してればいいと思ってるの!? 何とか言ったらどうなのよ!! 何なら、今外で行われてるみたいに私を殺せばいいじゃない。私、こんなところに押し込められて生きていたくなんて無いわ!! 死んだ方がよっぽどマ――」

 

 男の生身の片手が娘の頬を打っていた。

 

「―――やっぱり、あの国の人間は死んだ方がいいわね!! 私も死んだ方が良かった。そう出来たなら、こんなに苦しくなんてなかっ―――?!!」

 

 顔を俯けて涙を零した娘が男を睨み付けようと顔を上げて、言葉を失う。

 

 目の前の男が、祖国において海の男の中の男と言われた豪傑と謳われた男が、恥も外聞も無く。

 

 ボロボロと涙を流して顔を歪めていた。

 

「……死ぬな。お前を差し出した父を恨むのは当然だ。それでいい。祖国を恨むのも正当だ。だが、死ぬな……もう死なんでくれ……」

 

「なッ、によ?!! 今更ッ、今更ッ!!?」

 

「娘を二度死なせて嬉しい親などいるものか!!? 娘をッ、娘をもう一度失いたい親などいるものか!! お前に殺されるなら本望だ!! お前に殺されるなら納得もしよう!! だが、もう死なんでくれ……」

 

「なら、何であの時、私を見殺しにしたのよ!! 何で!!! 本当はッ、本当はお姉ちゃんが生贄になるはずだったじゃない!!!?」

 

「―――お前に……お前より過酷な人生を歩むと決めたあの子のような事にはなって欲しく無かった……お前はきっとあの子よりも繊細で壊れてしまうと……オレは―――ッ!!!」

 

 ガンッと男が床に拳を叩き付ける。

 

「な、何よ!? ベラリオーネの方が不幸だとでも言いたいの!!?」

「あの時……我が家は人柱を3人要求されていた」

 

「なッ、やっぱり、お姉ちゃんだけ―――自分にしてくれって、自分を助けてくれってあの時言ってた通りじゃない!!? それに三人てどういう事よ!? まさか、ベルグも!?」

 

「違うッ!! 違うのだ!! あの時、あの子は最初から犠牲になるつもりだった!! それに生贄は娘と決められていた……だから、ベラリオーネは自分と娘を―――あの子は自分が産んだ子と共に自分も生贄になると決めていた―――」

 

「――――――」

 

 時が止まったかのような錯覚にその場の誰もが陥る。

 しかし、無慈悲にも時間は流れ。

 喉の干上がった。

 信じられないという顔の少女が呆然とした顔で呟く

 

「……な、何よ。何よソレ……そんなの!? そんなの誰が決めたって言うのよ!!?」

 

「もういない。強硬派の中でも西部と繋がっていた者達だ」

「じゃ、じゃぁ……」

 

「あの子は祖国の為に身を捧げた。オレには彼らからお前達を護る力が無かった。今まで指導層の中から慣習として生贄を選んできたのだ。何処の家もそれは一緒だった……自分の番だからと投げ出せば、我々は国を追われていた……」

 

 国家を追われる。

 

 それはつまり自分達の耐性食料の確保が不可能になることを意味する。

 

「何よ。何なのよソレ……」

 

「家々の中には養女を迎えて生贄に出していた者達もいた……だが、あの子は自分と自分の娘がその役を背負うと。背負って見せると……」

 

「嘘……嘘ッ!?」

 

「だからこそ、あの子は……祖国の為に人一倍戦っていたんだ……お前が死んだと言われた日から……ずっとだ……もう妹のような子を出して、誰かの家族にこんな思いはさせたくないと……そう、そう言って……いつか、己の子を……望まぬ誰かの子を身籠り……産み……己と共に生贄に捧げる日が来ると……そう知っていながら……より過酷な道を選んで……『わたくしにして下さい』と……いつか、あの子と自分とこれから生まれて来る娘のような子が出ない国にして欲しいと……そう、言っていたんだ……」

 

 力なく男が両膝を突いた。

 少女は項垂れていた。

 

 エシオレーネ・シーレーンはまるで何もかもが抜け落ちたかのような顔でいつの間にか自分が涙を流している事すら知らず、ペタンと椅子に腰を落とした。

 

「何よ……それ……じゃあ……じゃあ、お姉ちゃんは……最初から……」

 

「オレには謝る事しか出来ない。だが、娘を……失ったはずのお前を……もう一度失うくらいなら、オレはオレの命を掛けて止める……あの子がお前を連れて来てくれた時にそう決めた……例え、祖国が無くなっても……もうお前達を……死なせなどしないとッッ」

 

 白くなる拳を震えながら引き上げて、男が片手で顔を覆った。

 その血が床に染みを作る。

 

『父さ~ん!! 係の人が呼んでるよ~」

 

 息子の声に我に返った男が起ち上って、傍にある化粧台の上に置いていた軍帽を深く被った。

 

「もう時間だ……この話についてベルグは何も知らん。あの子が大人になるまでは伝えずにいて欲しい。行ってくる……また、話そう。エシオレーネ」

 

 男は血の出た片手をテーブル上の布きんで、両目を拳で拭い。

 

「すぐに行く!!」

 

 そう言って、部屋から出ていく。

 

「ぁ、ちい姉ーさん。此処にいたんだ。どうかしたの?」

 

 半開きの扉から少女と同じ顔の少年がヒョコリと顔を出した。

 

「………あっち行って」

 

 顔を伏せた少女はそう呟く。

 

「えぇ!? この状況でそんな事言われるとは思ってなかったんだけど!?」

 

「いいから、行け!!」

 

「しょうがないなぁ。あ、姉さんは今、仕事であちこちの混乱を治めてくるってさ。危ないからちい姉さんは此処にいてって」

 

「何で……あんな事があったのに……」

 

「あんな事? いや、こんな事になったのには驚いたけど、僕ら家族って結構凄くない? だって、顔が変わっても皆が皆、自分の家族の事、一目で見て分かったじゃない」

 

「ッ」

 

「僕さ。難民生活にある程度の目途が付いたら、エービット教授のところに行こうと思ってるんだ」

 

「何を……今、そんな話したって……これから死ぬかもしれないのに……」

 

「あはは、そうかも。でも、姉さんが行ってたよ。カシゲェニシが戦ってるって。あの人が戦ってくれてる限り、自分が諦めるわけにはいかないって……前はさ……男なんて誰でも一緒なんて言ってたのに……今じゃ前より明るくなって、いっつもあの人の事話してるんだよね」

 

「………」

 

 今さっき父親から聞いた言葉が少女の中でリフレインする。

 自分の人生を諦めても妹と祖国の為にと戦ってきた姉。

 

 その少しだけ変わった今に彼女はいつもただ罵詈雑言と憎悪の言葉を吐き続けるだけだった。

 

 それに……ごめんなさいとしか謝らない姉に……憎悪を滾らせ、どんな刃よりも重い言葉を投げたか。

 

 彼女は幾らでもそれを思い出す事が出来た。

 

 それでも……姉が笑顔を見せてくれた事が、どれだけ……どれだけの想いであったのか。

 

 過去の事を何も喋らず。

 その憎悪の全てを受け止めた姉に妹は今思う。

 

(敵わないなぁ……昔から、お姉ちゃんには……)

 

 姉の事を少しでも彼女が慮った事は無かった。

 そう、無かったのだ。

 

「……ッ………ッ」

「え、あ、あの? ちぃ姉、さん?」

 

 ポロポロと零れる涙に弟はオロオロし始める。

 

「な、泣いてる? ええ、ええぇえ!? ちょ、僕何か言った? あ、まさか、ちい姉さんもカシゲェニシに気があったとか!!? ちょ、マズイよソレ!? ただでさえ、今、姉さんはカシゲェニシの愛人になる方法とかマジで考えてるんだから。姉妹で一人の男を奪い合う骨肉の争いはさすがに勘べ―――」

 

 ゴインと少年の額に傍に会った本が投げ付けられた。

 

「違うわよッ!! 馬鹿!! 馬鹿ベルグ!!」

 

「い、いた、痛いって!? 分かった!? 分かったから物投げないでよ!? お、お邪魔しました~~!! あ、夕食は牛肉のシチューだって!! 何だか食料配布の方法が変わったって聞いたよ。後で一緒に取りに行こう!! じゃ、じゃあ!!」

 

 逃げていく弟の足音を聞きながら、少女は思う。

 自分は恵まれているのだろうかと。

 

 あのシンウンから船からの下船を言い渡された時、もうこの世の終わりだと思った事も今は何処かちっぽけに思えた。

 

「まだ、終わりたくないよ……まだ、お姉ちゃんに私……謝ってない……」

 

 今、世界の命運を掛けて戦う者達がいる事を彼女は知っている。

 

 しかし、そこに自分がいない事は良かったのかもしれないとも思うのだ。

 

 いつも何処か死に場所を求めていた。

 

 そんな自分ではきっと足手まといにしかならなかったはずだから。

 

「……あいつ……あの男……カシゲェニシ・ド・オリーブ……お姉ちゃんを泣かせたら……承知しないんだから……馬鹿……馬鹿……私の……馬鹿野郎……ッ」

 

 自責など今更何の役にも立たないと彼女は知っている。

 だから、もう出来る事など1つしかなかった。

 

「………海神よ……どうか、みんなを……私の家族をッ……蒼き瞳の英雄をッッ……どうか御守り下さい―――どうか、どうか、そのご加護をッッッ―――」

 

 祖国の神に少女は初めて祈る。

 それはきっと何よりも純粋な感情に他ならない。

 

 世界にまだ希望があると知った少女の物語(みらい)は此処から始まるに違いなく。

 

 その傍にはきっと彼女の家族と家族になるかもしれない男が一人いるのだ。

 

 それは悪夢から醒めた彼女の貴き願いに違いなかった。

 

―――カレーの国。

 

「陛下。北西部の21%の国民が徒歩でガラムマサラに向かっております。此処は一端、ガラムマサラ内の物流業者を一端止めてでもピストン輸送するべきかと当方は愚行致します」

 

 常のキセルも今は傍に無く。

 軍服を来た妙齢の女が一人。

 

 猫の手も借りたいと引っ張り出された先で皇帝の手足として働いていた。

 

『うむ。許す。全権をそなたに預けよう』

 

 チンッと複数の黒電話の内の1つが置かれる。

 今、皇帝の宮殿内には無数の線が走り回っていた。

 それら全てが電信の回線だ。

 

 連邦の軍用端末は今現在、最優先の命令系統に用いられており、国内での避難などに関連した業務は全て宮殿域の簡易CPによって賄われている。

 

 ポ連軍への牽制と観測用の部隊が複数隊編成されて出立したのが数時間前。

 

 そして、突如として空に黒い柱か傘かという異常な代物が開いて上空がオカシな具合に七色と染まり、突如として人間が人間に見えなくなるという事態が発生したのが一時間前。

 

 混乱のどん底にありながらもカレー帝国の軍は皇帝の命令によって事態の速やかな沈静化を図り、即時指揮統制を幾らか回復しようと躍起になっている。

 

 混乱を治めながら、全てはポ連兵による遺跡の力による幻であるとの発表を以て、通常以上に忙しい軍の再編を行い続けていた。

 

 軍司令部ですらその有様なのだ。

 

 少しでも負担を減らす為にパンクし掛けていた業務を宮殿側で幾つか引き取ったのは英断であっただろう。

 

 動きは多少鈍くならざるを得ないが、業務が溜まり続けて機能不全に陥るよりはマシだろう。

 

「そちらの業務は商会に委託しなさい!! 傷痍軍人達には市内のパトロールと巡回をやらせて!! 彼らなら逆に誰にも間違われないでしょう!!」

 

 次々に指令を飛ばしている女傑は今は何処かにいる主の事を頭の片隅に置きながらも連邦側からの情報に極めて今の状況では部隊を編制するのも難しいだろうと唇を噛んでいた。

 

 何とかポ連への反攻部隊を送りたいのは山々だが、それにしても今現在の混乱の収拾は一週間でも不可能かもしれないと理解もしていたのだ。

 

(マズイ……当方と陛下の決済でも追い付かなくなってきている。他方の軍閥も今は兵を宥めるのに手一杯。クラン様……申し訳ありません。あの方を支援出来る位置にいながら……ッ)

 

 妙齢の女傑は膝は折れずとも、確かに脳裏の計算が間に合わない事を理解する。

 

 ただでさえ、今現在のカレー帝国は一枚岩には程遠いのだ。

 

 香料選定公家の名家が実質的に1つ潰れた余波はかなり大きい。

 

 だからと言って、音を上げる事は無いが、各軍閥や派閥への根回しや混乱の収拾に手間取る今、やれる事には限りがあった。

 

「閣下にお目通りしたいという方が来ております!!」

「何? 今、当方は手一杯ですよ!! お帰り願いなさい!!」

 

 部下からの声にそう返したのも束の間。

 

「そ、それが……」

 

『こ、困ります!! 困ります!! 殿下!!』

 

 バンッと電信の線が切れそうな勢いで扉が開いた。

 

「まさか?! ファシアテ・バジル!? それにフルマニ殿下!?」

 

「フルマニ殿下!! 困ります!!」

 

 お付きの者が恐々と制止しようとしたが、それを片手で止めた女傑は、ファーン・カルダモンは本来蟄居処分となっていた男達を前に困惑の表情を浮かべた。

 

「一体、何の御用でしょうか? そもそも貴方達が離宮から出る事は禁止されていたはずですが……」

 

「ファシアテと一瞬で理解するとは……そなたの聡明さはあの頃から寸分と変わっておらぬのだな……」

 

 フルマニが同じ顔をしていながら、即座に言い当てたファーンを称賛する。

 

 その言葉にファシアテがすっかりと老け込んだ様子で罰が悪そうな顔で視線を逸らした。

 

「ファーン。私は決して良い兄では無かった。ファシアテの傀儡となった時から、きっと卑怯者で臆病者だったのだろう……だが、妹が……グランメが……父に嘆願してくれたのだ……それで少しだけ目が覚めた気がする」

 

「嘆願? 初めて聞きました。それは一体どのような……」

 

 ファシアテがスッと渋々ながらもファーンに手紙を差し出す。

 

「皇帝陛下から直接渡されたものです」

 

 今やバジル家の権力は地に落ち、他の家がその殆どの業務を引き継いでいる。

 

 地位はそのままだが、事実上の幽閉で脂ぎっていた男は今や覇気が抜けたように痩せ細って見えるだろう。

 

「拝見します………………クラン様…………御立派になられましたね」

 

 嬉しくも少し複雑に彼女は自らの主の甘さと優しさの象徴たる手紙をそっと元の封筒に戻した。

 

「結婚を期に恩赦を……そう、あの方は陛下に手紙を出された。ワシは……もう政局に負けた身だ。バジル家の者も今は閑職に飛ばされ、地位も資産も我が手には無い。誰がそんな老いぼれに恩赦をッ、皇帝陛下に嘆願するというのだ!! ワシは今まで幾らでも人を謀り、人を虐げて来た!! それが当然だと思ってさえいた!! だが、どうだ!! 何もかもに負けて!! 何もかもを失って!! それで付いて来てくれる者など一人も無かった!! 息子も孫も嫁も誰もだ!!」

 

 己に言い聞かせるように激する壮年。

 

 いや、老人と言っていいかもしれない男は暴発した想いのまま、俯く。

 

「ワシを許さん者は幾らでもいるだろう。ワシを殺したい奴は五万といるだろう。だが、その筆頭であるはずの小娘が―――小娘だけがッ……ワシの命乞いをすると言うのだ。今、全てを得たはずの小娘が……ワシに恨みしかないはずの小娘が……命乞いを……ぅう……ワシは悪人だぞ!! ワシはッ!!!」

 

 涙を滲ませて。

 震える拳が断固として白く。

 

「ファーン・カルダモン。ワシはバジル家を滅ぼした貴様を決して、決して許さん!! だが、決して………決して……この生涯の恩を忘れん……忘れられるはずもない……ワシが敗北した者達にしてきた事を思えば……そのような事……出来るはずがないではないか……」

 

 枯れ木のようにも見える両の手が拳を握り、ドカリと膝を折った男が拳を床にして土下座する。

 

「ワシを使えッ!!! お前を殺そうとしたワシをッッ!! 今は例え、罪人の手でも必要としていよう!!! 何もかもが滅ばなかったなら、投獄するなり、暗殺するなり、好きにするがいい!! だがッ!! だが、今はッッ!!! あの方の為にこの老骨に―――仕事をさせてはくれまいか!!!!」

 

 それは男の生き様だった。

 

「フルマニ殿下」

 

 ファーンが少しだけ困った顔でその横に視線を向ける。

 

「もう殿下は止してくれ。皇籍を剥奪されていなくとも、もはや芽は無い。故に昔のようにあの子と遊んでいた時に呼んでくれた時のように……フルマニ様でいい」

 

 よく見れば、二人の身体のあちこちには擦り傷が出来ていた。

 

 離宮から宮殿内部までどのようにやってきたのか。

 それだけで分かりそうなものだろう。

 

「……解りました。お二人とも顔を上げて下さい。私はクラン様を害そうした者を許す気はありません。ですが、だからと言って……今、この国家……いえ、この星の破滅を前にして立ち上がろうという同志を……無碍にする気もありません」

 

「ファーン。では?」

 

 フルマニに彼女は頷く。

 

「今現在の詳しい状況をお教えしましょう。ファシアテ翁。貴方は物流に付いて我々よりも詳しいはずです。北西部のポ連が大規模な作戦を継続している今、避難民達が窮地に陥っている。彼らを救う為、今こそ貴方の力を貸して欲しい。貴方に北西部の民の命を輸送する任務……預けても構いませんか?」

 

「―――この身が砕け散ろうとも必ず成し遂げて見せよう!!!」

 

 男が起ち上る。

 

 その身体は細くなってもまた覇気漲る者は確かに帝国の一部を担っていた当時よりも尚強く眼光を鋭くした。

 

「結構。今から関係各所に書簡を回します。フルマニで―――フルマニ様」

 

「何なりと言ってくれ」

 

「ご兄弟のところを回り、一時的でいいのでこの一件が終わるまで全ての所管する機関や組織を私の命令で動く様一元化して頂きたい。陛下の手が回り切らない場所を全て書き出しておきます。この混乱の最中、暴漢に襲われるかもしれませんが、お付け出来る戦力は数人のみ。危険ですが、やって頂けますか?」

 

「無論だ。これであの子に償えるとは思わない。だが、いつか……いつかあの子が帰って来る国を、来れる国を……残してやりたい。確かに承った!!」

 

「では、仕事を再開します。我ら生まれた時も場所も家すら違えど、それでも今は同志としてこの破滅に身を抗わせましょう」

 

「うむ」

「ああ」

 

 三人の憲臣を下に今、帝国が起ち上る。

 

 それは星すら消え失せる可能性を前にしては小さな灯に違いなかったが、人が分かり合う時、また大きな力になるという真実でもあっただろう。

 

 事実だけを述べるならば、当初一週間は掛かるだろうと言われた避難は……連邦からの支援や天海の階箸の工作機械が道を作るなどの様々な要素が絡み合っていたとはいえ、それでも奇蹟的に2日で為される事となったのだった。

 

―――天海の階箸-イグゼリア・アルカディアンズ-

 

「エミ様。いえ、カシゲェニシ様のお声が聞こえなくなって数時間。何とかポ連兵を追い返しましたが、あの黒い瓢《ひさご》の出現以降という事は恐らく、あちらに致命的な何かが起きていると考えるのが妥当でしょう」

 

「そうですね……恐らくは今、鳴かぬ鳩会側で大きな異変が起きたせいであちらの統制が取れなくなったと観るのが良いでしょうか」

 

「カシゲェニシ様が暴れているか。もしくは孤立無援で戦っているか。どちらにしても、あの状態です……それなのに我々を助けて下さった事には感謝しなければ、何とか御力になれればいいのですが、今の天海の階箸の状態では……」

 

 三人の少女達がポ連軍の撃退後。

 最も最下層に位置する市街地区画へと入ったのは三時間前。

 

 奇蹟のような薬に食料と水を出してくれる玉という極めて魔法のようにも思えるソレの恩恵で何とか彼らバレルは一息付く事が出来ていた。

 

 幸いにして死傷者は最初の襲撃時に確認出来ていなかった遺体のみで殆ど人的被害は無かった。

 

 また、重軽症者も饅頭のような薬で治った為、今は体力を回復させたいところを誰もが働きに出ている。

 

 多くの男ノ娘達もまた赤子や自分達の子供の不安を和らげるのに精一杯の有様であり、ようやく彼らは一息吐いたところと言えた。

 

 しかしながら、船の中枢システムが消えた今、全ての船のブロックは人力のオフラインで稼働させねばならず。

 

 どうなっているのかをまったくそうした張本人に聴く前に事態が動いてしまった為、今は無事な者達が数百kmにも及ぶあちこちのブロックを総点検している最中。

 

 再びの侵攻へは200人近い男達が貰った照準用の銃を持ったまま、市街地ブロックの端で見張りに付いていた。

 

 辛うじて生産プラントの類は神の画によって地殻内部のマグマからのエネルギーで通電しており、動かせそうとう事は分かったものの。

 

 元々の本拠地から持って来た兵器類はほぼ隔離用の倉庫に入っていて開かずに全滅の憂き目に合っており。

 

 ついでに工作機械関係の重機は大陸東に全て出払っている為、再度生産プラントを稼働させねば使用も出来そうに無かった。

 

「とにかく今は工作重機の生産と周囲をソレで工事し、次の襲撃までに陣地を固める事が先決です」

 

 彼女達三人がいるのは最下層の市街地区画の外縁にあるテラス席だった。

 

 椅子を内部から持ってきて、1つのテーブルを囲んでお茶の最中である。

 

 その横には山積みになった重火器類と弾薬の箱。

 また、バレル時代からの精鋭が市街地戦にも対応するべく。

 マッピングを行いながら、あちこちと連絡を取り合い。

 

 もしもの時のポ連からの制圧部隊撃退に向けて作戦を練っている。

 

 今現在はお祈り云々している場合ではないと多くの宗派がただ生き残る為に効率的な行動を心掛けていた。

 

 幸いにして彼らの最大の懸案であった子供や赤子達の無事は確保してある。

 

 彼らが死んだとしても、最後まで生き残れるよう一部の大人達を連れて封鎖出来る区画内のシェルターに入った為、しばらく顔を合わせる事も無いだろう。

 

「上が不在の二派閥も今はマックスウェル様が取り仕切ってくれているから何とかなりましたが、他の三派閥は打って出る為に兵器類を最優先にするべきではという意見です」

 

「それは一理ありますが、まずは持久戦の準備が必要でしょう。大陸には今も天変地異が起こり続けてますし、ポ連側が鳴かぬ鳩会の頚城を脱して暴走する事も考えられる。連邦軍が此処に終結するまでにはまだ時間も掛かるでしょうし、今はとにかく次のアクションまでの準備ともしもの時の備えを」

 

「そうですね。アンジュ様とクシャナ様が戻った時、家が無く成っていたら困りますしね」

 

 詳細を詰めていく彼女達の姿は傍目からは為政者然として見えないが、その手元にある資料を見れば、バレルの政治指導層である事がよく分かるだろう。

 

 他の男ノ娘達もまた各地で男達の指揮に当たっている為、観る者が見れば、きっとフェミニズム極まる世界の住人に見えるかもしれない。

 

 男だという事実を知らなければ、誰も彼女達を男だとは疑いもしない。

 

 実際、イグゼリア・アルカディアンズが外に出ると男ノ娘達が指導層をしている時点でカワイイカワイイの大合唱が外の女性陣からは起こり、すぐに女としての付き合いを求める人々で埋まる程なのだ。

 

 別に性別に付いて何かを言う事の無い男ノ娘達が男達に全幅の信頼を置いている姿は大陸の女性達に男と女の信頼関係として極めてよろしく見えた。

 

 上に立ちながらも男と共に歩む姿が健全+女性運動の未来と見えたのである。

 

 まぁ、全ては彼女達の幻想に過ぎなかったし、男ノ娘だと知って衝撃を受け、呆然自失になった挙句……いや、これはこれで良いものねという者もいたりしたが。

 

「連邦側からの連絡が入りました。再編するのは大変なので未編成のままこちらに軍を寄越すそうです。到達までに彼らの仕事と配置を決めて欲しいと」

 

「未編成のまま、ですか……仕方ありませんね。時間が惜しいのは分かります。では、こちらの裁量である程度はやりましょう。どうなるにしろ。軍の最精鋭を送るのは確定的ですし、恐らく少人数が望ましいでしょう。下手に大軍を送ると途中で全滅させられる可能性も高い……此処は中部のポ連陣地と鳴かぬ鳩会のあの移動拠点、二つを叩く為にも部隊を分けましょう。残りは此処を拠点として食料と医薬品以外の生産物を東側諸国に運ぶ兵站に回すというのでは?」

 

「いいと思います。今、各地で工事用の工作機械が足りないという話ですし、連邦が使っている輸送機の部品も不足し始めているとの話……空輸が途切れたらまたあちこちで問題になるのは目に見えてますし」

 

「おや? 第一陣でしょうか。連邦の輸送機が着陸許可を求めてます」

 

「早いですね。いえ、各地に散らばった連邦軍をこちらに集めているのならば、首都からとは限らないのでしょうか……」

 

「恐らく兵站関係の人間でしょう。連邦側は空輸であちこちに人材を回して何とか事態に対処していますし、編成を手伝わせるというなら、軍全体の物資関連に詳しい人間が送られてくるはず……」

 

「着陸を許可します」

 

 すぐに彼女達にも遠目で輸送機が見え始めていた。

 すぐ傍にある複数の滑走路に着陸したかと思うと。

 止まった瞬間から後部ハッチが開き。

 

 慌ただしく兵隊達が車両で飛び出し、天海の階箸の扉へと向かってくる。

 

 それから十数分後。

 

 身体検査を受けた者達が市街地区画へと上がって来て、今現在連邦との窓口となっているマックウェルの腹心の部下という事になっている三人娘の前にやってきた。

 

「ごパン大連邦首都中央特化大連隊兵站部門第一機甲輸送連隊連隊長アルスカヤ・ベーグル大佐であります。ベアトリックス閣下からの命により出頭致しました」

 

「同隊で副官をしているアスターシア少佐であります」

「此処までありがとうございました」

 

 四枚目くらいのヘラヘラした笑みが似合いそうな男は今、至極真面目な顔で挨拶し、中隊長の頃から変わらず彼の下で働く副官アスターシアもまた佐官級になりながらも決して態度が大きくなっている事もなく。

 

 ビシッと敬礼し、状況がまったく安心出来るものではないという事実を知ってか。

 

 顔を堅くして、現在のアルカディアンズの代表代理という事になっている三人に向かい合った。

 

「誘導ご苦労様でした。ユースケさん」

 

「周辺偵察任務は一時的に解除します。マックスウェル様からは貴方をアルカディアンズの主攻部隊の隊長にとの話ですから」

 

「此処で聞いて行って下さい」

「分かりました」

 

 元々は神道の区域を統合で守っていた男ユースケ・ベイ・カロッゾは今現在、倉庫の奥から引っ張り出して来たイグゼリオン似のアーマー型スーツを着込み。

 

 顔だけを出していた。

 

 腰掛ける椅子が存在しない為、直立不動のまま話を聞く姿勢となる。

 

「さて、本来ならばマックスウェル様と他の宗派のトップの方々に御越し頂くところですが、全権は我々が預かっています。我々の名前は今は三柱(みはしら)と呼んで下さい。誰に対してもこれで良いですので」

 

「では、ミハシラ殿と呼べばいいでしょうか?」

「ええ」

「それで」

「構いません。アルスカヤ連隊長」

 

 三人が周囲の虚空に大陸の地図と現状の情報を書き込んだ地図を展開する。

 

「さて、まず今現在の要点をお話します。連邦もご存じでしょうが、カシゲェニシ様が音頭を取って、今現在連邦の各地から反攻作戦の為の戦力が今現在この天海の階箸に向けて移動中です」

 

「ですが、連邦軍へ報告した通り。ポ連とその背後にいる鳴かぬ鳩会にカシゲェニシ様が囚われ、それでも指揮して下さったおかげで途中でアルカディアンズが階箸を奪回。鳴かぬ鳩会側からの号令が恐らく解けて、ポ連兵の指揮統制が低下。あちらは階箸を途中で諦めて、中部方面に撤退。今現在は階箸から120km地点で散開しています」

 

「大陸北部の荒野地帯。つまり、ポ連軍の後方付近であの黒い瓢が現れた事が奪還を諦めた間接的な要因でしょう。鳴かぬ鳩会側は今回、航空移動拠点を用いており、それで巡行速度が極めて高い」

 

「あちらはポ連の戦線後方で連れ去ったカシゲェニシ様に対して何かをしようとしていたと推測されます」

 

「何か、とは?」

 

 そこでアルスカヤが訊ねる。

 

「あの方の身体は純粋に過去の歴史のあらゆる技術を用いて生み出された代物。旧時代の人類にとっての最高傑作。そして、現代においてはオーバーテクノロジーの塊です。無論、その精神や命はそれだけで過去の時代を知る貴重な人格であり、彼自身がこの世界で行ってきた様々な行動によって大きな価値を持つようにもなった」

 

「分かりますか? 何かとはつまり……全ての可能性という事です」

 

「彼は身体を弄繰り回されているのかもしれないし、情報を吸い出されているかもしれない。あるいは技術を解析する為に切り刻まれていてもおかしくない」

 

「……一応、面識がある人間として、それはまぁ同意しましょう。カシゲェニシ・ド・オリーブに付いての詳しい情報は連邦内でも最重要機密だが、ベアトリックス閣下より開示されてもいる」

 

 アルスカヤが三人の言葉に理解を示した。

 

「そうですか。ならば、分かりますね? 一刻も早く取り返すべきです。それはポ連戦線よりも大局的には重要でしょう」

 

「な!? 一個人が戦線の動向よりもですか?!」

 

 さすがに驚いた顔になる副官に彼女達は苦笑する。

 

「連邦側にもカシゲェニシ様が教えていない様々な情報があります。そして、貴方達にも開示されていない情報も幾らか存在するでしょう。ただ、人類の生存に関してのみ言うならば、彼さえ生き残っていれば、()()()()()()()()は可能です。それはこの天海の階箸のみならず、今現在大陸に残る数多くの遺跡において彼が最も上位の権利を有している事からも明白です。空飛ぶ麺類教団の前身機関である委員会。人類が大戦と呼ばれる戦争において敵対していた者達の最高権限を有しているのですから、当たり前と言えるでしょう」

 

「ラスト・バイオレット権限、でしたか?」

 

 アルスカヤへ三人が同時に頷く。

 アスターシアが唖然とした様子になった。

 さすがにそこまでは教えられていなかったのだ。

 

「言っておきますが、ポ連と連邦の戦争は確かに大事ではありますが、彼の肉体や権利が勝手に誰かに弄繰り回されるよりも大事ではありません」

 

「もし、彼の権限が悪意ある者に渡れば、文字通りの意味でこの星が滅びます」

 

「それはこの天海の階箸も同様。それを見起してか。我々を救う際にあの方はこの船の制御中枢を破壊し、システムを外壁のみに絞り、それも外部からの干渉を遮断するクローズドに変更して自分の操作でも恐らくかなりの時間が無ければ、使えないようにしたと思われます」

 

「船? この遺跡は船だったのか……」

 

 さすがにアルスカヤも驚く。

 

「ええ、元々は星の海を征く為のものだそうです」

 

 もはやアスターシアはポカーンとしている。

 それもそうだろう。

 いきなり、話の規模が倍々で大きくなっていっているのだ。

 

「制御中枢機構が存在しない為、現在は本当に塔としてしか使えませんが」

 

「今は置いておきましょう。とにかく、彼が鳴かぬ鳩会に拉致された事が痛過ぎます。ですが、あちらで何が起こっているにしても、鳴かぬ鳩会は統制を失っている」

 

「その理由は十中八九、タイミング的にはあの瓢のせいでしょう」

 

「ですが、アレを今のところ真直で観測する術がありません」

 

「航空機による偵察は?」

 

 単純な疑問にアルスカヤが訊ねる。

 

「今現在、ポ連側が大陸中部に敷いている対空陣地を固める装備は本来が過去の大戦において用いていたものであり、大陸北部から南部に掛けてはすっぽり攻撃範囲に収まっています」

 

「そんな!? 今も連邦の航空機は飛んでいるのですよ!? 何かの間違いではないのですか!!?」

 

 アスターシアがそう食って掛かる。

 

「ポ連側の後ろにいる鳴かぬ鳩会とて弾薬は惜しみます。何も出来ない羽虫に構う必要性を感じないのでしょう。自分達を脅かさない限りは何もしてこないだけです」

 

「は、羽虫……ッ」

 

「あちらとこちらの技術格差はその程度では収まり切りませんよ? あっちは電子戦において我々を遥かに凌駕している。高度な電子兵装や通信装置、レーダーを持つ兵器。つまり、連邦軍が我々から使い方を習っていた兵器の大半も使用不能にしようと思えば可能でしょう」

 

「つ、つまり……我々はポ連側に手も足も出ないと?」

 

 アスターシアの顔が引き攣る。

 

「いいえ、手と足どころか全身くまなく何一つ出ませんね」

「―――ッ」

 

「だから、良いのです。連邦は未だその大半が人力で電子兵装とは程遠い機械化部隊が最新というのが本当に奇蹟的なくらい良い」

 

「ああ、そういう……」

 

 ピンと来たアルスカヤが現状の自分達のやるべき事をその言葉で把握した。

 

「あの黒い瓢は半径100m程の太さを持っており、横に広く拡大するのは高度200000m辺りからと推測されます。その高度に到達して確認する術が今のところ存在しません」

 

「この塔はその倍以上の長さがありますが、上層部には様々な兵器類や危険な遺跡が幾つかあり、それを外部からの干渉に晒さない為、あの方が封印してしまいました。途中で道が寸断されており、今の我々では手出し出来ない」

 

「此処に至っては正しく。アルカディアンズは無力です」

「つまりは……」

「我々連邦軍が鍵、なのですね?」

 

 アルカスカヤとアスターシアの言葉に三人の頷きが返る。

 

「その通りです。人知を超えた力は使えない」

 

「ですが、連邦軍による進撃によって、ポ連兵を退ける事が出来れば、あの瓢の下まで到達出来るかもしれない」

 

「それで何が出来るかと言えば、出来ない可能性もありますが、アレが危険なものなのかどうかすら分からない」

 

「ですが、地球規模の争乱を引き起す引き金になった以上は調べるべきです。あれがあの方と関係している可能性は非常に高いと推測します」

 

「……アスターシア少佐。どうやら、オレ達は逃げられないようだ」

 

「はぁぁ……逃げる気だったのですか?」

「いやぁ、オジサンこれでも命は惜しいんだ。新婚だし」

 

「あの化け物だ殺せ的な混乱の中でのほほんとお茶啜ってただけはありますね」

 

「あはは、そんな褒めても何も出ないよ?」

「褒めてません」

 

 2人の遣り取りに三人が苦笑した。

 

「天海の階箸の航空機も中身が電子部品にプログラムが使われている為、使えません。作戦の殆どは全て陸上戦力によって賄われるとお考えを」

 

「そこでにはお二人の連隊には連邦の兵站の全てを担って頂きます。今回の作戦は既に基礎的な部分は考えてあります。基本的には3段構えとなるでしょう」

 

「ポ連と連邦の戦線には囮役となってもらう事となる」

 

「大陸中央の対空陣地の無力化後、少人数の精鋭によって連邦製の原始的な航空機で超低空飛行。大陸北部の戦線の裏に侵入。鳴かぬ鳩会の航空移動拠点及び黒の瓢に接触し、その詳しい調査を目標とします」

 

「ポ連は基本的に鳴かぬ鳩会の傀儡です。彼らの指示が無ければ、その強さは先進兵器を与えられていても半減するでしょう」

 

「殆どが徴兵された兵である為、プロパガンダと幾つかの取引だけで統制を失い、元の地域に戻ってくれる可能性すらあります」

 

「コレ殆どは時間が無い中、データを残してくれていたカシゲェニシ様の発案なんですよ」

 

「彼の?」

 

「ええ、元々から用意してあった作戦がデータとして我々に渡された端末に入っていました。ポ連兵は本質的な相手じゃない。本国が壊滅している今、それを統制する強力な権力を持っているのは鳴かぬ鳩会のみ。彼らを崩壊させられれば、事実上はポ連との戦争は終了したも同然との事です」

 

「そう、上手く行くでしょうか? と言うか、彼はこの事態を?」

 

「ええ、予想していたからこそ、諸々のシナリオを書いていたようです。相手の動きとその根本的な考え方、もしもの時の対処法まで」

 

 アスターシアが懐疑的な視線に成る。

 

「貴方達が大陸各地に運んでいた()とカシゲェニシ様のプランさえあれば、これらの作戦は可能でしょう。要は戦い続けるメリットとデメリットが吊り合わなくなれば良いのです。そして、ポ連の本来の指揮系統が麻痺している今がその最大のチャンスである事は疑いようがありません」

 

「カシゲェニシ・ド・オリーブ、か……」

 

 アルスカヤが呟く。

 

「彼に周囲は振り回されっぱなしだな」

「あの方は逆だと思っているかもしれませんよ?」

「ははは、違いない」

 

 そのミハシラからの声に思わず笑いが零された。

 

「笑っている場合ですか。連隊長……まずは此処に終結する戦力の具体的な数値と敵の位置。それから兵站線の長さや確保用の戦力が抽出出来るのかどうかまで。調べてやる事は山程ありますよ!!」

 

 アスターシアがグッと拳を握って上司を窘める。

 

「鳴かぬ鳩会以外の旧世界者(プリカッサー)の団体には全て声を掛けたと閣下が言っていたが、どれだけ集まるのかは未知数か……」

 

「だとしても、やる事は変わりません」

 

「数日後までに連邦が動員出来る戦力も恐らく今現在の混乱から考えても4師団は超えないだろう。対してポ連兵の中部の陣地には今現在どれだけ戦力が終結してるのか。偵察部隊からの報告じゃ少なくとも15師団以上との話だ。ただ、陣地が広い以上……奥に戦力が何師団いるかも定かじゃない。これは難戦する羽目になるかもしれないな」

 

「前線に出ない人が今更ですね」

 

「兵站線がもしも相手側の砲爆撃の射程範囲だったら、何処でも戦場だよ。兵站を担う部隊にだって隠密性が要求されるかもしれない」

 

 肩を竦める連隊長の言葉を皮切りに彼ら全員が今後の予定を詰めていく。

 

 次々に天海の階箸には空と陸から車両や航空機で人が集まり始めていた。

 

 しかし、彼らの中に未だ旧世界者達の姿は無く。

 いや、そこから出ていく旧世界者が一人。

 全天候量子ステルス製の車両でその場を離れていく。

 

(【全妖精へ緊急コール。妖精郷(ティル・ナ・ノーグ)の総員を招集。目標―――鳴かぬ鳩会(サイレント・ポッポー)本部。全妖精出撃せよ。全妖精出撃せよ。地球圏の興亡この一戦にあり。我ら妖精円卓の本懐である。旧き時代の願い束ねたる我らが正義を執行せよ。敵は旧ユーラシア・ビジョン総司令部―――テラフロート・プロヴィデンスにあり!!! ()()()()の負の遺産を今こそ駆逐するのだ!!! コード・ヒストリーゼロを発動する!!!!】)

 

 光量子通信に乗せていながら、未だ鳴かぬ鳩会の傍受に掛からない情報が今も世界各地で人々の救出活動へ密かに当たっていた妖精円卓の者達に伝達されていく。

 

 そうして、その中には何故かごはん公国の首都である白粥で気炎を上げる羅丈達の後ろで適当にパンを食っている大阪弁の女。

 

 バナナと鋼鉄の人型躯体小型NV姿のガトー・ショコラがいた。

 

「ぁ、何か引っ掛かった? ええと……何やコレ(汗) なんちゅーか。何であの連中一々ああいう言い様が好きなんやろ」

 

「どうした?」

 

「いやぁ、これからポ連の大陸北部の荒野が超激戦区になるのが確定したっぽいで。妖精円卓の連中がガチもんの旧時代の痕跡を廃滅するコード発動しよった。ぁあ~~~抜けといて良かった~~~もしまだ鳩会に所属しとったら、ウチら絶対最前線で散々、あの妖精連中と切った張ったさせられとったで」

 

 ハハハと羅丈達とはまるで違った様子で後ろでグダグダしていた二人だったが、クルッと前を振り向いて固まる。

 

「ほう? 詳しく訊かせて貰おうか」

「ぁあ、ウチらこれから外周りしに行こうと思て―――」

 

 先程まで世界の真実とやらを語っていた男はニッコリ笑顔でガシッとその肩を掴む……無論、その手は恐らくYESと言うまで離れる事は無いだろう。

 

「契約は有効だろう? 生憎と更新日は三週間後だ」

「ぅう……で、電子兵装は乗っ取られる可能性ありますよって!!」

 

「完全なシステムのクローズドで対応してもらう。それとあの男が君達にお土産を持って来たそうだ。今、最前線から輸送機で到着したと連絡があった」

 

「お土産? ウチらにんなけったいなもんをくれる人なんて知らんなぁー(棒)」

 

「心配するな。あの連山になった船の内部から積み出して来たばかりだ。ちゃんと、バナナと黒鳩様宛だ」

 

「ぅ……アイツゥ?!! ウチらを完全に手伝わせる気やったな!!?」

 

「喚いても仕方ない。君達宛である以上は使わないという選択肢も無い。大人しくお土産の中身を見て来てくれたまえ。いいかな?」

 

「……はぃ。うぅ、ウチらって何でこう貧乏くじ引くんかなぁ」

 

 相棒の少女が肩を竦めるのを横目にお喋りは死んでも治らないだろうとガトーが少女をその腕に抱いた。

 

「すぐに情報は提出してもらう。その間に装備の点検と確認と使用出来るかどうかを判断しろ。これより羅丈は主攻部隊以外の余剰人員を以て、連邦軍の攻撃に合わせて、戦線の背後への浸透を試みる。今し方、()からの連絡が手紙で届いた。作戦目標として鳴かぬ鳩会の内部情報の取得と妨害が追加された事を教えておく。期待しているぞ。部隊長」

 

「う、ウチらが隊長とか絶対間違うとるで」

「ぼやくな。いつもの事だ」

 

 ガトーがその大きな肩を竦める。

 

「はぁぁ、しょうがないなぁ。特別手当期待しとくわ」

「この世界が滅ばなかったら、我が国の英雄として奉ろう」

「要らんわ!?」

 

 騒がしい者達の計画はこうして進んでいく。

 敵は戦争の裏にいる者達。

 こうして嵐を食い破る牙が揃い始めたのだった。


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